彩人はいろんな意味で疲れを感じていた。
先ほどまで、今日一日の疲れを取るかのように、
ゆっくりと自室の湯船に浸かっていた。
彩人はバスローブを着て浴室から出ると、
寝室に行きベッドに腰掛けた。

はぁ‥

深い溜め息が出る。

長い一日だった‥

はぁ‥

俺は何しに来たんだ‥?
明日にはもう帰るというのに‥

彩人はさっきから、今日一日を想い返していた。
首を左右交互に二度回してみる。
右に回した時だけ、ぼきっと音がした。
彩人は立ち上がるとベッドサイドの灯りをつけ、
携帯を手にした。

「なんだどうした?何かあったのか」

「ああ、ごめん。寝てたか?」

彩人はベッドサイドの時計を見た。23時40分。

「いや、寝ようとしたけど‥眠れないみたいだ」

由基はこう言うと自嘲するように笑った。

「前と同じ部屋じゃないのか?」

「ああ、同じだよ。理由は‥言わなくても分かるだろう」

「ふっ‥お互い大変だな‥」

「彩人‥麻里の爺さんはそんなに強敵なのか」

「まあ‥そうなんだろうな」

「まるで他人事みたいだな」

「うーん。そういう意味じゃないんだ。

 今のところ会長と話せてないんだよ。

 とりあえず一旦、明日帰るだろう。

 だから、それまでに少しでもって思ってたんだけど‥

 明日は一日中、道場だって秘書に言われて‥

 でも、汗臭いの俺には似合わないだろ?

 でもさ、どうも渉がはまったらしくて‥

 夕食一緒だったんだけど、会長と盛り上がってて

 話についてけないっていうか、

 まぁ‥終始そんな感じだったんだよ」

「渉が?そういえば宮原会長は‥凄いって。

 よくじいさんが言ってたよな。

 あっ、周平は?」

「周平はバテてるよ。

 だから明日、俺と帰りたいって泣きついてきたよ。

 ああ、でも心配するな。

 ちゃんと師範が就いてるらしいから、 

 無理はさせないだろうって」

「そうか。でも、どうしてそんなことになったんだ。

 周平も渉も護身術は身につけてるけど‥

 興味なんてあったかな」

「ああ、それが‥周平が言ったみたいなんだ」

「周平が?そんな話‥あっ、まさか・・・」

「なんだよ。まさかって」

「いや、違う。違うと思う‥    (由基‥分かるわ)

 何でもない。彩人、すまないが‥

 もし周平がダメそうなら、

 明日、連れ帰って来てくれないか」 

「ああ、かまわないよ。俺もそう思ってたから。

 渉も、明日には音を上げるかも知れないし」

「そうか。よろしく頼むよ。

 彩人‥何か、話があったんじゃないのか」

「えっ、ああ。まぁ‥あるような、ないような‥」

「そうか」

「由基、もう寝るか。明日は麦子と出掛けるんだろ」

「いや、社長と会うことになった」

「仕事?いや、いい。何も今は聞かないよ」

「悪いな。それにしても、宮原会長は

 どうして彩人を避けるんだ」

「‥その代わりか知らないが、滝沢さんを寄越したよ。

 会長秘書の、俺の先輩」

「ああ‥会わせないかと思ってた。

 その人と話したのか」

「ああ、結構話した。それに相変わらずできる人だ。

 昼間、頼んだこと‥夕食後に持ってきた。

 ここにいる間、俺の世話滝沢さんがするらしい」

「そうか。それで‥彩人は納得したのか‥できたのか」

「ふっ、納得か‥それはできないかな」

「そうか」

「ああ」

「はぁ‥」

「由基、楽しめよ。俺は楽しむつもりだ」

「彩人‥そうか」

「そうだ。明日は、麻里がいろいろと

 案内してくれるらしい」

「そうか」

「ふっ、由基。おまえ、もう休め」

「‥そうだな。そうするよ」




~~
☆?ですか‥ですよね。ではひとつ。
 「まさか=ゲーム」です。
 由基が周平の部屋に行った時やってたんです。。
 
今夜の紫堂家。
雄三郎と麦子。そして由基、3人での夕食。

雄三郎がいるからなのか、由基の様子は
以前とほぼ変わらず‥時折相槌を打つ程度だったが、
麦子は3人での食事を楽しんでいた。
嬉しそうにふたりに話しかける麦子を、
由基は微笑みながら見ていた。
雄三郎もそんな麦子の様子に、終始上機嫌だった。
食事が済むと雄三郎は「疲れたから、もう休む」と、
森川と共に自分の部屋に戻っていった。
残された麦子と由基も、
自分達の部屋に戻ることにした。

「由基、明日なんだけど、どうする?」

「麦子、ごめん。夕食前に社長から連絡があって、

 明日ちょっと出ることになったんだ。

 ごめんな‥終わったら電話するから」

「そうなんだ‥しょんぼり・・・」

麦子が下を向く。

「麦子‥そういえば週末、どっか行こうとか

 言ってたんだよな。ほんとごめん。

 明日は無理かも知れないけど‥ 

 麦子の希望、何でも叶えるから‥顔上げて」

由基が麦子の腕を掴む。
麦子が顔を上げた。

「ほんと!由基。何でもいいの?」

麦子がとびっきりの笑顔を見せる。

「麦子」

「えへっ」

麦子が可愛く舌を出す。

「おまえ‥」

「だって‥ごめん、由基。由基大変なの‥分かってるのに。

 ちょっと拗ねてみたかったの。ごめんね。

 えへへ‥うーん。どっか行くの‥

 由基とふたりならどこでも嬉しいの。

 だから、出かけなくてもこうやって、  

 廊下で立ち話するってだけでも嬉しいの。

 麻里の家に彩人達と、一緒に行こうかなって

 思ったりもしたけど、引っ越しがなかったら‥

 由基と私のお家行ってだらだらしてた気がするし」

「麦子、今から行こうか」

「えっ」

「ドライブだよ」

由基が麦子の手を引いて歩き出す。

「由基、由基」

由基が立ち止まって麦子の顔を見る。

「見たいだろ?部屋に入るのは無理かも知れないけど。

 麦子の想い出があの辺りにはたくさんあるだろ?

 散歩もしよう‥な」

「うん」




~~
☆今回短めですが、次回は長編の予定?です。
 では、読んでくださって感謝です。。
こんこん‥

カチャ

彩人が扉を開けた。
麻里は気持ち(?)前屈みで、
「しぃー」と自身の口元に人差し指をつけている。
そんな麻里の様子に、彩人が何事かと動きを止めた。
麻里は辺りを見回し誰もいないことを確認すると、

「彩人、彩人。どうしたの?中に入れてよ」

麻里は気持ち前屈みの姿勢のまま、
顔を少しだけ上げて彩人を見た。

「ああ」

彩人は扉を引き、少し横にずれると麻里を中に入れた。
彩人は扉に身体をぺたり寄せると、顔だけ外に出し、
周りを見回した。
人影はない。
彩人は後ろを振り返り、麻里の顔を見た。
麻里が首を振っている。
彩人は扉を閉めた。

「麻里、何だったの?誰かいたの?」

彩人は再び振り返ると麻里に聞いた。

「えっ、あ‥ううん。誰もいないわ。

 いなかったでしょ?」

「ああ、いなかったと思うよ」

彩人はまだ聞きたそうだ。

「あの‥あのね。ちょっと‥」

麻里は何とかこの場をごまかさないと‥と、
必死に言葉を選んでいた。
彩人が言った。

「もしかして、さっきの何か言われた?

 冷やかされた‥とか」

「えっ、何のこと?」

麻里は何のことか‥すぐには思い浮かばなかった。
それよりも、彩人の部屋に入るなと言われたことを
何とか隠したかった。
このことを知ったら、彩人はきっと・・・
麻里のことを気遣ってしまうだろう。
だから麻里は、彩人の気まずさに気づかなかった。

「だから‥さっき入り口で見られてたから‥

 その‥何か言われたのかと思ったんだ」

麻里は思い出した。
そうだった‥すっかり忘れていた。
麻里は今になって、自身の顔が熱くなるのが分かる。
麻里は両頬を押さえて、慌てて下を向いた。

「やっぱり‥言われたのか。すまない」

「えっ、あ‥ちっ・・・」

麻里は、彩人の勘違いを否定しようと‥
して、咄嗟に躊躇してしまった。


ごめんなさい・・・
本当にごめんなさい・・・

麻里は心の中で何度も謝り続ける。


その時、麻里の両肩に彩人の手が触れた。
そして、その長い指で掴まれた‥いつもの感覚に、
麻里の肩はびくっと動いた‥

どうしよう‥

さっきから麻里は、ずっと焦っている。
気づくと、俯いている麻里の目の高さに
彩人の顔があった。   (かなり無理な体勢?)
麻里は迷った挙げ句、一歩後退った。
そんな麻里の様子に、
彩人は麻里の肩を掴んだまま姿勢を正す。

麻里は内心、後ろめたい思いをし続けてる最中だった。
だから、彩人に抱きつきたい衝動を必死に抑えて、
こう言った。

「あっ、そうだ。さっき電話で、

 渡したいものがあるって言ってなかった?」

「あっ、ああ」

彩人は麻里の肩を掴んだまま答えた。
麻里は顔を上げないので、
彩人が見ているのは麻里の後頭部。
彩人がそっと手を離した。
そして、彩人の両手は腕組みされる。
麻里は恐る恐る顔を上げ、彩人を見上げた。

「渡したいものって何?」

「ああ、こっちだ」

彩人がリビングに歩いて行く。
麻里も後を着いて行った。

「えっ、プレゼント?」

奥のテーブルに置いてあった袋には、
リボンがされていた。

「うん。これ、麦子からなんだ。

 手作りだって」

「もう‥麦子ったら。

 そんな‥気を遣わなくていいって言ったのに。

 でも、嬉しいわ」

彩人が椅子に座るよう麻里に促す。
テーブルの脇には、滝沢が用意してくれた紅茶があった。

「さっき麻里が電話くれた時、滝沢さんがいたんだ」

「えっ、ここに?」

「ああ」

「だって‥随分、時間経ってるわよね?」

麻里は怪しむように、
カップに紅茶を注いでいる彩人に言った。
彩人が皿を麻里に渡した。

「ここにクッキー入れて」

「うん。じゃあ、開けるね」

麻里がリボンを解く。そして、袋を開けた。

「すっごーい!すっごく可愛い‥」

麻里は袋の中から、一枚一枚取り出しては眺めていた。

「麦子にお礼言わなきゃ。すっごく可愛いって。

 食べるのが勿体ないくらいって」

「あっ、麻里。麦子は今頃‥

 由基と部屋の片づけでもしてるんじゃないか」

「そっか。そうよね。おじゃまよね」

麻里は再びクッキーを手にする。

彩人はそっち?と内心思っていた。
だが、「可愛い可愛い」と嬉しそうにクッキーを見る
麻里の様子にさすが女の子だな‥と、
彩人もいつの間にか微笑んでいた。

「はい」

彩人は、麻里と自分の分の紅茶をテーブルに置き、
麻里の隣りに腰掛けた。

「ありがとう」

「たくさんあるだろう。渉や周平にやってもいいかな」

彩人と麻里は、クッキーを一枚ずつ口にした。

「ええ、もちろん。あっ、美味しい!

 とってもしっとりしてるわね。

 お祖父様もきっと喜ぶわ」

「えっ!会長、甘いの大丈夫なんだ」

「うん。物凄く好きって訳じゃないけど、

 食後にフルーツとかいつも食べてるわ」

「そうなんだ。滝沢さんは苦手らしいよ」

「滝沢?滝沢に聞いたの?」

「えっ、ああ‥麦子のクッキーたくさんあるから、

 どうかなと思って」

「彩人‥随分と滝沢と気が合うみたいね?

 他には‥何を話したの?」

「他?‥何を話したって・・・

 うーん。滝沢さんはいい人だと思ったよ。

 仕事のできる人のような気もするし。

 会長も頼りにしてるんじゃないか」

「お祖父様?ああ‥そうだと思うわ。

 滝沢‥お祖父様の秘書の中でも、

 確かまだ‥一番若手だけど」

「若手?若いの?」

「えっ、そうよ。確か30くらいだったと思うけど」

「そうなんだ‥30。30歳なんだ」

「たぶんそうだと思うわよ。本人に聞いてみる?」

「いや、いいよ。なんかいつも落ち着いてるから、

 もっと‥年上かと」

「いつも?」

「いや‥1時間くらいは話しただろ。

 だから、その間終始変わらないっていうか‥

 冷静って気がしたんだ。

 でも、それが気にならないっていうか‥

 この人の持ち味って感じ?

 そんな気がしたんだ」

「そう‥随分、滝沢のこと気に入ったのね」

「麻里は滝沢さんのこと、嫌なの?」

「えっ、そうじゃないけど‥

 そんなこと‥考えたこともなかったわ。

 彩人が‥ううん。ほんとクッキー美味しいわね」

「ああ、そうだな」

麻里は、麦子のクッキーを美味しそうに食べ続ける。
彩人はそんな麻里を、紅茶を飲みながら見ていた。

麻里の気持ちにも気づかずに。




~~
☆やけ食い?嫉妬?麻里ファイト!?
 では、読んでくださって感謝です。。