キミがもし捨て猫だったなら2(大伊) | 櫻の妄想小説置き場【可塑的かそてき】

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【可塑的かそ・てき】思うように物の形をつくれること。 塑造できること。
主にラブイチャ系よりは切ないネガ多めです。
※このブログにある物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。

それからもずっと二ノ宮先生はただ外を眺めてた。
俺はそんな二ノ宮先生をずっと眺めてた。
 
彼は元々ハンサムだけど、その中でも横顔がすげぇ綺麗で。
そんなこと自分では分からないものなんだろうけど、儚いような、まるで桜が散っていく寂しさのような、
そんな雰囲気を醸し出してる。
 
俺だったらきっと、その内面に抱えてる切ねぇもんまで一緒に…一枚の絵にしてしまえるのに。
一度描いてやろうかなんて試しに言ってみたら、恥ずかしいからいいと断られた。
 
 
 
***
 
 
 
そんな絵を、やっぱり二ノ宮先生。
あんたに贈りたいと思って。
 
あれから高校を卒業して、いっぱしの社会人になった相庭と幸せになれたんだろ。
その左の薬指に光る指輪が、俺にそう教えてくれた。
 
俺にはこんなことしかできないから。
おせっかいかもしれないけど、やっぱり描きてぇし。
そうすることが俺からの最大の祝いの表現だってそう思うから。
 
久しぶりの人物画。
最近はもっぱら景色ばかり描いてたから、もしかしたら腕が鈍ってるかもしれない。
 
美術にずっぽりと足を踏み入れた人生には波があって。
例えば、あるものばっかりに執着したり、突然全く違うものに没頭し始めたりするもんで。
頭ん中で何が行われてんのか、そういう脳科学的なことはてんでさっぱりだけど、突然切り替わって路線が変わっちまうことが多々ある。
 
ただ分かるのは、これまで描きたいと思わせてくれる奴がいなかったから。
だから、描きたいと思わせてくれる奴が現れた時点で、一気に路線が変更して。
きっとそんな簡単なことなんだと思う。
 
なぁ二ノ宮先生。
久しぶりに人物が描きたいと思わせてくれてありがとな。
俺は二人の恋をずっとそばで見守ることが出来て幸せだった。
そんな思いを、この筆に託すから。
だから、要らないなんて言わずに。
どうか笑顔で受け取って欲しいんだ。
 
 
 
***

 

 

 

 

「完成だぁ」

 

思っていたよりもそんなヨレヨレの声が出たのは、土曜から日曜にかけて窓の外がうっすらと明るくなってきたころ。

時間にすると、ニ週間とちょっとはかかったと思う。

平日は学校が忙しくてあんま作業も捗らなかったし、ほぼ休みで描き上げたようなもんだった。

 

完成された絵の右下に自分のサインを入れて、そのままバタンと作業部屋に大の字に寝転がって。

目が覚めた時には昇ったばかりの日はすっかり落ちて、部屋は真っ暗になっていた。

 

次の日の朝。

いつものように理科の準備室でコーヒーを淹れてもらって口に含む。

相変わらず二ノ宮先生の作るコーヒーは美味かった。

 

「なぁ、二ノ宮先生金曜の夜とか空いてる?」

「金曜?今んとこ特に何もないすけど」

「じゃあ、届けたいもんがあるから家に行っていいか」

「急にどうしたんです」

「絵を描いたから、それ持ってく」

 

俺がそう言うと、

 

「ふふっ、プレゼントですか。サプライズとかはできない口なんですね」

 

と二ノ宮先生は可愛いらしく笑った。

 

何でプレゼントってバレたんだんだろう。

そうか、俺は隠し事出来ないタイプなのか。

 

「じゃ、空けときます。金曜の夜」

「お、おおう。ありがと」

「こちらこそ」

 

二ノ宮先生は、それからしばらくは、ふふ、ふふふっと笑いを抑えられずにいて。

なんだか何もかもお見通しだって言われてるみてぇですげぇ嫌だった。

俺だってなぁ、二ノ宮先生が相庭のことを好きだってことすぐに見破ったんだぞ。

んな笑うなよなぁ…お互い様なのに。

 

 

 

 

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