柴田祐二の婚約者である南由美子が、お茶を運んできてくれた。
八女茶の芳醇な香りが、極上のセラピーのように峰子をリラックスさせてくれた。
そこに柴田祐二が沢山の書類を持って現れると、挨拶も早々に報告と説明を始めた。
坂本保からの殺人未遂の件。
坂本朝治からの殺人未遂の件。
坂本朝治からの名誉棄損の件。
村井安男からの名誉棄損の件。
週刊分瞬に対して、虚偽の記事による名誉棄損の件。
古田清元弁護士からの名誉棄損の件。
これらの案件について、峰子が納得して承諾すれば、遂に示談を迎えるのだ。
峰子はまず、坂本保の件について、示談を承諾した。
きっと彼は極刑は免れないだろう。
彼にはもう未来はない。
峰子は、前を向いて今を生きている自分を感じた。
坂本朝治に於いては、実刑判決が出る可能性が濃厚だったので、減刑の為に峰子との示談が不可欠だった。
彼が週刊誌の記者を使って余計な事をせず、大人しくしていれば、今頃、執行猶予付きの判決で済んでいたはずだったのに、バカな事をしたものである。
現時点で拘留中の坂本朝治は、示談を急ぐ為に破格の慰謝料と書面による謝罪を提示してきた。
峰子は、謝罪を受ける事と慰謝料で合意し、示談する事を承諾した。
古田元弁護士とも、謝罪と慰謝料を受け取る事で合意し、峰子は示談を決めた。
元弁護士だけあって、非常に事務的にスムーズに話し合いが進んだと、祐二は笑った。
週刊分瞬との話し合いもスムーズだったが、村井安男との話し合いが中々進まず、柴田祐二は苦労したようだった。
しかし、何とか村井とも話が付いたと聞き、峰子は示談を承諾した。
峰子に報告を終えて、示談の承諾を得ると、柴田祐二は心から安堵した。
その顔には疲労の色が浮かんでいたが、表情からは達成感の大きさが感じられた。
峰子は感謝を込めて言った。
「先生、本当にありがとうございました。先生のお陰で安心していられました。」
「いえいえ、今回は僕も学ぶ事が沢山あって、有意義な時間でした。それに峰子さんのお陰で、来週からはテレビ番組のレギュラーが決まりました。」
「それは先生の魅力と実力ですよ。ね、由美子さん(笑)」
由美子が赤くなって笑った。
思い出したように祐二が言った。
「あ、そうそう。峰子さんのご両親ですが、金銭の要求をした件で、重大な約束事項に対する違反行為により、峰子さんがあなた方からの虐待の事実を新聞のコラムで公表する、とお伝えしておきました。」
「ありがとうございます。コラムにバッチリ書いたので、少しは大人しくなってくれれば良いんですが。」
「周りの目を気にされる方々なので、コラムが出れば、きっと変化すると思います。」
峰子は頷いた。
「そうですね。全部上手く行く気がします。」
タイミング良く、由美子が笑顔と共に、お茶のお代わりを出してくれた。