昭和16年(1941年)12月8日未明、日本軍の真珠湾攻撃で太平洋戦争が始まった。
この作戦の主役といえるのが、海軍の第一航空艦隊であった。
日本海軍の機動部隊(空母を中心とした艦隊)の主力空母6隻が所属した第一航空艦隊は、
その名の通り、航空機を攻撃力の基幹とする艦隊で、複数の航空戦隊と支援の水上艦隊からなっていた。
真珠湾を皮切りに、インド洋作戦、珊瑚海海戦と戦い続けた第一航空艦隊は、
ミッドウェー海戦で敗北するまで、太平洋戦争緒戦での日本軍の快進撃を支えた。
こういった “航空艦隊” には、ほかにも、
戦争末期、鹿児島県鹿屋に司令部を置き、沖縄に来襲したアメリカ艦隊に猛攻を加えた第五航空艦隊などがある。
ちなみに、
第一航空艦隊と違って、第五航空艦隊は空母を持たず、基地航空隊のみの編成であった。
太平洋戦争中の日本軍には空軍はなく、海軍と陸軍に、それぞれ航空隊が置かれていた。
有名な零式艦上戦闘機(ゼロ戦)は海軍航空隊の、一式戦闘機 隼(はやぶさ)は陸軍航空隊の代表的な戦闘機である。
“艦上戦闘機” というように、海軍航空隊の航空機には、空母に搭載して運用するために作られたものが存在したが、
これらの航空機は、やがて、艦艇をしのいで海軍の中心的戦力となっていき、
おのずと、航空艦隊の存在は重要性を増していった。
航空戦力の重要性は今も変わっていないが、
現在の海上自衛隊を見ると、航空隊は あるにはあるが、哨戒機や対潜ヘリコプターなどの部隊で、戦闘機や攻撃機で編成された空母航空隊や基地航空隊はない。
専守防衛を旨とする自衛隊において、
かつての日本海軍と違い、外洋を越えて敵を攻撃することのない海上自衛隊は、
日本近海を護る護衛艦(戦中の駆逐艦か海防艦規模)を擁するのみで、攻撃力の強大な空母は保有できないとされていた。
ところが、最近この流れに変化が表れた。
国際情勢の緊迫、とくに近隣の軍事大国の活発な動きにより、離島防衛の必要性が高まったのだ。
今年、陸上自衛隊では、アメリカ軍の海兵隊を手本にした 水陸機動団が創設された。
この部隊は、侵攻してきた敵に日本領の島などを占領された場合を想定し、これを奪還するための敵前上陸を想定した訓練を行っている。
そんなおり、
先月の下旬、海上自衛隊に関して次のような報道があった。
垂直離着艦機能を持つ最新鋭戦闘機F-35Bを搭載できるようにするというのだ。
報道の記事は、さらにこう伝えている。
アメリカ海軍の原子力空母と違い『いずも』は、ジェット戦闘機を発着艦させるには飛行甲板が短いので、
垂直離着艦が可能なF-35Bを10機ほど搭載する予定のようだ。
いずれにせよ、
そうなれば『いずも』は、事実上の軽空母となる。
軽空母『いずも』に搭載するF-35Bが、航空自衛隊所属のわけがない。
これは、海上自衛隊の航空隊所属となるはずだ。
そうなると、海上自衛隊に初めて戦闘機部隊が誕生するのと同時に、
日本に戦後初の空母航空隊が誕生することになる。
海上自衛隊には『いずも』と同型艦の『かが』もあるので、
将来的には『かが』も改装して空母化するのではないかと思われる。
現在『いずも』は横須賀を、『かが』は呉を母港としている。
とすれば、
その艦載機部隊も、訓練や補給の拠点として、横須賀や呉に基地を置くはずだ。
『いずも』と同型のヘリ搭載護衛艦である。
自衛隊は、憲法九条の制限により、“軍隊ではない” ことになっているため、
階級から部隊の編成単位まで、旧日本軍の使用していた名称を使わず、大尉を一尉、少尉を三尉とか、歩兵連隊を普通科連隊など、独特の呼び方をしている。
政府与党内では、今回 改装して空母化する『いずも』も、“多用途運用護衛艦” などという わけのわからない名称にする方針と伝えられている。
そのため、
新たに誕生する空母航空隊も、また旧軍色を払拭した名称になると思う。
しかし、
私は やはり、旧海軍の部隊の呼称の方が馴染みがある。
その呼称を使えば、空母『いずも』の艦載機部隊は、第一航空戦隊 “横須賀航空隊”。
空母『かが』の艦載機部隊は、第二航空戦隊 “呉航空隊” といったところか。
そして、これら二つの航空戦隊を統括する部隊こそ、
現代の “第一航空艦隊” と呼びたい。
海上自衛隊、いや、新生日本海軍の航空艦隊の空母が波をけたてて進む日が、すぐそこに迫っている。