しばりやトーマスの斜陽産業・続 -72ページ目

コメディは行きつくと笑えないレベルに達する『ドント・ルック・アップ』

 

 ネットフリックスで配信中、『俺たちニュースキャスター』などのコメディで知られるアダム・マッケイ監督の最新作『ドント・ルック・アップ』は賞レースを席捲すると言われている話題作。

 ミシガン大学の天文学生、ケイト・ディビアスキー(ジェニファー・ローレンス)は日本のすばる望遠鏡で彗星を発見する。彼女の教授であるランドール・ミンディ博士(レオナルド・ディカプリオ)はディビアスキー彗星と名付けられたそれが地球に衝突するコースで接近し、惑星全土を破壊すると計算する。二人はNASAの惑星防衛調整室長テディ・オグルソープ博士(ロブ・モーガン)を通じてホワイトハウスに事の重大さを伝えるのだが一日も待たされた挙句、ジェニー・オルレアン大統領(メリル・ストリープ)は最高裁判事に任命する予定の人物(ちなみに大統領の愛人)がかつてポルノビデオに出演していたというスキャンダルの対応に手間取られ、3週間後の中間選挙で頭がいっぱいなので、ミンディ博士らの訴えは軽く流されてしまう。側近の首席補佐官ジェイソン(ジョナ・ヒル)はオルレアンの息子というだけでその地位にいる、バカのボンボン。そんな人間を周囲に侍らせて、執務を私物化している大統領は完全にトランプのパロディである。

 

 天文学の専門知識がありながら、オタク口調で口下手なミンディは衝突の確立を99.78パーセントと正確に伝えようとするのだが、大統領は「70%程度で進めてくれる?100%なんていったらみんな驚くでしょ」なんて言い出す。

 呆れ果てた二人は事態の深刻さを悟ったオグルソープの勧めでテレビ番組に出演して視聴者に危機感を訴えようとする。しかし

「深刻な問題を笑い流して話すのがこの番組の売りなんだ」

 というキャスターは二人の話を真面目に聞かないので頭に血が上ったディビアスキーは

 「地球が大変なことになってるっていうのに、笑ってる場合なの!みんな死ぬのよ!」

 生放送で激昂してスタジオを飛び出す。彼女のふるまいはネット上で「ヒステリーがなんか言ってる」とからかわれ、画像をいじられ、発言はミーム化されてばら撒かれる。誰も真面目に聞いてくれないので冷静さを失う様子はグレタ・トゥーンベリの発言をトランプがからかって「まあ落ち着け」と言っているのと似ている。

 

 大統領の資金提供源であるNASAまでもが彗星の衝突はないと否定し、ミンディらは脱力するが、中間選挙で負けそうだという予測が伝えられた大統領は支持率アップのために彗星を利用する。IT企業家のピーター・イッシャーウェル(マーク・ライランス)が大口スポンサーとなって彗星に爆弾を設置するためのスペースシャトル(『アルマゲドン』みたいな)が飛び立つ計画が実施。発射は成功したが大気圏を突き抜ける直前にUターン(この場面、爆笑)。調査で彗星にはレアアースが大量に含まれていることがわかり、破壊するのではなく細かく断片にする作戦に方針転換。「こいつが手に入れば中国にデカい面はさせないぞ!」とイッシャーウェルは息巻く。こいつのモデルは、どう見てもイーロン・マスク。

 彗星の商業的可能性(といえば聞こえはいいが、要するに金持ちがより金持ちになろうっていうだけの話)を訴える大統領側と「スマホのために人類を危険にさらすなんて」と危険を訴えるディビアスキー、オグルソープらはプロジェクトの脇に追いやられる。ミンディはテレビキャスターと不倫関係に陥り、大統領側に取り込まれてしまう。この対立は大統領選挙におけるアメリカの「分断」の再現だ。

 

 妻に愛想を尽かされたミンディはここにきて大統領派を金のことだけ考え、終末から目をそらしているとテレビで発言し、つまはじきにされる。肉眼でも彗星が捉えられるようになるとミンディとディビアスキーは和解し、「ただ顔を上げよう(Just Look Up)」という独自の彗星迎撃作戦を訴えるが大統領派は「危険なんかない!空を見上げるな!(Don't Look Up)」というキャンペーンを打つのだった。

 

 

 地球の危機を前に、人類が分断するというディザスター・コメディ映画だが、アダム・マッケイ監督の演出はコメディがきつすぎてもはや笑えないレベルに達しているよくできた空想は現実と見分けがつかない!新型コロナウイルスの問題についても事態を危険視する人と「コロナなんかない。インフルエンザよりも怖くない」と主張する人が対立している様を見せ続けられた僕等はこの映画を気軽に笑い飛ばせない。マッケイはHBOで配信された、Qアノンの正体に迫るドキュメント『Qアノンの真実』を制作していたがその作品での経験が本作に影響している。危機を前に陰謀論を広めたり自分だけが儲かろうとする輩は確実にいるのだから。

 そしてこの作品出演俳優陣がやたらと豪華。ディカプリオ、ローレンス、ストリープってだけでも凄いがケイト・ブランシェット、タイラー・ぺリー、ティモシー・シャラメ、ロン・パールマン…

 さらに人気シンガーのアリアナ・グランデが出ているんだけど、「ラッパーの恋人と別れた」役。ってそれ本人の事じゃねえか!グランデはラッパーの恋人をとっかえひっかえしてその旅にゴシップのネタにされてたんだけどよくこんな役を演じるよね。映画では彼氏役のキッド・カディとテレビの生放送で仲直りしてJust Look Upキャンペーンに賛同。残された人類のためにシェリル・ノームみたいな歌姫としてステージに立つ。これって日本に例えるとLiSAが鈴木達央の不倫にブチ切れるんだけど地球の危機を前に和解して、ステージで『炎』を歌うようなものかな?アメリカの懐はデカいねえ。日本も見習ってほしい。

 

 

 

 

 

前代未聞の鹿児島アイドルフェスは開催不可能か

 地方で行われる予定だったアイドルフェスの開催が危ぶまれている。

 2月11~13日の連休に鹿児島で開催が予定されていたアイドルフェス『SANUNITフェスinかごしま~ここに我らが集結!鹿児島から日本を救う~』はSKE48、STU48をはじめ、SUPER☆GIRLS、ZOC、つばきファクトリー、ナナランド、26時のマスカレイド、マジカル☆パンチライン、LinQ、わーすた、ラストアイドルといった面子が勢ぞろい。しかもチケット料金は前売り2500円、当日3000円。通し券はないが三日全部いっても7500円、しかも18歳未満の当日チケットは500円という破格の設定。

 鹿児島でこの規模のアイドルフェスはほとんど行われたことがなく、開催されれば話題になったであろう。が、21日にブッキングを担当していた 一般社団法人芸能研究生からの発表で28組の出演グループが出演できないと発表された。さらに同社によるとイベント会場の鹿児島ウォーターフロントパークの利用許可をSANUNITフェスの主催者が得ておらず、1月19日に利用許可を取り下げていた

 

 

> 本日、会場を管理しております「鹿児島地域振興局建設部」に現状を確認しましたところ、イベント会場であった鹿児島ウォーターフロントパークの利用許可を、2022年1月19日まで得られないまま、2022年1月19日に主催自ら、利用申請を取り下げられておりました。
本件について、主催は利用許可を得ることなく、本日までチケット販売を継続しておりますが、このような点についても主催から事前の相談や連絡はございませんでした。 

 

 利用許可を得てないのにチケットだけは売り続けていた!なにやってんの?そりゃ出演アイドルも出演見送るわな。

 

 この発表を受け、SANUNITフェスの公式Twitterアカウントは翌22日にコメントを発表する。

 

 

> 主催者として、皆様に先日の一般社団法人芸能研究生(東京Flavor)についての件は24日夕方に発表します。また、私は一般社団法人芸能研究生につきましては、ブッキングを頼んだことは事実ですが、令和3年12月28日に信頼がもてないために解除しました。 

 

 と、ここにきてブッキングを担当して相手に対して誹謗中傷するようなコメント。この公式のメッセージを鵜呑みにすれば去年末の時点で契約を解除していながら年明け1月になっても出演者の紹介などを公式アカウントでしており、矛盾している。

 24日、SANUNIT公式から会場の変更が発表。その理由は「新型コロナウイルスの影響も考え、縮小しての開催にさせていただく」というもの。え?会場の利用許可が得られなかったからじゃないの?

 

 

 そして一般社団法人芸能研究生の契約についての何が言いたいのかよくわからない文章が載っていたが何が何だかよくわからないので割愛する。
 この新型コロナウイルスの影響による変更、という理由はオミクロン株の流行によって感染者数が拡大している現状では理解できなくもないが、それならフェス事態延期か、中止にすればいいと思うし、出演予定だった神宿のTwitterアカウントでは以下のような報告がある。

 

 

 >主催者様から「新型コロナウイルスの影響により、今回の公演は県の判断で九州県内のアイドル限定としての開催に変更させていただきます」とご連絡を受けました

 

 でも地元九州のLinQも出演取りやめしてるんだよな~

 

 連休中に行われる大規模のフェスとあって、県外からも来場する予定のドルオタが新幹線や宿泊するホテルの予約を押さえており、みんな怒り心頭。

 ここまで混乱しているのは主催者の下山直哉がとにかくいいかげんで、ネット上では真偽不明だがやるやる詐欺の常習犯とされており、彼がまともに企画を仕切れていないのは24日になって変更された会場の使用許可書に「SUNUNITフェスinかごしま」と誤記されているあたり。使用許可申請書には「県政記念公園」とあるが、利用案内には「野外コンサート禁止」とあるんだけど…

 前代未聞のgdgd案件で、夢に終わった史上最高のフェス、ファイヤ・フェスティバルを彷彿とさせる。これに比べたらNARA MINARA IDOL FESやガールズポップフェスティバル in 淡路島はまだマトモだったんだなあ…

アノニマスポストにもバカにされる前田有一

 キュレーションサイトのアノニマスポストが日刊ゲンダイの前田有一の記事を嘲笑っていた。

 

 

 日刊ゲンダイに載った前田の記事はネットフリックスで配信され世界中で大ヒットを飛ばしている韓国の『イカゲーム』に端を発するヒット作を作り続ける韓国映画の現状を取り上げたものだが、

 

.>映画にしろ配信にしろ、日本人として悔しいのは、話題の中心となるのが最近は韓国作品ばかりという点だ。「パラサイト 半地下の家族」がカンヌ映画祭と米アカデミー賞で最高賞を受賞して以来、世界のエンタメ界における存在感において彼我の差は広がるばかり。

 

 と、いちいち韓国映画と日本映画を比較して日本映画の現状を嘆いてみせる、前田のいつもの話術がお気に召さないアノニマスポストが前田を小馬鹿にしたという構図だ。

 前田はこの手の無理やりな比較が大好きで、Aという作品を褒める時に「Aはいいのに、それに比べてBはくだらないねえ」といったことをよくいう。特によくあるのが他のサイトやブログはネタ晴らしするが、私のサイトはしない!という自画自賛で、今やってるスパイダーマンの映画について

 

>ちなみにこの映画は、皆さんがこの記事を読んでいる21日の午後7時が情報解禁日になっている。アメリカで公開済みであることもあり、おそらくネット上では本日からネタバレ情報があふれまくるに決まっている。

アクセスを稼ぎたいニュースサイトや映画サイトそして無遠慮なSNSアカウントが、本作を楽しむために「知っておいてはいけない」重要な要素を全部書いてしまうことは私の経験上、間違いない。

だから楽しみにしている人は今すぐ「スパイダーマン」をNGワードに指定し、目の前から一時的に消し去ることが肝要だ。

 

 なんて「お前は誰と戦っているんだ」的なことを書いていた。前田の言いたいことはネタバレに気をつけろ、ではなく「ネタバレしていない俺こそが最強」と言いたいだけ。比較する必要もないことを比較し続け、要するに俺様スゴイと言いたいだけ。前田の駄文に対するネットの反応「勝ち負けとかどうでもいいんで」はまったくその通り。日刊ゲンダイの記事だって「日本人として悔しい」なんて一文、要らないんだよ。ただ『イカゲーム』関連の戦略についてだけ語っていればいいのに。

 

 ただアノニマスポストにもツッコミを入れておくと記事内にアカデミー賞における日韓ノミネート、受賞作の比率について

 

アカデミー賞ノミネート
日本 81-7 韓国

アカデミー賞受賞
日本 37-5 韓国

 

 という比較をしていて「韓国よりも優れているのは日本」てなことを言いたかったんだろうけど、あくまで「過去」のことであって今後は逆転する可能性があるからそんなところを突っ込んでもしょうがないと思うけどね。

 

 

 

 

なんちゅうもんを書いてくれはるんや…『すみっコぐらし 青い月夜のまほうのコ』

 たれぱんだやリラックマなどのキャラクターで知られるサンエックスのキャラクター商品「すみっコぐらし」のアニメーション映画第2弾。第1弾『映画すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』は2019年11月に公開され、公開前はまったく注目されていなかったが興収ランキングで『IT THE END』『ジョーカー』を押しのけ、『ターミネーター ニュー・フェイト』に迫るほどのヒットを飛ばし最終的に約15億円の成績を出していた。

 稼げる作品として認知された第2弾は制作陣が一新。前作の監督はまんきゅうという『弱酸性ミリオンアーサー』などで知られるショートアニメの鬼才が監督だったが(まんきゅう監督にあんなハートウォーミングな演出ができるのかと驚いたけど)、今回は『夏目友人帳』シリーズの大森貴弘監督、脚本は吉田玲子という一流どころが起用。主題歌は前作なぜか原田知世だったのに、今回はBUMP OF CHICKEN。ヒットするといろんな人たちが集まってくるんですねえ!

 

 すみっコぐらしのキャラクターは単にかわいいというだけでなく、設定がやたらとネガティブである。主要キャラクターのひとり、しろくまは寒がりで北にいられなくなって、温かい南の方にやってきた。ぺんぎん?(名前に?がついている)は自分がぺんぎんであるかどうかの自信がなく、自分探しの旅を続けている。とんかつは定食に出されるとんかつの一番端の部分、肉が一番少ないところで食べ残されてしまったため、自分を惜しく食べてくれる人を捜し求める(同様のキャラに「えびふらいのしっぽ」がいる)。とかげは本当は恐竜の生き残りだがそれがバレると捕まってしまうためにすみっコたちにも正体を隠している。夢は生き別れの母親、スミッシーに会うこと。

 そんな彼らは常に部屋のすみっこで重なりあうように身を寄せ合う。このすみっこでじっとしているというキャラクターは考案したデザイナーが目立たない部屋の隅にいるのを好んで、日本人は明るく目立つよりも隅っこにいるのが好きなはずという意見からつくられたという。子供はシンプルでかわいいデザインに引き寄せられ、大人はキャラクターに秘められたネガティブ性に共感するということで人気なのだ。

 

 夜空に浮かぶ魔法の国にくらす魔法使いたちは5年に一度、大満月の夜に光の船を浮かべてすみっコたちの世界にやってくる。その頃すみっコたちはすみっ湖でキャンプをしようと計画を立てていた。すみっ湖では謎の恐竜スミッシーが現れる話題で持ち切り。スミッシーはとかげの母親ですみっコたちは一度だけ会ったことがあり、再会に胸をときめかせるもスミッシーが自分の母親と言い出せないとかげは複雑な思い。

 ぺんぎん?の持ってきた世界7大不思議という本から5年に一度の大満月の夜に魔法使いがやってきて願い事を叶えてくれるという一文を見つけたすみっコたちは今夜が大満月の夜だと知り、丘の上で魔法使いを待ち続けると月の光の中から魔法使いたちを乗せた光の船が現れる。森でパーティをしている魔法使いたちに誘われてすみっコたちも参加。楽しい時間を過ごすが朝が近づいてきたため魔法使いたちは夜空へ帰っていく。しかし末っ子のふぁいぶとすみっコの水色たぴおかを勘違いして連れて行ってしまい、ふぁいぶは取り残されてしまう。

 帰るところもないふぁいぶを不憫に思ったとかげは自分のうちに案内することに。翌日からふぁいぶはすみっコたちの仲間に。ふぁいぶは魔法使いだから夢をかなえてくれるはずというすみっコたち。だけどふぁいぶまだ未熟とはいえ魔法でなんでもできてしまうので、夢がなにかわからない。とかげから 「夢は、こうなったらいいなあっていう、願い事だよ」 と教えられたふぁいぶは、すみっコたちの願い事を叶えようとするがまだそんなに力がないのでうまくいかない。ガッカリして帰っていくすみっコたちを見たふぁいぶは真夜中にこっそり家を抜け出し、しろくまたちにある魔法をかける。

 翌日、しろくまは「暑い暑い」と扇風機を出してうちわで一日中仰ぐように。ぺんぎん?は自信満々になって鏡で自分のずっと眺めるようになり、スリムになりたかったねこはどーでもいいやとドカ食いを始める。

 様変わりした彼らにとかげは唖然とし、ふぁいぶは自分の魔法のせいでこうなったのだという。ふぁいぶはかけたのは「消失の魔法」で、夢がかなわずにガッカリするすみっコを見たふぁいぶは「そんなに悲しいのなら、夢を消してしまおう」としたのだった…

  しかし夢が消えたことで自分らしさを失ったすみっコたちを見て、行く宛てのない自分を仲間にしてくれた恩返しのつもりだったのにと後悔するふぁいぶを慰めたとかげは一緒にみんなの自分らしさを取り戻そうと、作戦を練り、無事みんなは元通り。夢の大切さに気付いたふぁいぶはとかげの夢ってなんだろうと思い、部屋に隠してあった大量のスミッシーグッズを見つけたふぁいぶは「スミッシーに会いたい」とうとかげの夢をかなえてあげることに。

 

 

 夢がかなえられなくて悲しいのなら、消してあげようという残酷さを子供向け映画の中に忍ばせつつ、親子の愛情物語、そしてふぁいぶの成長が丁寧に描かれる。吉田玲子さんよぉ…なんちゅう…なんちゅうもんを書いてくれはるんや…これに比べたら山〇はんの××はクズや!

 前作からの続投となった井ノ原快彦、本上まなみのナレーションこと癒されボイスの効果もあり、汚れ切った人間の僕でさえ温かい気持ちになれるいい作品でしたね。魔法使いが事態の解決に魔法ではない手段を選択するというのも『おジャ魔女どれみ』っぽくて涙腺が緩む。

 心が汚れ切ったそこのあなた!ぜひすみっコたちとともに癒されて欲しい。

 

 

 

 

 

 

 

既視感バリバリ、そんなものは忘れた『ただ悪より救いたまえ』

 

 今や『イカゲーム』の主演で人気が世界中に広まっているイ・ジョンジェと韓国の歴代興行ベスト10に名を連ねる『国際市場で逢いましょう』の主演などで知られるファン・ジョンミンの共演作。ジョンジェとジョンミンといえば韓国ノワールの傑作『新しき世界』のコンビだ。『新しき世界』でジョンジェ演じるイ・ジャソンは韓国マフィアの理事として組織を支えながら、正体は警察のスパイであり、長年の潜入捜査で理事にまで出世していたジョンジェは警察としての使命とマフィアの兄貴分であるジョンミン演じるチョン・チョンとの間に生まれた義理人情に苛まれ苦悩する。おりしも勃発した組織の跡目争いに巻き込まれたジャソンはチョン・チョン兄貴を担ぐのだが、潜入捜査を命じた警察の上司はこれをきっかけに組織の壊滅に動いていた…

 と『新しき世界』では兄貴分と右腕の関係でいた二人が激しい殺し合いを繰り広げるのが『ただ悪より救いたまえ』だ。

 

 

 凄腕の殺し屋、インナム(ジョンミン)は長年の稼業に疲れ果て、東京のヤクザの組長、コレエダ(豊原功補)を殺す仕事を最後にパナマで隠遁生活を送る予定だった。そんなインナムの元に別れた恋人のヨンジュ(チェ・ヒソ)が殺されたと連絡が入る。インナムはかつて韓国で育成された北朝鮮の要人を誘拐、暗殺する極秘組織のエージェントだったが、政府の方針が変わり用済みとなった彼らは始末されるはずだったが、上司の計らいで彼は出国する。

 タイ・バンコクで暮らしていたヨンジュはインナムの娘を密かに生んでおり、その娘は行方不明でヨンジュの遺体からは臓器が抜かれていた。背後に人身、臓器売買組織の関わりを悟ったインナムはバンコクに飛び娘の行方を捜す。そんな彼の元にインナムをつけ狙う狂気の男、レイ(ジョンジェ)が迫っていた。レイは在日朝鮮人のコレエダの弟で、葬儀だというのに白のコートにグラサンで現れ遺影を一瞥すると敵討ちをしない組員たちに「俺がやる」と宣言。インナムの周囲の人間を次々攫い拷問した挙句残酷に始末する。

 バンコクに渡ったインナムはニューハーフのユイ(パク・ジョンミン)を通訳に雇い、ヨンジュに目を付けた不動産業者、娘をさらったベビーシッターらを血祭にあげ、娘が捉えられているアパートに乗り込んだインナムはまた末端構成員をナイフのサビに変えるが、そこにレイが襲い掛かる。

 二人は時と場所を選ばず、出会ったところで殺し合いを展開。一般市民から警察まで二人の争いに巻き込まれた人間たちが死にまくる。娘を助けるという目的の障害になる人間は誰であろうと容赦しないインナムは異国に溶け込むために目立たない黒のスーツといういで立ちに対し、レイはヒョウ柄のシャツに金のチェーン、首まで入ったタトゥーという「極まった」スタイル(このコントラストがたまらない)でこれまた目的の障害になる人間は誰であろうと即殺!劇中のセリフにある「俺と会ったやつは必ずいうんだ。“なぜ、ここまでする?”とな」その通りブレーキの壊れた暴走車であるレイは街中でも平気でアサルトライフルやマシンガンをぶっぱなし、手りゅう弾を放り投げる。

 

「殺しあう理由。そんなものは忘れた」

 

 というキャッチコピーそのままに理由さえどうでもよくなる二人の争いはクライマックスに向けて爆走する。アクションシーンの多くはどっかの映画で見たような既視感バリバリだがジョンジェとジョンミンの存在感とキレまくりのアクションでそんなことは一切気にならない。アクションにせよ演出にせよ、盛りすぎで知られる韓国映画のだいご味を十二分に堪能できる。こいつをクリスマス・イブに公開した日本の配給会社、ツインの仕事は信用できる。