紫堂グループのグループ本社の入る自社ビル内では、
昨夜の突然の指令に、就業時間前から社員達は
慌てふためいていた。
後継者と目される、会長の孫であるお嬢様が
本日から出社するというのだ。
事前に会長とお嬢様の意向を伺い、
着々と準備を進めていたのだが、
一週間の繰上げに、今日は休日である
日曜日であったため、絶対的に人手が足りなかった。


~~
麦子達は特別室にいた。
雄三郎は思いの外、顔色が良いように思えた。
だが、息苦しさから長い時間起き上がることが
できないとのことだった。


(なんの病気やねんーーって、ね‥分かります
 分かっとります。。m(u_u)m)


由基は、椅子に腰掛け、雄三郎の手を握っている
麦子のすぐ後ろ手に立ち、ふたりの様子を
静かに見守っていた。

その間、何度も懐中時計に目をやる森川に
彩人も気がつき、彩人は由基の肩に手をやり
外に出るよう促した。

由基は、麦子の肩に優しく手を置いた。
振り向いた麦子に、扉に向かう彩人の方を一瞥して

「すぐ戻る」

と、麦子の目を見て言った。

麦子はコクリと頷いた。

麦子は無意識に出て行く由基を目で追っていた。


そんな麦子に、目を細めつつ雄三郎が言った。

「麦子や、帰国早々大変じゃが、

 早く慣れることも大事じゃ。

 彩人もおることだ、心配は要らん」

「おじいちゃん‥大丈夫よ。頑張るわ」

麦子はこう言いながら、自身の顔の前で
グーに握った両手を2、3度上下に振った。

「そうか、頼もしいのぉ。それでこそわしの孫じゃ。

 終わったら顔を見せに来てくれるか」

「もちろんよ、おじいちゃん。

 森川さん、いいわよね?」

「はっ、はい。お嬢様」

外に出たふたりが気になって仕方がない森川は、
慌ててこう答えた。

「森川、時間は大丈夫か」

雄三郎が聞いた。

「はい、大御所様。もうそろそろ‥

 お時間でございます」

森川は懐中時計を見ながら答えた。

「もう‥」

麦子はこう言いながら俯いた。

麻里が麦子の肩に手を置き、

「麦子、頑張ってね。

 もう!彩人と一緒で羨ましいわ」

と、わざと口を膨らませながら言った。

「麻里‥」

麦子が麻里の手を取ろうとした時、

「ほんと彩人が羨ましいなぁ。

 じいさん、俺も研修させてくれよ」

と、無邪気に周平が言った。

「おおそうか、お前も渉もどれくらい成長したか

 確認してみるか。ふたりに適任の仕事を

 与えるとしよう」

この雄三郎の言葉に、周平よりも渉が敏速に反応した。

「どうしてここで俺の名前が出るんだよ。

 じいさん、俺は関係ないだろう。

 やりたきゃ周平ひとりでやればいいんだ。

 一緒にされちゃ迷惑だ」

「渉、俺だってっ。

 じいさん、俺は麦子と一緒に働きたいって言ったんだ。

 勘違いしないでくれ」


ごほごほぶほほほ・・・・・


雄三郎が咳込んだ。

「おじいちゃん」

「お爺様」

麦子と麻里が同時に叫んだ。

「大御所様」

森川は駆け寄り、子機を手にし主従医を呼んだ。




~~
☆で、ちなみにですが、ここは特別室でして、
 でもってナースコールではなく子機が設置されてます。
 て、当然?ですわね。。。
麦子は、朝食のテーブルにつくため支度をしていた。

先ほどまで麻里の話を聞いていたのだが、
麻里も着替えるため、自分の部屋に戻っていった。

「きっと大丈夫よ‥」

麦子は鏡を見ながら呟いた。


~~
麦子は自分の席についた。
すでに皆揃っていた。
麦子がそっと麻里に目をやると、麻里は首を少し傾げ、
麦子に微笑みかけた。麦子も麻里ににっこりと笑いかけた。

朝食が始まった。

と、森川が足早に麦子の隣りにやってきた。

「おはようございます、お嬢様。

 本日のご予定を申し上げます」

「えっ、今日の予定?」

「さようでございます。お嬢様」

「森川さん、昨夜、明日はおじいちゃんに付き添う

 って言ったわよね」

「はい、お嬢様のおっしゃるとおりでございます。

 ですが、お嬢様。たった今、大御所様からの

 お言い付けで予定どおりにと。

 万事滞りなくとのことで仰せ付かりました」

「そんな‥予定どおりって・・・

 おじいちゃんは、おじいちゃんは‥」

堪らず彩人が口を開いた。

「森川、じいさんはなんて言ってるんだ。

 確かに、今日の午後から会議の予定は入ってるが、

 帰国が遅れたから、麦子は参加しないことに

 なったはずだ」

「はい、彩人様。大変申し上げにくいのですが、

 お嬢様には、普段と何らお変わりなく

 お過ごしになっていただかないとと申しますか、

 普段以上に、念には念をと申しますか‥

 大御所様がご入院中の今、

 お嬢様の行動如何によっては、新たに

 あらぬ憶測を生むことになるやも知れません」

「森川さん、おじいちゃんが倒れたのを

 秘密にするためには、私は病院に行かない方が

 いいのね‥」

「麦子」

麻里が思わず声を上げた。

「でも、一目おじいちゃんの顔を見に行きたいの。

 それはいいでしょ」

「はい、お嬢様。それは勿論でございます。

 手筈は整えてございます。

 それでは、本日のご予定を申し上げさせて

 いただきます」


~~
由基は携帯を閉じた。

麦子からだった。

由基は口を尖らせながら、狭い部屋の天井を
見渡した。

そうなのか‥?!

軽く首を捻ると、手早く身支度を整え、
病院に向かった。




~~
☆と、ここで区切ります。。

紫堂家の朝は静かに明けた。

麦子は明け方には目覚めていた。
今日も肌寒く感じる一日になりそうだった‥


~~
と、肌寒く感じる季節?ってことで、

(それなのに昨日は、
  彩人&麻里を散歩させちゃってるし‥
  今日も・・・だし、
   いくらここは台湾ですからってね~
  この年は暖冬ってことでご理解を)

今更ながら、この物語の背景を説明します。

時は1月末。
麦子、麻里、周平、渉の4人は、学生です。
来月中旬から下学期が始まります。
麦子のことは最初にお話しましたが、
麦子は大学3年生、麻里は4年生です。
ふたりは同い年です。
周平と渉は、麦子達より一つ年上で、大学院生です。
由基は最初にお話しましたね。
あの会社で働いています。
彩人は昨年、大学院の修士課程を終えています。
そして現在、紫堂グループのグループ本社、
広報部門勤務です。麦子の新たな研修先でもあります。
ちなみに、周平と渉の後継者(鍛え直し)教育は
現在も(執拗に)行われています。

~~


麦子は、ふと自分の部屋のバルコニーの方角に
目をやると、人影が見えた気がした。
窓に近づいた。

「麻里!?こんな朝早くに‥」

麦子は麻里の携帯に掛けてみた。

「‥麦子・・・おはよう、どうしたの?」

「麻里!どうしたのじゃないわ!
  
 私も行くわ。そこにいて」

「えっ」

麻里は振り向いた。麦子の部屋が見える。

「麦子、外はまだ冷えるわ。

 部屋で待ってて」

「麻里‥温かいお茶を用意するわね」

麦子は携帯を切ると、お茶の用意をお願いし
慌てて着替えに向かった。


麦子は麻里と並んでソファに腰掛けた。

「温まるわ‥

 麦子、そういえば昔、

 麦子にお茶を煎れてもらったわね。うふふ」

「そうよ、もう麻里ったらイジワルするから!!」

「うふふ‥ほんと懐かしいわ。

 あの頃は楽しかったわね」

「麻里、おじいちゃんのこと気にしてるんでしょ。

 昨日も元気なかったし‥

 そりゃ私も昨日は動揺してたけど、もう大丈夫よ。

 よく考えてみたら、あのおじいちゃんだもん。

 病気の方が恐ろしくて逃げてくわ。そうでしょ」

麦子はこう言いながら、麻里の腕を軽く揺すった。

「麦子‥」

「麻里、きっと大丈夫よ。

 あとで一緒に病院に行きましょ」

「そうね。そうよね‥」

麻里はゆっくりとお茶を飲んだ。
それを見ながら、麦子もお茶を口にした。

「あのね麦子、麦子なら‥

 うーん、いいの。何でもないわ」

「麻里?何?何かあるの」

「ううん。いいの。いいのよ」

「麻里ーー!何よ。水臭いわ。

 昨日はバタバタして、話しをするどころ

 じゃなかったけど、麻里に聞いてもらいたいこと

 たくさんあるのよ。

 麻里は私に何も話しはないって言うの。

 そんなの悲しいわ‥」

「麦子、違うわ。そんなんじゃないわ」

「麻里、それなら言ってよ。

 私は麻里の力になれないの」

「麦子‥麦子、嬉しいわ」

「麻里、私、おじいちゃんのこと

 本当に感謝してるの。

 私も麻里の力になりたいの」

「麦子‥ありがとう」

「麻里」

「麦子、あのね・・・」




~~
☆話自体は進んでない‥ですが、ふたりの
 女の友情をちょっと書いてみました。