ドメスティックバイオレンス…こちらではFDV(Family Domestic Violence)と略されることが多いですが、病院にやってくる患者さんにはFDVきっかけの方がもちろんいます。ちなみにFDVの被害者の9割は女性と言われており、私がこれまでに見たFDVの被害に遭った患者さんは全員女性でしたが、LGBITQ+や男性で経験される方もちろんいらっしゃいます。

このブログにはFDVについて話したいと思いますが、もしそのような経験をお持ちの方はしんどい気持ちになるかも知れないので、気を付けて下さい。

ちなみに被害者の方についてはオーストラリアではvictimではなくsurvivorやa person who has gone through/experienced FDVと呼ぶことが推奨されています。

 

これまでに私が見たFDVケース…顔に殴られた跡がある方、全身にやけどを負った方(やけどの度合いが酷すぎてその後、指数本を切断)、ナイフでひざを刺された方…などなど色々なケースがありました。FDVは救急のソーシャルワーカーが対応することが多く、私はまだFDV対応の経験が浅いですが、ざっくりとした流れとしては

1) スクリーニングツール& SWのイニシャルアセスメント スクリーニングツールはこちらのFDV 951を使うことが推奨されています。質問内容を見ていただければ分かると思いますが、結構回答することがしんどいと想像される質問が多いです。私は患者さんに「回答をやめたかったらいつでもやめてもいいからね」と冒頭に必ず言います。 https://www.kemh.health.wa.gov.au/~/media/HSPs/NMHS/Hospitals/WNHS/Documents/Professionals/FDV/Assessment-Family-and-Domestic-Violence-FDV951.pdf

2) 子どもがいる場合は子どもの安全の確保。必要に応じて児童保護に連絡。

3) 警察に連絡。主に加害者がいまどういう状況なのか(逮捕された場合はいつ釈放されるのかあるいは裁判に進む場合は裁判はいつなのか)の確認。また警察にもFDVチームがいるので、退院時のSafety planのための連携。

4) 患者さんが希望する場合は弁護士(主にcommunity legal service lawyer)と連携し、接近禁止令(Violence restraining order (=VRO))の手続き

5)元の住居に帰れない場合はウーマンシェルターに繋ぐ、帰れる場合はSafety planを患者さんと一緒に考える(必要に応じてFDVカウンセリングやサポートサービスにreferralをおくる)。

といった感じです。

 

 

私がFDVで最も難しいと思う点、それは「関係性を終わらせる」ということ。長い付き合いであればあるほど尚更。

FDVに遭ったことがない方から「え、そんな酷いことされてさっさと逃げれば良いのに」という声が聞こえてくることがありますが、これはFDVの仕組みや恐ろしさを理解していないから出てくる言葉だと思います。またFDVは誰にでも起こる可能性があるということを理解していただきたいなと強く思います。

 

FDVにはサイクルがあり、このサイクルが何度も繰り返されていき、それによって関係性からどんどん抜け出せなくなっていきます。

(引用元 https://www.safechoicestas.org.au/news/the-cycle-of-violence)

 

左上のハネムーン期は特徴的でここで男性が謝ったり、愛していると言ってきたりするので、女性は許してしまい、再度暴力のサイクルに入っていきます。

またこの図の中心にdenialとありますが、男女ともに暴力の存在を拒否し、共依存のような関係になっていくパターンが多いです。これは加害者側が「お前の精神は異常」「お前の頭がおかしい」という誤った情報を繰り返すことで相手を心理的にコントロールするからです。この手法をガスライティングと言い、ガスライティングは州によっては犯罪となり得ます。

 

 

このサイクルから抜け出すのは本当に大変です。FDVに「命の危険」がチラつくのは女性が本気で加害者から逃げようと思った瞬間です。例えば別れようとすると加害者が「俺を残して出ていくのであれば死んでやる」と言ったりします。この発言通り本当に加害者が自殺してしまうケースもありますし、そのようなケースでパートナーを失った女性を何人も見てきました。

 

また離れなければ被害者が殺されてしまうケースもあります。それが正にサオリさんのケースです。ワーホリでオーストラリアに来たサオリさんは2010年にFDVの末、当時の旦那からの暴力の末逝去しました。残念ながら警察に長いこと取り合ってもらえなかったため、発見時(死後12日後)には遺体腐敗が進みすぎて死因の特定ができず、当時の旦那に殺人罪は適用されませんでした。幼い子ども二人はサオリさんの遺体と共にその12日間を過ごしたと言われています。本当に痛ましい事件です。下記でその詳細の動画が見られますので渡豪する日本人女性には必ず一度は見ていただきたいです。

 

移民女性の3人に1人はFDVの被害に遭うと言われています。これは言語の壁、期間限定のビザ、経済的問題、不安定な雇用、周りに自分の家族や気の知れた友人サポートがないこと等々でパートナーを頼らなければならない場面が多いからという調査結果が出ています。Twitterの投稿を見ていても「この女性が経験しているのはFDVなのでは?」と感じることも多く、心配になることもしばしばです。少なくとも命の危険を感じた際に000(警察)を呼べると良いのですが…(リクエストすればタダで通訳をつけてくれます)

 

パース限定になってしまいますが、助けが必要な場合は下記の利用を検討してみてください。

領事館 https://www.perth.au.emb-japan.go.jp/jp/ryojijoho/news/shinken.html

FDVを経験している外国人(Culturally and Linguistically Diverse (=CaLD) background)女性サポート