由基は紫堂家に向かっていた。

1時間前、「病院からの帰りだ」という彩人から
電話があり、「屋敷に来い」と言われたからだ。
麦子からもメールがあった。

彩人曰く、じいさんはざっくりと話をしたようだ。

どう話したのか‥聞かなくてもだいたい予想がつく‥

どこまで話すべきか‥由基は迷っていた。


~~
「それにしても、よかったな」

周平が嬉しそうに、ぱくぱくとパンを口に入れながら、
誰に言うでもなく喋っている。

今夜の紫堂家。
彩人、周平、渉‥3人での夕食。
今頃、麦子は雄三郎と、病院での最後の夕食を
共にしているはずだ。

「兄貴がここに戻って来るなら、

 麦子は当分屋敷にいるんだよね」

周平は上機嫌だ。

「周平、由基が決めることだ。

 余計なこと言うなよ」

彩人が周平をたしなめる。

「彩人ー兄貴、帰ってくるの気に入らないのか」

「いいよ。相手にしなくて」

渉が冷たく言い放つ。

「渉ーおまえも嬉しくないって言うのか」

「おまえ、もう飲んでるのか」

渉は顔を上げることなく言う。

彩人がふたりに言った。

「渉、周平。由基に来るよう言っておいた。

 屋敷に戻るかどうかは、由基と麦子、

 ふたりで決めればいいと俺は思ってる」

「同感」

渉が言った。

「ふたりしてそんなこと言うなよー」

周平が悲しそうな顔をしてぼやいた。


~~
麦子は複雑な思いで病院を後にした。

雄三郎には、由基の意思を尊重すると言われていた。
ふたりで話し合えばよいとも。

車が停まった。
麦子があれこれ考えている間に、屋敷に着いていた。
森川が振り返った。

「お嬢様。由基様が前にいらっしゃいます。

 お呼びして参ります。お待ちください」

「いい。森川さん、いいわ。私が行く」

麦子はこう言うと慌てて車を降りた。

由基が運転席から降りようとドアを開けた。
そこに麦子が走り寄った。

「由基、降りないで。車で話さない?」

麦子はドアを開けた由基の腕に触れながら言った。

「ああ、分かった」

由基が言う。

麦子は助手席に座ると言った。

「由基、おつかれさま」

「ああ‥麦子こそ、疲れただろう」

「ううん。大丈夫よ」

その時、森川が助手席側の窓の外から、
ふたりに一礼して屋敷に入っていった。

由基が言った。

「麦子、じいさんから聞いたろ。

 引越しのこと」

森川の姿を目で追っていた麦子は、はっとして
由基を見た。

「うん。ちょっと驚いた。

 家がなくなっちゃうみたいで」

「麦子‥」

「えへっ‥なーんてね。‥じゃなくて

 補強するだけなんだってね」

麦子が可愛らしく小首を傾げながら言った。

「麦子‥あの家はなくならないよ。

 もし、そんなことになったら‥

 俺が守るから」

「由基‥ありがとう。

 おじいちゃんもね‥そう言ってくれたの。

 あの家にはお父さんとお母さんと、それと‥

 由基と‥いっぱい想い出が詰まってるから」

「ああ、そうだな」

由基が麦子の肩を掴み、自身の胸に引き寄せた。

「由基‥引越しって‥いいの?」

麦子は由基の胸に顔を埋めた。
由基は、麦子の頭に自身の顔を寄せながら言った。

「ああ、してもいいと思ってるよ。

 麦子と一緒だし、それに家賃も払うし」

「家賃?!」

「ふっ。麦子、そんなに驚くなよ。

 家賃はなんていうか、言い値でいいらしい。

 たぶん、今と同額かな‥お得だろ?」

由基は微笑みながら、麦子の顔を覗き込んだ。
麦子も釣られて笑顔になる。

「おじいちゃん‥他にも‥無理‥言ってない?」

「・・・そうだな。

 今週末に引っ越してこいとは言ってたな」

「えっ、今週?」

「ああ、いくらなんでも急すぎる。

 だけど、じいさんだろ。

 早い方が麦子が喜ぶって。俺もその方がさ‥

 まぁ、今夜から少しずつ頑張れば

 なんとかなると思うし‥きっと大丈夫だ」

「由基‥私も手伝う。今すぐ帰りましょう。

 そしたら、すぐ片付くわ」

「麦子。麦子は‥週末に手伝ってくれ。

 それまではここにいるんだ。

 そして、ちゃんと毎日会社に行って‥

 いいな」

「どうして」

「どうしてもだ。俺のことは心配ない。

 そんな顔するな‥笑ってくれ。

 俺は麦子の笑った顔が好きなんだ」

「由基‥」



~「ふたりの兄」おしまい~



~~
☆今回で完です。ふたりの兄に何かしら?
 進展があったということで‥
 では、読んでくださって感謝です。。
由基はあれから悩んでいた。

病院で、雄三郎との話を終え、急いで会社に戻ると
案の定、様々な問題が起きていて、
今までその対応に追われていた。

由基は仕事が一段落着いたため、
少しひとりになろうと、階段の踊り場にきていた。
壁にもたれ掛かり、携帯を手にする。

あれから‥麦子にメールしようとしたのだが、
何も言葉が見つかず‥結局、今の今まで
連絡できないでいた。

今頃、じいさんから聞いてるだろうか・・・

由基は

~今夜、話せないか~

と‥だけメールし、オフィスに戻っていった。


~~
「麦子や、そう心配せんでもよい。

 取り壊す訳でもなし、改築とゆうても‥まぁ、

 ゆうなら補強じゃ。  (じいさんがやるの?)

 大丈夫じゃ。もし仮に、あそこを壊すとゆうても、

 わしがそうはさせんから心配ない」

「うん‥おじいちゃん、ありがとう」

麦子は、雄三郎の言葉にひとまず安心したようだ。

「うほほ・・・ところで、麦子や。

 由基のことじゃが、何か聞いておるか」

「えっ‥そうよ、おじいちゃん。

 さっき、何か言いかけたよね‥

 えっと‥何も聞いてないわ」

麦子はこう言いながら、バッグから携帯を取り出した。

「あっ、由基からメール!」

雄三郎と彩人が思わず、少しだけ身を乗り出す。

「今夜、話があるみたい」

麦子がメールを見ながら言った。

「それだけか」

雄三郎が聞く。

「ええ、そうよ。どうして?」

麦子が雄三郎の顔を見る。

「そうか。それなら、由基から聞くか。」

「おじいちゃん‥うーん・・・

 おじいちゃんからも教えて。で、なあに?」

「麦子、由基から聞いた方がいいんじゃないか」

彩人が口を挿んだ。

「どうして?彩人」

麦子は彩人を見た。

「いや、その‥話によっては‥

 その方がいいかなと‥思っただけさ」

彩人は、麦子の何の疑念も抱いてない‥
無邪気な顔を目にして、つい口篭ってしまった。

「そう‥おじいちゃんもそう思う?」

「そうじゃな‥そうするか」

「うーん・・・おじいちゃん、やっぱり気になるわ。

 少しだけ教えて。いいでしょ」

「麦子‥」

彩人が言った。

「彩人。彩人は気にならないの」

麦子が聞く。

「麦子、俺は気になるよ」

周平が口を挿む。
その声に、麦子と彩人が周平の方を見ると、
渉も頷いている。

雄三郎は、この場にいる全員を見回しながら言った。

「わしはな、由基に‥改築の間、

 屋敷に戻ってこんかとゆうたんじゃ」




~~
☆予想通り?!って‥そりゃそうすよねーー
 では、読んでくださって感謝です。。
「おじいちゃん、明日は何時に退院するの」

麦子は、ベッドに横になった雄三郎の掛け布団を
直しながら言った。

「そうじゃな‥午後になるかのう」

「じゃあ、午後からお休みもらって‥

 おじいちゃん、一緒に家に帰ろうね」

「麦子‥」

雄三郎は感動のあまり‥目頭が熱くなった。

「麦子、よかったな」

周平が笑顔で言った。

「うん。ありがとう」

麦子は周平と、その横で壁にもたれている渉に
向かって言った。
そして、ベッドを挟んで反対側に立っている彩人にも
笑顔を向けた。

「そうじゃ、麦子。わしの退院祝いに、

 週末、麻里に会いに宮原の家に行くとするか」

「おじいちゃん!」

麦子は嬉しさのあまり目を見開いた。
その様子を、彩人は微笑みながら見ている。(芝居?)

「じいさん、俺も麦子と一緒に行っていいだろ」

周平が言った。

「渉はどうだ」

雄三郎が聞く。

「俺は‥いいよ。・・・行っても」

渉は、満面の笑みで見てくる周平に押されて(?)
こう答えた。

「そうか。じゃあ、皆で行くとするか」

「じいさん」

堪らず彩人が言った。

「なんじゃあ、彩人」

「いや‥何でもない」

「はっきりせんな・・・麦子や」

雄三郎はこう言うと、起き上がろうと身体を起こした。

「大御所様」

戻っていた森川が、透かさず雄三郎の身体を支える。

「おじいちゃん、無理しちゃだめよ。

 まだ寝てた方がいいわ」

麦子が心配そうに雄三郎の側に行く。

「そうか、じゃがな‥麦子。

さっきな、由基と話したんじゃが」

「えっ!なっ何、おじいちゃん」

「まぁ、落ち着け。麦子」

「お嬢様。こちらにお掛けください」

森川が麦子に椅子を差し出す。

「はっはい。ありがとう、森川さん」

麦子はゆっくり椅子に腰掛けた。
それを待ってから、雄三郎が続けた。

「でな、麦子。

 由基のおるあの家。おまえの住んでおった家じゃ」

「うん」

麦子が思わず身を乗り出す。

「昨年の台風でとうとうガタがきてな。

 改築することになったそうじゃ。

 今朝、秘書から報告があってな。

 さっき由基に聞いてみたんじゃ」

「改築って‥そんな‥なくなっちゃうの」




~~
☆て、ことは‥週末、みんなで家族旅行?!
 読んでくださって感謝です。。