少年は残酷な弓を射る | 想像と好奇心でできている

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日々、思ったことを書いてます。
野いちごでは、 『テレビの感想文』ときどき更新。

だいぶネタバレしてます。


前もって、この映画は見終わったあとけっこう後味悪いと知っていた。

ネットにあった、原作の小説の感想を読んでいたので、

ある程度心構えはしていた。


していたのだが。

なかなかのダメージ。

これは男性と女性で感じ方が違うんじゃないかな。


主人公は、これから母親になろうとする女性エヴァと、

その息子の男の子ケヴィン。

あんまり母親になることが嬉しそうじゃなくて、予期せぬ妊娠だったようで。

夫で、これから父親になるフランクリンの表情と比べると、テンションの低さがわかりやすい。

産婦人科の待合室らしき場所で、おなかの大きい女性が数人いる中、座っているエヴァ。

表情は幸せそうではなく、無表情のなかにうっすらと戸惑いみたいな。


最初のほうで、まず、薬のケース(外国の薬のケースって、ふた付きの円筒状のプラスチックのケースに入ってて、だいたい洗面所に置いてある)

が出てきて、医者が、彼は自閉症ではないか、なんて言うんだけど、

そんなの最後まで見るとどうでもよくなってくる。

(それが原因だった、なんて誰も一言も言ってないし)

見ているうちに、日本でも実際にあった、子どもの親殺し、家族を殺す

事件を思いださせられる。


無表情。いっしょにいてもちっとも楽しそうじゃない。

母と息子の、他人のようにずれた二人の関係が延々と続く。

なんの感情もない瞳を母に向ける息子。

そんな息子の異様さに全く気がついていない様子の父親。

彼が興味を持った弓矢と的を買い与えて、一見幸せそうな庭での二人。

やがて妹セリアが生まれる。可愛らしい女の子。

エヴァは明らかにケヴィンより妹と話すようになり、その妹に嫉妬? のような黒い感情を向けるケヴィン。


しまいには、ネットで鍵をいくつも買い、高校の体育館のドアにつけて閉じこめ、そこにいた生徒たち数人を射る。

家の白いカーテンがひらひらしていて、母が庭を見下ろすと、矢で射たれた父と妹が倒れていた。

誰がやったのかは歴然。
このときのシーン、時間が止まってるような感じだった。しかも、二人に刺さったボウガンの矢がすごく痛そう。


そして、その刑務所の面会で、お互いに顔を正面から見て、文字通り向き合う。

18になり、成人の入る刑務所に移動になる、と。

たくさんの人を殺しているから、当分、これからも一人でいるのだろう。

このとき、やっと、ようやく、母と息子らしい会話が少しだけできた二人。

でも、なにもかも遅すぎた。


エヴァの回想の「過去」と、事件があったあとの「現代」が

交互に出てきて、だんだんと前後の話の流れがわかってくる。

この構成がすごい、見事。

そういうことがあったのか、とわかってくると、だんだんと胸がざわついてくる。


「親になるってことは、リスクを背負うことになるかもしれない」

「どんな子が生まれてきて、どう育つかわからない」と

主人公に指導医の先輩の医師が言っていたシーンがあった。

漫画「ブラックジャックによろしく」の小児科編だったかな。

手元にその漫画ないからうろ覚えなんだけど。


どこまでも静かで、殺人を犯してしまった息子の、母親の悲しみのようなものが伝わってくるラスト。

通路を抜け、四角くて白い光のなかへ去っていくエヴァ。

やっぱり、母親って大変。それでも親子関係は続く。