柔軟剤を買いに行くと言って出ていった松元はしばらくすると近くのコンビニの袋と、あともうひとつ袋をぶら下げて帰ってきた。
「なにそれ」
コンビニのでない方を指さすと、
「大埜さんのパン」
「は?グレンツェン行ったの?」
「ううん、持ってきた」
「は?智くんが?」
はいって松元は俺にそれを手渡すと、コンビニの袋を持ったまま洗濯機の場所へと消えていく。
なんでパンだけで本人はいないんだ?
不思議に思いながら袋の中を覗くと、美味そうなパンがいくつも入っていた。
そのうちの一つを手に取ってパクンと頬張れば、じわじわと口の中に広がるバターの甘みに自然に頬が緩む。
病み上がりでも美味いってどうよ、なんてしみじみしているところに、向こうから聞こえるピッピッと洗濯機を操作する音。
ふと、窓の外を見た。
今日はいい天気だ。
「あ、パン食べてんの?コーヒーいれたげよっか?」
「おぉ…」
昨日までとは異なる景色。
カーテンもクッションカバーもカーペットだって、何も変わってなどいないのに。
目の前のこいつのことを、ただ好きだと認めただけで、こんなにも穏やかで、こんなにも胸が暖かくて。
その身体を引き寄せて抱きしめてしまいそうになるのを誤魔化すように腕を組む。
「お待たせ」
「サンキュ」
静かな朝。
窓の向こうに鳥の囀りが聞こえる。
車の通る音、自転車のベルの音、風が窓ガラスを揺らす音すらいつもとは違って聞こえる。
「翔さん」
俺の名を呼ぶ松元の声。
「ん…」
だけどこの声だけは、いつもと同じに聞こえる。
そう。
きっと松元は初めから俺をこんな声で呼んでいた。
「洗濯終わったら一緒に干そうね」
そして、ふっと空気が緩むのが分かった。
「ん…は…、」
「はっ、翔さん…」
松元の指が俺のに絡む。
洗濯物を干し終わってすぐに、俺の身体はベッドへと押さえつけられた。
さっきまでの静かで平和な時間はあっという間に、熱くてベトベトしたものに変わる。
キスが心地いい。
プレイボーイなだけあって舌使いが絶妙で、うっすらと開いた眼差しで俺を見つめる視線にほだされそう。
「ま…つもと…、」
「はぁ、綺麗。翔さん…好きだよ…」
「あ…ぁ…そこ…っ…」
「ん…ここ?」
いい場所に触れる松元の手に堪えきれず、グ チュグ チュと自分から滲 み出るそれに、チ ュルチ ュルと吸 い付いて離れない 舌。
艶めかしい愛 撫にまるでホワイトアウトになったみたいに…視界が真っ白になる。
「も…イッ…く…、」
ビクビクと震えるカラダ。
その全てを受け止めようとする松元の綺麗なアーモンドアイ。
「翔さん、好きだよ」
その言葉が…今の俺にとっては。
もうすでに無くてはならないものになっていた。