田嶋屋のコロッケを頬張りながら、伯爵は言った。
「何か、前よりアッサリした味になった?」
「揚げ油がラードから米油に変わったんやて。」
「へえ~。なるほどね。美食家の俺的にはこっちの方が好きかも~。」
「カレーコロッケとかカボチャコロッケとかの味も、米油の方が美味しいやんね。」
「うんうん。素材の味が活きてるよな~。」
こうして大量のコロッケがあっという間に無くなった。
「ごっつぉ~さん!」
「よろしゅうお上がりでした(笑)」
峰子とゆっくり話すのは久しぶりの伯爵だったが、ふたりのおしゃべりが尽きる事はなかった。
夜になって、伯爵が帰って行くと、峰子は里美の分のコロッケをお皿に盛りつけて、テーブルに置いた。
里美に、一柳からの伝言を預かって来ていたので、今夜は里美とのお喋りにも花が咲きそうだ。
一柳は里美を一目見て、その明るくオチャメで可愛らしいキャラクターを気に入った。
里美がもし演技やモデル活動等に興味があるなら、是非スカウトしたいそうだ。
そこで、一柳に頼まれた峰子が、その伝言を里美に伝える事になったのだった。
里美は演劇部だったので、峰子はこの話にワクワクしていた。
里美と峰子の外見は、あまり似ていない。
性格も全然違う。
里美は小柄でアイドルのように可愛いくて、言葉のセンスが良く、小さい頃からモテモテだった。
峰子はどちらか言えば背が高くクール顔で、お笑いの神様に愛され過ぎて、彼氏いない歴=年齢だった。
この様に、姉妹のタイプは真逆だった。
だからこそ、二人共とても個性的で、それぞれの良さがあった。
アルバイトから帰って来た里美に、峰子は一柳からの伝言を伝えた。
里美は少し考えて言った。
「どうしようかな~。」
「いいお話やで。」
「そやな~。でも、今日プロポーズされてん。」
「プロポーズって……結婚してくれってやつ?」
「あはは!お姉ちゃん、なんちゅう顔してるのん!わはは!かお!かお!」
峰子はもうすぐ18歳の誕生日を迎える妹から、結婚というワードが出てきた事に心底驚いていた。
里美が続ける。
「だって、おっ君もうすぐ30歳やから。」
「あれ?おっ君て誰?」
「彼氏。」
「彼氏って、明ちゃんって人じゃ?
「それ、前彼。」
「いつの間に?」
「お姉ちゃんの知らん間に。」
「そうなんや。里美が好きに選んだらええよ。どっちでも応援するし。」
「ありがとう。」
里美が通っている歯医者さんが、偶々里美のバイト先に来て、仲良くなったらしい。
それがおっ君だったそうだ。
峰子がボソッとつぶやいた。
「私が恋愛に発展する縁って、どこに有るんやろ。」