試着天国のアウトレット (後編) | 伝統技術を現代のライフスタイルに合わせて発信するプロジェクト  ”ARLNATA” アルルナータ ディレクターの独り言

伝統技術を現代のライフスタイルに合わせて発信するプロジェクト  ”ARLNATA” アルルナータ ディレクターの独り言

約11年に渡るヨーロッパの様々なステージのラグジュアリーブランドを経て日本に帰国し、衰退産業とも言われている日本の伝統技術を今の形で発信するためのプロジェクト”ARLNATA”アルルナータを主催しているディレクターの独り言です。
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 仕事上スーツの上に羽織れるような簡単な上着を探していた、洋服にあまり関心の無い友人(男性)が、アウトレットで黒のナイロンコートを発見した途端、僕が頑張って彼に勧めてきたどの服よりも喜んで試着して最終的に購入してとても満足していた、という話を前回書きました。


<参照:試着天国のアウトレット (前編)

<参照:試着天国のアウトレット (中編)


 この時に僕は洋服にあまり興味の無い人は、洋服に実用性を求めているのだなと改めて気付きました。普段ファッション業界で働いている人と多くつるんでいるためか、そこまで関心の無い人と買い物などをする事はあまり無かったため忘れていたことです。つまり実用性をとるのであれば、自分の主たる用途に合うかどうかをまず考える事になり、つまり普通の人にとって家の外に出る時間のほとんどは会社に出る事でしょうし、その時に必要な物が揃えればそれで良い訳です。職種にもよるでしょうが、一人お洒落に目立つ事よりも人並みに清潔感があって悪い印象を与えない程度の服装が好まれるのは当然です。そのためにお金を払うのであって、わざわざ服装で他人と(同僚と)差をつけるために高いお金を払うのには意味が無い(実用的ではない)と考えるのはうなずけます。自分の外出する時間の多くが会社での行動で費やされることを考えれば、洋服の選択も自ずと仕事上で着る事を中心に考えるのは当然です。もっと言えば、会社でも使えて普段(休日)でも使えればこれほど優秀な服はないでしょう。しかし、一方僕が勧めている物は実用性というよりも見た目の印象を何かしら際立たせるためのものなのです。


 ただ、日本社会の雰囲気と言うか、これは良い所でもあり悪い所でもありますが、“出る杭は打たれる”の風潮があるため、一般的には一人だけ目立つ事はあまり良しとはされていません。目立つなら飛び抜けて目立たないとなかなか社会に認められない所があります。しかし、以前にも書いた様にお洒落に気を遣う事は他人に比べてより目立つことではありません。むしろ、大抵の状況においては他人と比較する事は必要ではありません。自分という人間にぴったり合った服装をしたとき、何か分からないけど自分も他人もちょっぴり“イイ”と感じる、そんな服装はどんな人にもあるのです。自分がイイと思った事を他人からも褒められるとさらに嬉しいものです。そんな“小さな幸せ”を洋服は与えてくれる力を持っていると思います。そんな“小さな幸せ”に一人でも多くの人に気付いてもらうためにはどうすればいいのか。特に変わった回答ではないので恐縮ですが、まずは色んな服を着てもらう、着る様な機会を個人的、家族、グループ、そしてお店や社会で積極的に作っていく、そして自分がちょっぴりイイ風に化けた時の楽しさを自分で気付いてもらうことがまず大事なのではと思います。


 前回の記事中に、洋服にあまり関心の無い友人に僕が控えめなデザインの物を勧めると「こんなのユニクロでもっと安く売っているよ」と言われると書きました。これは裏を返せば「ブランド物にユニクロにある様な物は求めていないんだよ」と言われているのと同じです。この点はファッションに興味を持っている人も持っていない人も(大富豪では無い限り)ほぼ一緒の考えではないでしょうか。そもそも自分たち(洋服が好きな人たち)がブランドモノ、デザインモノに惹かれ始めたきっかけを思い出せば、お店に直接見に行くまでのきっかけは個人差はあるかもしれませんが、気になった服を試着をした時に自分がいつもとちょっと違って“イイ風に化ける”ことに気付いてしまったからだと思うのです。つまり実用性を越えた洋服の価値に気付いてしまったからこそ洋服の魅力に気付いてしまのだと思います。それに味を締めて次から次へと色々試したくなる。ということは“試着をうながす”ことがすなわち“お洒落予備軍を目覚めさせる”重要な契機になることは間違いないでしょう。どんな人だって自分の見てくれが良くなる事(つまり自信を持てるようになること)は好ましい事でしょうし、さらに他人からも褒められるともっと嬉しい事でしょう。けれども洋服に興味の無い人は自分から試着しようなどとはしないものです、実用性を求める時以外は。ということは、周りにいるだれかが背中を押す事がなければこのような人はこの先ずっと洋服の楽しみに気付かないかもしれないのです。もちろん人によっては試着しても何でも似合う人、なかなか似合うものが見つからない人色々いるでしょうし、後者はどうせ着ても着なくても一緒だと思って試着するのも億劫になっているかもしれません。が、自分に似合うものが無いと思い込んでいた人の方が、ぴったりな服を見つけるともっともっとハマってしまうものです。僕も間違いなくそんな一人です。


 何度も言っていますがお洒落に自分の見てくれの善し悪しは関係ありません。太っていようが細かろうが身長が高かろうが低かろうが美男美女であろうが平均的な顔つきであろうが、自分にしっくりくる服装は必ずあります。しかしそれは他人との比較で見るものではなく、いつもの自分との比較で気付くものです。他人と比較をしてしまえば、そりゃあ不満はたくさんあるかもしれません。しかしお洒落とはそういうものではなく、「あ、この服いつもの自分と違って見える、似合ってるな、好きだな」という感覚、それがスタートとしてまず大事であるし、この感覚は服を着てみなければ始まらないのです。


 アウトレットにしか人が集まらなくなる事はファッション業界にとって良い事ではありませんが、今はまだ洋服の楽しみに気付いていないお洒落予備軍が大きな一歩を踏み出す場所としてアウトレットは最適だと思いますし、その一歩をうながすのはパートナーや周りの人々だと思います。ファッションを仕事にしている人はなおさらでしょう。今週末にでもドライブがてらアウトレットに出かけて、いつもは自分一人だけ楽しんでいたショッピングを意識的に相手と一緒に楽しむことで新しい発見をお互いに探し合いに行くのもいいのではないでしょうか。





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