この国の精神 昭和歌謡にみる大衆の精神―昭和50年~昭和63年― | 秋 隆三のブログ

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昭和21年 坂口安吾は戦後荒廃のなかで「堕落論」を発表した。混沌とした世情に堕落を見、堕落から人が再生する様を予感した。現代人の思想、精神とは何か。これまで営々と築いてきた思想、精神を振り返りながら考える。

この国の精神 昭和歌謡にみる大衆の精神―昭和50年~昭和63年―

秋 隆三

 

<欲望の時代の始まり:昭和末期>

 

  昭和40年代から50年代初頭にかけて、東大紛争後に過激化した日本赤軍事件が相次ぎ、よど号ハイジャック、リンチ殺人、浅間山荘、ダッカ日航機ハイジャック事件等が起こった。

  現代の状況を思えば、すごい事件ばかりであったが、何故か風が通り抜けるように過ぎていった印象しかない。大衆の日常生活とはあまりにもかけ離れていたのである。

  庶民にとっては、こういった殺伐として事件より、昭和48年末にはじまる第一次オイルショックの方が衝撃であった。第4次中東戦争の勃発により、原油価格が瞬時に4倍に高騰した。全国のスーパーからトイレットペーパーがなくなったのだから驚きである。

  ウクライナ戦争で石油価格が高騰したが、せいぜい2倍程度である。今から50年前には、想像を絶する価格高騰があったのだ。

  昭和53年には第二次オイルショックが発生し、この時は原油価格が2.7倍に上がった。原因は、イラン革命、イラン・イラク戦争であった。

 

  第一次オイルショックに先立って、昭和48年2月に、外国為替が固定相場制から変動相場制へと移行した。1ドル360円が一気に270円台に突入し、さらに昭和60年のプラザ合意によって1ドル240円台の為替レートが200円まで上がり、5年後には120円台にまで上昇する。昭和後期は、まさに為替戦争の真っ只中にあった。

 

  バブル景気は、昭和61年から平成3年までを言うようだが、既に昭和40年代後半からその兆候が現れ始め、昭和50年代後半には土地価格の急騰などの土地バブルが始まっていた。といっても、土地価格の上昇は、戦後ズーッと続いていたのであるが。

 

  現在の円安動向がどうのこうのというが、この程度の為替変動などは、この昭和後期では変動でも何でもなく、日常茶飯事の些末な変動にしか過ぎなかったのである。

 

  このバブル経済は、1億総国民が欲望の渦に巻き込まれた時代であった。株だ債券だ土地だと目の色を変えて追いかけた。勿論、バブル経済の危険性について冷静に考える人達もいたことは確かだが、儲けられるときには儲けておこうというのが大衆の精神であった。まさに、NHKが言う「欲望の資本主義」の様相が大衆にまで及んだのである。

 

  オルテガは、「大衆の反逆」において、「たしかに人類の新しいそして比類なき組織への移行過程でもありうるが、しかし、同時に、人類の運命における一つの破局ともなりうる」と言っている。人類を日本大衆と置き換えても良い。オルテガは、1930年代のヨーロッパは、危ういとしてこういう表現をしたのだが、人間の進歩には必ず退化と後退の危険性が伴うと言いたかったのである。オルテガは続けて言う。「なぜならば、個人的であれ集団的であれ、人間的であれ歴史的であれ、生というものは、この宇宙において危険をその本質とする唯一の実態だからである」と。

  生命体というものは、人間であれ動物であれ、昆虫であれ植物であれ、命あるもの全て、生きていることそれ自体が奇跡なのである。

 

  こういったバブル景気のさなかに、エズラ・ヴォーゲルが「ジャパン・アズ・ナンバーワン」を出した。大衆は、この本のタイトルだけで満足した。大衆だけではない。ごく少数の指導的立場にある、官僚、企業経営者、学者までもが有頂天になった。日本型経営は正しいと。しかし、この時代の世界の技術は、情報革命の真っ只中にあった。パソコンと通信である。特にアメリカは、1995年に発売されるWindows95に向けて必死の投資が続けられていたのである。バブル崩壊とともに、日本は退化と後退の闇穴へと落ちていく。

 

  昭和50年以後、昭和最後までの歌謡曲も、これまた、これでもかと言わんばかりの多さである。

  かなりはしょってしまった。この時代は、とにかく忙しかった。連日の徹夜などは当たり前であり、現代の働き方改革等は夢の又夢であった。聞いた覚えがある曲は沢山あるが、強く印象に残る曲は少ない。原因は、多忙にあると思うが、次から次へと出てくる歌謡曲の多さであろう。ニューミュージックでは、ただただ言葉で飾る恋病歌や叙情歌である。演歌からニューミュージックまで、曲調もまた多様となっていた。

記憶に残る歌謡曲を拾い上げることにした。

 

<昭和50年~昭和63年の歌謡曲>

 

(170)心のこり(昭和50年)

作詞:なかにし礼、作曲:中村泰士、細川たかしがやけに明るい声で高らかに歌う、女性の失恋の歌である。女性の失恋は、失意のどん底にあるのではない。ケセラセラ、明日があるのである。

https://www.youtube.com/watch?v=tntpuvs2byY

 

(171)さだめ川(昭和50年)

作詞:石本美由起、作曲:船村徹、ちあきなおみが歌ってヒットする。島津亜矢版と聞き比べをどうぞ。

ちあきなおみ版

https://www.youtube.com/watch?v=Yi_XTGZxXf4

島津亜矢版

https://www.youtube.com/watch?v=x1eF89Vs2gM

 

(172)釜山港へ帰れ(昭和47年韓国、昭和52年日本)

大韓民国の歌謡曲が日本でヒットした初めての曲である。

元詞・作曲:黄 善友 日本語詞:三佳令二

渥美二郎版

https://www.youtube.com/watch?v=C3ARKfqp1EY

島津亜矢版

https://www.youtube.com/watch?v=q3aBXAPN6Is

チョー・ヨンピル版

https://www.youtube.com/watch?v=zNXctKc4gkA

 

(173)中の島ブルース(昭和50年)

作詞:須田かつひろ/作曲:吉田佐、内山田洋とクールファイブが歌った。

https://www.youtube.com/watch?v=M8-pqLIimfs

 

(174)およげ!たいやきくん(昭和50年)

作詞: 高田ひろお、作曲:佐瀬寿一、フジテレビの『ひらけ!ポンキッキ』で‎子門真人が歌って450万枚を超える大ヒットとなった。子供向けの楽曲が何故これほど売れたのか。団塊世代が生んだ子供達が幼年期となり、第二団塊世代による需要増が見込まれるようになったのかもしれない。

https://www.youtube.com/watch?v=Cfz3CcmTROY

 

(175)北の宿から(昭和50年)

作詞: 阿久悠、作曲:小林亜星、都はるみ67枚目のシングルである。演歌というよりは、ニューミュージックというジャンルであろう。

https://www.youtube.com/watch?v=QKmma_bRdQE

 

(176)津軽海峡冬景色(昭和52年)

作詞: 阿久悠、作曲: 三木たかし、石川さゆりが歌いヒットした、

https://www.youtube.com/watch?v=nIN8pXMsl9U

 

(177)夕焼け雲(昭和52年)

作詞:横井弘. 作曲:一代のぼる、千昌夫が歌ってヒット。

https://www.youtube.com/watch?v=suUUNwXGtH4

島津亜矢版

https://www.youtube.com/watch?v=E5ImxQrfDtk

 

(178)北国の春(昭和52年)

作詞:いではく、作曲:遠藤実、千昌夫が歌い、日本だけでなくアジア全体でヒットした。

若い頃は、遠藤実の曲をそれほどいいとは思っていなかった。しかし、今回、昭和歌謡曲を整理すると、この作曲家がただものではないことを知った。日本語の詩・言葉を、無理なく曲へと変換する名人ではないだろうか。この曲もそうだが、美空ひばりが歌った「哀愁出船」などはそれを端的に示している。

  哀愁出船(昭和38年)

   作詞:菅野小穂子、作曲:遠藤実

   美空ひばりが紅白歌合戦でオオトリで歌った貴重な映像つきである。これは美空ひばり生涯の中でも逸品であろう。

  美空ひばり版

https://www.youtube.com/watch?v=8RD4sSVZdsc

島津亜矢版

https://www.youtube.com/watch?v=9GPhkS0sDXA

 

船村徹が作曲した「哀愁波止場」(昭和35年 石本美由紀作詞)という曲がある。船村徹と遠藤実は昭和7年生まれの同い年である。この両曲は、実は、Bmというコード進行でほぼ同じである。遠藤実が、船村徹の「哀愁波止場」のコード進行にインスパイアされたかどうかはわからないが、同じようなコード進行であっても全く違う曲になっている。どうぞ、聞き比べを。

美空ひばり版

https://www.youtube.com/watch?v=S0WqvSXazdk

島津亜矢版

https://www.youtube.com/watch?v=gND5TjN9ieM

 

(179)与作(昭和53年)

作詩・作曲、七沢公典、歌:北島三郎。

https://www.youtube.com/watch?v=7pF0GoFnjIg

 

(180)舟歌(昭和54年)

作詞:阿久悠、作曲:浜圭介、八代亜紀が歌って大ヒットする。

https://www.youtube.com/watch?v=_hO22b2gcYY

 

(181)奥飛騨慕情(昭和55年)

竜鉄也作詞・作曲・歌。累計販売数300万枚以上と言われている。

https://www.youtube.com/watch?v=c_qKXOFVOI0

竜鉄也は独特な声で歌っているが、曲はなかなかなものである。

竜鉄也が作曲し、美空ひばりが歌った裏町酒場という曲がある。(作詞、さいとう大三)これも、いい演歌である。

美空ひばり版(昭和57年)

https://www.youtube.com/watch?v=BT6o8ZHa_NE

島津亜矢版

https://www.youtube.com/watch?v=4qUN3IRbdAI

 

(182)望郷酒場(昭和56年)

作詞:里村龍一、作曲:桜田誠一、千昌夫が歌った。

https://www.youtube.com/watch?v=36sjcPtSI3U

島津亜矢版。これがいい。

https://www.youtube.com/watch?v=srdsn5afi3s

 

(183)昭和流れうた(昭和60年)

作詞:いではく、作曲:遠藤実、森進一が歌ってヒットした。「いではく」は遠藤実の弟子である。母の好きな歌だった。

https://www.youtube.com/watch?v=yMmJhdEyszQ

 

(184)お久しぶりね(昭和58年)

作詞・作曲:杉本真人で小柳ルミ子が歌った。それほどヒットしたわけではないが、杉本真人の作曲であることから掲載した。こういう曲も作っていた。なかなかの曲ではないか。

https://www.youtube.com/watch?v=PA_uw20Qc38

 

最近、杉本真人にはまったので、続けて三曲掲載しよう。

冬隣(昭和63年)

作詞:吉田旺,作曲:杉本眞人、歌:ちあきなおみ

https://www.youtube.com/watch?v=K7K1EYgB3T0

これも「ちあきなおみ」版と言われているがどうも違うようなのだが?

https://www.youtube.com/watch?v=-7UKbfEC1vM

紅い花(平成3年)

作詞:松原史明,作曲:杉本眞人、歌:ちあきなおみ

https://www.youtube.com/watch?v=l2Lr4S8lmXo

吾亦紅(2007年)

作詞:ちあき哲也,作曲・歌:杉本眞人

https://www.youtube.com/watch?v=cs_pCM7Q7Jo

 

(185)ラブ・イズ・オーヴァー

作詞・作曲:伊藤薫、台湾の歌手欧陽菲菲が歌った。

https://www.youtube.com/watch?v=ioCsP0m_d-E

 

(186)雪国(昭和61年)

作詞・作曲・歌:吉幾三。

https://www.youtube.com/watch?v=bqEJ2O4nigQ

 

(187)天城越え(昭和61年)

作詞:吉岡治,作曲:弦哲也、石川さゆりが歌ってヒットする。

https://www.youtube.com/watch?v=cwL09UKDqdI

 

(188)みだれ髪(昭和62年)

作詞:星野哲郎 作曲:船村 徹 歌手:美空ひばり

https://www.youtube.com/watch?v=WSHdsS0ms7E

 

いよいよ昭和最後に、美空ひばりの2曲である。

愛燦燦(昭和63年)

作詞・作曲: 小椋佳

https://www.youtube.com/watch?v=nMXQUl-2M7E

 

川の流れのように(昭和64年、平成元年)

作詞:秋元康,作曲:見岳章

https://www.youtube.com/watch?v=e79qXOB7nrs

 

<ニューミュージック>

 

(189)我が良き友よ(昭和50年)

作詞・作曲:吉田拓郎、かまやつひろしが歌ってヒット。

https://www.youtube.com/watch?v=XExjTr9HYkI

https://www.youtube.com/watch?v=j1qdEYacGpY

 

(190)酒と涙と男と女(昭和50年)

作詞作曲:河島英五、河島英五が歌ってヒットした。どうしようもない寂しさの時、男は酒をあおって寝、女は泣きつぶれて寝るという。本当か?

https://www.youtube.com/watch?v=Uxy9Keo_KVc

 

河島英五が歌ってヒットした「時代おくれ」という曲がある。昭和61年にリリースされたが、日本酒のコマーシャルソングであったそうだ。

作詞:阿久悠、作曲:森田公一

河島英五版

https://www.youtube.com/watch?v=FPzjn9iogxc

玉置浩二がカバーしているがこれがいい。

https://www.youtube.com/watch?v=2mVwR15KamU

 

(191)シクラメンのかほり(昭和50年)

作詞作曲:小椋佳、布施明が歌って100万枚を超える大ヒットとなる。

https://www.youtube.com/watch?v=wGVVJXvSWC0

 

(192)無縁坂(昭和50年)

作詞・作曲・歌:さだまさし。

https://www.youtube.com/watch?v=kiXvdDhUJ3A

 

精霊流し(昭和49年)

https://www.youtube.com/watch?v=YYdv1XrCqX8

 

案山子(昭和52年)

https://www.youtube.com/watch?v=q-YWPosTX1M

 

関白宣言(昭和54年)

https://www.youtube.com/watch?v=tsXkp9FVzgg

 

関白失脚(昭和54年)

https://www.youtube.com/watch?v=pq9hnKyZtuU

 

雨やどり(昭和52年)

https://www.youtube.com/watch?v=C_5AcQyINh8

もう一つの雨やどり

https://www.youtube.com/watch?v=C_5AcQyINh8

 

(193)わかって下さい(昭和51年)

作詞・作曲・歌:因幡晃でヒットした。

https://www.youtube.com/watch?v=3OCZluBj2xQ

ちあきなおみ版である。これがいい。

https://www.youtube.com/watch?v=V8C__pkd4jM

 

(194)あんたのバラード(昭和52年)

世良公則作詞・作曲、世良公則&ツイストのデビュー曲。

https://www.youtube.com/watch?v=OKl-WniLtzs

 

(195)ホームにて(昭和52年)

中島みゆき作詞・作曲・歌。中島みゆきの隠れたヒット曲である。

https://www.youtube.com/watch?v=FfwQVTa-9l0

昭和50年代から中島みゆきが注目されヒット曲を量産していく。

アザミ嬢のララバイ

https://www.youtube.com/watch?v=uGnyHf1cm-0

時代

https://www.youtube.com/watch?v=Ry_bpaKDcAo

ファイト

中島みゆき版

https://www.youtube.com/watch?v=gYzaUDa4A90

吉田拓郎版  これがなかなかいい。

https://www.youtube.com/watch?v=S8GVuQhf7WQ

 

(196)青葉城恋歌(昭和53年)

星間船一作詞、さとう宗幸作曲・歌。

https://www.youtube.com/watch?v=u-GYBCktieU

 

(197)いい日旅立ち(昭和53年)

谷村新司作詞・作曲、山口百恵が歌ってヒットした。国鉄の旅行キャンペーンソングである。

https://www.youtube.com/watch?v=QKjLZkAdDus

 

山口百恵が登場したので、さだまさしの「秋桜」も挙げておこう。

https://www.youtube.com/watch?v=mBmp1ThfGt0

 

(198)季節の中で(昭和53年)

松山千春作詞・作曲・歌。

https://www.youtube.com/watch?v=QHQvJd1cg-0

 

(199)贈る言葉(昭和54年)

作詞:武田鉄矢、作曲:千葉和臣、海援隊が歌った。

https://www.youtube.com/watch?v=9c5SbpPMUEE

 

(200)恋人よ(昭和55年)

作詞・作曲・歌、五輪真弓。

https://www.youtube.com/watch?v=qhsEV3SAT4w

 

(201)昴

作詞・作曲・歌:谷村新司。これもアジア全域で歌われたロングヒット曲である。

https://www.youtube.com/watch?v=VMhAgFIgfpg

 

(202)なごり雪(昭和50年)

作詞・作曲:伊勢正三、かぐや姫、カバーイルカでヒット。

https://www.youtube.com/watch?v=H2TR3oEA13o

雨の物語(昭和52年)

https://www.youtube.com/watch?v=OKN_zkHcEs0

 

(203)俺ら東京さ行ぐだ(昭和59年)

作詞・作曲・歌:吉幾三

https://www.youtube.com/watch?v=UzRVEQDxiOo

俺はぜったい!プレスリー

https://www.youtube.com/watch?v=7OareNAj6fc

 

(204)ワインレッドの心(昭和54年)

作詞:井上陽水,作曲:玉置浩二、安全地帯。

https://www.youtube.com/watch?v=IbdcIIY3_EU

 

メロディー(昭和61年)

https://www.youtube.com/watch?v=nIACxpcD4r4

 

 

<戦後昭和とは?>

 

  歌謡曲を通して戦後昭和の様相を見てきた。戦争で失った350万人を超える命と引き替えに、戦後は「進歩」こそが正義であるとして突き進んだ。思想・制度は、自由主義的民主主義国家先進国であるアメリカの借り物でよい。経済を立て直し、貧乏からの脱却こそが進歩だと。

  戦後昭和は、奇跡的な経済回復を成し、昭和末期のバブル経済により世界第二位の経済大国に上り詰めた。

  破れかぶれに歌った「リンゴの唄」に始まる大衆歌は、昭和40年代にフォークへ、50年代にはニューミュージックへと変容する。

  この日本にオルテガの言う「大衆」と呼べる群衆が誕生するのは、この戦後昭和期になってからである。昭和40年代末の赤軍事件を最後に、この国では政治的思想に基づくテロは起こっていない。平成に入ってからオウム真理教事件が発生するが、政治性の微塵もない。

  昭和末期には、日本の科学技術は世界でも有数のものとなっていた。つまり世界でも有数の文明国となっていたのである。オルテガが言うように、昭和50年代以後に誕生した子供達にとって、文明の諸原理はどうでもよく、文明の産物にこそ感心がある。これは、現代にも通じる。スマホという文明の産物には熱中するが、スマホという文明の諸原理には感心がないのである。2000年代に入ると、当時の10代後半、20代、30代の若者達の純粋科学に対する関心は極めて低くなった。オルテガが「大衆の反逆」を書いた1930年代のヨーロッパも同じであった。

 

  歌謡曲を聞いていると、ニューミュージックというジャンルにおける言葉の多さが気になってしょうがない。これでもかと日本語ばかりではなく、英語も交えてやたら沢山並べ立てる。これは、現代歌謡でも同様である。考えようによっては、言葉はどうでもいいのだ。歌には言葉が必要で、ハミングだけでは物足りないからではないかと思える。

  日本語の詩には韻がないので、言葉の持つリズムが唄になる。それが、言葉と一緒になって心に響く。つまり、感情を揺り動かす。中脳から直接大脳前頭葉に延びるニューロンに信号が走り、言葉の意味を瞬時に解読するのである。

  人間だけが理解する音楽とは、こういうものではないだろうか。

 

  戦後昭和の歌謡曲を随分聞くことができた。ついでに、ギターで弾き語りをしていると、老化した自律神経が再生されるような気がする。

 

  次回は、エピローグとして、オルテガをまとめることにする。1930年代ヨーロッパの大衆の精神と、ウクライナ戦争下の現代大衆は、よく似ているのである。歴史は必然であり繰り返すことはない。しかし、精神の退化・後退はあるのである。

2023/08/12