平成生まれの直木賞。
今年の文学界の大きな話題ですね。ニュース聞いて、びびりましたから。
時の官房長官が「平成」という新しい元号を掲げたシーンを、はっきりと記憶している昭和50年生まれとしては、「平成生まれ」がもうそんな賞をとるんかと、驚きを禁じ得ないわけです。
その作家、朝井リョウさん。
彼のデビュー作が『桐島、部活やめるってよ』。このキャッチーなタイトルも気になってはいたが、なるほど、この人かぁ。
何としても読もうと思っていて、ようやく初めての朝井リョウ作品としてデビュー作にチャレンジした。
なるほどなるほど、これは確かに。
僕の正直な感想だ。
多分、好き嫌いは分かれる。会話文とそれ以外の文の境目が分かりにくい、奔放で軽いタッチの文体はクセがあり、苦手な人もいるだろう。
僕も実際、序盤は読み進めるのに苦労したから。しかし、徐々に物語に引き込まれ、文体のクセも気にならなくなった。
むしろ、このタッチが合っていると思った。高校生たちがそこにいるような、僕がその高校で一緒に生活しているような、そんな感覚に陥ったのも、文体や表現の力かもしれない。
ストーリーや構成。これも賛否分かれるだろう。
ネタばれで恐縮だが、桐島くんの話ではないんですね。
バレーボール部のキャプテン・桐島くんが部活を辞めるという情報を聞いた、1人の同級生の語りでお話が始まる。
その後、章ごとに語り手を変えて、彼らの高校生活が語られる。というより、彼らの生活の中の、悩みや葛藤が語られていく。
ところどころで、「桐島くんが部活を辞める」ということが話題に出るというか・・・
桐島くんとの関係が深い者も浅い者もいて。
「桐島、部活やめるってよ」というタイトルが秀逸だなぁと思うのは、この言葉は、当事者意識を持って言う人と、「他人の噂」として言う人、両方に可能なセリフなわけです。
誰かが部活を辞めるという出来事が大なり小なり話題になる。高校という、大人から見れば極めて狭いけれど、高校生にとってはそれが全てでもある社会。そんな構図のシンボルが、このタイトル。
そして、もう1つのファクターと言えるのが、「スクールカースト」という問題。
学校の中で、上下にグループが分かれてしまう状態。イケてるとかイケてないとか、棲み分けが自然と生まれて、それが生活を規定しているという。
語り手として登場する5人の高校生たちにも、そういう意識はある。自分はどのグループに属しているのかっていう。。
この小説を読むと、高校生にとって重要なんだろうな、大変だなと思う。でも僕は、スクールカースト問題自体を描いた小説だとは思わなかった。
高校生が、「今」と「この先」について、悩んで葛藤する真っ直ぐな話であって。
スクールカーストは、1つの現象。これ自体を肯定も否定もしていない。
狭い社会の中で、狭い価値感でグループを作って、そこに縛られるが故の苦しみは書いているけど、その問題そのものをどうこう言うのではなく、その中で生きる高校生を描いていると思った。
悩んで葛藤するけど、その先には希望も感じる。高校生たちを肯定しているような、前向きな話だ。
自分の高校時代も振り返る。何に悩んでたっけ・・・
「上」「下」じゃないけど、グループはあったと思う。作品中の、「クラスメート」と「友達」は違うっていう表現を目にして、そうかもなぁと思った。
同じクラスであれば、みんなクラスメートだ。でも、全ての人と同じ距離というわけはなくて、関係性に濃淡があるのは当然。それが濃い場合は「友達」で、友達同士が「グループ」になる。
でも、生活を規定してしまうような、格差みたいなモノはなかったんじゃないか。グループ違うから会話も避けるって、そんな面倒な感じじゃなかった。
そもそも友達同士だって、いくら「類は友を呼ぶ」と言っても、似たようなタイプのみで固まってたわけではない。
ただ、高校という狭い社会が当時の自分たちにとっては全てであって、そこで生きる中では悩みもあったんじゃないか、その意味では現代の彼らと同じではないか・・・
・・・と、そんなことを考えているうちに、思い当たったこと。
僕は卒業して20年も経っている。それだけ離れてしまえば、冷静に客観的に相対的に語ることも可能。だが、朝井さんは19歳でこれを書いた。
バリバリ当事者なわけです。まだ、「あの頃」なんて言って振り返る時期ではない。
そこにこの小説の温度があるような気がした。最近の、身近な話という立体的な感覚を伴った、現実感が。。
読後、アマゾンのレビューを斜め読みしたら、人気作品の必然として、賛否両論だった。批判はかなり厳しい言葉が並んでいた。
まあ、好き嫌いは分かれるでしょう。でも僕は、「平成生まれ」の若者が若者のことを真正面から書いたことは、やっぱり凄いと思うのです。
批判も含めて、他の人がどう読んだか気になる。これぞ話題作ですね。
最後に本書は高校生たちが章ごとに語り手を変えて綴られるのが、その順番を紹介。
菊池宏樹→小泉風助→沢島亜矢→前田涼也→宮部実果→再び菊池宏樹
文庫版では最後に14歳時点の東原かすみが登場。
この順番も上手いです。因みに僕は、前田涼也のところが好きかな・・・
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