「新人ファッションデザイナーから始まる地方創世論」 を考えるに至った過程 | 伝統技術を現代のライフスタイルに合わせて発信するプロジェクト  ”ARLNATA” アルルナータ ディレクターの独り言

伝統技術を現代のライフスタイルに合わせて発信するプロジェクト  ”ARLNATA” アルルナータ ディレクターの独り言

約11年に渡るヨーロッパの様々なステージのラグジュアリーブランドを経て日本に帰国し、衰退産業とも言われている日本の伝統技術を今の形で発信するためのプロジェクト”ARLNATA”アルルナータを主催しているディレクターの独り言です。
https://arlnata.com/index.html


 前回まで4回にわたって新人デザイナーと工場のコラボレーションプロジェクトによる地方創世論について書いて来ました。いつも以上の長文にお付き合い頂いた方には本当に感謝しております。


<参照:新人ファッションデザイナー達による地方創世論 1:アパレルの生産拠点は地方にある

<参照:新人ファッションデザイナー達による地方創世論 2:デザイナーと工場の地域密着型協同作業

<参照:新人ファッションデザイナー達による地方創世論 3:地方密着型協同作業によるメリット

<参照:新人ファッションデザイナー達による地方創世論 4:地域密着型協同作業が地方創世に寄与する仕組み


 昨今良く言われている日本のファッションの問題点として、若い影響力のあるデザイナーがなかなか育たないということ、そして生産者側の問題点として、仕事があっても賃金の安い海外に流れ技術者も国内で仕事を失い、高い報酬で海外に引っ張られて、国内での技術の発展やその伝承がどんどん衰退しているということがあります。どちらも技術大国日本を謳う立場としてはなんとかしなくてはいけない大きな問題と思います。このような問題はもう何年も前から言われていますし、ファッション業界に働いているほとんどの人も認識をしているでしょう。しかし、ファッション業界の人間であっても生産と直接関わりのない人からすれば結局は関係のない事柄で無関心なのも事実です。日本の産業が疲弊しても海外の生産拠点がありますし、洋服自体が作れなくなっている訳ではありません。ですが、元々日本の技術レベルも低く衰退していく運命にあるのであれば致し方ないかもしれませんが、知っての通り一つの事を極めようとする日本人の気質と経済成長とが相まって世界に誇れるだけのレベルにまで育って来たことも事実です。その一度得たレベルを衰退して行くのを見過ごすのは産業全体として考えても得策ではありませんし、一旦下がったレベルを取り戻すのは容易な事ではありません。もちろん日本の工場がすべて技術が高いとは言うつもりはありませんし、ある程度淘汰されて質を上げる事は必要だとは思いますが、自国の中で全ての過程を信頼の下にこなす事ができるというのは、ファッション大国のヨーロッパでもなかなか実現できない事であるのは注目しないといけません。共通の言葉で意見を交換できる事、上記した様な日本人気質のために向上心があること、ビジネスだけの取引で終わらない人と人との関係性に重きをおく責任感のある姿勢は間違いなく他の国、それはヨーロッパであってもなかなか見られる事ではないのです。ということは、この点は“日本らしい”特徴だという事が出来るでしょうし、この点は守って行くべき、育てて行くべき点だと僕は思うのです。


 最近になって自分の周りでも独立してブランドを立ち上げる人が日本人に限らず出てくる様になりました。ヨーロッパや日本以外のアジア諸国においてファッションを学びにくる生徒というのはほとんどの場合家庭が裕福、もしくは半端無く裕福であったりする場合が多いので、ある種の趣味の延長でファッションをしている人が多いのも事実です。そういった人々からするとビジネスの観点はそれほど重視する必要も無く、自分のやりたい事をやって、元々あるコネクションでそれなりに販売もできて、まあプラスマイナス0に持ち込めばいいのかな、ちょっと位赤でもいいのかな、程度の意識の人はヨーロッパでは結構多いと思います(色々からくりがあります)。日本人の場合であっても比較的裕福な家庭のお子さんがファッションを学びにくる事が多く、そういった経済的な面で負担が無いという事はモノ創りをする上では相当な優位性を持つ事は間違いありませんし、そういう環境でみんなが活動に従事できればそれほど素晴らしい事はないでしょう。


 しかしながら、実際問題として少々裕福な位ではブランドを立ち上げるという事は困難であり、ヨーロッパの様にどこかの会社が誰かをサポートするといったような仕組みも日本ではヨーロッパほど頻繁に起こらない環境にあるが故に、熱意があっても独立を諦めざるを得なかったり、何とか企業したが結局経済的な問題に振り回されて自分の本来やりたい事が出来なくなるということがほとんどです。あるいは、もう30代後半くらいになって結婚等していると、デザインがどうとか新しい服がどうとかよりも、家族をどうしていくか、子供とどう過ごして行くかの方が現実問題として重要になってくるため、ファッションに対する熱意が薄れて来たと言っている人も見かける様になりました。ということはもちろん個人差はありますが、一般的な尺度で言えばデザイナーとして20代後半から30代前半くらいに独立すれば熱意のまだ冷めやらぬ状態で創作活動に没頭できるということになります。が、現実として経済的な余裕がこの年代にはほとんど無いことが圧倒的です。では、こういった若い熱いデザイナーが経済的な問題で自分達の夢を諦めないといけないのか、何か方法は無いのかと考えていた時に、そう言えば地方の工場も様々な問題を抱えており技術を披露する機会が無く、あるいは100%以上稼働させることなく悩んでいるという事情とをうまく組み合わせればなんとかならないかと思い、先の「新人ファッションデザイナーから始まる地方創世論」に至った訳です。


  デザイナーとして自分の服を作りたくてしかもお金がないのなら“場所”という部分を犠牲にしてモノ作りに没頭すれば良いし、工場も自分達の技術力や利点をアピールしたいのであれば外にたいして積極的に接点を持つ努力をすべきです。しかし今現在ではそれをどういった形で実現すれば良いのか分からないし、人間新しい事に挑戦する事には躊躇してしまい、失敗や変化を恐れているということもあるのだと思います。そういった問題点を解決すべく、やはり双方の事情に詳しい第三者的立場の人間がそれをうまく取り仕切る必要があるのではないかなと思いますし、自分自身もそういったことに将来的に携われればと考えています。僕自身の考えとして皆が同時に幸せになる様な形を作り上げる事が出来ればそれにこした事は無いと思っています。そして世の中にはあらゆる場所でエネルギーは点在して発生していますが、せっかくのエネルギーは有効利用しないとただの無駄に終わってしまうのですから、それを集結させて大きな歯車を動かすためのきっかけを作り、結果としてみんなが幸せになる様にすることは工夫次第で可能なのではないかと考えており、その一つが「新人ファッションデザイナーから始まる地方創世論」であり得るかなと思います。

 
 こうは言ったものの、最近になって新しいデザイナーが生地屋などの応援を受ける形で新作を発表したりということは多くなって来ました。僕の以前まで書いていた「新人ファッションデザイナーから始まる地方創世論」ほど地方創世という点にまでは意識はしていないものの、生産者側がその宣伝方法として新人デザイナーとコラボレーションするという形が増えて来ています。この事自体は非常に嬉しい事ですが、問題はせっかく実行されている新しいことでも、一般の人に関心をもってもらえなければ意味が無いと言う事なのです。一般の人からすればどこの工場とか、どこの生地屋かということは全く重要ではなく、そのためただの情報として消費者に提供しても関心を持ってもらいにくいという点に注意しなければなりません。つまり、一つ一つの工場や地方自治体やデザイナーがバラバラになって行動をおこしても、結局効果が薄いのであって、全体としてまとまる必要があるのです。 ファッションというのはある意味トレンド性が重要ですし、こういった行動も点でバラバラに動くのではなく一つの大きなムーブメントとして流れを作ることで、トレンドとして認知され、興味を持ってもらえるのだと思うのです。人間はそもそも知的好奇心のある生き物ですから、ある種の情報を頻繁に聞くと最初はどうでもいいと思っていても、そのうち気になって行くものです。それくらいのインパクトを与えるほどのプロジェクトにしなければなりません。その上で地方創世のアイデアを加味すれば地方自治体の賛同も得られやすくなるでしょうし、今日本全体として地方に注目が集まり始めているのですから、こういった動きをそろそろ起こすべき時期なのではないでしょうか。


 今回断片的に思いついていた事をやっとまとめることができました。もちろん、現実的なことを考えればまだまだ詰めないといけないところはたくさんありますが、おおよその案としてはまとまったかなと思います。日本のファッションがより発展し、デザインの楽しさをみんながより共有できる様な状況を築き上げるべく、自身も努力して行こうと思っています。




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