「何!?‥おふたりで‥そうか」

最上階のエレベーター前で、由基の到着を
今か今かと待っていた森川は、ロビーからの
報告を受け、踵を返して特別室に駆け戻った。

「はっはっ‥大御所様‥はっはっはっ」

森川は急いだため、息が切れてしまった。

「なんじゃ森川、そのように慌てて」

「はい、申し訳ございません。大御所様。

 たった今、ロビー担当から報告がありまして、

 由基様と彩人様、おふたりでいらっしゃると‥

 由基様、おひとりではなく、

 彩人様もご一緒にいらっしゃるという」

「森川、同じことを何度も言うな。聞こえとる」

「申し訳ございません、大御所様」

森川は小さくなった。

「彩人か‥ふむ」

雄三郎はゆっくりと起き上がった。

その時、特別室の扉をノックする音がした。
森川は雄三郎を見た。
雄三郎は扉の方角を指さし、
森川に行くよう目で合図した。
森川は急いで扉に向かうと、静かに扉を開けた。

「由基様、彩人様。

 大御所様がお待ちでございます」

「ああ」

由基と彩人が特別室に入ると、
雄三郎がベッドから降り、
ソファに向かって歩いていた。

「大御所様」

その様子を目にした森川は、
由基と彩人を追い越し、雄三郎の前に行き、
ふたりに見えないよう
そっとベッドに戻るよう目配せした。

「うるさい。喉が渇いた。茶を持ってこい」

雄三郎はソファに腰掛けた。

「はっはい、かしこまりました。大御所様」

森川は一礼すると特別室を出ていった。

雄三郎は由基と彩人の方を見た。

「なんの用じゃ」

ふたりは雄三郎の横に並んで立った。
カーテン越しに冬の空が見える。

「じいさん、寝てなくていいのか」

由基が口を開いた。

ふん‥

雄三郎は顎を上げ、ふたりのいる方とは逆である
窓に顔をやり、外の景色を眺めるふりをした。

由基は続けた。

「じいさん、もう芝居はいい。

 何の話か見当はついているんだろう」

「だから、なんじゃ」

雄三郎は仕方なく顔を正面に戻した。

「じいさん、まず‥今回の入院は何のためだ」

「麦子のためだ」

ふたりの予測とは異なり、
雄三郎がさらっとこう答えたので、
由基と彩人はお互いの顔を見合わせた。

そんなふたりの様子を雄三郎は見逃さなかった。

今度は彩人が言った。

「じいさん、それは逆だろ。

 麦子がどれだけ心配してるか

 知ってるだろう」

「彩人、俺に言わせてくれ。

 じいさん、検査の結果どうするつもりなんだ」

「それはおまえ次第だ」

森川がお茶の準備をして戻ってきた。

森川は手慣れた手つきで湯呑みにお茶を注ぎ、
雄三郎の前にお茶を置いた。
そして森川は、定位置である雄三郎の
斜め後ろに控えた。

雄三郎はお茶を飲んだ。

「あ‥熱い」

「もっ申し訳ございません、大御所様」

「森川、ちょっと外してくれ」

彩人が言った。

「ほう‥それはよかったな、森川」

「大御所様‥」

「じいさん、それは森川も当然関係してる

 ってことだな」

由基が言った。

「さあ‥どうだ森川?」

「大御所様‥その‥私めは‥」

「もういい。全て分かってるんだ。

 小芝居は止めろ」

彩人が思わず口を挿んだ。

「彩人。そういえば、おまえは何の用だ」

「じいさん」

由基と彩人、ふたり同時に言っていた。

由基と彩人は、またお互いの顔を見合わせ‥

~これじゃ何時間あっても話が終わらない~

と、お互いがお互いの顔でこう語っていた。

雄三郎はもう一口、お茶を飲みながら言った。

「わしは彩人の話から

 片をつけた方がよいと思うがな。

 おまえたち、午後から休みを取ったのか」

由基と彩人は再びお互いを見て‥諦めた。
雄三郎には敵わない。

由基が自身の腕時計を見ながら言った。

「時間がない。じいさんの言うとおり、

 彩人の話からしてくれ」




~~
☆ここで区切ります。
 余談ですが、まだまだ続く「ふたりの兄」。
 この「ふたりの兄」とは、もうご存じですね‥
 由基と彩人のことです。
 一応、周平と渉‥ふたりから見ても
 そう言えますよね‥て、この程度の意味合い
 でしかないってことなのですが・・・
 今週末、麦子、麻里と楽しく過ごすために、
 ふたりの兄はどうするのか‥
 では、読んでくださって感謝です。。
昨夜から気が気でない森川は、
今朝は一段と早くから特別室に来ていた。
そんな森川の心配をよそに当のご本人、
雄三郎は、先ほどから窓際にあるソファに腰掛け、
のんきに外を眺めながら朝食をとっている。
森川はいつものように、雄三郎の斜め後ろに
控え、黙ってその様子を見ていた。

「大御所様、その‥宜しいのでしょうか。
 
 あっいえ、その‥」

森川は雄三郎にじろりと睨まれ、
慌てて口をつぐんだ。

「森川、由基はまだか」

「はい、大御所様。由基様からは、まだ」

「森川、彩人は週末、宮原の家に行くらしいぞ」

「えっ、麻里様のお宅に」

「他に誰がおるんじゃ。宮原のやつが朝もはようから

 電話してきよったわ‥婿がやって来ると」

「さようでございましたか」

「我が家の婿は・・・」

「大御所様?」

森川は、そのまま‥
黙り込んでしまった雄三郎が心配になり、
顔を覗き込もうと身体を屈めた。
その時‥

「全く‥」

雄三郎はこう呟き、勢いよく立ち上がった。
その雄三郎の急な動きに森川は驚き、
左前方にバランスを崩し、
ソファに倒れ込む形になってしまった。

「森川、何を遊んでおる」

「あっ、いえ。いたたた‥」

森川はソファに両手をつき、
急いで自身の身体を起こした。

「申し訳ございません。大御所様」

森川は、左腕を摩りながらこう言った。

「なんだ、痛いのか。それなら、ちょうどいい。

 ここは病院だ。医者に診てもらえ」

「いえ、そんな‥ご心配には及びません。

 このとおり大丈夫でございます」

森川はこう言いながら、左腕を上下に振って見せた。

「そうか、それならよい。

 だが、ここに医者はたくさんおる。

 痛くなったら診てもらえ」

「大御所様。私には有り難き、勿体無いお言葉‥」

「森川、わしは一寝入りする。

 おまえは下がっておれ」

「はっ」

森川はベッドに横になる雄三郎を手伝い、
掛け布団を掛けると一礼し、特別室を出ていった。


~~
彩人は、自分の運転する車で会社に向かっていた。

携帯が鳴った。
珍しく由基からだった。
彩人はイヤホンを耳にすると‥

「もしもし」

「今、いいか」

「ああ」

「週末、麻里の所に行くんだってな」

「麦子からか」

「ああ、さっきメールがきた。

 喜んでたよ」

「麦子らしいな」

「ああ」

「で、話はなんだ」

「今日、じいさんと会うことにした」

「そうか‥こないだ言ってた件もか」

(こないだ‥とは、麦子が帰国した翌日、
 皆で再び病院に行った際、由基と彩人‥
 ふたりで外に出ましたよね。その時のことです)

「ああ、あれは分かったよ。

 宮原家の者だ。今は宮原家に戻ってる」

「えっ本当なのか!」

「ああ、そうだ。会長の秘書のひとりらしい」

「・・・そうか」

「彩人‥悪いが、今日は自分の話をしに行く」

彩人は車を道路の脇に停めた。

「やはり由基も‥そうだったのか‥」

「彩人、おまえは‥違うかも知れない。

 宮原の会長は、じいさんに協力しただけかも」

「普通は逆だろ。由基、もういい。

 じいさんが協力したんだよ」

「すまない。俺がおまえに聞かなければ‥」

「いいんだ。俺もおまえに、

 変わったことはないか‥と聞かれなかったら

 思いもしなかった。

 まさか、うちに宮原家の人間がいるなんて」

「彩人‥」

「おかしいだろ。少し考えれば分かることだ。

 半年足らずでだ。何かあれば別だが、

 仕事もできるし信頼もされてた」

「由基、いつ行くんだ。俺も行く。

 時間は合わせる‥午後にできるか?

 昼休みを使って、プラス1時間くらいなら

 なんとかなると思う」

「俺は大丈夫だ。2時半までに社に戻ればいいから」

「そうか‥おまえのことは確証を得たのか」

「いや、それはない」

「そうか」

「じいさんには、おまえが行くことは伏せておくよ」

「なぜだ」

「じいさんにはその方が効く」

「そうか、おまえに任せる」

「じゃ、駐車場に着いたら連絡くれ」

「ああ、分かった」

彩人は携帯を切ると、静かに車を発進させた。




~~
☆昨日は、またまたやらかしておりまして‥
 ご迷惑をおかけした方には申し訳ないです。
 本当にすみませんでした。
 なうは無事、解決?しましたので、
 もう大丈夫かと思います。。
 では、読んでくださって感謝してます‥
「彩人、おはよう」

麦子は、前を歩いていた彩人に追いつくと
横に並び、彩人の顔を覗き込んだ。

「ああ、おはよう。

 ・・・何か付いてる?」

「ううん。違うの‥今日も晴れそうね」

「あ、そうだな・・・

 麦子、その‥ありがとう」

「えっ、何が?」

「いや、いいんだ。忘れてくれ」

「もしかして、麻里のこと?」

麦子は再び、彩人の顔を覗き込んだ。

「麦子‥」

彩人は困ったような顔して、額に手をやった。

「麻里からメールきてたの。

 さっき読んで‥もう嬉しくって!」

「麦子‥」

「根掘り葉掘りは聞かないわ。

 週末、会いに行くんでしょ」

「ああ」

「彩人、私も麻里に会いたくなっちゃって‥

 週末、一緒に‥そうだ!

 麻里の家に行ったことないわ。

 彩人はあるんでしょ。由基も‥3人で。

 麻里に遊びに行っていいか聞いてもいい?」


(いやいや麦子‥それは‥おじゃまというもの)


「麦子‥あ、俺はいいよ。由基‥も大丈夫なのか」

「うん。由基と週末、約束してたから。

 じゃあ、後で、連絡してみるね。

 彩人、週末が楽しみね」

「麦子‥」

麦子は、彩人の何とも言えない複雑な表情には‥
気づきもせず、彩人をその場に置き去り、
すたすたと歩いて行ったが、不意に振り返った。

「彩人、日帰りじゃ‥無理かな?」

「えっどうして?」

「おじいちゃんのこと‥

 おじいちゃんが入院してるのに‥

 やっぱり‥出掛けるのは‥

 止めた方がいいよね‥」

「麦子‥」

「ごめん、彩人。

 やっぱり‥おじいちゃんが大変な時だもん。

 行ってきて。麻里、喜ぶわ」

「麦子‥」

「そうだ!麻里に何か‥お土産っていうか、

 麻里が喜ぶ物、用意するわ。

 だから、持って行ってね」

「麦子‥じいさんは、今はまだ、

 緊急を要する訳じゃないから、

 行っても大丈夫だと思うよ」

「ううん、いいの。彩人、ごめんね。

 私はいいから、気にしないで‥

 ふたりが待ってるわ。行きましょう」

麦子と彩人は、周平と渉の待つ朝食のテーブルに
急いで向かった。


~~
麦子を乗せた車は会社に向かっていた。

麦子は電話にしようか、メールにしようか‥
散々迷った挙げ句、麻里に電話をすることにした。

「もしもし。麦子、おはよう」

「おはよう、麻里」

「麦子、会社じゃないの?」

「そうよ。今、行くところ。

 メールにしようか迷ったんだけど、
 
 麻里と話したくて掛けちゃった。

 ごめんね。朝早くから」

「ううん。私は大丈夫よ。

 麦子、心配してくれてありがとう。

 それでね‥さっきね。彩人が週末来てくれるって、

 お祖父様に話したの。そしたら、お祖父様ったらね、

 とうとう婿がやって来るのかって、もう大喜びで」

「えっ、彩人‥麻里の家に行ったことないの?」

「えっ、そうよ。あ‥うん。何度か誘ったことは

 あるんだけど‥やっぱり彼女の家には

 行きづらいって人もいるでしょ」

「そう‥そうだったの」

「でも、彩人から行くって言ってくれたのよ。

 それでね、私はてっきり迎えに来てくれるんだと

 思ったの。そしたら、彩人はそうじゃないって。

 お祖父様がね、寂しい想いをしてるから

 こんな時こそ、お祖父ちゃん孝行してやれって。

 だから、次の週の週末、また来てくれて‥

 その時、一緒に戻ろうって」

「よかったね、麻里」

「うん。お祖父様もそれを聞いて、

 彩人のこと見直したって言うの。

 だから、見直すって何?

 どう思ってたのって言っちゃったわ」

麦子は、麻里の元気な声を聞いて、
麻里はもう大丈夫だと感じていた。

「麦子?どうしたの?

 あっ、ごめん。もう切った方がいいわね」

「ううん、そうじゃないわ。

 まだ‥もう少し大丈夫よ。

 麻里‥なんか嬉しいわ。麻里が元気だと」

「麦子!・・・麦子、ほんとごめんね。

 またゆっくり話すわ。麦子の話も聞きたいし」

「麻里‥うん、そうね。

 今朝の彩人の顔‥麻里にも見せたかったわ。

 なんか、いつもの彩人です‥って、

 無理に装ってる感じなの。 

 ほんとはすんごい照れちゃってるのに‥」

「麦子‥」

「あっでも、麻里に教えてもらおうと思って

 彩人には聞いてないからね」

「もう‥麦子ったら‥

 じゃあ、じっくり聞いてもらうから」

「うん。じっくり教えて・・・

 麻里、ごめん。そろそろ」

「あ、うん。仕事頑張ってね」

「うん。麻里、ありがとう」




~~
☆麻里、よかったねってことで~
 彩人のどうした?は、またいつか‥
 では、読んでくださって感謝してます。。