10月下旬、深夜の碓氷で、ぼくは叫んでいた。
碓氷峠への登りに差し掛かったのは日付が変わろうかという頃。
10月下旬とはいえ、山の麓ともなれば気温は都市部よりもかなり低くなる。
そんな中わざわざ100㎞余りを8インチタイヤシングルギヤのおよそロングライド向けとはお世辞にも言えないような自転車で走ってきてなお、これから標高1000m付近まで駆け上がろうというのだから正気を失いそうにもなる。
当初の予定では碓氷峠は旧道を登るつもりでいたが、土壇場で碓氷バイパスへとルートを切り替えた。
理由は、ヤンチャなクルマが怖かったから。
ちなみに、ただこれだけの理由でルートを変更したことを後に悔やむことになるのだが、それについてはまたのちほど。
ともかく、キャリーミーで登る峠は長い。とにかく長い。
そもそも8インチという極小径タイヤではジャイロ効果なんてものはまるで期待できないので振った車体は体幹で強引に振り戻さなければいけないし、少し気を抜こうものならすぐに前輪がテイクオフする。
ロードバイクのように緩急付けた走りができないどころか、ダンシングするのに異常なまでに体力を消耗するのだ。
シッティングとダンシングを繰り返し、時折路肩に足を付き脚の筋を伸ばしながらじわりじわりと登る。
幸いにも深夜帯ということもあって交通量はあまりないし、後続車が来れば音やライトですぐに把握できるから路肩への避難も容易ではある。
だが、それでも肉体へのダメージとともに精神的な疲労は走行距離・標高とともに積み上げられる。
呼吸は乱れ、額から汗が滴る。気温は5℃だ。カーブを曲がると突風に煽られる。
なぜぼくはこんな過酷なライドをしてるんだ。帰りたい。帰ってお布団でぬくぬく眠りたい。
この時点で初めて、DNFという選択肢が脳裏によぎった。
だが、時刻は0時をまわり、今いるのは山の中。エスケープの手段はない。
行けるところまで行ってみたい。
でももう嫌だ帰りたい。
チャレンジの続行と放棄との狭間で揺れながらもひたすらペダルを踏む。
ここさえ越えれば、碓氷峠さえ越えれば先は見えるはずだという根拠のない希望だけが心の支えだった。
ただひたすら己との闘いを続け、丑三つ時。
碓氷峠、攻略完了。
達成感に浸る余裕すらなかった。
この時点で、進捗は想定よりもかなり遅れていた。
このままでは24時間以内での300㎞走破が危うい。
ただ、この疲労度からここから先ペースを上げるのは難しい。膝の状態も悪化する一方だ。
ここで、目標を「300㎞24時間以内の走破」から「300㎞完走」へと切り替えた。
完走目標に切り替えはしたが、できることならば24時間切りを達成したい。
そこには深夜の碓氷峠をキャリーミーDHバーポジションで下るバカがいた。
DHバーポジション、いわゆるエアロポジションとはいえ、キャリーミーではどれだけ速度がのってもせいぜい40kph前後しか出ないし、上体を起こそうものなら空気抵抗で一気に失速する。
幸いにも路面の状態はそれほど悪くはないし、きついカーブもないので安心して下れる。
このまま軽井沢まで一気に下ってしまおう。
碓氷峠を攻略し、快適な下りで少し気が緩んだ瞬間だった。
道路の真ん中に転がる肉塊。
キャリーミーの操舵は、ロードバイクよりも遥かにピーキーだ。
パニックブレーキや急にハンドルを切ったりしようものなら落車は必至。
咄嗟に回避しようと踏ん張ったが、遅かった。
グニャッ…
「あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
深夜の碓氷バイパスに叫び声が響いた。
>>>~走行編③~へ続く



















































