

ウクライナ政府が募集する義勇兵に、約70人の日本人が志願したことが大きなニュースになっている。なぜ彼らは他国のために命を捧げようと思うのか――。ある自衛隊OBは「自分は家族がいるので行こうとは思わないが、義憤に駆られる気持ちはわかります」と語る。
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ずっとロシアは“敵”だった
在日ウクライナ大使館には5日間で、約20億円の募金が集まった。ウクライナ人の身に迫る危険を、他人事として考えられない人が多いことの現れだろう。とはいえ、他国のために命まで張れるかと問われれば、大抵の人が二の足を踏むに違いない。ところが、ウクライナ大使館が日本人向けに「義勇兵」を募集したところ、70人もの応募があったというのだ。うち50人が元自衛官。報酬なしのボランティアで、専門的な訓練経験があることが条件だった。
「元自衛官として、そういう人もいるだろうな、とは思いました」
こう語るのは40代の自衛隊OBである。
「昔の隊員たちはずっと、ロシアを“敵”として叩き込まれてきたのです。いまは中国に変わりましたが、それまではずっと旧ソ連、つまりロシアが仮想敵国だった。いつ何時、ロシア軍が北海道に攻め込んでくるかもしれない。そんな想定のもと戦略を立て、訓練してきた組織こそが自衛隊なのです。20年くらい前まで、主力部隊は北海道に配置されていました。隊員はみんなロシア憎しでしたよ。当たり前の話で、“敵”だと骨の髄まで叩き込まれてきたからです。特に40代以上の元自衛官なら、冷戦時代の対ソ戦の訓練が身についているはずです」
北方領土を占領されている同じ立場
自衛官になる人は愛国心に漲る人が多い。だからこそ、祖国のため果敢に立ち向かっているウクライナ兵に同情するのだという。
「若い日本人には実感がないでしょうが、実際、日本もロシアから領土を侵害されている。我が国の領土である北方領土はロシアに占領されたままです。同じ境遇に遭っているウクライナ人のために、自分たちが費やしてきた時間を捧げようと考える人がいてもおかしくはありません」
一方で、「自分の力を試していたい」と志願した若者が含まれている可能性もあると指摘する。「士」と呼ばれる一兵卒として入隊した場合、3曹と呼ばれる下士官に昇進しない限りは、陸自は2年、海自と空自は3年の任期制となっている。任期終了後に契約を更新しないまま除隊する人も多く、その中には「物足りなさ」を理由とする者もいるという。
政府は反対
「『銃を持って戦いたい』というモチベーションで自衛隊に入る人もいる。けれど、実際に経験できるのは訓練だけ。そういう不満を持った一部の人たちが、『実戦を経験したい』と数年で除隊してフランス外人部隊などを目指すのです。除隊後の生活が満たされない中で、この募集をチャンスと捉えて志願した人もいるのでは。もちろん、そういう気持ちでの志願には賛成できません。自衛隊員の多くは、基本的には戦争なんて望んでいません」
今回の動きに日本政府は困り顔だ。林芳正外相は1日の記者会見で、「ウクライナ全土に退避勧告を発しており、目的のいかんを問わず同国への渡航をやめていただきたい」と発言。一方、2日に開かれた自民党の外交部会では「出たい人がいれば出すべきだ」という意見も出たという。
果たして、日本人義勇兵は実現するのか。そんな事態になる前に、一刻も早く戦争が終わることを願うばかりである。