龍慈ryuukeiのブログ -3ページ目

龍慈ryuukeiのブログ

愛一元の世界ここに在り。
https://market.orilab.jp/user/632c1a54eb613 

その日、峰子はマネージャーの神野と、関西ローカルのテレビ局にいた。

 

 

お昼の情報番組で、水曜日のレギュラーコメンテーターとして選ばれたのだった。

 

その番組は、司会を売れっ子芸人が勤めていて、弁護士や大学の教授や作家等の著名人がご意見番として、ピリッと辛口の発言をする事で人気のある、全国放送の番組だった。

 

峰子はそこにタレント枠で入ったのだ。

 

 

峰子は神野と共に、共演者の楽屋を爽やかに挨拶回りして、礼儀を尽くした。

 

 

生放送の二時間番組は、峰子にとって刺激的で楽しい時間となった。

 

 

無事に放送が終わると、峰子は水曜日のレギュラーの皆さんから歓迎会に誘われた。

 

 

峰子は歓んで神野と参加する事にした。

 

 

共演者の人たちは、皆素敵な人ばかりだ。

 

 

峰子は、自分のような若輩者にも、分け隔てなく歓迎会を開いてくださるという、人生の大先輩たちの心遣いに、とても感謝した。

 

 

場所はミナミの周防町にある『ピッグテール』というキャッシュオンデリバリーのお店だった。

 

 

自分で選んで、カウンターで注文してその場で支払う形なので、飲みたいモノを飲み、食べたいモノが食べられる。

 

 

峰子は、そのお店の雰囲気がとても気に入った。

 

 

初めてダーツをしたりして、峰子は愉しく大人の気分を味わった。

 

 

貸し切りではないので、他のお客さんもいたが、殆どが外国人で日本人は少なかった。

 

 

 

歓迎会がそろそろお開き、という頃、ある一人の白人男性が峰子に話しかけてきた。

 

 

神野は別の用事が出来て、先にお店を出ていた。

 

 

その男性は、峰子が一人になるのを待っていたようだった。

 

何度か目が合っていたので、峰子はそう感じた。

 

 

流暢な日本語で話しかけてきたその人は、マイケルと名乗った。

 

 

そこで峰子は気付いた。

 

マイケルの口は動いていない。

 

テレパシートークだった。

 

 

峰子もテレパシーで返答した。

 

 

「貴女アメリカに来ませんか?」

 

「旅行という事ですか?」

 

「いえ、Lhasaであなたの特技を使う。仕事のスカウトです。」

 

「スカウト?」

 

「はい、この会話はシールドされていて、他の人には聞こえません。ご安心を。」

 

 

峰子は少し笑った。

 

 

神野には内緒にしたい内容なのだろう。

 

 

マイケルは続けた。

 

 

「興味ありますか?」

 

「余り無いです。ごめんなさい。」

 

「でもね、報酬は一時間で一千万円です。今の報酬とは比べ物にならないでしょ?」

 

 

マイケルは肩をすくめて掌を天井に向けてお道化て見せた。

 

 

「でもそれ、結構な条件があるんでしょ?」

 

「まぁね。家族や友達や会社、地球の平和の為に今までの人間関係を全部切ります。そしてLhasaの施設で生活する。生活のすべては保障されます。好きな物を飲んで食べて、好きな物を着ます。でも他からの仕事は受けてはいけない。外出する時には安全の為SPが付きます。」

 

「それじゃあ、お金が沢山あっても、愉しく遊べないですよね。それは嫌です。」

 

「一時間二千万円でもダメですか?」

 

「使えないなら、持って無いのと同じですよ。」

 

「残念です。でも気が変わったら、マイケル!と呼んでください。結社にはご内密に。」

 

「結社の人には言いませんよ。」

 

「thank you!」

 

 

マイケルは手を振ってお店から出て行った。

 

 

峰子は共演者の皆さんに感謝を告げて、帰路に就いた。

 

 

地下鉄に乗ると、中吊り広告のポスターで里美が笑っていた。

 

 

一柳から、里美が来月歌手デビューすると聞いていた。

 

 

里美は里美で、忙しく頑張っているのだ。

 

里美の人生の時間は、勢いよく流れ始めている。

 

 

里美は志事が忙しくなるので、先月セキュリティーのシッカリした大阪市内のマンションへと引っ越して、気の合う女性マネージャーと住んでいた。

 

 

そのマンションからは、天神さんの花火が奇麗に見えるそうだ。

 

 

峰子も一緒にどうか?と一柳に言われたが、峰子は断った。

 

 

今住んでいる家の意識が気に入っていたし、結界が心地良かったからだ。

 

 

それに、龍君の好物のコロッケは、ここじゃないと手に入らないのだ。

 

 

帰宅すると、峰子は家に挨拶して、留守を守ってくれていた事に感謝した。

 

家も峰子に、おかえりなさいと帰宅に感謝を返してきた。

 

 

冷蔵庫から冷えた麦茶と茹でたトウモロコシを出し、夜食を少し食べて、ゆっくり湯船に浸かって入浴した。

 

峰子は、こうして丁寧に生活をするのが好きだ。

 

 

風呂上がりに、柔らか目の歯ブラシを使って、時間をかけてプラークコントロールをする磨き方で歯を磨くと、一日の終わりがスッキリする。

 

 

 

ずっと張り付いていたLhasaの監視も、この家の中に入った途端に気配が消えてしまった。

 

この家は、デキル子なのである。

 

 

しばらくの間、スカウトを受けた峰子は監視対象になるだろう。

 

 

Lhasaと対立する集団にも、気を付けるようにしようと、峰子はベッドに入って考えた。

 

 

そして、明日を楽しみにしつつ眠りに就いた。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

ピッコラの本名は、ピッコラッテ・ソルド・イスヴォール・フォンダリス~~~~~~~という長い名前だったので、峰子は彼女の了解を得て、ピコちゃんというニックネームで呼んでいた。

 

 

峰子が8歳の時に、深夜ピッコラがやって来て、峰子の特技で仲間の命を救うように頼んだのがふたりの出会いだった。

 

特技を施すと、仮死状態だったピッコラの仲間は、息を吹き返し健康を取り戻した。

 

 

その後、峰子はそのまま太陽族の船に乗って、ピッコラと一緒に過ごし、様々な事を学んだ。

 

 

宇宙の成り立ちやシステムについて。

 

宇宙に存在する多種多様な種族について。

 

エネルギーの法則について。

 

太陽族の哲学について。

 

 

そうして数年が経ったある日、峰子は太陽族の長老に言われた。

 

 

「貴女は帰る時が来た。送って行こう。」

 

「そうなんですね。寂しいけど、判りました。」

 

「今からタイムリープします。」

 

 

長老がそう言った途端、峰子はピコちゃんと初めて会った深夜の裏庭にいた。

 

我に返った峰子は、8歳の姿形に戻っていた。

 

 

それ以来、峰子はたまに、ピコちゃんから来るテレパシーで交流していたが、ここ数年音沙汰が無かったのだった。

 

 

ピッコラとの再会が、この様な形になるとは思っていなかったが、ここで会えて特技が役に立って本当に良かったと、峰子は心の底から安堵したのだった。

 

 

 

 

 

元氣を取り戻したピッコラは言った。

 

 

「火星に来て、他の種族との交渉や、テラの今後についての会議等で忙しくしていたんだけど、人類との交流に、何だか疲れてしまったの。」

 

「人類の発してるエネルギー粒子は大きいからね。粒子が微細で繊細なエネルギーのピコちゃんには、石をぶつけられたみたいに痛かったでしょ。」

 

 

ピッコラは悲しげに頷いた。

 

 

峰子が言った。

 

 

「宇宙人さんたちと違って、人類は嘘を吐くからね。純粋な種族にはしんどいよね。」

 

「私たちはテレパシーだから、全部見えるもの。だから混乱したの。」

 

「ホント、正直な方が楽なのに誤魔化そうとするのよね。あ、ハート、もう大丈夫でしょ?」

 

「ホントだ。全然痛くないよ。」

 

「もう少ししたら、人類もエネルギーが繊細になってくるはずだから、それまでは大丈夫なように免疫付けたからね。」

 

「ありがとうございます。」

 

「ピコちゃん、会えて嬉しかった。またね。」

 

「必ず、またね。」

 

 

 

ピッコラに別れの挨拶をして、ノルたちに感謝を伝えた峰子は、待っていたマスターと栄太と共に帰路に就いた。

 

 

帰り路での三人の会話は、長年の友との会話のように、峰子を愉しませた。

 

 

あっという間に時間が過ぎて、峰子はマクドナルホに着いた。

 

 

別れ際、峰子は栄太たちに言った。

 

 

「ありがとうございました。じゃあ、気を付けてプレアデスに帰ってね。」

 

「あ、地球人じゃないってバレてた?」

 

「あまりにも周波数が違いますから~(笑)」

 

 

栄太たちは大笑いしながら帰って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

全員が珈琲を飲み終わった。

 

 

マスターは脱いだエプロンを椅子に掛けると、総ての窓のロールカーテンを下ろし、ドアに鍵をかけた。

 

 

「さあ、では行きましょうか。」

 

 

そう言うと彼は、栄太と峰子に笑いかけながら、店の奥へ入るドアを開けた。

 

 

ドアから中へ入ると廊下があり、突き当りにエレベーターがあった。

 

 

マスターがボタンを押すと、エレベーターの扉が静かに開いた。

 

 

エレベーターは案外広かった。

 

 

三人が乗ると扉はすぐに締まり、ゆっくり動きだした。

 

 

しかし、3分程経っても、エレベーターは動き続けている。

 

体感では地下へと下降しているのだが、一体どれほど深く降りているのだろうか?と、峰子は考えていた。

 

考えている内に、ひとつの記憶が峰子の脳裏に浮かんできた。

 

 

それは、峰子が8歳の頃に行動を共にした太陽族の友達に聞いた、地球の地底に住むアンシャールという宇宙種族と、それに繋がって活動している人類の話だった。

 

 

多分、結社の基地が、そこにも在るはずだ。

 

 

マスターが峰子の表情を読んで言った。

 

 

「52階へ行きます。降りたら乗り物に乗ってポータルを移動します。今回はアンシャールの所へは行きません。」

 

「峰子は軽く頷いた。」

 

 

栄太が笑って言った。

 

 

「峰子さん、胆座ってるやん。」

 

「私はワタシの志事をするだけやから。」

 

 

マスターが感心して言った。

 

 

「降りたら迅速に行動してください。野良エイリアンが襲ってくるのでね。」

 

「はい、判りました。」

 

 

やっと目的の地下層について、エレベーターの扉が開いた。

 

 

目の前には、タイヤのない乗り物があった。

 

それは、猫型ロボットのアニメに出て来るタイムマシーンに、どこか似ていた。

 

 

三人が速やかにそれに乗り込むと、乗り物は浮かんで移動を始めた。

 

 

やがて空間の裂け目のような穴に入ると、乗り物は火星の基地を目指して進んで行った。

 

 

火星の基地側のポータルが開き、乗り物はそこから中へと入って行く。

 

 

同じような乗り物や、宇宙空間で作業するシャトルのような小さな飛行物体が並んでいる場所に、乗り物が停まった。

 

 

峰子たちが下りると、ヒューマノイド型の宇宙人10人が出迎えた。

 

 

一番年配らしき宇宙人が、礼儀正しくテレパシーで言った。

 

 

「ようこそ。私はノルです。」

 

「私は峰子です。」

 

 

全員の挨拶が終わると、ノルは峰子にターゲットについての必要な情報を送った。

 

そして尋ねた。

 

 

「治癒は可能ですか?」

 

「できます。所要時間は一時間です。」

 

 

ノルを始め、出迎えた者たちに安堵のエネルギーが満ちた。

 

 

「我々の技術ではもう、どうしようもなかったので、できると聞いて安心しました。」

 

 

峰子は優しく頷いた。

 

 

「どれだけテクノロジーが発展しても、生き物は生き物でしか治せない部分があるんです。」

 

「そうなんですね。」

 

「粘土細工は粘土で治し、クラフトは紙で治すでしょ。」

 

「ああ!なるほど!」

 

 

宇宙人たちが感心して頷いた。

 

栄太とマスターも同様に頷いていた。

 

 

 

ひとつの大きな部屋に案内されて中に入ると、様々な医療機器に繋がれた3メートルはある老いた宇宙人女性が横たわっていた。

 

 

もはや死を待つのみといった状態で、全身が灰色にくすみ、目は落ち込み、呼吸は浅く、内臓機能は停止寸前であった。

 

 

峰子はベッドに近付いて、テレパシーで語りかけた。

 

 

「ありがとうございます。貴女がここに居てくださって感謝します。心から愛しています。」

 

「貴女は誰?」

 

「私は峰子。ピコちゃん。私を覚えているでしょ?」

 

「みねこ!」

 

 

彼女は大きな目から大粒の涙を流した。

 

 

峰子は細胞の組成再生の為、育みの愛のエネルギーを共鳴しながら、再び言った。

 

 

「貴女は私の大好きな友達。愛しています。愛されています。」

 

 

その瞬間、彼女の心身の問題や症状は、一瞬で全部解決した。

 

 

肌の色は奇麗な金色に戻り、目には生気が戻って美しい青緑色に輝き、細い手足にも体全体にも、しなやかさと弾力と張りがでた。

 

 

峰子はそれから、彼女に1500年分の若返りを施した。

 

 

峰子からピコちゃんと呼ばれた太陽族のピッコラは、ゆっくり起き上がって伸びをした。

 

 

 

彼女は峰子に言った。

 

 

「私も貴女が大好きです。愛してますよ。」

 

 

目が合った二人は微笑み合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セミが鳴き始めた暑い日の午後3時。

 

 

峰子は一柳からの電話で、結社の志事を受けた。

 

 

その志事のターゲットには、より厳重な警護が付いてくるらしい。

 

 

峰子が指定された時間に、家から一番近い幹線道路にあるマクドナルホの前で待っていると、窓にスモークシールを貼ったハイエースが、店の駐車場に入って来た。

 

 

車の中から、大学生風の一人の男性が出て来て、峰子に声を掛けてきた。

 

 

「オッスオッス峰子~。お待たせ~。」

 

 

峰子は、その男性のセリフの棒読みぶりに、笑いを堪えるコトが出来なかった。

 

 

「あはは!そんな待ってないよ~(笑)」

 

「良かった、ほな行こか~。」

 

 

やっぱり棒読みだった。

 

峰子は思わず小声で呟いてしまった。

 

 

「癖つよっ!」

 

 

二人で車の後部座席に乗ると、男性は照れながら言った。

 

 

「そんな笑わんとってくださいよ。」

 

「これは不可抗力です(笑)」

 

「まあ、しゃあない。」

 

「ごめんなさい。」

 

「僕こういうのん下手なんですわ。」

 

「芝居しなくても、普通に声かけてくれはったらええのに。」

 

「一応、決まったマニュアルがあるんですわ。」

 

「そうなんですね。」

 

「はい。そうそう、言い忘れるとこやった。コホン。これから見る事聞く事は一切他言しないようにお願いします。」

 

「はい、判りました。」

 

「僕の事は栄太と呼んでください。」

 

「はい、栄太さん。」

 

 

峰子が微笑んで栄太の顔を見ると、目が合った。

 

その途端、彼の顏が真っ赤になった。

 

 

それをミラーで見たのだろう。

 

運転している男性と助手席の男性が、堪えきれず笑った。

 

 

栄太は咳ばらいを何度もしながら言った。

 

 

「これから、とあるお店へ向かいます。安全運転で行きます。」

 

「どうぞよろしくお願いいたします。」

 

 

車はいつの間にか高速道路に入り、京都方面へ向かっていた。

 

高速道路特有の、規則的な心地良い振れが、峰子の眠気を誘う。

 

 

栄太が言った。

 

 

「一時間程走るんで、寝てても良いですよ。」

 

「ありがとうございます。」

 

 

峰子は遠慮なく眠りに就いた。

 

 

一時間強で、車は山の中に在るカフェへ到着した。

 

 

運転していた人と助手席の人に一礼をして、峰子は車を降りた。

 

山の空気は涼しくて、小鳥たちのさえずりが聞こえる。

 

 

峰子は深呼吸すると、栄太の後に続いて山小屋風の建物の中に入った。

 

オシャレな店内だが、一人の客もいなかった。

 

 

少し待っていると、奥からエプロン姿のマスターらしき男性が出てきて、峰子たちに微笑んだ。

 

 

「とりあえず、お茶してから行く?」

 

「はい、そうします。峰子さんは珈琲?」

 

「はい、目覚ましに、お願いします。」

 

「じゃあ、濃い目ですね。」

 

 

頷きながら峰子は思った。

 

 

確かに、今回のように何気ない合流の方が目立たない。

 

SPが何人もいて重装備するよりも、こちらの方が厳重な警備になのかもしれない。

 

 

峰子は、炭焼き珈琲の香ばしい香りに癒されつつ、これから起きる事に対して、何故か期待が高まって来るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一柳は峰子に伝言を頼んだ件で、里美と面談した結果、彼女と契約する事になった。

 

 

 

一柳は、自分の勘に狂いはなかったと満足していた。

 

 

長田姉妹はとても不思議な魅力があって、人を惹きつける。

 

峰子には峰子の、里美には里美の、その人にしかない魅力があった。

 

 

一柳の頭の中には、既に、里美を売り出す為の色んな構想が、どんどん浮かんでいた。

 

 

まずは雑誌のモデルから始めて、歌唱力や演技力を磨き、行く行くは大河ドラマへの出演を目指そうと、一柳は思っていた。

 

 

 

里美が一柳と契約をする数日前。

 

里美が、峰子から聞いた一柳の話を彼氏のおっ君に相談すると、彼は大喜びして言った。

 

 

「里美ならすぐ人気出るで!僕応援するわ。結婚はいつでもできる。けど、その話は今じゃないと出来へんやろ?」

 

「ホンマにええのん?ほな、やってみよかな?」

 

「うんうん、しんどくなったら、いつでも話聞くしな。社会経験も大事やしな。」

 

「うん、ありがとうございます。」

 

 

 

こうして、里美は一柳の事務所に所属して、志事を始める事になったのだった。

 

 

それから里美は、アルバイトを辞めて、高校に通いながら芸能活動をするという、忙しい毎日を送る事になったのである。

 

 

峰子は、一柳の事務所なら、里美が安全に志事できるだろうと安心していた。

 

 

そして峰子自身も、忙しく毎日を送る事になって行った。

 

 

特に、結社からの依頼は増えていき、週に一度は結社絡みの志事をするようになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

田嶋屋のコロッケを頬張りながら、伯爵は言った。

 

 

「何か、前よりアッサリした味になった?」

 

「揚げ油がラードから米油に変わったんやて。」

 

「へえ~。なるほどね。美食家の俺的にはこっちの方が好きかも~。」

 

「カレーコロッケとかカボチャコロッケとかの味も、米油の方が美味しいやんね。」

 

「うんうん。素材の味が活きてるよな~。」

 

 

こうして大量のコロッケがあっという間に無くなった。

 

 

「ごっつぉ~さん!」

 

「よろしゅうお上がりでした(笑)」

 

 

峰子とゆっくり話すのは久しぶりの伯爵だったが、ふたりのおしゃべりが尽きる事はなかった。

 

 

 

夜になって、伯爵が帰って行くと、峰子は里美の分のコロッケをお皿に盛りつけて、テーブルに置いた。

 

里美に、一柳からの伝言を預かって来ていたので、今夜は里美とのお喋りにも花が咲きそうだ。

 

 

一柳は里美を一目見て、その明るくオチャメで可愛らしいキャラクターを気に入った。

 

里美がもし演技やモデル活動等に興味があるなら、是非スカウトしたいそうだ。

 

 

そこで、一柳に頼まれた峰子が、その伝言を里美に伝える事になったのだった。

 

 

里美は演劇部だったので、峰子はこの話にワクワクしていた。

 

 

 

里美と峰子の外見は、あまり似ていない。

 

性格も全然違う。

 

 

里美は小柄でアイドルのように可愛いくて、言葉のセンスが良く、小さい頃からモテモテだった。

 

峰子はどちらか言えば背が高くクール顔で、お笑いの神様に愛され過ぎて、彼氏いない歴=年齢だった。

 

 

この様に、姉妹のタイプは真逆だった。

 

だからこそ、二人共とても個性的で、それぞれの良さがあった。

 

 

 

アルバイトから帰って来た里美に、峰子は一柳からの伝言を伝えた。

 

 

里美は少し考えて言った。

 

 

「どうしようかな~。」

 

「いいお話やで。」

 

「そやな~。でも、今日プロポーズされてん。」

 

「プロポーズって……結婚してくれってやつ?」

 

「あはは!お姉ちゃん、なんちゅう顔してるのん!わはは!かお!かお!」

 

 

峰子はもうすぐ18歳の誕生日を迎える妹から、結婚というワードが出てきた事に心底驚いていた。

 

 

里美が続ける。

 

 

「だって、おっ君もうすぐ30歳やから。」

 

「あれ?おっ君て誰?」

 

「彼氏。」

 

「彼氏って、明ちゃんって人じゃ?

 

「それ、前彼。」

 

「いつの間に?」

 

「お姉ちゃんの知らん間に。」

 

「そうなんや。里美が好きに選んだらええよ。どっちでも応援するし。」

 

「ありがとう。」

 

 

里美が通っている歯医者さんが、偶々里美のバイト先に来て、仲良くなったらしい。

 

 

それがおっ君だったそうだ。

 

 

峰子がボソッとつぶやいた。

 

 

「私が恋愛に発展する縁って、どこに有るんやろ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午前10時。

 

 

峰子と神野の部屋のドアが、それぞれノックされ、二人のスーツケースが先に運び出された。

 

峰子と神野はまた、昨夜のように囲まれて、直接駐車場に誘導された。

 

 

チェックアウトは既に済んでいるようだ。

 

 

駐車場には、装甲車のような大きな車が4台あった。

 

峰子と神野は別々の車に乗せられ、空港に着いた。

 

 

空港でプライベートジェットに乗せられた二人は、離れた席に案内された。

 

 

プライベートジェットの乗り心地は最高だった。

 

席はゆったりしていて、巨漢の人でも余裕で座れるであろう広さがあった。

 

 

峰子は席をリクライニングにして、提供された常温の水を飲んでリラックスした。

 

同乗者からは何の悪意も感じなかった。

 

峰子たちが静かにしている限り、彼らの任務は同行するだけで済む。

 

 

7時間かかって、飛行機はアラビアン首長国連邦の首都ニクマンにある空港に着いた。

 

 

峰子たちはまた、装甲車のような車に別々に乗せられ、少し走るとすぐに目的地に着いた。

 

 

そこは広大な敷地にそびえ建つ宮殿だった。

 

 

宮殿の中に入ると、神野は男性専用の建物へ、峰子は女性専用の建物へ、それぞれ連れて行かれた。

 

 

そこにはそれぞれ日本語が話せる人がいて、通訳として二人に付いた。

 

 

峰子はその通訳に、これから峰子は、この国の宗教に帰依する儀式が行われると聞かされた。

 

 

この宗教に入っていないと、結婚できないからと説明された。

 

 

峰子は言った。

 

 

「私は宇宙の真理と自分を信じています。そういう意味で宗教心はありますが、特定の宗教団体には入りません。拒否します。」

 

 

それを聞いた通訳は困った顔で言った。

 

 

「決まった事です。寺院へ行きましょう。きっと感動されます。」

 

「建物としては凄いんでしょうが、私はそこに行っても誓いませんよ。」

 

「とりあえず、行ってみましょう。」

 

 

峰子は通訳に促され、奇麗な民族衣装に着替えさせられてから、数人の女性たちと共に寺院へ行った。

 

 

女性が入れる所は決まっていて、天井の高さが5メートル程もある大きな広間に着くと、女性たちが敷物を敷いた。

 

峰子はそこに座るよう言われた。

 

峰子が10分位、座って待っていると、司祭のお爺さんが現れた。

 

 

歌うようにお経の声が聞こえ、儀式が始まった。

 

 

司祭が通訳に頷き、カセットデッキを止めると、そのお経の声が止まった。

 

 

すると通訳が言った。

 

 

「儀式は終わりました。次は結婚式です。」

 

「えっと、もう終わったの?」

 

「はい。時間外なので物凄い略式です。」

 

「へえ~。カセットテープで略式ね(笑)」

 

 

峰子は次に、寺院を出て、宮殿の中庭に作られた結婚パーティー会場に連れて行かれた。

 

 

そこは男女が一緒に過ごせる数少ない場所だと言う。

 

 

花嫁の席に案内され、峰子は座った。

 

そこに囲み隊に囲まれた神野が連れて来られた。

 

彼は峰子のお父さん役をやらされるそうだ。

 

峰子はそれを聞いて笑った。

 

神野は峰子より少し年上なだけだったからだ。

 

 

そうこうしていると、ハッサンが現れ、峰子の横に座った。

 

ハッサンは通訳に何かを言った。

 

通訳がそれを峰子に伝えた。

 

以下は通訳を介しての会話である。

 

 

「君はここの生活を気に入る。すぐ慣れる。すべてはタッラーの思し召しだ。」

 

「私は日本人です。貴方に私を拘束する権利はありません。私を誘拐して自由を奪った事、後悔しますよ。」

 

「毎日愉しく贅沢三昧だぞ。」

 

「そんなの望んでいません。」

 

「私が望んでいる。」

 

 

峰子が何を言っても、ハッサンは余裕の顏でクシャッと笑った。

 

 

しかし、ハッサンのシワだらけの笑顔が恐怖で凍り付く時が来た。

 

 

パーティー会場に伯爵が現れたのだ。

 

 

伯爵がテレパシーでハッサンに言った。

 

 

「お前は何の権利があって、我の友を誘拐したのだ?」

 

「ひえええええええええええ!悪魔だあああああああああ!」

 

 

体長3メートルのコモドドラゴンのような恐竜が目の前に現れて、頭の中に直接話しかけてきたのだ。


そこにいた者は、兵隊も、他の沢山の妻たちも、召し使いたちも、客人も、皆が恐怖に震えた。

 

 

伯爵が全員を睨み、わざと大きく口を開けて怒鳴った。

 

 

「お前たちも我に逆らう者か?助かりたければ去れ!」

 

 

それを聞いて、そこにいた皆がハッサンを残して、大慌てで逃げ去った。

 

 

ハッサンは腰を抜かして動けなくなっていた。

 

 

伯爵は、気持ち良く悦に入って続けた。

 

 

「ハッサンよ。結社からの連絡を無視したそうだな。やり過ぎたな。この恩知らずめ!」

 

「わわわわわわわわ~お許しを~!」

 

「ひと~つ、この世、女の自由を奪い、ふた~つ、不埒な我儘三昧、みっつ~、醜い自分本位の鬼を、退治てくれよう~龍太郎!」

 

 

峰子と神野はここまで聞いて、大笑いしてしまった。

 

日本で流行った時代劇を思い出したのだ。

 

 

しかし、ハッサンには大きな恐怖となったようで、彼は気を失ってしまった。

 

 

峰子は伯爵に言った。

 

 

「ありがとうございました。でも龍君、さっきの口上(笑)」

 

「一回やってみたかったんだよね。どう?決まってたっしょ?」

 

「うんうん。お礼にカレーコロッケもオマケするわ。」

 

「やった!」

 

 

その会話を聞いて笑っていた神野が言った。

 

 

「結社の人間が来ました。」

 

 

見ると、白い宇宙服のような高機能スーツの男性が15人来ていて、3人がハッサンを拘束して連れて行った。

 

残りの6人は、幽閉されていたムハンマドを解放し、議会を開かせ、世界政府が決定したハッサンへの制裁とアラビアン首長国連邦の今後を伝えた。


後の6人が峰子と神野を車に案内し、空港からプライベートジェットに乗り、一緒に日本へと帰って来た。

 

 

 

伯爵は、自分の乗って来たユーフォーにテレポーテーションして乗り、帰って行った。

 

 

数日後、アラビアン首長国連邦のハッサン王が体調不良を理由に引退し、王位が息子のムハンマドに継承されたというニュースが、世界中に流れた。

 

 

 

峰子はハッサンがどうなったのか?誰にも聞かなかった。

 

 

坂本医師以上に、独裁者のハッサンは、沢山の男女の自由を奪い、逆らう者を次々に粛清していたのだ。

 

そのやり方は、残酷で無慈悲なものであったという事も判った。

 

 

峰子はハッサンを助けた事に対して、少し複雑な気持ちになった。

 

とは言え、結社からの依頼を受け、源の采配でこれからも動く自分を、疑問に思ってはいなかった。


峰子の特技は、病やケガで困っている人に対して、分け隔てなく発動されるので、源の采配がGOなら、どんな悪人であっても癒す結果になるのだ。

 

 

しかし、起きる事、起きた事の総ては最善なのだ。


人間の峰子には、分からない。


善悪や正邪は関係ないのだ。


ただ、需要と供給があり、起きる事が起きているのだ。

 

 

峰子は立ち上がると、久しぶりの家事を済ませてから、沢山のコロッケを買いに、田嶋屋へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午前7時。

 

 

ムハンマドからの電話で、神野は目覚めた。

 

 

「はい。」

 

「ムハンマドやけど、色々ホンマすんません。」

 

「あ、いや、はい。」

 

「僕、何回も父を止めたんやけど、僕の言う事まったく馬耳東風やねん。」

 

「ムハンマドさん、今は危ない事はせず、大人しくしていてください。大丈夫ですから。」

 

「ホンマに?ホンマに大丈夫なん?」

 

「ええ。ですから今はお父さんに逆らわず、いざという時に力を貸してくれますか?」

 

「わかった!約束します!言うてくれたら僕頑張ります!」

 

「よろしくお願いいたします。」

 

 

続いてムハンマドは峰子の部屋に電話をかけて、父の愚行への謝罪と、神野との会話を伝えた。

 

 

峰子は言った。

 

 

「ムハンマドさんは何ひとつ悪い事してないやん。ただ、今日すごい事が起きるから、ビックリせんとってね。」

 

「すんません。そんな風に言うてもろて、申し訳なさすぎるわ。」

 

 

ムハンマドは電話の向こうの峰子に頭を下げた。

 

峰子はその気配を感じて、心が暖かくなった。

 

 

 

 

午前8時。

 

 

 

神野と峰子の部屋に、ルームサービスで朝食が運ばれてきた。

 

 

その時開いたドアの向こうに、昨夜自分を取り囲んでいたダンサーたちがいるのが見えた。

 

彼らは廊下で一夜を過ごしたようだ。

 

睡眠不足が顔に出ていて、神野は気の毒に思った。

 

 

 

午前8時30分。

 

 

廊下がザワザワしているので、神野がドアから覗くと、囲み隊に交代要員が来て、交代の儀式をしていた。

 

 

神野がその様子をテレパシービジョンで峰子に伝えた。

 

 

二人はその様子に、微笑みながら感心した。

 

 

峰子が返事をした。

 

 

『この人たちって、ホントに真面目でちゃんとしてるよね。』

 

『そうですね。国民性ですね。純粋ですし。良い人たちなんでしょうね。』

 

『だけど、身分制度によって自由がないんですよね。』

 

『はい。』

 

『それも、変わって行くんですよ。近い将来ね。』

 

『そうなる事を望みますよ。』

 

 

 

午後9時。

 

 

峰子と神野の部屋のドアが、それぞれノックされ、1時間後にホテルを出立するので、荷造りするように告げられた。

 

 

 

 

 

 

 

いつのまにか神野の周りには、ベリーダンスのダンサーのような格好の男女が集まり、彼の周りを取り囲んでいた。

 

 

一方、峰子の方は、10人程の武装した白い民族衣装の男たちにガッチリ周囲を固められていて、峰子が動くと、一緒にそのまま移動するのだった。

 

峰子と彼らの距離は、1メートル程開けられていて、円の中心に峰子がいる配置だった。

 

 

神野も峰子も拘束されてはいないが、ハッサンの意思で、いつでも拘束できる状態に置かれてしまった。

 

峰子はとりあえず神野にテレパシーを送った。

 

 

『今は逆らわず、部屋に戻りましょう。間違えてケガ人が出ないようにね。』

 

『そうしましょう。峰子さん、済みませんが一柳さんにこの状況を伝えてもらえますか?』

 

『判りました。』

 

 

二人は部屋に戻った。

 

ラグビーのスクラムの様な一団を連れての移動は、ちょっと不便であった。

 

 

ただ、彼らが発するエネルギーから、悪意はまったく感じられなかった。

 

彼らは素直に、王様の命令に従っているだけなのだろう。

 

 

だからこそ、ここで峰子たちが逃げて、彼らの失態となれば、何らかの罰が課せられるかもしれない。

 

このホテルに宿泊している第三者に迷惑が掛かってもいけない。

 

 

部屋に戻ると峰子は、一柳に事情を説明した。

 

 

『一柳さん、今、こんな事になっています。』

 

『あらまあ、そんな事に。』

 

『明日、多分アラビアン首長国連邦に連れて行かれます。私と神野さんは、逆らわず大人しくしています。』

 

『判りました。結社がお願いした件が原因なので、結社として動きます。』

 

『ありがとうございます。後、伯爵にもアクセスしたいんですけど、よろしいですか?』

 

『貴女方は元々親しいお友達でしたね。構いませんよ。私も伯爵と相談します。』

 

 

そう言って一柳はそれを了承した。

 

 

峰子は一柳との会話を終え、今度は伯爵に、峰子たちが置かれている状況を、思念で伝えた。

 

 

「龍君、カクカク云云で、こんな事になってるのよ。一柳さんにも伝えてんけど、チカラ貸してくれへんかな?」

 

「何だって?マジ?ハッサン爺め!自分本位過ぎんだろ!」

 

「多分明日、アラビアン首長国連邦に連れて行かれると思う。動くのはそれからが良いと思うんだけど、どう?」

 

「うんうん、そうだね。そうしよう。アメリカを巻き込むと面倒だからな。」

 

「ありがとうございます。心強いわ。」

 

「ふふん、コーンクリームコロッケとメンチカツとコロッケ10個づつ頼むぜ!」

 

 

照れ隠しの言葉が食べ物だった事に、峰子は微笑んだ。

 

 

そして、神野に、明日アラビアン首長国連邦に着いてから、頃合いを見て援軍が来る事を伝えた。

 

神野は峰子が自分よりも強い事を、充分知っていたので、せめて自分の身は自分で守ろうと思っていた。

 

 

方針が決まったので、二人は明日に備えて身支度を整えて、朝ムハンマドからの電話で起こされるまで、ゆっくり眠った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミスビューティワールド世界大会が終わった日の夜、後夜祭が行われた。

 

 

峰子の周りには、沢山の人が入れ代わり立ち代わり訪れ、祝福の言葉と名刺を置いて行った。

 

 

そんな峰子の隣で、神野は何か不穏な動きを感じて、警戒モードに入っていた。

 

 

そこに、この大会の主催者であるハッサンが、ムハンマドと沢山のお付きの者を従えて二人の元にやって来た。

 

 

その豪華さは、まさに、アラビアン首長国連邦ハッサン王御一行様といった感じであった。

 

 

ハッサンは御一行の行列から一歩前に出て、峰子の前に立ち日本語で言った。

 

 

「貴女、私と結婚します。」

 

 

唐突にそう言われ、峰子は戸惑ったが、すぐに冷静さを取り戻して言った。

 

 

「私は、まだ誰とも結婚しません。」

 

 

ハッサンはムハンマドの通訳で峰子の発言を聞いて、また言った。

 

 

「いいえ、これは決まりです。明日迎えに来ます。」

 

 

そう言うとハッサンは峰子の返事を聞かずに、御一行様の元に戻り去って行った。

 

 

 

嵐が通り過ぎた後のように、峰子の周囲は静まり返った。

 

 

静けさの中、神野がつぶやいた。

 

 

「これだったのか……。」