ワインとファッションの相違点  5: (洋服一型一型の物語を大切にする事がブランドの使命) | 伝統技術を現代のライフスタイルに合わせて発信するプロジェクト  ”ARLNATA” アルルナータ ディレクターの独り言

伝統技術を現代のライフスタイルに合わせて発信するプロジェクト  ”ARLNATA” アルルナータ ディレクターの独り言

約11年に渡るヨーロッパの様々なステージのラグジュアリーブランドを経て日本に帰国し、衰退産業とも言われている日本の伝統技術を今の形で発信するためのプロジェクト”ARLNATA”アルルナータを主催しているディレクターの独り言です。
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 長い歴史のあるブランドは当然の事ながら物語を語りやすく、それだけ付加価値が付けやすいですが、歴史の無い新しいブランドはどういった所から物語を作る(歴史を築き上げる)べきなのでしょうか。

<参照記事:ワインとファッションの相違点  1: (ワインにとっての”土地”という個性

<参照記事:ワインとファッションの相違点  2: (人にとっての”出身地(国)”という個性

<参照記事:ワインとファッションの相違点  3: (出身×歴史というルーツを認識すること

<参照記事:ワインとファッションの相違点  4: (老舗のファッションブランドは歴史で物語る


 いくつかの方法が考えられます。新しいブランドでもそのブランドを動かすデザイナーのキャリア(歴史)を活かすということも考えられます。が、どちらにせよ商売である以上どんな歴史をその人が持っていたとしても、「製品」にそれらが反映されてないようではお客は納得しませんので、やはりブランドを成立させるために必要な「製品」、ここで物語らせるのが一番重要だと考えます。ファッションブランドでの「製品」と言えば主には洋服ということになります(カバンやアクセサリーでも同じ事が言えます)ので以下は洋服として考えます。


 ワインの場合、ワインを製造するワイナリーと収穫するブドウの畑は大体同じ地域の場合が多く、製造する場所と原材料の収穫場所にある程度の共通項があるので生産地の印象を植え付けやすいですが、洋服の場合アトリエと素材や副資材などの生産場所はほとんどの場合異なる場所ですし異なる会社なので「私達の洋服の素材は常に地元・×××のモノを使っています」とはなかなか言えません。しかしながら、ブランド全体としてのイメージではなく、 洋服の一型ずつに物語を与えるという方法ならば難しくはないでしょう。洋服一型ずつで分けて考えれば当然の事ながらその生地の出身、ボタンの出身、工場の場所等が当然あるわけです。そしてそれらの“歴史”、、、と言ってしまうと、なんだかすごい長い単位(年とか)での事かと思いますが、その洋服が作られる“過程”そのものが、それが例え1ヶ月で完成されたものであったとしても、まぎれも無くその洋服の“歴史”にあたるのではないでしょうか。つまり洋服単体で考えた場合、その服にまつわる情報(素材などの産地、縫製工場、そしてどうやってこの世に生を受け、どうやって最終的な姿になったかというデザインソースからパターンメイキング、生地選定、縫製、加工、どういう人を対象に作られたか等に至るまでの全ての過程)がまさに物語になるのではないかということです。僕が言っているのは、単にその洋服の基本情報(工場名、生地屋名、それらの住所など)を表に出せと言っているのではありません。それらも含みつつ物語を作ることを言っているのです。文学の世界でも物語は面白くないと誰も読もうとしてくれないのと同様、みんなが関心をもってくれるような興味深い物語をどのように生み出すか、これがファストファッションに対抗する人達のこれからの服作りに求められていることであるように思います。


 以前にも書きましたが、ファッションの世界ではサイクルのスピードが速すぎて一つ一つの作品にお客の眼が届きにくくなっているという問題が存在します。どれだけ制作側が時間をかけて脳を使って面白い工夫を凝らしたとしても、それが客に伝わっていない。だからこそ、そういった時間を出来るだけ省いて効率だけを求めるビジネスの形が蔓延しています。これは制作側の表現力不足、伝達能力不足ということもありますが、何しろ一着一着の価値が薄くなってきているという点は否定できません。しかしながらこういう状況はファストファッションならば納得はいきますが、そうでない服を作るのであればそのままで良いワケがありません。ブランドという看板を背負って、デザイナーズという自らの名前を出して洋服を提案するのであれば、一着一着の価値は高くないといけないのです。ブランドのイメージというだけでなく、一型一型の価値もです。何度も言いますが、洋服の裏にある物語は付加価値になります。お客は付加価値に対して納得がいく時に高くても喜んでお金を支払うのです。ならば、制作側は洋服そのものの最終形態だけでなく、その背景にある物語作りにもっと努力をすべきなのではないかと思うのです。(色々考えていると、日本のブランドのアトリエの多くは東京近辺に集まっていますが、今のこの世の中東京に集まるメリット、つまり利便性をとるよりも、賃料が安く、ひょっとすれば工場により近い地方を選び、その地の利を有効利用する方が良いのでは?とすら思ったりもしますが、それはまた後日に改めて考えます。)


 “物語”というのは結局「洋服それ自体の価値」以上の価値を与える要因なわけです。この“物語”を作り上げる要素として制作にかかわっている自分たちのルーツであったり土地であったり、さらには洋服一型一型のルーツ・出身地、そういったものを見つめ直してみるということも良いのかもしれません。ワインにだって同じワイナリーでも複数の種類のワインを製造し、それぞれが各々のラベルを持って、各々の物語が背景に存在する様に、ファッションにおいても同じブランドの中でも複数の型の洋服を製造しているのですから、それぞれの型に各々のラベルがあっても良いはずなのではないでしょうか。そう考えると、この型はとりあえず売るための型、この型はただのバリエーション違い、といったような作り方は物語を軽視した何か寂しい考え方のようにも感じます。一着一着が各々のラベルを持つことで“物語”を語り出し、自分たちの存在感をアピールする様になれば、、、我々の洋服を選ぶ時間がもっともっと楽しくなるような気がするのです。




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