「彩人、おまえはもう帰れ」

雄三郎が唐突にこう言った。

「じいさん!」

彩人が抗議の声を上げる。

「彩人、まぁ、最後まで聞け。今日は遅くなるのか」

「えっ、ああ、そうなると思う」

「そうか。森川、彩人は今日、定時だ。常務に電話しろ」

「はっ、かしこまりました。大御所様」

森川は電話をするため、特別室から出ていった。

「なっ、何も‥常務に言う必要ないだろ」

彩人はこう呟くと、自身の額に手をやった。

「彩人、今日は麦子と一緒に帰ってこい。

 そして、ここに来るんだ。

 渉と周平にも来るよう言っておく」

「じいさん、どういうことだ。

 じゃあ、由基もまた来るのか」

「いや、由基は来んでいい。

 ところで彩人、おまえはここに来るなどと‥

 まさか言ってきたりは‥してないだろうな」

「まさか‥言うわけないだろ」

「そうか。おまえは今日、ここにきてはいない。

 由基もそうだな」

「ああ」

由基が答える。

「おまえ達ふたりは、ここにきてない。

 ‥ということは、

 わしと何の話もしてないということだな。

 彩人、そのつもりで来るのじゃぞ」

由基と彩人は顔を見合わせた。

「念のため聞くが、

 麦子と麻里に今日の話をするつもりか」

彩人が答えた。

「できる訳ないだろう」

雄三郎が彩人を見て頷く。

「何も話してないんだろ」

由基は吐き捨てるように言った。

雄三郎はそんな由基を無視し、
彩人に帰るよう促した。


~~
麦子は仕事を終え、彩人と共に特別室にきていた。
周平と渉もきていた。

麦子は先ほど、こそっと「由基も来るの」と、
森川に尋ねてみたが「来ない」と言われ、
少しシュンとなっていた。
麦子は、彩人が珍しく定時で帰ると聞き、
「やっぱり歯が痛むんじゃない」
と心配していたが、病院で周平と渉の姿を見て、
おじいちゃんが皆を呼んだのかしら?と思ったのだ。

なぜ麦子が、彩人の歯が痛むと思ったか?って、
彩人の昼の外出は歯医者だったから‥
麦子が戻ってきた彩人に「どうしたの?」と聞いた時、
「そんなに痛む訳じゃないけど、念のためにね」
と彩人は言っていたのだ。


そして、雄三郎が主従医に車椅子を押され、
特別室に戻ってきた。

「おじいちゃん、大丈夫?」

麦子が言った。

「おお、麦子や。今日はいい知らせがあるぞ」

「ほんと?おじいちゃん」

「なぁ」

雄三郎が主従医を見上げる。
主従医は微笑みながら言った。

「はい、お嬢様。大御所様はもう大丈夫ですよ」

「ほんとですか!ありがとうございます、先生。

 よかったね、おじいちゃん」

「おお。すまなかったな、麦子」

「ううん、全然。じゃあ、もう帰れるの」

森川が言った。

「明日にでも、退院できるとのことでございます」

「じゃあ、どこも悪いところはなかったのね」

「はい。大御所様は、お嬢様が帰国されるということで、

 少し張り切り過ぎてしまったということになりますね。

 ‥それでは、私はこれで失礼します」

主従医はこう言うと、特別室を出ていった。
森川も主従医を送るため、一緒に出ていった。




~~
☆へんな?ところですが、ここで区切ります。
 読んでくださって感謝です。。
麦子は心配していた。

麦子は、同じフロアの女子社員達と共に
昼休みから戻ってくると、彩人の姿がなかった。
ホワイトボードを見ると「14時帰社予定」とある。
麦子は気になり、GLに聞きに行くと
「私用で外出した」と言われた。

何?何かあった?麻里?

でも、昼休みに麻里とはメールしたばかり‥

麦子はそれから気持ちが落ち着かず、
仕事に集中できなかった。


~~
後は彩人が決めること・・・

由基は彩人の顔を見て、そう思っていた。
由基はそんな彩人に促され、話し出した。

「じいさん。じいさんは俺をどうしたいんだ」

「おまえは、わしが言わんと分からんのか」

「俺が紫堂家に戻る‥だろ。

 この数週間‥マスコミに言われ続け、

 おまけに取引先、会社でも‥

 くだらない。

 じいさんがこんな馬鹿馬鹿しいまね

 するとは思わなかった」

「よっ由基様。それは‥大御所様ではございません」

森川が慌てて言った。

「森川?」

由基と彩人が同時に言った。

「申し訳ございません。その‥最初の意図は‥

 そうではなかったのですが‥

 あの‥由基様。

 差し出がましいことを申し上げますが、

 今回のことで由基様も、

 庶民が由基様をお望みであるということを

 ご理解いただけたのではございませんか」

「森川」

雄三郎は森川を一喝した。

「申し訳ございません。大御所様」

森川は小さくなった。

雄三郎が言った。

「由基。おまえは、おまえの夢とやらを

 このまま追い続けるつもりか」

「・・・はい」

「麦子はどうなる」

「麦子‥」

彩人が口を挿んだ。

「じいさん、麦子のことはとうに話がついてるだろ」

「彩人、おまえは黙っておれ。

 由基。

 おまえは、本当に麦子を経営者にするつもりか」

「・・・」

由基は、どう答えたら‥いいのか‥
何も言えなかった。

「由基、わしは麦子が可愛い。それは分かっておるな。

 できれば‥いや、必ず幸せになってほしい。

 幸せに暮らしてほしい‥と思っておる。

 それが、今のままでできるか」

「・・・」

雄三郎は、何も答えない由基を目の隅に
捉えながら尚も続けた。

「麦子は優しい子じゃ。

 もちろん強さも持っておるが、どうじゃ。

 社会に出て、紫堂グループの当主として

 あの子はやっていけるか。

 世の中、きれいごとだけでは済まされない。

 そうではないか」

彩人が言った。

「じいさん。麦子は一生懸命努力してる」

「彩人‥おまえには世話を掛ける。

 じゃが、それだけではどうにもならんこと‥

 おまえ達、ふたりが一番よく分かっておるだろ」

「・・・」

「彩人、おまえは聞いとるじゃろうが、

 わしは渉を学者にしてもいいと思おておる」

「じいさん」

彩人は驚きのあまり目を見開いた。
由基も驚き、そんな彩人の方を見た。

「そうなると‥だ。

 わしのだいじな孫の頼りは誰だ?

 わしが言いたいこと、

 おまえ達なら分かるじゃろ」

ふたりはお互いの顔を見ることしかできなかった。




~~
☆ここで区切ります。
 読んでくださって感謝してます。。
「彩人、おまえは何を知りたいのじゃ」

雄三郎はこう言うと、
両手を横に伸ばしながらソファの背にもたれた。

雄三郎の提案により、
彩人の話からすることにした3人‥(+森川)

由基が彩人の方を見た。

彩人は目を瞑り俯いていたが、
すぐに顔を上げると話し出した。

「じいさん、会社に宮原の人間を

 入れたのはどうしてだ」

「わしが言うと思うか」

「じゃあ、じいさんは宮原会長に

 直接聞けと言うんだな」

「まあ、結論を言うとそうなるな。

 わしがいくらおまえに宮原の思いとやらを

 伝えたとしても、それを聞くおまえに

 その思いを受けとめる覚悟がなければ‥

 何の意味もない」

「じいさん・・・

 会長は、俺が何の意思表示もしないから、

 麻里を家に戻すと言ってきたのか」

「そうだ。おまえに言わせるために、

 麻里に戻ってくるよう命じたのだ」

由基が言った。

「となると‥彩人はお眼鏡に適ったって

 ことなんだな」

「由基‥」

彩人は困ったような顔をして由基を見た。

雄三郎が続けた。

「彩人、おまえも既に分かっておるじゃろ。

 おまえは宮原のやり方が気に食わん‥

 ただそれだけじゃろ。つい最近まで、

 おまえの同僚じゃった宮原の部下。

 おまえのこと、大層褒めとったそうじゃ」


(結局、話しちゃってる雄三郎爺‥)


由基が言った。

「それでじいさんは、彩人が週末、

 宮原の家に行って宮原会長とすったもんだでも

 して来ればいいと考えているのか」

「由基‥まあ、そう違わないが‥

 宮原も話せば分かるやつじゃ」


(ほんとか?)


尚も由基は続けた。

「ところでじいさんは、どうして会長に協力した」

「えっ、なんじゃ由基。

 おまえのことでもないというのに」

「いや、じいさんがそう言うならいい」

「なっなんじゃ、由基。

 おまえ、わしに‥」

先ほどまで、彩人に見せていた顔つきとは全く違う‥
目の前にある由基の落ち着いた冷静な顔を目にし、
雄三郎は押し黙った。

彩人が由基に言った。

「由基、時間もない。おまえの話をしてくれ」




~~
☆今回は、ここで‥
 読んでくださって感謝してます。。