☆☆☆
著者の圧倒的な筆力に裏づけされた短編集![]()
執筆当時の記憶を辿り、感想を述べた作者本人による「あとがき」もまた、
メイキングを見ているようでとても興味深い![]()
度肝を抜かれたのは最終話の「夜の砂」
本人によるあとがきにはこう記されている。
たった六枚の官能小説。
八十歳近い老女というと、性とは無縁に思えるかもしれない。
しかし、人間は計り知れないものだ。
私は、自分が知らないだけかもしれない、という
疑いを何に対しても常に持っている。
だから、私はむしろ、人間の可能性を書こうと思った。
私はいつも、このブログを書くのに2~3時間を費やす![]()
そして、感想を記すまでに2~3日が過ぎている事は良くある。
この本は、感想を記そうと重い腰を上げるのに
3週間以上が経過してしまった![]()
特出した理由は見当たらないが
時間が経つにつれ、読み終わった直後にはなかった感情が芽生えていた。
特にこの「夜の砂」に対する陶酔だ![]()
誰にでも平等に、そしていつか絶対に訪れる死。
この「夜の砂」は老女にまもなく訪れる「死」を
老女のこれまでの人生を慈しむように
優しく、温かく包み込んでくれる。
たった6枚と言いながら、深い余韻はいつまでも続く(*゚ー゚*)
それ意外のお気に入りは、
ツーリストガイド・カールシリーズの「捩れた天国」と「黒い犬」。
「探偵ミロ」シリーズ第一弾「顔に降りかかる雨」に登場する
カール・真理・リヒターはこのカール・有理・リヒターの弟である。
「グロテスク」や「柔らかな頬」などを読んでいても感じたことだが
桐野夏生は登場人物を実に魅力的に表現する。
特に、美しい男性や女性の描写は見事だ![]()
この主人公カールも周囲がビックリするほどの美貌の持ち主。
ドイツと日本のハーフで
完璧な形の頭蓋に白い肌と黒褐色の巻毛。
濃い眉が微妙な角度を保ったまま弧を描いて、大きな黒い目を際立たせている。
鼻も唇も繊細に造られ、まるで日本の少女漫画に登場する美少年のようだと言われた。
日本で過ごした少年時代は、電車に乗るたびに女子高生が騒いでいた思い出しかない。
という非の打ち所の見当たらないグッドルッキングマン![]()
しかしこれでは神がかりすぎて自分には関係のない雲の上のお方でしかない。
しか~し桐野夏生マジックはココからが本領発揮!
なんともったいないことに、26歳になったカールの生え際は後退し始め、
父親同様、いずれ禿頭になることをはっきりと示しているのだ!
神秘的すぎて私のような凡人読者の花にも棒にも引っかからなかったカール様が
禿げ散らかす
という人間味溢れるエッセンスを振りかけられることにより
グッと現実的になりよりエロティックに感じられる。
桐野夏生恐るべし!
しかも彼女の著書に登場する美しい人間達は
自分のルックスに興味を示さない場合が多い。
「使えるものは使える内に使っとけ
」的発想しか持ち合わせていない私には
もったいなさすぎて・・・タッパーに入れて持って帰りたい!
「捩れた天国」はそんなカール・シリーズ第1作。
日本人観光客相手にツーリストガイドをする彼の思いで印象的なのが
ごく稀にだが、面倒を持ち込んで、重く苦い味だけをこちらに手渡していく旅行者がいる。
相手は去り、こちらは残る。
そんな時はガイドの仕事がつくづく嫌になるのだった。
という表現。
そして物語を
カールは旅行者の重く苦いものをまたも受け止めて思わずよろめいた。
自分に渡された荷物。
永遠に捨てられない荷物。
いや、忘れるまでに時間のかかる荷物。
ああ面倒だ、こんな仕事辞めてしまえ、とカールは独りごちた。
と締めくくっている。
自分がどこにも帰属できないと感じながら荒れた生活を送り
面倒だ、というコトバで誤魔化しつつも隠し切れない彼の人としての優しさが
とても心地良い。
「黒い犬」は29歳になったカールの物語。
カールという人物が日本でどのような少年時代を過ごしたのか、という
興味ないわけないじゃんо(ж>▽<)y ☆
というストーリー。
このカールシリーズ是非書き続けてもらいたい、と
切に願う☆


