彩人達3人は宮原家のロビーにて、
麻里の笑顔に迎えられた。

彩人を差し置いて、周平が「麻里ー!」と叫びながら
麻里に抱きつきにいく。
そして、それをすぐさま渉が引き剥がす‥
渉は周平の顔面を押さえながら、
もう片方の手で麻里の肩に軽く触れ、
少し笑顔を作って、麻里に向かって一度頷くと、
周平を引っ張って中に入っていった。

麻里はそんなふたりを見送ると、
さり気なさを装って振り返った。

と、そこにはひとり残された本日の主役・・・

振り返った麻里‥
彩人の目には、少しはにかんでいるようにも映る。

言葉を交わすのも忘れ‥
ふたりはただ‥その場に立ちつくしていた。

どれくらい時間が経ったのか‥

宮原家の使用人が遠慮がちに声を掛けた。

「お嬢様、彩人様。

 旦那様がお待ちになっておみえです」

その声に、
見つめ合っていたふたりの視線がすっと離れる‥
と、麻里は慌てて答えた。

「ええ、分かったわ。すぐ行くわ‥」

彩人が言った。

「麻里」

彩人の声に、
麻里が彩人の方に向き直る‥その前に‥
彩人が麻里をぎゅっと抱きしめていた。
気づくと麻里は宙に浮いていた。

その瞬間、麻里は‥彩人以外‥
他はもう‥どうでもいいと思った。
きっと宮原家の皆に見られていることも‥
何もかも・・・

麻里は彩人の首にしがみついた。
彩人が、それに応えるように麻里の腰を抱き直す。
ふたりはお互いの首元に顔を埋めた。

そして、そのまま‥またどれくらい時が経ったのか‥

「ご、ごほん‥うぅ‥

 兄貴、そろそろいいかな?」

渉が目を逸らしながら言った。

彩人はそんな渉を目の端で確認すると‥

「麻里、いい?」

彩人は麻里の横顔にこう囁きながら、
麻里をそっと地面に降ろした。
そして、彩人は何事もなかったかのように、
そのまま渉に続き、中に入ろうとした。
だが、掴んでいた麻里の腕を進行方向に
引こうとして気がついた。

麻里が彩人の胸から離れない‥

彩人は困った。
そして、その時初めて、
少し離れた場所に待機する使用人達に‥彩人は気づいた。

彩人は麻里を見下ろした。
彩人の目には、麻里の後頭部しか見えなかったが、
おそらく‥麻里ならとうに分かっていたはずだ。

「麻里、ごめん・・・。

 ・・・すまない。

 麻里、顔‥上げてくれないか」

「彩人‥逢いたかった‥

 すっごく逢いたかったの‥」

「俺も‥」

彩人は麻里の背中に手を回した。

「彩人、ごめんね。私‥」

「麻里‥麻里が謝ることなんかないよ。

 俺が‥俺が悪い。今日のことも」

「今日?」

麻里が顔を上げた。
そこには、優しく自分を見つめる彩人の瞳があった。

「ああ、ごめん‥

 あの‥あそこに並ぶ人達と

 何度か目が合っちゃったよ‥」

彩人はこう言うと、少し上を向いて微笑んだ。

「あ、ううん。いいの‥もう大丈夫。

 さっきは、ちょっと恥ずかしかったけど‥

 もう大丈夫よ。だって‥彩人がいるんだもん」

そして、ふたりは顔を寄せ合い‥微笑み合う。

「ふふ‥」



 
~~
☆麻里おじいちゃん、登場のはずが・・・
 では、読んでくださって感謝です。。
週末‥
彩人、周平、渉の3人は、
麻里の待つ宮原家に慌しく出かけていった。

麦子は彩人に、麻里に渡してもらおうと
手作りのクッキーを託した。

先日、麦子は麻里に「今回行けなくてごめんね」
と電話で謝った。
その際、麻里に何か欲しい物はないか、
それとなく聞いてみたが、
彩人達が来てくれるだけで‥
それだけで充分だと言われてしまった。
麦子は悩んだ挙げ句、皆で食べてもらおうと
クッキーを作ることにしたのだった。

3人のいなくなった屋敷は静寂に包まれていた。
麦子はひとり、
屋敷の中庭が一望できるベランダに立ち、
ぼんやりと前に広がる景色を眺めていた。

そんな麦子の様子を、柱の影から森川が見ている。


昨晩の夕食時、雄三郎は麦子に

「明日は由基の所に行かない方がいい」

と言い出した。
もちろん麦子は、「どうして?」と聞く。

「由基が屋敷に戻ることが拡まって、

 マスコミが大騒ぎしてるから、

 麦子はここで待っていた方がいい」

と、雄三郎は麦子に待機しているよう諭したのだ。


宮原邸に向かう3人を見送ってから、
森川は雄三郎に命じられて、
麦子の様子を監視している。
だがそれは、監視というよりも、

「お嬢様は寂しい思いをされてみえるに違いない」

と、麦子を思いやる‥見守る‥心情に近かった。

由基の家には、朝も早くから紫堂家の使用人が
多数手伝いに行っていて、お昼前には由基共々、
屋敷に到着する手はずとなっていた。

森川が麦子に声を掛けた。

「お嬢様、こちらにお出ででしたか。

 由基様は‥あと2時間もしたら、

 こちらにいらっしゃるかと存じます。

 まだ外はお寒うございます。(2月初旬です。。)

 中に入って温かいお飲み物でも‥

 お飲みになって、お待ちくださいませ」

「森川さん‥ありがとう・・・

 ここにいると‥何にもすることがなくって‥」

「お嬢様‥」

「お手伝いに行けないのなら‥

 部屋の掃除でもって‥

 でも、それもとっくに済んでて‥」

「お嬢様。それでは、大御所様とご一緒に

 お待ちになられてはいかがですか」

「おじいちゃん‥そうね‥そうするわ」

麦子は森川に笑顔を作ってこう言うと、
屋敷の中に戻っていった。

森川は泣きそうな顔をして後に続いた。


~~
由基はこの3日、マスコミの猛攻撃に遭っていた。

屋敷への引越しは内密に行うと、森川から打診され、
深夜にと‥当初は計画されていたが、日に日に‥
その必要もないくらいの騒ぎとなっていった。

今朝早く、由基の住む家の前に、
紫堂家からの車列が到着すると‥
いつの間にか人が集まり、
表に規制線が張られ、各局で生中継までされている。

そのため由基は、運搬は使用人達に任せ、
自分は部屋の中で、使用人に指示を出したり、
荷造りをしていた。

結局、忙しさの余り、昨晩まで何の準備も
できないでいたが、それを見越したかのように、
たくさんの使用人が充てがわれ、
朝早くからてきぱきと仕事をこなしていた。


昨晩のうちに、
麦子から「ごめんね」と電話をもらっていた。
沈んだ声だった。
だから由基は、
「明日は、屋敷で笑顔で迎えてくれよ」
と、努めて明るく口にした。
そうしたら麦子は、
「うん。待ってる」
と、少し明るい声になった‥

麦子は・・・


「由基様‥由基様。いかがなさいました」

由基は自分を呼ぶ使用人の声に我に返った。
由基は考え事をしていたようだ。

「いや、何でもない」

「そうでしたか。失礼いたしました。

 あの‥荷物は全て運び終わりました」

「あっそうか‥」

由基は改めて部屋の中を見渡した。

元々置いてあった家具以外、何もない部屋。

麦子がこの場にいたら‥何と言っただろう‥

由基でさえ‥
これまでの‥様々なことが想い出される‥

却って、麦子がこの場にいなくて
よかったのかも知れない‥

由基は下を向き、一瞬目を瞑ると‥
すぐに顔を上げた。

ここに戻ってくるにしても‥来ないにしても‥
それは‥その時になってみないと‥誰も分からない‥

「皆さん、お疲れ様でした。

 とても助かりました。大変感謝しています。

 ありがとうございました」

由基は何か‥吹っ切れた顔でこう告げた。




~~
☆では、私も‥読んでくださって感謝です。。
明くる日、麦子は午後から休みを取り、
雄三郎と一緒に屋敷に帰ってきた。

やはり雄三郎が戻ると屋敷が活気づいたようだ。

屋敷に着くや否や、いつも通り動こうとする
雄三郎を止め、夕食まで休むよう一通り世話を焼くと、
麦子は着替えるため自分の部屋に行った。

麦子は部屋に入り、バッグと着ていたジャケットを
部屋係に渡すと寝室に行った。
仰向けの状態でベッドに倒れ込むと、
すぐに目を閉じた。
麦子のその様子を見て、
部屋係は早々に部屋から出ていった。

麦子は、昨晩からずっと由基のことを考えていた‥


また由基と暮らせるのは嬉しい‥
だけど‥本当にそれだけなの‥

何かあるのでは‥と
つい思ってしまう自分がいる‥

改築が済んだら、由基はここを去るのだろうか‥

気がつけば、麦子の目から涙が溢れそうになっていた。

泣いてはいけないと思った‥
でも、今夜は由基に逢えないだろう‥
きっと明日も‥明後日も‥
だから‥泣きたいだけ泣いたとしても‥かまわない‥

どうして涙が出るの‥
由基に逢えないから‥

由基は何か隠してる‥

「心配ない‥」
由基はそう言って抱きしめてくれたけど‥

おじいちゃんが‥
そうなの‥

由基がおじいちゃんのいいなりに・・・


麦子は起き上がり、「そんなはずない」と
言わんばかりに、頭を左右に振った。

麦子は頭をすっきりさせようと、
シャワーを浴びるため浴室に向かった。


~~
今夜の紫堂家。

彩人が残業で遅くなるため、
雄三郎、麦子、周平、そして渉。4人での夕食となった。
雄三郎が席に着いた。

「ほんの数日じゃったが、やはり我が家はいいもんだな。

 可愛い麦子もおるし‥な」

「おじいちゃん‥」

それまで、気持ち俯き加減でいた麦子が顔を上げた。
雄三郎が麦子の赤く‥腫れた目を見て言った。

「麦子、どうした‥」

麦子が顔を伏せる。

「えっ麦子?具合悪いのか」

周平はこう言うと、テーブルに手をつき立ち上がった。
今すぐにでも、麦子の元にやって来そうな勢いだ。
麦子はその様子に驚き、急いで顔を上げた。

「違うの。何でもないのよ。

 さっき泣けるドラマ見ちゃって‥

 もう‥すっごく泣けちゃって‥

 だから‥できるだけ私の顔、見ないでよね」

麦子は周平と雄三郎の方を交互に見つつ、
できるだけ明るく言った。
周平が言った。

「なんだ。心配して損しちゃったな。

 麦子、そんなに‥泣けるのか。

 俺も見てみたいな‥試しに俺にも貸してくれよ」

「えっ!見るの?・・・凄い‥

 物凄いドロドロのメロドラマなのよ‥」

「周平、止めとけ。

 どうせ、おまえは寝ちまうよ」

空気を読める渉が口を挿む。

「そんなことないよ。渉はほんと酷いよなぁ‥

 あっじゃあ、渉も一緒に見て、

 俺が寝ないか確かめればいいじゃん。

 麦子、これ名案だよなー」

どこまでも能天気な周平に、渉が呆れる。
雄三郎が言った。

「ふたりとも、それくらいにしとけ。

 周平、課題はちゃんとやっておるのか」

「じいさん。そんな‥ちゃんとやってるよ。

 俺ばっかり‥渉には聞かないのか」

「おお、そうじゃ。渉は大丈夫だな」

渉が頷く。

「じいさん。なんで渉は大丈夫なんだよー」

周平がぼやいた。

雄三郎は周平を無視して続けた。

「そうか、それなら問題はないな。

 さっきな‥宮原に連絡しておいた。

 週末、おまえ達3人がゆくとな」

麦子と周平が同時に言った。
 
「3人?!」

渉は雄三郎を凝視した。

「そうじゃ。おまえ達ふたりと彩人じゃ」

「えっ麦子は?」

周平が言った。

「麦子は残る。それにわしは、何とゆうてもまだ

 病み上がりじゃからな。おまえ達3人で行って来い」

渉は、雄三郎の言葉に全てを悟り、既に諦めたように
下を向くと‥小さく溜め息をついた。
周平は言う。

「じいさん。じいさんは仕方ないとしても、

 何で麦子まで行かないんだよ。

 麦子、麻里に会いたいだろ?

 彩人の話じゃ、麻里は来週いっぱい向こうに

 いるって言うじゃないか」

麦子が呟くように言う。

「そうなんだけど‥」

「全く・・・周平。

 おまえは、由基が越してくること知らんのか」

「知ってるよ。兄貴が戻ってくるなんて‥

 ほんと嬉しいよ‥俺・・・」

「おまえは知ってて、わざとゆってるのか‥

 全く‥」

雄三郎も周平に呆れる。
渉が言った。

「じいさん。昨夜、その頃には‥

 周平はもう‥かなり飲んでたから

 記憶にないかも知れない」

雄三郎が深い溜め息をつきながら言った。

「はぁあ・・・

 周平、由基は週末に越してくるんじゃ。分かったか」

周平が言った。

「週末って、今週末?!マジで‥?

 あっ、だから麦子行かないのかー

 じゃあ、じいさん。俺も行かないよ」

「周平、おまえは‥全く・・・
 
 さっきもゆうたが、

 もう宮原には3人で行くと伝えておる。

 わしは常々、宮原にひとりぐらい

 寄越さんかとゆわれておった。

 わしんとこには4人も男がおるが、

 自分とこにはひとりもおらんとな。

 じゃから、今回3人行くと伝えたら

 大層喜んでな。それでだ。

 彩人は会社があるから仕方がないが、

 おまえ達は、来週いっぱい宮原の所で

 世話になってくるといい」

「じいさん!」

周平と渉、ふたりは同時に叫んだ。




~~
☆残念ながら?宮原家には3人で‥と相成りました。
 それでは、読んでくださって感謝です。。