No.023:
The Who
『Who's Next』
Who's Next/The Who/Full Album
「オレたちゃ別に仲良しじゃねえし、お前らには腹が立ってばかりだ」
「だが…」
(井上雄彦『SLAM DUNK』)
ザ・フーは、僕が初めて好きになった「洋楽のバンド」だ。
米英のロックに目覚めるきっかけが衛星放送の番組で見た『ユー・ベター・ユー・ベット』のPVで、初めて買ったCDが『ライブ・アット・リーズ』。現在に至る僕の遍歴は、ザ・フーと共に始まったのだと言っても良いだろう。
では、ザ・フーと共に終わるのか? と言われれば、しかしこれが難しい話になる。
そもそも僕は、心の底から、何の留保もなく、ザ・フーを好きだと思えた瞬間があっただろうか?
The Who - Baba O'riley
例えば『ババ・オライリィ』と言う曲はイントロ最初の1音から最後まで隙のない傑作だと思う。
随所に心が沸き立つ部分がある。
ただ、その評価には常に一片の理性的な部分が残っているように自分で思えてならないのだ。そしてそれは、『ババ・オライリィ』に限った話ではない。
世界一のライヴ・バンドでありながら、ロックオペラやテクノ的サウンド等の革新性を備え、ギターのサウンドは爆音でありつつも、繊細なコードを鳴らす。
ロジャー・ダルトリーとピート・タウンゼントが分け合うヴォーカルのその歌声のような、二面性というか双極性が、ザ・フーにはある。
直截的に肉体感覚に訴える部分と、知性の奥深くに響く部分を、両方兼ね備えている。というより、その二つの極の最大限近くにまでメーターが振れていると言っていいかもしれない。
そしてそうであるが故に、そのどちらにも寄り切れないという言い方も出来る。
The Who - The Song Is Over
ただ、『フーズ・ネクスト』と言うアルバムの清新さというか抜けの良さは確かに鮮烈だと思う。
明らかにアメリカナイズされた曲調、シンセサイザーやピアノ等のキーボードがフィーチャーされたサウンド面も然ることながら、結局の所このアルバムが「完成しなかったコンセプト・アルバムの残骸」であることが大きく作用していると思う。
『トミー』や『四重人格』をすら上回る壮大なコンセプトはしかし崩壊し、緩やかに統一感のあるメッセージを持つ幾つかの曲と、それ以外の何曲かでこのアルバムは構成されているわけだが、それによって全体として知に勝ちすぎることなく、強靭なバンドサウンドとバランスを取れている。
Wont Get Fooled Again
ピート・タウンゼントは自らの曲をかなり完成度の高いデモに仕上げて、それをメンバーに憶えさせてレコーディングしたそうである。メンバーのせいで自分の思ったような出来に仕上がらなかった、という発言を確かどこかで見たように思う。
確かに、ヴォーカルは繊細さに欠けるし、ベースは主張が激しすぎるし、ドラムに至ってはハチャメチャだ。
その統一感の無い面々が奇跡的に拮抗した、思惑通りに行かなかった結果が、ロック史に確かに刻まれたというわけだ。
「このチームは最高だ」と、ピート・タウンゼントが思ったことがあるかどうかは、知らないが。