この映画は見るのが2回目なので、気になったところをいくつか。
ネタバレしてます。ご了承ください。
・メダリストの母チュンスクと、「計画がある」と言うだけの父ギテク
主人公、ギウの母は砲丸投げのメダリスト。父は昔、台湾カステラなど事業を立て続けに失敗。
2人とも、いまは無職。
どんなに過去が良かったとしても、いまがダメならダメという、皮肉な現実。
・上流階級の人は、下に流れ落ちる汚れた水を知らない
後半、大雨が降って、下(ギウたちはパク家の家より場所的に下に住んでいる)に住む人々の家は大変なことに。
ギウたちがパク家から脱出し、家に帰る途中、バイクを起こしてくれと助けを求める男性を助けない。
こんなときに、他人にかまってはいられない。
金銭的に自分が大変なときに、人にお金は貸せない、みたいな暗喩なのかな、と思う。
一方、パク家の人たちは大雨が降った次の日、何事もなかったかのように家にいる。
息子のためにパーティーをやると決めたパク家の母親ヨンギョ。大雨が降ったこと自体、知らないの? って思うぐらい。
・ギテクはなぜ、包丁を手にしてしまったのか
最初の「きっかけ」は、ヨンギョがスーパーに同行させたから?
運転手として雇われた、ギウの父親ギテク。
息子のパーティーをやるため、ヨンギョはギテクとスーパーで買い物してるんだけど、カゴを持つのも、買ったものをビニール袋に入れるのもギテク。
スマホで話してるヨンギョ、なにもしない。
車内で、夫が言っていた「匂い」を感じとった。窓を開ける。
それを見ていたギテク、自分の体の匂いをかぐ。このとき、すでに表情がむっとしているようにも見える。
・「匂い」の意味するもの
キム一家の暮らす半地下の家。
窓を開けると目の前が路上、トイレの洋式便器がすぐそこにあって壁がない。家の中に匂いがこもってしまうのは避けられなさそうな家。
パク家の父親ドンイクは、「古い切り干し大根の匂い」「煮たふきんの匂い」「地下鉄の匂い」とその匂いを例えたけど、どれもいい匂いではなさそう。
「匂い」は線を越えてくる、とドンイク。
ドンイクのこの言い方は、自分は上だという意識(無意識?)から出たものなのか。
線のこちら側にいる家族は大事だけど、向こう側にいる人たちは自分にとってどうでもいい存在、ともいえる。
「匂い」への嫌悪感=貧しい人たちに対して持っている嫌悪感?
「くさい」って、人に言われたくない。でも、ぽろっと言ってしまいそうな言葉でもある。
ヨンギョの気遣いのなさや、ドンイクが言葉や態度に出してしまった嫌悪感。その結果、二人の自業自得……、とも言い切れないかな。
・「たつけて」は、「たすけて」だとわからなかった? ダソンの謎
モールス信号を解読した、パク家の末っ子ダソン。
この子がもし、これを誰かに話していたら……。
でも、誰にも言わなかった。
ダソンを「あの子、普通の生活になじめないふりするし」とギウに言った、姉のダヘ。
家の中で見たお化けが原因? なのか、インディアンごっこで一人遊びするのが好き。ただ、自分の世界に閉じこもっているような、病んでる感じはしない。
わからなかったから言わなかったのか。
それとも、無視したのか。謎。
・ダソンの描いた、壁に飾ってある絵と2枚目の絵、予言になってる?
これは、映画を見た方の感想を読んで、気づかされたことなんですけど。
壁に飾ってある絵。
眼が大きくてギョロっとしている人と、右下にオレンジとグリーンの三角。そして右下になにか黒いものが。
美術教師のふりをしているギジョンが、ダソンが描いた絵を見せながら「右下にはスキゾフレニアゾーン」などと言って、ヨンギョを不安にさせるシーン。
このダソンの描いた、2枚目の絵。
丸に点の、驚いてる人みたいな大きな眼。おでこには赤いものがあり、左手にグレーの棒を持っている。
水色の雲で、晴れている空。下には葉っぱと思われるグリーンが。
犯人の男が庭に出てくる前、顔に返り血をあびて赤くなっているところとか、グリーンは庭の芝生に見えるし、犯人の男が死んだのは、バーベキューの肉が刺さってるくしだったし。
なんとなくあのダソンの描いた絵と似ているような……。
ちなみに、壁に飾ってある絵はダソンが見た地下で暮らしている男の顔ではないかと。
ただ、この絵も右下にあるオレンジとグリーンの三角が、ダソンが庭に出してもらったテントに見える。
もしそうなら、右下の黒いものは、死を意味している?
そうなると、テントの近くに死が、ということになり、これも未来を予言したかのような絵、ってことになる。
ただ、どちらもダソンが描いた、ただの絵の可能性もある。真相は不明。
・一瞬映る、3枚目の絵。これも予言?
ダソンの隣で、ギジョンが絵を描いてる。美術の家庭教師中。
このあと、ヨンギョとギテクが、家政婦が結核だと話しながら帰宅して、ギテクがすきを見てホットソースをゴミ箱のティッシュペーパーにかけて、血を吐いたかのように装うんですけど。
一時停止ボタンを押して、見てみたら。
ダソンの描いてる絵。3枚目。
また、目が点で驚いてるような顔の人。
で、左手に持ってるのが、木の棒のようなもので、先端に黒いものが。体の向きが、振りまわしてるような姿勢に見える。
これ、犯人の男に、チュンスクが突進していくときに持っていた斧?
あと、ダソンが描く人間の表情、眼がイっちゃってる人の眼(アニメで、キャラが狂ってるときの眼に似てる)。
なんでそんな顔を描くの?
ダソンの絵、なにか意図があるのか。これも真相は不明。
・ギウに家庭教師の仕事を紹介した彼の、その後
最初に出てきたけど、映画を見終わったあと、この人の存在をすっかり忘れていた。
この人がギウに自分の後任として、家庭教師の仕事を紹介したことで、すべてが始まった。
狙っていたダヘは、ギウを好きになって二人はくっついちゃったし。
ただ、パク家の惨劇にまきこまれなかった、ラッキーな人でもある。
・梅ジュースとジャージャーラーメン
梅ジュースは、ビンに入っていて、長期保存できる? ジュース。
ジャージャーラーメンは、インスタントラーメンのアレンジレシピみたいな。
お金持ちの家にもこんな庶民的なものがあるんですね。
・ハエ、下に降りていく階段、暗転からの笑い声
庭で、倒れている犯人の男の手にハエがってとまっていて、バイオリンの音かな? 弦楽器の音が、ハエの羽音のように聞こえる。
そのあとその男を刺したドンイクの視点で、灰色の階段を降りていく。
暗転して、笑い声が聞こえてくる。それはギウの声。
意識が回復して、最初、ギウは頭を手術したせいで、なにも笑えるようなことがない状況で笑うようになっていた。
このシーン、なんとなく見てるだけで、嫌な感じにさせられる。
・境界線と「匂い」を気にする父ドンイク、「匂い」を感じていない娘ダヘ
パク家の地下にも「匂い」=貧困はあった?
車のキーが犯人の男の背中の下に入ってしまい、それを取ろうと犯人の体を起こした瞬間、嫌そうな顔をして、鼻をつまんだドンイク。
だから、おそらくこれは犯人の男の体臭の匂いが嫌だったんだと思う。
ところが、それを見たギテクは自分の匂いに対して鼻をつまんだと思って、包丁をドンイクに刺してしまう。
一方、ドンイクの娘ダヘは、ギテクの息子ギウに抱き着いたり、キッチンで倒れていたギウを背負って、パニックになっている人々の中、庭を走って逃げていたり。
まず、「匂い」自体、まったく感じてない様子。
高級住宅地の家にも、地下シェルターという地下がある。
そこにも「匂い」があるのなら、誰にでも貧困になる可能性はあって、それはパク家の人たちも他人事ではない。
その後を考えてみる。
あの料理がまったくできない母親は、外に出て仕事して、子ども2人を養っていけるんだろうか。
そのうち1人は、おそらくトラウマを抱えて、治療だって必要になるはずだし。
・それでも希望は、ある(の?)
韓国は、見た目や世間体をすごく気にするお国柄だと思う。
美容整形手術を家族にプレゼントしたり、いい大学を出ないと有名な大企業に就職できなかったりする。
すべてが完璧な人間なんていないのに、完璧に近づくことを良しとする。
完璧であればあるほどいいかのような。でも、辛くならないんだろうか?
ちょっとぐらいダメなところがあっても、それでいいじゃん、って他人に対して思えるような、そういう世の中のほうがいいんだけどな。
父親は人を殺して逃亡中。それは、ギウの今後の人生にとって、足かせになってしまうはず。
パク家で働く前と比べると、どうだろう?
家族は2人いなくなり、浸水した半地下の家で、また母親と暮らす。マイナスになってる?
2回目も、そんなに1回目と思ったことは変わらず。あまり希望がないラストだよな、と思う。