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龍慈ryuukeiのブログ

愛一元の世界ここに在り。
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午前10時。

 

 

峰子と神野の部屋のドアが、それぞれノックされ、二人のスーツケースが先に運び出された。

 

峰子と神野はまた、昨夜のように囲まれて、直接駐車場に誘導された。

 

 

チェックアウトは既に済んでいるようだ。

 

 

駐車場には、装甲車のような大きな車が4台あった。

 

峰子と神野は別々の車に乗せられ、空港に着いた。

 

 

空港でプライベートジェットに乗せられた二人は、離れた席に案内された。

 

 

プライベートジェットの乗り心地は最高だった。

 

席はゆったりしていて、巨漢の人でも余裕で座れるであろう広さがあった。

 

 

峰子は席をリクライニングにして、提供された常温の水を飲んでリラックスした。

 

同乗者からは何の悪意も感じなかった。

 

峰子たちが静かにしている限り、彼らの任務は同行するだけで済む。

 

 

7時間かかって、飛行機はアラビアン首長国連邦の首都ニクマンにある空港に着いた。

 

 

峰子たちはまた、装甲車のような車に別々に乗せられ、少し走るとすぐに目的地に着いた。

 

 

そこは広大な敷地にそびえ建つ宮殿だった。

 

 

宮殿の中に入ると、神野は男性専用の建物へ、峰子は女性専用の建物へ、それぞれ連れて行かれた。

 

 

そこにはそれぞれ日本語が話せる人がいて、通訳として二人に付いた。

 

 

峰子はその通訳に、これから峰子は、この国の宗教に帰依する儀式が行われると聞かされた。

 

 

この宗教に入っていないと、結婚できないからと説明された。

 

 

峰子は言った。

 

 

「私は宇宙の真理と自分を信じています。そういう意味で宗教心はありますが、特定の宗教団体には入りません。拒否します。」

 

 

それを聞いた通訳は困った顔で言った。

 

 

「決まった事です。寺院へ行きましょう。きっと感動されます。」

 

「建物としては凄いんでしょうが、私はそこに行っても誓いませんよ。」

 

「とりあえず、行ってみましょう。」

 

 

峰子は通訳に促され、奇麗な民族衣装に着替えさせられてから、数人の女性たちと共に寺院へ行った。

 

 

女性が入れる所は決まっていて、天井の高さが5メートル程もある大きな広間に着くと、女性たちが敷物を敷いた。

 

峰子はそこに座るよう言われた。

 

峰子が10分位、座って待っていると、司祭のお爺さんが現れた。

 

 

歌うようにお経の声が聞こえ、儀式が始まった。

 

 

司祭が通訳に頷き、カセットデッキを止めると、そのお経の声が止まった。

 

 

すると通訳が言った。

 

 

「儀式は終わりました。次は結婚式です。」

 

「えっと、もう終わったの?」

 

「はい。時間外なので物凄い略式です。」

 

「へえ~。カセットテープで略式ね(笑)」

 

 

峰子は次に、寺院を出て、宮殿の中庭に作られた結婚パーティー会場に連れて行かれた。

 

 

そこは男女が一緒に過ごせる数少ない場所だと言う。

 

 

花嫁の席に案内され、峰子は座った。

 

そこに囲み隊に囲まれた神野が連れて来られた。

 

彼は峰子のお父さん役をやらされるそうだ。

 

峰子はそれを聞いて笑った。

 

神野は峰子より少し年上なだけだったからだ。

 

 

そうこうしていると、ハッサンが現れ、峰子の横に座った。

 

ハッサンは通訳に何かを言った。

 

通訳がそれを峰子に伝えた。

 

以下は通訳を介しての会話である。

 

 

「君はここの生活を気に入る。すぐ慣れる。すべてはタッラーの思し召しだ。」

 

「私は日本人です。貴方に私を拘束する権利はありません。私を誘拐して自由を奪った事、後悔しますよ。」

 

「毎日愉しく贅沢三昧だぞ。」

 

「そんなの望んでいません。」

 

「私が望んでいる。」

 

 

峰子が何を言っても、ハッサンは余裕の顏でクシャッと笑った。

 

 

しかし、ハッサンのシワだらけの笑顔が恐怖で凍り付く時が来た。

 

 

パーティー会場に伯爵が現れたのだ。

 

 

伯爵がテレパシーでハッサンに言った。

 

 

「お前は何の権利があって、我の友を誘拐したのだ?」

 

「ひえええええええええええ!悪魔だあああああああああ!」

 

 

体長3メートルのコモドドラゴンのような恐竜が目の前に現れて、頭の中に直接話しかけてきたのだ。


そこにいた者は、兵隊も、他の沢山の妻たちも、召し使いたちも、客人も、皆が恐怖に震えた。

 

 

伯爵が全員を睨み、わざと大きく口を開けて怒鳴った。

 

 

「お前たちも我に逆らう者か?助かりたければ去れ!」

 

 

それを聞いて、そこにいた皆がハッサンを残して、大慌てで逃げ去った。

 

 

ハッサンは腰を抜かして動けなくなっていた。

 

 

伯爵は、気持ち良く悦に入って続けた。

 

 

「ハッサンよ。結社からの連絡を無視したそうだな。やり過ぎたな。この恩知らずめ!」

 

「わわわわわわわわ~お許しを~!」

 

「ひと~つ、この世、女の自由を奪い、ふた~つ、不埒な我儘三昧、みっつ~、醜い自分本位の鬼を、退治てくれよう~龍太郎!」

 

 

峰子と神野はここまで聞いて、大笑いしてしまった。

 

日本で流行った時代劇を思い出したのだ。

 

 

しかし、ハッサンには大きな恐怖となったようで、彼は気を失ってしまった。

 

 

峰子は伯爵に言った。

 

 

「ありがとうございました。でも龍君、さっきの口上(笑)」

 

「一回やってみたかったんだよね。どう?決まってたっしょ?」

 

「うんうん。お礼にカレーコロッケもオマケするわ。」

 

「やった!」

 

 

その会話を聞いて笑っていた神野が言った。

 

 

「結社の人間が来ました。」

 

 

見ると、白い宇宙服のような高機能スーツの男性が15人来ていて、3人がハッサンを拘束して連れて行った。

 

残りの6人は、幽閉されていたムハンマドを解放し、議会を開かせ、世界政府が決定したハッサンへの制裁とアラビアン首長国連邦の今後を伝えた。


後の6人が峰子と神野を車に案内し、空港からプライベートジェットに乗り、一緒に日本へと帰って来た。

 

 

 

伯爵は、自分の乗って来たユーフォーにテレポーテーションして乗り、帰って行った。

 

 

数日後、アラビアン首長国連邦のハッサン王が体調不良を理由に引退し、王位が息子のムハンマドに継承されたというニュースが、世界中に流れた。

 

 

 

峰子はハッサンがどうなったのか?誰にも聞かなかった。

 

 

坂本医師以上に、独裁者のハッサンは、沢山の男女の自由を奪い、逆らう者を次々に粛清していたのだ。

 

そのやり方は、残酷で無慈悲なものであったという事も判った。

 

 

峰子はハッサンを助けた事に対して、少し複雑な気持ちになった。

 

とは言え、結社からの依頼を受け、源の采配でこれからも動く自分を、疑問に思ってはいなかった。


峰子の特技は、病やケガで困っている人に対して、分け隔てなく発動されるので、源の采配がGOなら、どんな悪人であっても癒す結果になるのだ。

 

 

しかし、起きる事、起きた事の総ては最善なのだ。


人間の峰子には、分からない。


善悪や正邪は関係ないのだ。


ただ、需要と供給があり、起きる事が起きているのだ。

 

 

峰子は立ち上がると、久しぶりの家事を済ませてから、沢山のコロッケを買いに、田嶋屋へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午前7時。

 

 

ムハンマドからの電話で、神野は目覚めた。

 

 

「はい。」

 

「ムハンマドやけど、色々ホンマすんません。」

 

「あ、いや、はい。」

 

「僕、何回も父を止めたんやけど、僕の言う事まったく馬耳東風やねん。」

 

「ムハンマドさん、今は危ない事はせず、大人しくしていてください。大丈夫ですから。」

 

「ホンマに?ホンマに大丈夫なん?」

 

「ええ。ですから今はお父さんに逆らわず、いざという時に力を貸してくれますか?」

 

「わかった!約束します!言うてくれたら僕頑張ります!」

 

「よろしくお願いいたします。」

 

 

続いてムハンマドは峰子の部屋に電話をかけて、父の愚行への謝罪と、神野との会話を伝えた。

 

 

峰子は言った。

 

 

「ムハンマドさんは何ひとつ悪い事してないやん。ただ、今日すごい事が起きるから、ビックリせんとってね。」

 

「すんません。そんな風に言うてもろて、申し訳なさすぎるわ。」

 

 

ムハンマドは電話の向こうの峰子に頭を下げた。

 

峰子はその気配を感じて、心が暖かくなった。

 

 

 

 

午前8時。

 

 

 

神野と峰子の部屋に、ルームサービスで朝食が運ばれてきた。

 

 

その時開いたドアの向こうに、昨夜自分を取り囲んでいたダンサーたちがいるのが見えた。

 

彼らは廊下で一夜を過ごしたようだ。

 

睡眠不足が顔に出ていて、神野は気の毒に思った。

 

 

 

午前8時30分。

 

 

廊下がザワザワしているので、神野がドアから覗くと、囲み隊に交代要員が来て、交代の儀式をしていた。

 

 

神野がその様子をテレパシービジョンで峰子に伝えた。

 

 

二人はその様子に、微笑みながら感心した。

 

 

峰子が返事をした。

 

 

『この人たちって、ホントに真面目でちゃんとしてるよね。』

 

『そうですね。国民性ですね。純粋ですし。良い人たちなんでしょうね。』

 

『だけど、身分制度によって自由がないんですよね。』

 

『はい。』

 

『それも、変わって行くんですよ。近い将来ね。』

 

『そうなる事を望みますよ。』

 

 

 

午後9時。

 

 

峰子と神野の部屋のドアが、それぞれノックされ、1時間後にホテルを出立するので、荷造りするように告げられた。

 

 

 

 

 

 

 

いつのまにか神野の周りには、ベリーダンスのダンサーのような格好の男女が集まり、彼の周りを取り囲んでいた。

 

 

一方、峰子の方は、10人程の武装した白い民族衣装の男たちにガッチリ周囲を固められていて、峰子が動くと、一緒にそのまま移動するのだった。

 

峰子と彼らの距離は、1メートル程開けられていて、円の中心に峰子がいる配置だった。

 

 

神野も峰子も拘束されてはいないが、ハッサンの意思で、いつでも拘束できる状態に置かれてしまった。

 

峰子はとりあえず神野にテレパシーを送った。

 

 

『今は逆らわず、部屋に戻りましょう。間違えてケガ人が出ないようにね。』

 

『そうしましょう。峰子さん、済みませんが一柳さんにこの状況を伝えてもらえますか?』

 

『判りました。』

 

 

二人は部屋に戻った。

 

ラグビーのスクラムの様な一団を連れての移動は、ちょっと不便であった。

 

 

ただ、彼らが発するエネルギーから、悪意はまったく感じられなかった。

 

彼らは素直に、王様の命令に従っているだけなのだろう。

 

 

だからこそ、ここで峰子たちが逃げて、彼らの失態となれば、何らかの罰が課せられるかもしれない。

 

このホテルに宿泊している第三者に迷惑が掛かってもいけない。

 

 

部屋に戻ると峰子は、一柳に事情を説明した。

 

 

『一柳さん、今、こんな事になっています。』

 

『あらまあ、そんな事に。』

 

『明日、多分アラビアン首長国連邦に連れて行かれます。私と神野さんは、逆らわず大人しくしています。』

 

『判りました。結社がお願いした件が原因なので、結社として動きます。』

 

『ありがとうございます。後、伯爵にもアクセスしたいんですけど、よろしいですか?』

 

『貴女方は元々親しいお友達でしたね。構いませんよ。私も伯爵と相談します。』

 

 

そう言って一柳はそれを了承した。

 

 

峰子は一柳との会話を終え、今度は伯爵に、峰子たちが置かれている状況を、思念で伝えた。

 

 

「龍君、カクカク云云で、こんな事になってるのよ。一柳さんにも伝えてんけど、チカラ貸してくれへんかな?」

 

「何だって?マジ?ハッサン爺め!自分本位過ぎんだろ!」

 

「多分明日、アラビアン首長国連邦に連れて行かれると思う。動くのはそれからが良いと思うんだけど、どう?」

 

「うんうん、そうだね。そうしよう。アメリカを巻き込むと面倒だからな。」

 

「ありがとうございます。心強いわ。」

 

「ふふん、コーンクリームコロッケとメンチカツとコロッケ10個づつ頼むぜ!」

 

 

照れ隠しの言葉が食べ物だった事に、峰子は微笑んだ。

 

 

そして、神野に、明日アラビアン首長国連邦に着いてから、頃合いを見て援軍が来る事を伝えた。

 

神野は峰子が自分よりも強い事を、充分知っていたので、せめて自分の身は自分で守ろうと思っていた。

 

 

方針が決まったので、二人は明日に備えて身支度を整えて、朝ムハンマドからの電話で起こされるまで、ゆっくり眠った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミスビューティワールド世界大会が終わった日の夜、後夜祭が行われた。

 

 

峰子の周りには、沢山の人が入れ代わり立ち代わり訪れ、祝福の言葉と名刺を置いて行った。

 

 

そんな峰子の隣で、神野は何か不穏な動きを感じて、警戒モードに入っていた。

 

 

そこに、この大会の主催者であるハッサンが、ムハンマドと沢山のお付きの者を従えて二人の元にやって来た。

 

 

その豪華さは、まさに、アラビアン首長国連邦ハッサン王御一行様といった感じであった。

 

 

ハッサンは御一行の行列から一歩前に出て、峰子の前に立ち日本語で言った。

 

 

「貴女、私と結婚します。」

 

 

唐突にそう言われ、峰子は戸惑ったが、すぐに冷静さを取り戻して言った。

 

 

「私は、まだ誰とも結婚しません。」

 

 

ハッサンはムハンマドの通訳で峰子の発言を聞いて、また言った。

 

 

「いいえ、これは決まりです。明日迎えに来ます。」

 

 

そう言うとハッサンは峰子の返事を聞かずに、御一行様の元に戻り去って行った。

 

 

 

嵐が通り過ぎた後のように、峰子の周囲は静まり返った。

 

 

静けさの中、神野がつぶやいた。

 

 

「これだったのか……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

峰子は、何が何だか判らない内に、1984年度のミスビューティワールドになってしまった。

 

 

英語が得意ではない峰子は、大会の中のスピーチtimeで、一番言いたい事を皆に伝えた。

 

 

それは『生きてるだけで丸儲け』という感謝だった。

 

 

「生きてるだけで丸儲け!み~んず、らいふいずはっぴねす!生きてるだけで丸儲け!生きてるだけで丸儲け!生きてるだけで丸儲け!さんきゅーべり~まっち!」

 

 

その時、観客は、峰子のあおりで丸儲けコールをして、大いに盛り上がっていた。

 

 

だから、峰子がミスビューティワールドを受賞して挨拶をした時に、丸儲けコールが起きたのである。

 

 

日本でもその様子はテレビ中継されていて、見ていた人たちは日本人の受賞に喜び、峰子を祝福した。

 

 

里美や石本たちは、衛星放送の受信施設が整った美和の家に集まって、ミスビューティワールド世界大会のテレビ中継を見ていた。

 

 

峰子の名前が呼ばれた途端、一同は万歳をして喜んだ。

 

 

里美も皆と一緒に喜んでいたが、内心では、少し寂しさを感じていた。

 

姉が遠くへ行ってしまった感じがしたからだ。

 

 

でも、これから里美自身の人生も、一柳にスカウトされてドンドン啓けていくのだが、それはまた別のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午前6時30分。

 

 

志事を終えた峰子は、神野に送られて部屋に戻ると、温めのシャワーを浴びて、再びベッドへダイブした。

 

大会は午後二時からなので、ゆっくり眠っても準備する余裕があった。

 

 

峰子は深い眠りに入っていった。

 

 

正午。

 

 

峰子は神野からの電話で目覚めた。

 

 

「そろそろ起きて、ご飯にしませんか?」

 

 

神野の言葉を聞いた途端、峰子のお腹が元気良くグゥ~~~ッと鳴った。

 

峰子はお腹が鳴った事を悟られないように、元気に言った。

 

 

「5分で支度します!」

 

 

峰子は猛スピードで着替えて、キッチリ5分後に廊下に出た。

 

 

そこには爽やかに微笑むムハンマドと神野がいた。

 

ムハンマドが言った。

 

 

「今朝のお礼に、父が一緒にご飯しましょ~言うてるんで、迎えに来てん。」

 

「ありがとうございます。でも大会の準備があるから、ゆっくり出来へんけど、良い?」

 

「もちろんやがな~。ほな行こ!」

 

 

峰子と神野はムハンマドの案内で、最上階のスイートルームに入った。

 

そこには豪華な料理が並んでいて、ビュッフェ形式で好きな物を選べるように、コップや食器類も完璧に用意されていた。

 

 

峰子たちが入室すると、190cm位ある大男のハッサンがにこやかに出迎えてくれた。

 

そして早口で何かを言った。

 

それをムハンマドが通訳した。

 

 

「さっきは命を救ってもろたのに、礼ひとつ言わずごめんやで。後から全部聞いてビックリしたわ。ホンマおおきに!」

 

 

峰子はニッコリ微笑んで言った。

 

 

「お招きありがとうございます。すっかりお元気になられたようで、良かったです。」

 

 

 

和やかに時間は流れ、豪華な食事会は1時間程で解散となった。

 

 

午後1時15分

 

 

指定された時間に控室に行くと、林沙也加と仲田芳美が先に来ていた。

 

それぞれ、一人に専属のヘアメイクさんが付いていたので、準備は優雅に終わった。

 

後は大会に参加するだけ、となった。

 

 

峰子たちは昨夜、広い会場でバラバラに行動していたので、久しぶりの再会となり、緊張する暇もなく話に花が咲いた。

 

 

参加者全員がステージに並ぶと、コンテストというよりも、ショーが始まった感じがした。

 

 

それだけショーアップされた進行だったのだ。

 

式次第が進むに連れ、ショーからカーニバルのような雰囲気になり、参加者たちも皆、愉しんでいた。

 

 

峰子は何が何だか判らないが、案内されるままに行動して愉しんでいる内に、名前を呼ばれた。

 

 

沙也加と芳美が駆け寄ってハグして、峰子を祝福した。

 

 

峰子は言った。

 

 

「なに?なに?」

 

 

沙也加は大笑いし、芳美が苦笑しながら言った。

 

 

「もう!聞いてなかったの?峰子がミスビューティワールドだって!」

 

「えっと~、わたし?」

 

 

他の国から来た参加者たちも、拍手をして峰子を祝福した。

 

 

 

峰子は、紗耶香と芳美に手を引かれ、ステージの中央に連れ出された。

 

 

司会者が何かを言った。

 

気を利かせて横に居てくれた芳美が、通訳してくれた。

 

 

「ご感想は?って聞いてるよ。」

 

 

峰子は元気良く言った。

 

 

「さんきゅーべりべりまっち!心から感謝します!ありがとうございます!生きてるだけで丸儲け!」

 

 

峰子のスピーチを聞いて、何故か会場中に笑いが起きた。

 

そして、観客席から「丸儲け!丸儲け!」というコールが上がった。

 

 

その声は大合唱となり、暖かい波動のウェーブが会場中を循環して、全員を至幸体験へと導いたのだった。

 

 

これをテレビ中継で見ていた人たちの所にも、もれなくウェーブが波及し、至幸体験が沢山の人の元に、根源的なシアワセをもたらした。

 

 

この現象により、人類は全体として波動を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レセプションが終わり、峰子は神野に送られて部屋に戻った。

 

参加者は、レセプションが行われたホテルに宿泊していたので、皆それぞれの部屋へと戻って行ったのだ。

 

 

明日はいよいよ大会本番という事で、峰子は早めに就寝する事にした。

 

 

サッとシャワーを浴びると、峰子はルームウェアに着替えて、ベッドにダイブした

 

心地好い疲れが、峰子を深い眠りへと誘う。

 

ゆっくりぐっすり、峰子は眠った。

 

 

早朝、短時間だが深く眠って、心身が充実した峰子は、何かの気配を感じて目を覚ました。

 

すると程無くして電話が鳴った。

 

隣の部屋の神野だった。

 

 

「峰子さん、結社からの緊急の依頼です。」

 

「神野さん、おはようございます。今、一柳さんから思念で事情を伺いました。ムハンマドのお父さんですね。行きましょう。」

 

「ありがとうございます。廊下で待ってます。」

 

 

電話が切れて、峰子は急いで洋服に着替えて廊下に出た。

 

するとそこには、神野の他に5人の白い民族衣装の男たちがいた。

 

 

峰子は全員に言った。

 

 

「時間がありません。早く行きましょう。」

 

 

皆が頷き、峰子たちは足早にムハンマドの父親がいる部屋に入った。

 

 

ムハンマドの父親は白い顔で、苦しそうな息遣いをしていて、誰が視ても危篤状態だった。

 

 

父親の側にいたムハンマドと目が合った峰子は、彼に優しく頷いて見せてから、ベッドサイドに行き、身体を透視して状態を把握してから、源の了承を得て言った。

 

 

「心臓が破裂しています。すぐに修復しましょう。その後に乖離した大動脈も修復して、健全な状態に戻します。」

 

 

峰子を縋るような目で見ながら、ムハンマドが言った。

 

 

「そんなん、できるん?」

 

 

峰子は頷いた。

 

 

「大丈夫。でも多分3時間くらい掛かります。」

 

 

神野が通訳した峰子の言葉を聞いた医師らしき人が、驚いて峰子に尋ねた。

 

 

「この状態では、もう手の施しようがないのに、どうやって?」



神野が同時通訳した。


それに峰子が応える。


 

「言葉で解説できませんが、私の特技を使います。」

 

 

そう言って峰子は、椅子に座り、目を閉じて心臓の修復に集中した。

 

 

途中で峰子は、神野に、常温のミネラルウォーターを頼んだ。

 

エネルギーが回ると、ものすごく水分を消費するので、水分補給しないと脱水状態になってしまうからだ。

 

 

神野が通訳すると、ムハンマドがすぐそれを民族衣装の人たちに伝えた。

 

 

5分後、峰子の横にドンッと箱が置かれ、中にはミネラルウォーターのペットボトルが、ずらっと1ダース入っていた。

 

 

峰子は、水を持ってきてくれた人たちに一礼して言った。

 

 

「ありがとうございます。いただきます。」

 

 

そして、ゴクゴクと水を飲んで、また集中した。

 

 

 

そうこうしている内に、ムハンマドの父親の顔に赤みが戻って来て、呼吸が穏やかになってきた。

 

 

そして、部屋の柱時計が6時を知らせると、その音で目を覚ました彼は言った。

 

 

「I was so busy today that I didn’t have time for dinner. I’m absolutely ravenous.」

 

 

ムハンマドが泣きながら笑顔で言った。

 

 

「What do you want for breakfast?」

 

「I think I’ll have a full English breakfast, with sausages and bacon. I’m so hungry I could eat a horse!」

 

 

ムハンマドの父親『ハッサン』はそう言うと、起き上がって、グ~~ッと伸びをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミスビューティワールド世界大会の前日、ホテルの大広間で大会運営本部主催のレセプションが行われ、関係者が一堂に会した。

 

 

立食パーティー形式で会は行われた。

 

中央の数か所に豪華な料理が並び、壁際には品の良い椅子が置かれていた。

 

 

峰子は、色んな国から来た参加者と挨拶をして、仲良くなったり、関係者たちと満遍なく和やかに交流し、親交を深めた。

 

英語力は殆どない峰子だったが、関西弁とボディーランゲージを駆使して、愛を振り撒きながら話すと、確かに通じるものがあった。

 

 

大会に協賛していた企業のトップ同士の交流は、友好だけではなくビジネス的な意味合いも多くあるようで、日本大会での峰子を知って、企業のモデルにスカウトしてくる人もいた。

 

 

この華やかなパーティーは、国際親善にも役立つ、友好的で平和な場となっていたのである。

 

 

 

そこには、父親の代行で来ていた、中東の若い男性がいた。

 

 

スラリとした長身と端正な顔立ちで、白い民族衣装を身に纏った彼は、高校生の時、日本に留学していた事が有って、少し日本語が話せた。

 

 

その彼が、関西弁で堂々と話す峰子に気付いて、話しかけてきた。

 

 

「僕、ムハンマド言います。あんた日本人やんな?」

 

「はい、そうです。関西弁お上手ですね。」

 

「おおきに!高校ん時、堺の学校に留学しとってん。」

 

「ああ、なるほど(笑)」

 

 

峰子は、いかにも中東の顏と服装なのに、コテコテの関西弁を話すムハンマドにウケた。

 

 

二人が笑いながら話していると、用事で抜けていた神野が戻って来た。

 

 

「峰子さん、そちらの方は?」

 

「ムハンマドさんです。」

 

 

ムハンマドが神野に握手を求め、二人は握手をした。

 

 

「アラビアン首長国連邦のムハンマド言います。よろしゅう。」

 

「峰子さんのマネージャーの神野です。よろしくお願いいたします。」

 

 

ムハンマドと神野が、お互いに笑顔で挨拶をした。

 

しばらく三人で愉しく会話をしていたが、スタッフが来てムハンマドに何かを告げた。

 

どうも呼ばれたようだ。

 

 

ムハンマドが残念そうに言った。

 

 

「峰子さん、神野さん、またしゃべろな。ほな!」

 

 

 

会場が少し暗くなり、部屋の一番奥に作られた演台に、スポットライトが当たった。

 

 

そこにムハンマドが現れると、会場中に大きな拍手が湧き起こった。

 

彼はにこやかに、流暢な英語でスピーチした。

 

 

その内容を神野が通訳してくれた。

 

 

彼は、この大会の主催者の息子だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いよいよ、ミスビューティワールド世界大会が始まった。

 

 

峰子と林沙也加と仲田芳美は、世界大会に参加する為に、それぞれのマネージャーと共にシカゴに来ていた。

 

 

峰子も神野芳樹と一緒に渡米していた。

 

 

神野は外国語に驚くほど堪能で、英語・フランス語・イタリア語・ドイツ語・ロシア語と、日常会話位のヘブライ語が話せると言っていた。

 

 

神野の父親は外交官で、赴任先の国にはいつも、妻と一人っ子の芳樹を連れて行った。

 

 

大体、赴任してから3年程経って、その国の言葉を習得し、友達が出来て生活が安定してくると、父親に辞令が下りて、他国への赴任が決まるのだった。

 

 

家族はその度に、振出しに戻って、新たな言語を習得して親しい友人を作った。

 

その努力は家族にとって、多少の負担ではあったが、それよりも遥かに楽しみの方が大きかった。

 

 

18歳になった神野はハーバード大学へ入学した。

 

すると、両親は神野に一人暮らしを勧めた。

 

そして、両親だけで赴任先へと旅立って行った。

 

 

神野は民俗学に興味を持って、大学でも言語や文化について学んだ。

 

その時に、特別講師として招かれた一柳の講義を聞いて、表だけでは解らない歴史や、世界の動きに魅せられて、一柳の会社と結社に入ったのだ。

 

 

神野自身も結社で磨かれていく内に、使っていなかった第三の感覚が開き、色んな能力を使って志事をするようになったのだった。

 

 

神野は最近担当するようになった長田峰子の人間性と能力に、とても興味を持ちながら、おばば様の言付により、一定の距離を置いて関わっていた。

 

 

峰子には人を惹きつける魅力がある。

 

それは味方だけではなく、敵も呼んでしまうコトになる。

 

 

神野は気を引き締めた。

 

 

これから起きる事を乗り切る為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

坂本朝治は峰子への殺人未遂事件での逮捕当時、取り調べの中で、毒気を抜かれたように犯行を素直に認めた。

 

そして、その経緯を洗いざらい全部語った事で、保釈申請が通り大金を積んで保釈された。

 

しかし、村井記者を買収して峰子たちの名誉を棄損した件が発覚して、再び警察に出頭を求められた。

 

 

坂本病院の顧問弁護士である『古田清』も、その件に関ったという事で事情聴取を受けた。

 

取り調べが進むに連れ、坂本朝治と村井安男の供述により、買収のアイデアを出したのが古田だった事が露見して行った。

 

 

かくして、古田は主犯として訴追され、書類送検される事になるのだ。

 

古田は、普段からの悪評もあって、その後、弁護士資格を剝奪される事になる。

 

 

彼らは峰子からの民事告訴も受け、相応のペナルティを課せられた。

 

 

その後、坂本朝治には、執行猶予なしで1年8カ月の刑期が言い渡される事になる。

 

峰子がコラムに書いた、坂本朝治にホームから線路へ突き落されそうになった時のいきさつも、評判を呼んだ。

 

 

こうして世の中は、頑張る人が自分の出した成果を正当に評価され、狡猾な人が自分の行為により、正当に罰せられる方向へ向かった。

 

 

正直者が馬鹿を見る社会は、終わりを告げた。

 

 

この流れは、偶然でも奇跡でもなく、一人の人間の想いから始まったのである。

 

 

それが出来るのは、意識が全てを司っているからだ。

 

 

この人間が特別であったからではなく、この原則を知って腑に落とせば、誰にでもできる事なのだ。