錨を上げて | サト_fleetの港

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ブログで取り上げる話題はノンセクションです。
広く浅く、幅広いジャンルから、その時々に感じたことを “おとなの絵日記” のように綴っていきます。

日本では、今年は7月23日が “海の日”。
やはり夏といえば海。
そこで、
アメリカの愛国歌シリーズ第3弾は、 海の歌『錨を上げて』“Anchors Aweigh”)をご紹介。


※抜錨して出航するアメリカ海軍の空母。


といっても、
あらためて紹介する必要もないくらい有名なのが、この『錨を上げて』。
どなたも、一度は耳にしたことがあるのではないだろうか。

『錨を上げて』は、アメリカのメリーランド州にあるアナポリス海軍兵学校軍楽隊のチャールズ・ツィマーマン中尉が、
学生(士官候補生)の アルフレッド・H・マイルズに頼まれて作った曲で、初期の歌詞はマイルズが作詞した。

この曲は当初、アナポリス海軍兵学校の一種の応援歌のように使用され、
1906年に行われたウエストポイント陸軍士官学校とのフットボールの試合で初めて披露された。
『錨を上げて』の演奏が効を奏したのか、試合は海軍兵学校が10対0で圧勝し、
1900年に始まったこの対抗戦において同校初の勝利をあげた。

※アナポリス海軍兵学校の校舎。


後に『錨を上げて』は、メロディーはそのままに、歌詞のみジョージ・ロットマンによって書き替えられ、アメリカ海軍を象徴する歌として扱われるようになる。
海軍の式典などには、必ずと言っていいほど演奏され、また歌われている。


現在一般に歌われている歌詞は、ロットマンのものだが、
3番まである歌詞のうち、なぜか2番の歌詞がメイン(1番目)に歌われることが多い。
これが、その歌詞。


Anchors Aweigh my boys
錨を上げよ 若者たち

Anchors Aweigh
錨を上げよ

Farewell to college joys 別歌詞の場合あり
学生生活に別れを告げて

We sail at break of day, day, day, day
夜明けに出航だ

Through our last night ashore
陸上での最後の夜を通して

Drink to the foam ※別歌詞の場合あり
海原に乾杯

Until we meet once more
再び会うまで

Here's wishing you a happy voyage home!
幸運に恵まれた航海になることをを祈っている! 


歌詞の中に “college”(カレッジ)という語が出てくる。
これは通常、単科大学を表すが、
『錨を上げて』が、もとは海軍兵学校の歌だったことを考えれば、海軍兵学校のことと思われる。
アメリカでは海軍兵学校は “Naval Academy” だが、イギリスでは、“Naval College” という。
また、アメリカの海軍大学(将官を養成)を、
 “Naval War College” というので、
やはり、ここでいう College は海軍関係の幹部養成学校を指していると考えて間違いなさそうだ。

アナポリス海軍兵学校といえば、
卒業式の時、最後に学生たちが被っていた帽子を空に向かって放り投げて去って行く “帽子投げ”(ハットトス または キャップトス※注1というセレモニーがある。

ウエストポイント陸軍士官学校や、日本の防衛大学でも行っているが、
アナポリス海軍兵学校で1912年にやったのが最初である。
もちろん、現在でも続けられており、
100年以上も続く同校の伝統行事となっている。

2019年5月のアナポリス海軍兵学校
卒業式での帽子投げ。
(在日米海軍司令部 Twitter より)


この帽子投げの様子がカッコよかったのか、
いまや世界中に広まった観がある。
(要はマネしたわけ)
ちなみに、
映画『愛と青春の旅立ち』(1982年)にも卒業式の帽子投げシーンが登場するが、
あれはアナポリス海軍兵学校ではなく、シアトル近郊のレーニエ海軍基地内にある海軍航空隊の士官養成学校が舞台。
こちらは、アナポリス海軍兵学校より規模は小さい。

※映画『愛と青春の旅立ち』より、
上段の写真は主演のリチャード・ギア。


海軍兵学校の卒業式は毎年5月に行われるのだが、
今年はご多分にもれず、コロナ感染予防の見地から、式典も5回に分散して行われたそうだ。
そのため、伝統の帽子投げも分散され、いささか寂しいものになってしまったとのこと。
アメリカ海軍にとっても、コロナウイルスは強敵のようだ。
(そういえば、いつぞや米空母で多数の感染者が発生して任務に支障をきたしたと報道されていた)

ところで、
放り投げたあと地上に落ちてきた帽子はどうなるのかというと、
式に来ていた子供たちが拾って持ち帰るのが恒例になっている。
そんな子供たちのために、
帽子の内側には、元の持ち主がメッセージを書いた紙や記念コインがはさんであったりする。

そして、卒業生たちには、配属される海軍や海兵隊の新しい制帽が待っているというわけだ。

※白い制服は海軍、黒い制服は海兵隊
に任官する候補生たち。※注2
(在日米海軍司令部 Twitter より)


厳しい世界情勢ではあるが、
新しい制帽や制服に身を包んだ新人士官たちは、今年も世界の海原に乗り出して行くことだろう。




【注釈】
1. 候補生たちが被っている制帽はカバーと呼ばれているので、正確には “カバートス”。

2. アナポリス海軍兵学校の卒業生は、海軍か海兵隊に任官する。