「由基さん‥紫堂由基さん」

由基が、自身が働く会社が入るビルの
正面玄関から出てくると、ひとりの男が近づいた。

「・・・」

「由基さん、逃げないでくださいよ」

男はこう言いながら、行く手を遮ろうと
由基の前に出ようとした。
だが、由基は素早く身をかわし、
男を避けながらこう言った。

「逃げてませんよ。急いでるんです」

「由基さん。じゃあ、歩きながらでも」

「はあ‥前にも言いましたけど」

「ははっ、分かってますよ。関係ない‥でしょ?」

「分かってるなら、もう来ないでください」

「それがそうもいかなくて」

男は頭を掻く仕草をしつつ、尚もついてくる。

由基はタクシーを拾おうと手を上げた。

「由基さん、まっ待ってください。

 紫堂会長、倒れたんですよね?

 入院‥誤魔化そうたって無駄ですよ。

 確かな証拠、押さえてるんで」

男は一気にそう言うと、にやりとした。

由基は男を一瞥し、タクシーに乗り込んだ。

「ちっ」

男は舌打ちし、その場を後にした。


由基はタクシーに乗り、行き先を告げると
窓から見える真冬の景色を眺めた。


~~
由基が紫堂家を出た後、折に触れ周りをうろつく
あの男は、ゴシップ記事専門の三流記者だ。
紫堂家に関するネタは金になると、
由基に公言してくるようなやつだ。

今回のことも‥ご多聞に洩れず‥

由基は半ばしょうがないと諦めつつも、
うんざりしていた。
というのも、最近、なぜか記者達は
由基のコメントを取ろうと躍起になっていて、
日々、やつらにまとわり付かれていたのだ。

そんなやつらの最近の定番ネタは、
「由基は紫堂家に本当に戻るのか」だった。

どこからまたそんなデマが‥

由基はただ呆れるしかなかった。


~~
由基は窓から目を離し、
森川に電話を掛けようと携帯を手にした。

「由基様、お疲れ様でございます。

 お仕事中ではございませんか」

「ああ、森川。じいさんは午後から検査か」

「えっ、はい。そうでございます、由基様。

 午後からこちらにいらっしゃるご予定ですか」

「ああ、そのつもりだ。じいさんが検査の間、
 
 主従医がずっと立ち会う訳じゃないだろう。

 それと、森川も側で待機する必要もないだろう」

「えっ。あはい、由基様。

 それは、その‥どういうことでございましょう」

「ああ‥主従医と森川に話がある。

 そうだな。午後2時から1時間の内で時間をくれないか」

「由基様。もう‥ただ今、10時半過ぎでございますから。

 そのように急におっしゃられても‥難しいかと」

「そうか。森川、おまえはどうだ。

 おまえは大丈夫だろう」

「由基様・・・」

「なんだ都合が悪いとでも言うのか。

 側で待機する予定のおまえは大丈夫だろう」

ゴク‥

森川は思わず唾を飲み込み、こう答えた。

「都合が悪いなどと‥そのようなことは一切ございません。

 本日の午後2時でございますね。かしこまりました。

 お待ちしております」

「じゃあ、念のため主従医にも確認しておいてくれ」

「由基様、それは勿論でございます。

 もし、そのお時間、先生のご予定が何もなければ、

 必ずお連れいたします」

「ああ、頼む。じいさんの病室でいいよな」

「はい、由基様。ところで、お話とはどのような‥」

「森川、そんな‥察しのよいおまえが聞くのか」

「いっいえ、由基様。念のためでございます。

 大御所様のお身体のことでございますよね」

「ああ、そうだ。じいさんが心配なんだ」

「由基様‥。大御所様がお聞きになられたら‥」

「森川、余計なことは言うな」

「はっはい、かしこまりました。由基様」

「じゃ、後で」




~~
☆お話とは全く関係ありませんが、下記バナーの説明を
 させてください。
 一週間前、「母の日」でしたよね。
 皆さんは、「母の日」に何かされましたか?
 もしくは、何かしてもらいました?
 ‥で、私。小学生の姪にこう言われました。
 「子供がいなかったら、母の日に何かして貰えないね」って。
 そう言われたからって、素直な姪が(叔母ばかなもので‥)
 言うことと、私は全く気にしてなかったんです。
 そしたら、日頃、仲良くしてくれる御礼の気持ちってことで、
 特別に「叔母の日」をしてくれました。
 これが↓プレゼントしてくれたお花です。
 つい嬉しくてバナーにしちゃいました。
 なんか、でかって‥超アップのどでかいのですが・・・
 いいんです~(自己完結)
 て、皆さんにお気に召していただけるか?ですが、
 「叔母の日」記念ということで、お許しくださいませね。
 それでは、いつもお読みくださり感謝してます。
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「うむ‥」

雄三郎は今し方、親友からの電話を取り次いだ秘書に、
特別室のカーテンを開けさせた。
室内に朝日が射し込んでくる様を見て、
雄三郎は笑みを浮かべながら電話に出た。


~そして、親友との話しを終え、電話を切ると
しばらく目を閉じた。
雄三郎は、森川からの昨晩と今朝方あった報告で
ある程度予測していた。

‥が今、親友の大切な孫である麻里が、

「帰る」

と言ってきたと聞いたとき、
揃いも揃って‥と溜め息をついた。

雄三郎は決して口には出さないが、とうの昔に
彩人を宮原家にやると決めていた。

全く‥
これでは彩人も他のふたりと同じではないか‥

彩人に甘くしすぎたか‥

ふっ、やはり由基だな‥

雄三郎は思案するのを一時止め、
森川がやってくるまで、書類に目を通すことにした。


~~
麻里は、これで本当によかったのか‥
と後悔し始めていた。

麻里は、久しぶりの我が家にホッとしていたが、
同時に寂しさも感じていた。

理由は分かっていた。

この大きな屋敷に、今、家族は祖父しかいない。
麻里の両親は、仕事の都合で世界中を飛び回っていて、
今はニューヨークにいた。

この3年、麻里の家は紫堂家だった。
その紫堂家から、いずれ出る日が来ることは
分かっていた。

その日が現実に定められた今、
麻里は一言欲しかった。
安心できる言葉が聞きたかった。
彩人なら、麻里が望む未来を‥
言葉にしてくれると信じていた。

彩人から話しがしたいとのメールを貰った。

だが、麻里はあんなにも一緒にいたいと
思っていた彩人に、今は逢うことをためらっている‥

今更‥何?

何があるって言うの‥

麻里は、麦子のように強くなりたかった‥

どうすればよかったの‥

帰らないと言うべきだった‥


昨晩、お祖父様から「休暇はどうするんだ?」
と電話があった。

昨日、昼食を共にした時、休暇の話は既にしていた。

それなのに、日も変わらない中から
またお祖父様にそう問われ、
麻里は思わず「帰る」と答えてしまった。

今まで、麻里からお祖父様に対し
「休暇の間中、側にいるから」などと言ったことはなかった。

お祖父様は「彩人と何かあったのか」と聞いてきた。

そう言われるのも当然だろう‥
麻里にとって、休暇は彩人と過ごすためにある
と言っても過言ではなかった。

お祖父様には「何も聞かないで」とだけ告げた。
麻里思いの祖父はそれだけで分かってくれた。

麻里は、こんなにも自分を思ってくれるだいじな祖父を
今までどれだけ蔑ろにしてきたのか・・・

麻里はこれでよかったのだと、

「お祖父様のために帰ってきたんだから」

と、自分に言い聞かせるよう呟いた。

少し落ち着けば‥

また彩人と普通に話せるかも知れない‥

麻里は自分を勇気づけるよう‥

携帯を手にした。




~~
☆別邸の老執事、覚えてます?
 あのお方が、麻里じいちゃんに伝えてくれたんですね。。
 て、それがよかったのかどうか‥
 それもやっぱり彩人次第!?・・・
「いたたた‥あーなんで‥

 じいさん‥いないんだから寝かせてくれよー」

「ぐだぐだ‥朝っぱらから‥黙れ」

「渉ぅ~あーいたたっ」

周平と渉は食卓につくため、いつも通り定刻に
やってきた。

「なんだ、誰も来てないじゃないか」

「渉様、周平様。おはようございます」

森川は、渉と、その後ろ、ふらふら歩いてくる周平に、
朝の挨拶をした。

「森川、食欲ないんだ。水でいいよ」

「周平様、それではお身体に差し障ります。

 本日は一日中、予定が詰まっております。

 きちんとお召し上がりになりませんと、

 お身体が持ちません」

「えっ、森川‥いたたたっ。

 予定ってなんだよ。大学も休みなのに」

「はい、周平様。

 周平様も渉様も、紫堂家の一員としての

 教育をお受けになられている最中では‥

 ございませんでしたか」

既に自分の席に座っていた渉が、自身の額を押さえ
吐き捨てるように言った。

「周平‥おまえのせいだ」

「なっ、いたたたっ。オイ、なんで俺のせいなんだよ。

 どうせじいさんが決めたことだろ」

「はっ、話しにならない。

 森川、それは予定表か」

「はい、渉様。

 こちらが渉様のご予定でございます」

森川はこう言いながら、渉の前に予定表を置いた。

「渉の?じゃあ、俺とは違うのか」

と言いながら、周平も渉の側にやって来た。

「こちらが周平様でございます」

森川が差し出す、自分の予定表には目もくれず、
周平は渉の予定表を覗こうとした。
渉はその動きを読んでいたかのように、
素早く自分の予定表を折り畳み、
ジャケットにしまい込んだ。

「渉ーなんだよー。見せてくれたっていいだろ。

 俺の見せてやるから、ほら」

周平は森川から予定表を受け取ると、
渉の前にバンと音を立てながら置いた。

「見る必要ない。

 森川、兄貴と麦子はどうしたんだ」

渉は、森川にこう言いながら、
周平の予定表を脇にやった。

「渉ーなんだよー。

 冷たいじゃないか‥」

周平はしょんぼりしながら自分の席に向かった。


(渉と周平の席は、テーブルを挟んで真向かいの席)


「はあぁ‥」

渉は深い溜め息をついた。

「周平、おまえは自分の予定表、要らないのか」

「あっ、ごめん」

周平は渉に向かって、自分の手を差し出した。
その手を渉は無視した。

「渉、取ってくれたっていいじゃないか」

「森川、ふたりはもう会社に行ったのか」


「渉ー」(←渉は無視してるけど、周平しつこい)


「いえ、渉様。どうなさったのでしょうか。

 確認して参ります。少々、お待ちを」

森川は慌てて出ていった。


~~
麦子は彩人の部屋にいた。

「彩人。麻里‥このままってことないよね」

「お爺様に言われたんなら‥仕方ないよ」


麦子はさすがに昨夜、すぐには寝つけなかった。
だから今朝、お付きの部屋係に起こされるまで
眠り込んでいた。

起きてすぐ自分の携帯を見た。
昨夜、麻里にメールしておいたからだ。
麻里から返信がきていた。
そして、すぐさま彩人の部屋に向かおうとしたが、
分別ある部屋係に制止され、
着替えてから彩人の部屋に向かった。


~麦子、メールありがとう。
 ごめんね。しばらくお屋敷には戻れないわ。
 お祖父様と休暇を過ごすことになったの。
 だから今日、本邸に一緒に帰るわ。
 ほんとに突然でごめんね。
 もう行かなくきゃ‥また連絡するわ。麻里~
 

麦子は、麻里のメールを彩人に見せた。

「彩人。麻里‥このままってことないよね」

「お爺様に言われたんなら‥仕方ないよ」

「彩人!今からでも遅くないわ」

「麦子、それはできないよ。

 今日は休めない」

「・・・

 彩人には麻里からメールきてないの?」

「ああ」

「彩人はしたんでしょ」

「ああ。今日の夜、話しがしたいって」

「そう‥」

「お嬢様、彩人様。おはようございます。

 いかが‥何か問題でも」

彩人は、森川の言葉を遮るようにこう言った。

「すぐ行く。渉と周平には先に始めるよう

 伝えてくれ」

「彩人様‥かしこまりました」

森川は、ふたりに一礼するとすぐ今来た道を戻っていった。

「彩人」

「麦子、心配するな」

「彩人‥」




~~
☆思いの外、周平&渉コンビ長くなっちゃった‥
 そんなことない?!~な訳ないよねぇ。。