えっ‥

駆け寄ってくる渉を見て、
響子は自分が泣いている‥と気がついた。
慌てて指先で涙を拭う。

どうして?
涙もろくなったから?
分からない‥
違う‥
気づいてない振りをしてただけ‥
傷つきたくなかっただけ‥

渉は机の前で立ち止まった。
心配そうな顔をしている。
響子は無理に笑おうとしたが、
上手く笑えなかった。

きっと酷い顔してるわね‥

響子はキャビネットの上に置いてある
ティッシュペーパーを取ろうと後ろを向いた。
と同時に渉は響子を抱きしめた。
後ろ向きに。
渉は違うと思った。
響子は背中越しに渉を感じドキっとした。
渉は響子を自分の方に向かせようと両腕を掴んだ。
渉の身体が離れた瞬間、
響子は渉から離れようとした。
だが、それを察知した渉は
響子が動けないよう両手に力を入れた。

「いた‥痛いわ。離して」

「嫌だ。もう‥ひとりで泣くのはよせ」

「えっ」

一瞬で響子は渉の腕の中にいた。
渉の胸の音が聞こえる。

「これからは‥

 泣きたくなったら俺を呼べよ」

渉の鼓動が速くなる。
響子は驚いていた。
渉は華奢に見えるのに実際は逞しかったからだ。
強く抱きしめられていたので、
響子はほとんど身動きできず、
渉の胸の中で話し始めた。

「渉くん、ありがとう。

 でも、それはできないわ。

 私、分かったの。

 自分がどうしてここに来たのか」

「片瀬だろ。あいつがいるからだろ。

 あいつは何て言ったんだ。

 やり直すとでも言ったのか」

「・・・」

響子は即答できなかった。
渉は尚も腕に力を込めた。

「‥いい。関係ない。

 おまえがあいつとやり直したいのなら

 そうすればいい。だけど‥俺は諦めない」

「渉くん、ごめんなさい。

 そんなこと言わないで。

 もうここにも来ないでほしいの」

「無理だ。おまえに会えなくなる」

「私の立場も少しは考えて。

 学長に今朝、くれぐれもあなたに

 失礼のないようにって言われたのよ」

「じじい‥余計なこと言うなって

 言っておくから」

「やめて。それが余計なのよ。

 こうやってふたりでいることが問題なの。

 私にとってここは職場なのよ」

「そうか‥悪かった」

渉が響子の髪に顔を落とす。

「分かってくれればいいのよ。

 私のことは忘れて」

「忘れる?おまえも奴らと同じなのか」

突然渉に強い口調で言われ、
思わず響子はビクっと反応した。
そして渉は、響子の頭の上で深い溜め息を吐く。
それでも渉は、一向に力を緩める気配はない。
響子は渉の胸の音を聞いているからか、
怖さは感じなかった。
この頃には不思議と居心地のよささえ感じていた。

「俺はここでしか会えない。

 屋敷に戻れば講義が待ってる。

 それは‥学生でいる間は続くと思う」

「講義?」

「ああ。じいさんがうちの‥麦子の将来を思って、

 俺と周平を鍛え直すために毎日教授達から

 講義を受けてるんだ」

「渉くんは大学に残るんでしょう」

「周平か。ああ、一応その方向で進んでる。

 ‥だからこそ講義を拒否できないんだ」

「どうして?」

「じいさんには世話になった。

 小さい頃から‥実家に帰っても、

 親はじいさんの顔色を窺って

 早く屋敷に戻れとしか言わなかった。

 だから‥俺達にとって屋敷は家なんだ。

 確かにじいさんの思い通りになるのは嫌だった」

ここで渉は一旦言葉を止めた。
響子は続きが気になった。

「大学のこと、

 紫堂会長も認めてみえるんでしょ?

 それに、大学に残ると決めたのは

 あなた自身なんでしょう」

「ああ」

「それなら」

響子は渉を待った。
渉はゆっくりと息を吐いた。

「大学に残るということは‥
 
 グループの戦力にならないということなんだ。

 なのにじいさんは‥許したんだ」

「ちょっと待って。

 戦力にならないって言うけど、

 大学に残るってことは

 ここを守ってくってことでしょ。

 それは紫堂会長にとっても

 喜ばしいことなんじゃない?」

「じいさんを知らないだろ。

 ここと永菫学園は麦子が生まれた時に

 創ったんだ。いうなれば孫の勉強部屋だよ。

 だから、麦子が卒業しちまえば

 不要になるんだよ」

「不要?そんな‥でも、今はきっと

 紫堂会長もお考えを改められたのよ。

 だから渉くんに託そうと思われたのよ」

「ふう‥そうか。おまえがそう思うんなら、

 これからはそう思うようにするよ」

渉はこう言いながら、自身の腕時計を見た。

「家に電話しなくていいのか」

渉が腕を緩めた。

「あっ、周平くん」

響子は慌てて渉から離れ、母親に電話する。
渉も携帯を出し電話を掛けた。




~~
☆では、今回もお読みくださって感謝です。。 
大変、随分、とご無沙汰しております。。
長い間、更新せず‥ですみませんでした。

勝手に煮詰まってたり‥(そんな時も)
で、まいっかーと思い直してみたり‥

そんなこんなで季節は過ぎ、
2月を迎えてしまいました。

そう、
ろまんす~の季節は2月。
いつから2月。
ずーと2月。
まだ2月。
どんぴしゃなのに‥

バレンタインの話を織り交ぜて
(何とか間に合いそうかも)
と思って書き始めたら‥

家族がインフルエンザに続けてなっちゃいまして。
私自身はうつりませんでしたが。
皆さまは大丈夫でしょうか?
私は外出時、マスク必須で予防してます。
今ピークらしいので、皆さまもお気をつけて。

で、明日はバレンタインですね。
そうなんです‥間に合いませんでした。
なので、もう開き直って
季節もイベントも気にせず‥
で、いこうと思っております。

と、こんな感じですがおつき合いいただけるなら、
今後とも温かい目でどうか宜しくお願いします。

素敵なバレンタインを^^
「響子先生、お待たせ」

予想に反して顔を出したのは周平だった。
遅れてその後ろから仏頂面な渉もいる。

「響子先生もお母さんも来るんだってね。

 今夜は賑やかで楽しい夜になりそうだなぁ。

 いろんなチョコも食べれそうだし‥

 ほんと楽しみだなぁ」

周平が満面の笑みで、
ソファに踏ん反り返りながら言った。
渉は響子のいる窓際に向かいながら、
周平にピシャリと言う。

「周平、こいつからもらおうなんて考えてるのか」

周平は窓際に揃ったふたりに向かって言った。

「そんなぁ‥もちろん思ってないよ~

 響子先生からもらえるなんて‥

 1ミリも思ってないよぉ。

 響子先生、帰る準備はいい?」

「えっ‥あっ、あ」

急に振られた響子は口ごもった。
チラッと見た渉は既に機嫌がよろしくない。
案の定、渉はめんどくさそうに言ってきた。

「たく‥何やってんだよ。

 授業なかったんだろ。全く‥

 待っててやるから。早くしろよ」

「なっ、何その言い方。

 人が黙って聞いてれば、こいつ呼ばわりして。

 いっつもこいつとかあんたとか、

 まともに言えないの」

「じゃあ、なんだよ。板谷がいいのか。

 ・・・響子は嫌だろ」

こう言って渉が少し下を向く。

「な‥」

響子は直ちに言い返そうとしたが、
下を向いて拗ねたような顔をしている
渉を見て口をつぐんだ。
俯いた渉の顔は思ったより間近にあって、
響子をどぎまぎさせた。


反則‥
そんな顔して‥

響子は渉を見つめてしまった。


日頃、ラブラブカップルと接している
周平は空気を読んだ。

「俺、響子先生のお母さん迎えに行ってくるよ」

「えっ」

響子は驚いて周平を見た。

「いいよ。俺が行くから。おまえは先帰れよ」

「そんな‥渉、いいだろ~

 帰れなんて言うなよぉぉ」

途端に周平は泣きそうな顔をする。
周平と渉には、この日も屋敷に戻れば
いつもの教育プログラムが待っていた。
響子は一瞬迷ったが、
今さら美容室にまで行った母に行くなとは言えない‥
周平に送ってもらった方がいいように思えた。

「周平くん。お手間かけちゃうけど、

 母のことお願いするわ」

「おい」

間髪入れずに渉が抗議の声を上げた。

「そうこなくっちゃ。さすが響子先生。

 お母さんは僕に任せて」

渉に阻止される前に、即刻この場を離れようと
周平は急いで立ち上がった。

「じゃあ、響子先生。また後でね」

「周平くん。家どこか知ってるの?」

「うん。さっき渉からだいたいは聞いたから

 大丈夫だよ」

だいたい‥?

響子と渉は互いに見合った。
きっと頭の中は同じだろう。

「心配要らないよ。ナビあるし。

 それよりさぁ。響子先生のお母さん、

 お菓子作るの上手なんだってね。

 今朝、渉が食べたケーキまだ残ってるかなぁ」
 
周平は扉に半身もたれ掛かりながら言った。
顔はケーキを食べている自分を、
思い浮かべているかのようににやけている。

「じゃあ、母に電話しておくわ。

 もしケーキがなかったら、何が食べたい?」

「えっ、何でもいいの?」

「ええ、いいわよ。そんな時間のかかるものは

 無理だと思うけど‥パンケーキなんかどう?

 母のパンケーキはふんわりしてて、

 美味しいと思うんだけど」

「わあ!絶対美味いよ。

 お母さんのパンケーキ。

 実はさぁ今日の昼、今夜のこと考えてたら

 なんか腹いっぱいになっちゃって‥

 あんまり食べれなかったんだ」

「たく‥」

呆れる渉。
響子は周平らしいと微笑みながら言った。

「母にとびっきり美味しく作るよう

 言っておくわね。

 周平くん、母をお願いします」

周平は扉にもたれていた身体を起こし、
ドアノブに手を掛けながら言った。

「ありがとう、響子先生。

 安全運転するから心配しないでね。

 じゃ行くよ」

こう言うと周平は、空いている方の手を
バイバイとひらひらさせながら出て行った。
渉と響子は周平を見送ってしまうと、
お互いを意識して自然と気まずくなった。
だが、響子はすぐに思い直した。

言わないと‥

響子は顔を上げ渉を見た。
思わず仰け反ってしまうくらいビクっとした。
渉が自分を見ていたからだ。
響子のこの反応に、
動いた際に匂ってきた髪の香りに、
内心渉もドキっとしたが、
響子に悟られまいと何でもない振りを装い、
いつもの口調でこう言った。

「早く片づけちまえよ。

 ていうか今日中にやらないといけないのか」

「ええ。今日‥今言わないとダメなの」

こう言うと響子は自身の机まで歩いて行き、
椅子の背に手を掛けると、少しでも落ち着けるよう
ゆっくり深呼吸をした。
そして、振り返り渉を見た。
響子の真剣な面持ちに、
渉は次の言葉をその場で待った。
響子は真っすぐ見返してくる渉に戸惑いつつも、
言葉を続けた。

「私達‥つき合ってる訳じゃないでしょう。

 あなたは私に‥急がなくていいって言ったでしょ。

 だから、今日まではっきり言わなかったけど、

 やっぱり‥」

「男として見れないっていうのか」

「渉くん」

「分かってるよ」

こう言って渉は、さっき響子がしていたように
外の景色に目をやった。
その様子はどこか寂しげに映る。
響子はそんな渉から目が離せなかった。

どれくらい時間が経ったのか‥
渉が再び響子を目にした時、
驚いて言葉よりも先に足が動いた。
響子が泣いていたからだ。
自分が泣いていることにも気づかずに‥




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☆今回もお読みくださって感謝です^^
 響子のイメージを今さらながらお伝えします。
 「マイプリンセス」の
 オ・ユンジュ役の女優さんです。
 役作りなのか毎回衣装が?!なので、
 彼女の衣装を楽しみにしながら見てました。
 もう1年前になっちゃいましたね‥
 1年は早いですね。。