アリス『美味しいものを食べると元気になれるでしょ?』
優しい君にとって…あの時の行動は取るに足らない大したものではなかったのかもしれないけれど…。
マオ「前にも話したけれど…俺はアリスの優しさやあたたかさに本当に救われたし、心が安らいだ」
マオ「それに何より凄いなって思ってたよ」
アリス「凄い?」
マオ「好意的に思う相手に対してならまだしも…最初にアリスと話した時の俺の印象は、あんまり良いものじゃなかっただろ?」
アリス(………あ……)
アリス「あ…💦そんなこと………」
マオ「自分でもよく分かってるから気を遣わなくていい」
マオ「今が違うとまでは言い切れないけど…2年の最初の頃は今よりもっと刺々しかっただろ…。そんな俺に対してもあんなふうに柔らかな雰囲気を持って接することができることが本当に凄いと思ったし……」
マオ「嬉しかったよ、凄く」
アリス「…………」
アリス「…マオくんが…その頃…今より刺々しかったのだとして…その理由はやっぱり……」
アリス「…ニナさん…?」
ーーー!!バカバカ!!私!!こんな時に何を言って!!
アリス「あの!ごめんなさい!今の話はーーー」
マオ「俺の身体が昔からあまり丈夫じゃないって話は…知ってるか?」
アリス「あ…。ええ…」
マオ「…小学生の頃は今よりもっと酷くて…行事はおろか普通の日でも学校を休んでばかりいたんだよ」
アリス「………え」
マオ「ただでさえクラスメイトと共通点がもてない、しかもその頃から口下手で愛想もなかった俺は当然学校では孤立しがちだった」
マオ「そんな俺に分け隔てなく接してくれてたのが転入生だったユウゴと……」
マオ「ニナだった」
アリス「…………」
マオ「あいつも俺と似たような境遇だったから…姉貴の弟の俺をやたら気にかけてくれていた」
アリス「ニナさんもあまり身体が強くないって…以前話してくれてたものね…」
マオ「…面倒見がよくて世話焼きなところがあったから俺のことも自分の弟のように思ってたのかもな」
マオ「今だと…照れ臭さが勝って素直になれなかったと思う。…でもあの頃の俺は…家族以外の誰かが自分を気にかけてくれることが嬉しかった」
マオ「ほのかに抱き始めた憧れが…いつしか恋心に変わって…でもそれを自覚したところで伝える術もなかったし、俺も想いを伝えたいとは思わなかった」
マオ「その矢先だったよ。あいつが今の事務所にスカウトされて、芸能界に足を踏み入れたのは…」
アリス「…………」
マオ「俺はてっきりそのスカウトの話を断るものだと思っていた。あいつは人前に自分から進んで出ていくタイプじゃないと思っていたから」
マオ「でもあいつはその話を引き受けることになった…」
マオ「あいつが世間の注目を浴びるようになっていくほど……」
マオ「自分の中の何かがすり減っていくように感じた」
マオ「…俺が大切な人は…側にいてほしいと思っていた人は…親友も…初恋の人も皆自分から離れていく…そう思ったし…」
マオ「自分が不甲斐なくて情けなかった」
アリス「情けない?…どうして?」
マオ「ニナが…あの世界に飛び込んだ最初のきっかけは自分を変えたいからだった、…あいつがそこまで追い詰められていたことに俺は気付かなかった。それに……」
マオ「俺にとってはあたたかく色づいて見えていた世界は…あいつにはそうではなかったんだと知って…何も見えてなかった自分が情けなかった」
アリス「………」
マオ「あそこで…アリスの店の前であいつと再会した時が…最後にあいつと顔を合わせて以来だった」
アリス(…その後はきっと…私も知っている通りね……)
マオ「本当に…ガキ過ぎて笑えるだろ?」
アリス「そんなこと!!」
マオ「…依存…してたんだな…。俺はあいつに…そうじゃないって認めたくなかったけど…」
マオ「…ガキの…独りよがりだった…。けれど…それでも……やっぱり俺はニナが好きだったよ」
アリス「…………」
マオ「アリス…あの時…アリスに言ったこと…あれは確かに本当だった…」
マオ「…でも…言えていなかったこともある」
アリス「え………」