・思い出話。
高校の、たぶん2年生くらいのとき。
急に、なにもかもがどうでもよくなり、教室にいたくない、と思った私は、「よし、帰ろう」と早退することにした。
でも、なにも理由がないのに早退はできないので、ある裏技を使い(体調が悪くなった演技+保健室で体温計を温めて、熱が出たように見せかけた偽装工作)、早退。
教室で、一人帰る準備をして、カバンを肩にかけて教室を出ようとしたとき、先生も生徒も気がついてないこの状況に、つい、口もとが笑ってしまった。
そのときだった。
一人だけ私を見ている男子と眼が合った。
のちに親友となる、Tだった。
彼だけが座ったまま上半身をひねり、私を見ていた。真顔のような顔で、じっと。
一瞬動揺したけど、私はそんなTににこっと微笑みかけ、教室を後にした。
不敵な笑みだったのか、笑ってごまかそうとしたのか、はたまた、ごきげんよう的なスマイルなのか、当時の私の気持ちは思いだせないが。
あのときの私に言いたい。
なんで笑ったの? あと、なんだよ急に教室にいたくなくなったから、って。だからって帰るな! 苦笑
教室を脱出。みんなが授業受けてるのに私だけ。高鳴る胸。こんなことは二度とない。貴重だ。家には帰りたくない。そんなことしたらもったいない。
向かった先は、吉祥寺。
駅ビルの中を歩いていると、制服を着た中学生か高校生らしき女の子がいた。本屋で雑誌を立ち読みしている。
お仲間。
私以外にもこういう人がいるんだな、と、普通に学校にいたら知らなかったことを知ったような気になった。
あの人、どこの高校だろう? 気になった私は、その女の子の制服を遠くから見て、頭に入れると、別の場所でカバンからノートとシャーペンを出し、制服のデザインをメモった。
吉祥寺でゲーセンに入り、不良みたいなことをしていることにドキドキしながら楽しんだけど、放課後に寄り道するところ以外思いつかなかった。根っからの不良じゃないので、こんなものだ。
家に帰り、あの女の子の制服のことを思いだした。わが家の本棚にあった、中学生のときに家族の誰かが買った、私立高校の名前と制服の写真が載っている辞書みたい本をひらいて、調べてみた。
偏差値高い、私立の制服だった。
頭いい学校の子でも、サボるんだなー。
そんなことがあったなぁ。わざわざメモって、家で調べたりして。
あとでバレて怒られるかな、と思ったけど、先生にも家族にもなにも言われなかったよ。はははは。