2005年10月04日07時13分

 がん細胞の増殖を止めるカギになるたんぱく質を、米ハーバード大の中谷喜洋(なかたに・よしひろ)教授(分子生物学)らの研究チームが発見した。がん細胞内で、このたんぱく質「p600」の合成を妨げたところ、がん細胞は増殖を止め、次々と自滅したという。子宮がんや骨肉腫など、様々ながん細胞で効果を確認しており、新しい抗がん剤の開発につながると専門家は期待している。今週発行の米科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載される。

 体内では、役目を終えたり、異常が見つかったりした細胞が増殖を止めて自ら死に、新しい細胞が生まれることで新陳代謝が繰り返されている。この細胞の自殺(アポトーシス)がうまく働かなくなると、細胞は無秩序に増殖し、がんになる。中谷教授らが発見したp600は、アポトーシスに深くかかわっているとみられる。

 同教授によると、培養したがん細胞内のp600は、正常細胞と比べて異常に増えており、「自殺機能」が働かなくなっていた。そこで、p600の合成を妨げる特殊な手法で培養細胞中のp600の量を減らすと、がん細胞は次々と死んでいった。正常細胞には影響がなかった、という。

 子宮頸(けい)がん、骨肉腫、乳がん、直腸がんの細胞で、がん細胞は10%以下になった。胃、小腸、大腸、肺、卵巣、前立腺の各がん細胞では、同様のp600の異常増加が起きていることが分かった。このため、中谷教授は「ほとんどすべてのがんで効果が期待できる」とみている。

 ただ、人体への臨床応用には、p600に結びついて過剰な働きを抑え、しかも毒性のない物質の開発が必要になる。その後、健康人での安全性の確認、患者への治験などの段階を踏むことになる。

 従来の抗がん剤の多くは、細胞のDNA合成を妨げるもの。正常細胞のDNAにも影響を及ぼすため、副作用が強い。効果も限定され、薬だけで治癒可能なのは、血液やリンパ球などごく一部の特殊ながんだけで、より一般的な胃がんなど固形のがんを治癒する薬は、ほとんどないのが現状だ。
 スウェーデンのカロリンスカ研究所は3日、05年のノーベル医学生理学賞を豪州の西オーストラリア大のバリー・マーシャル教授(54)とロビン・ウォーレン名誉教授(68)に授与すると発表した。両氏は82年、細菌の一種のヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)を発見し、ピロリ菌の感染が胃潰瘍(かいよう)や十二指腸潰瘍の原因になることを突き止めた。
 授賞式は12月10日、ストックホルムで開かれる。賞金の1000万クローナ(約1億5000万円)は両氏に半分ずつ贈られる。
 消化器の潰瘍は、ストレスや生活習慣が原因だと考えられていた。病理医だったウォーレン氏は70年代末、胃の一部の組織を切り取る検査を受けた患者の半数で、胃の下部にらせん状の細菌が集まり、その周辺で胃粘膜が炎症を起こしていることを発見した。
 マーシャル氏は82年、この細菌の分離と培養に成功し、ヘリコバクター・ピロリと名づけた。胃や十二指腸に潰瘍を持つ患者のほとんどが持っていることから、ピロリ菌が潰瘍の原因だと提唱した。ピロリ菌の除去で潰瘍が治ることも示した。
 40歳以上の日本人の7割以上がピロリ菌に感染しているとされ、抗生物質を使った菌の除去が治療法として広く用いられている。
 胃潰瘍と同様に慢性的な炎症が起きる、潰瘍性大腸炎やクローン病などの研究にも新しい視点を提供することになった。
 強い酸性の胃液が出る胃の中に細菌がすめるはずはないとされ、ピロリ菌の存在を否定する専門家も多かった。このため、マーシャル氏は自らピロリ菌を飲み、急性胃炎になることと抗生物質で菌を殺すと胃炎が治ることを示し、自説を証明した。
 ◇「胃の病気の概念変えた」…関係者称賛
 ピロリ菌が胃潰瘍を起こす仕組みを解明した畠山昌則・北海道大教授(分子腫瘍学)はマーシャル氏について「身長190センチ以上でがっしりとした体格。陽気な人で、ピロリ菌対策の重要性を説いて回っていた。自ら菌を飲んだと聞き、すごいなと思った」と話す。
 国立がんセンター中央病院の斉藤大三・内視鏡部長は「ピロリ菌は胃潰瘍から胃がんまで、ほとんどの胃の病気に関係しているとみられる。2人の発見が胃の病気の概念を変えた」と称賛する。【山本建、高木昭午】
毎日新聞 2005年10月3日 18時49分 (最終更新時間 10月3日 21時32分)

2005年09月29日01時12分

 横浜市鶴見区本町通4丁目のアパートで横浜市立大3年の北目翼(きためつばさ)さん(21)が刺殺体で見つかった事件で、神奈川県警は29日、同じアパートに住む無職小島軍治容疑者(67)を殺人容疑で逮捕した。小島容疑者と北目さんは騒音問題のほか、たばこやごみの捨て方をめぐって日ごろからもめていたという。小島容疑者は容疑を否認している。

 捜査1課と鶴見署の調べでは、小島容疑者は28日午前1時半ごろ、アパートの外階段で北目さんの胸を包丁で刺し、殺害した疑い。北目さんは刺された後、携帯電話で「隣のおやじに刺された」と友人に連絡していた。

 アパートの管理会社によると、小島容疑者は半年ほど前から「吸い殻の捨て方などについて(北目さんに)注意しても、言うことを聞いてくれない」などと口にしていたという。

 また、アパートの住人によると、北目さんは部屋で音楽をよくかけていた。小島容疑者がドア越しに「うるさい」などと注意する姿を目にしていたという。

米オークオー(OQO)社は27日(米国時間)、PDAサイズのボディーにウィンドウズXPを搭載した超小型パソコンの新製品『モデル01+』を発売した。昨年10月発売した『モデル01』から仕様を強化した。

 従来モデルと同じく、米トランスメタ社の省電力プロセッサー『クルーソー』1GHz版を搭載するが、メインメモリーを512MBに、HDDは20GBから耐衝撃性能を備えた30GBタイプに強化した。また、内蔵スピーカーを追加し、USBは旧モデルの1.1から2.0にアップグレード。ペン入力機能も改良した。車載DC電源用のユニバーサル電源ケーブルが付属する。

 サイズは横約12.4センチ、縦8.6センチ、厚さ2.3センチで、重さは約400グラム。ディスプレーは5インチのワイドVGA(解像度800×480ピクセル)、ディスプレーを上にスライドさせるとQWERTY配列のキーボードが出てくる。バッテリー駆動時間は最大3時間。

 価格は1899ドルからで、すでに販売中。初代のモデル01は1499ドルに値下げした。
http://www.oqo.com/

インスリン


糖尿病の新治療法を目指して、インスリンを分泌するヒトの膵臓(すいぞう)の細胞を大量に作る技術開発に岡山大などのグループが成功した。マウスを使った実験で効果も確かめ、この細胞を利用した患者の体内に植え込む人工膵臓の開発も進めている。25日付の米科学誌ネイチャー・バイオテクノロジー電子版で発表する。

 開発したのは同大医学部の田中紀章教授、小林直哉助手らを中心とする日米などの国際研究グループ。

 膵臓のβ(ベータ)細胞はインスリンを分泌し血糖値を下げている。β細胞が破壊されたり、その働きが悪くなったりした糖尿病患者は、毎日、インスリン注射をしている。β細胞を作って患者に移植できれば、注射が不要となる利点がある。

 グループはヒトのβ細胞に、寿命をのばす遺伝子組み換え操作をして大量に増殖させた。ただ無限に増えるとがん細胞になる恐れがあるので、寿命をのばす遺伝子を後で取り除く操作もした。

 増やしたβ細胞がインスリンを作ることを確かめた上で、糖尿病のマウスに移植すると、ぶどう糖を与えた後の血糖値を健康なマウスと同レベルにできた。移植しなかった糖尿病マウスは血糖値が高いままで、実験開始10週後までに死んだが、移植したマウスは30週以上生きた。

 これまでヒトβ細胞の大量増殖は困難とされてきた。β細胞を含む膵島を提供者から移植する手術も試みられているが、実施例は少ない。

 田中教授らは、増やしたβ細胞を小さな容器に入れて体内に植え込む人工膵臓を開発中だ。効果や安全性の確認に課題はあるが、1~2年後をめどに完成させて動物実験を進め、将来的な糖尿病患者への応用を目指す。

2005年09月15日

 日本人研究者が見つけ、従来より高い温度で電気抵抗がなくなる超伝導材料を使い、実用的な性能の電磁石を作ることに成功したと、日立製作所と物質・材料研究機構が15日発表した。超伝導電磁石が使われている医療用MRI(磁気共鳴断層撮影装置)などの小型・軽量化や低コスト化につながりそうだ。

 この材料は、二ホウ化マグネシウム。秋光純・青山学院大教授らが見つけ、01年に発表した。加工しやすい金属系材料としては、従来よりずっと高い絶対温度39度(セ氏零下234度)で超伝導となる。

 日立製作所などは、これを電線状に加工してコイルを作製。電源などとつなぐ部分の構造を工夫し、MRIに必要な1.5テスラの強い磁場を長時間安定して発生させることに成功した。

 現在、超伝導電磁石に広く使われているニオブチタン合金は、絶対温度約4度の液体ヘリウムによる大がかりな冷却設備が必要だ。二ホウ化マグネシウムは安価で、冷凍機による冷却で済むため、コスト、重さとも3~4割の削減が見込めるという。ほかに絶対温度100度以上で超伝導となる酸化物系材料もあるが、長時間安定した電磁石はまだできていない。

 秋光教授は、新しい高温超伝導材料を発見した業績で01年度朝日賞を受けた。

 〈秋光教授の話〉 1.5テスラの磁場を安定して出すことができたのは大きな成果。酸化物系材料は発見から20年近くたつ。それと比べると、非常なスピードで実用化に近づいている。
2005年08月26日09時22分

 寿命を延ばす作用があるらしいたんぱく質を、黒尾誠・米テキサス大助教授と東京大、大阪大などのチームがマウス実験で見つけた。こうした物質が、哺乳(ほにゅう)類で見つかったのは初めて。このたんぱく質は人間でもつくられており、将来、薬でこのたんぱく質を増やすなどして、寿命が延ばせるようになるかも知れない。米科学誌サイエンスの電子版に26日、論文が掲載される。

 この物質は、黒尾さんらが8年前に見つけた遺伝子「クロトー」がつくるたんぱく質。遺伝子操作でクロトーたんぱく質が通常のマウスの2~2.5倍できるマウスを作ったところ、通常のマウスの寿命が平均約700日なのに対して、平均で2~3割長生きし、3歳に達したものも出た。

 このたんぱく質は脳や腎臓でつくられる。一部が血液で体中に運ばれ、インスリンの作用を抑制するように働いていた。通常のマウスにこのたんぱく質を注射すると、血液中の糖を体の組織に取り込むインスリンの働きを打ち消し、血糖値が上がった。インスリンの働きを抑えすぎると糖尿病になるが、適度に抑えることで寿命を延ばすとチームは見ている。

 クロトー遺伝子が壊れたマウスは、動脈硬化や骨粗鬆症(こつそしょうしょう)、肺気腫などで短命なことが知られていた。黒尾さんはこのたんぱく質がホルモンとして老化を制御するとしており、「人の老化や生活習慣病の治療・診断に応用できる可能性がある」という。

 これまで、哺乳類の寿命を延ばす方法としては唯一、体に取り込むカロリーの制限(食事制限)が有効なことが、多くの動物実験で確かめられており、インスリンとのかかわりを指摘する説もある。
勉強すると脳細胞が増える仕組みの一端を、東大の久恒辰博・助教授(脳科学)と大学院生の戸塚祐介さんが実験で突き止めた。何かを覚える時に出ると知られている脳波の一種「シータ波」が脳の中の海馬という部分に伝わると、将来脳神経細胞に育つ前駆細胞が刺激され、最終的に脳細胞が増えることがわかった。15日付の米科学誌「ニューロン」に発表する。

 実験では、マウスの脳を切り取った切片に電極を刺し、シータ波と同じような刺激を人工的に与えた。すると、海馬にある前駆細胞が興奮し、この興奮が引き金になって前駆細胞が脳神経細胞に育つことがわかった。

 成人の脳の神経細胞はいったん失われると再生できないといわれていたが、98年にスウェーデンの科学者が成人の脳でも海馬で神経細胞が新しく生まれると発表し、注目された。今回の研究で、新しく生まれるきっかけを作るのはシータ波であることが示された。

 久恒さんは「人も学習しているときに海馬からシータ波が出ているとの研究がある。勉強すると頭がよくなる仕組みがわかった」と話す。
2005.09.20
Web posted at: 18:36 JST
- CNN
(CNN) 米航空宇宙局(NASA)のグリフィン長官は19日、スペースシャトルに代わる次世代宇宙船「Crew Exploration Vehicle(CEV)」や、月への有人飛行計画に関する概要を発表、2018年に宇宙飛行士を月に着陸させる、と述べた。

計画によると、宇宙飛行士が乗ったカプセル型のCEVと、月着陸船や物資を積んだ無人貨物ロケットを別々に打ち上げ、宇宙空間でドッキングさせて、月へ向かう。

人類初の有人月探査を実施した、アポロ計画の宇宙船に似たCEVには、6人の飛行士が搭乗可能で、試験飛行は2012年ごろを予定している。このほか、2008年と11年にロボットを搭載した無人飛行船を月へ飛ばし、有人飛行船の着陸に適した場所を探す。

今後13年間にわたる費用は、2005年の段階で、1040億ドル(約11兆4400億円)と見込んでいる。

グリフィン長官は、「宇宙計画は、未来へ向けた長期投資」と強調、計画遂行への意欲を見せた。

一方で、ブッシュ大統領が宇宙探査計画の構想に入れていた月面の宇宙基地建設や火星への有人飛行については、検討中だが、(実現は)予算次第だとの考えを示した。
以前私は、筋金入りの宗教右派の http://www.house.gov/stearns/ クリフ・スターンズ下院議員(共和党、フロリダ州選出)にインタビューしたことがある。当時スターンズ議員は、クローニングによってヒト胚を作成しようと試みるあらゆる科学者を監獄送りにする法案を提案していた。スターンズ議員がクローニングと胚性幹細胞(ES細胞)の研究に反対する理由は、本人の言葉によれば、次のようなことだという。ふつうの人間に「触手」があり、クローン人間にはそれがないとして、クローニングを進めれば「触手を持たない、今までの人類とは別のカテゴリーに属する人たちが生じ、人間の間に優劣が生じるかもしれない。出会った相手がクローンだとわかったとき、どう対応すればよいのだろうか?」

 スターンズ議員を[ハリウッド史上最悪の監督と言われる]エド・ウッドなみのでっち上げだと非難する気にはなれないかもしれない。そもそも、スターンズ議員は科学者ではないし、息抜きになる笑い話を提供してくれるのだから。しかし、ジョージ・W・ブッシュ大統領が最近、進化論のかわりに「インテリジェント・デザイン」(知的計画、ID)説を教えることを支持した件は、笑い話で済むのだろうか?

 笑って済ませられる話ではない。ブッシュ大統領は「デウス・エクス・マキナ」[都合よくすべてを解決してくれる神]と書物による知識とを対比する発言をしばしばしており、今回のID説の件も単なる一度きりの馬鹿話ではないからだ。彼らの発言の数々は、サイエンス・ライターのクリス・ムーニー氏の新著のタイトルである『 http://www.waronscience.com 科学に対する共和党の闘い』(The Republican War on Science)の一環と言えるのものなのだ(1つお断りしておくと、ムーニー氏がこの本を出した米ベーシック・ブックス社からは私も本を出したことがある。さらに言わせてもらうと、私の出した本はほんのわずかしか売れなかった。よって、私がお金に釣られてこんなことを書いているのではないと断言できる)。

 息子のほうのブッシュ大統領の就任後の特徴として、科学や科学者との敵対関係があることは、この本を読まなくても誰でも知っている。これほどまでの緊張関係は、1954年に「原爆の父」ロバート・オッペンハイマーが秘密資料の取り扱い権を剥奪され、ライナス・ポーリング[核実験反対運動で知られる化学者]がパスポートを取り消されて以来のことだ。ブッシュ政権とそれを支える者たちが、これまでに繰り返し、科学者や科学研究に関して事実をねじ曲げ、場合によっては嘘を用いてきたことも、よく知られている。地球温暖化、幹細胞、クローニング、性、土地開発、環境汚染、ミサイル防衛といったテーマが思い浮かぶ。

 ムーニー氏のこの著書の本当の価値は、ムーニー氏がこうした歪曲の舞台裏を暴いていることにある。科学を攻撃している団体や人物が誰で、科学への誹謗中傷を作り上げる戦術や、その誹謗中傷が強力な政治的武器として機能する仕組みはどのようなものかが明らかにされる。

 ムーニー氏はまず、科学への不信感を作り出し、ごく少数の警告にしか耳を貸さないというブッシュ政権の態度によって引き起こされた危険な事態を概観するところから始める。実際、「共和党の闘い」というのは必ずしも正しい表現ではない。共和党員が全員揃って科学に挑んでいるわけではない。科学に反感を持っているのは、キリスト教原理主義者や企業のトップ経営者たち、狂信的な反エコロジー主義者といった、一見共通点がなさそうだが、党内の選挙戦略を支配している極右の結びつきなのだ。反トラストの環境保全論者、セオドア・ルーズベルト大統領は共和党員だったのだ。

 いっぽう、左派もやはり科学の歪曲に一役買ってきた。『 http://www.peta.org/ 動物の倫理的扱いを求める人々の会』(PETA)や http://www.greenpeace.org/international_en/ グリーンピースは、自分たちのイデオロギーに関する戦いに勝つためなら、どのような発言でもするし、あらゆる行動をとる。遺伝子組み換え食品が「フランケン食品」と呼ばたことを覚えているだろうか?

 しかし、右派に比べればこのような左派の行為など、非常につたなく、素人同然に見えてくる。

 「2002年まで、エクソンモービル社は、地球温暖化に関する科学界の主流派と闘う政策集団やシンクタンクに対して、毎年100万ドル以上の寄付を行なっていた」とムーニー氏は指摘する。「寄付先は、『 http://www.marshall.org/ ジョージ・C・マーシャル研究所』、『 http://www.cei.org/ 企業競争研究所』、『 http://www.ff.org/ フロンティアズ・オブ・フリーダム』、『 http://www.heartland.org/ ハートランド研究所』、ウェブサイトの『 http://www.techcentralstation.com テック・セントラル・ステーション』など、多岐にわたる」

 「気象科学で大きな進展が見られるたびに、これらの組織は、オンラインの論評やレポート、報道発表、新聞のコラムなどの手段を使って最先端科学のあら探しをし、その『正体』をどうにかして暴き立てようと躍起になった。具体例としては、2004年末の『 http://www.amap.no/acia/index.html 北極気候影響アセスメント』(ACIA)の発表が挙げられる。マーシャル研究所はこのレポートの内容にすぐさま異議を申し立て、続いて http://inhofe.senate.gov/ ジェイムズ・インホフェ上院議員(オクラホマ州選出、共和党)が、この研究所の名前を挙げてACIAに対する反論を展開した」

 この本の中でも特に見事なのは、右派が巧みに言葉を選び、一般の人たちが科学研究に疑念を抱くよう仕向ける手法に関する記述だ。「ジャンク・サイエンス」や「健全な科学」といったフレーズは、自分たちが気に入らない研究の地位をおとしめるために右派がつくり出した言葉なのだという。

 ムーニー氏の著書では、専門知識がないと理解できないような題材がたくさん扱われており、読み進めると数々登場する有力者やグループの区別がつかなくなってくるかもしれない。だが、だからといって読む気をなくさないでほしい。米国では実際、このようにして政策が作られており、政府の各部署の奥深くにある、一見目立たない委員会で行なわれている戦いが、世界の行く末を左右する可能性すらあるのだ。それに、面倒な作業は、ムーニー氏が済ませてくれている。何層にも絵の具を重ねるように個々の具体例を積み上げているこの本を読み終わるころには、恐るべき世論操作の全体像が浮かび上がってくるはずだ。その描写は実に魅力的だが、実態を知った読者は暗澹たる思いがすることだろう。

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この記事を執筆した http://hotwired.goo.ne.jp/news/culture/story/20040213202.html ブライアン・アレキサンダー氏(日本語版記事)は『歓喜:バイオテクノロジーはいかにして新しい宗教になったか』(Rapture: How Biotech Became the New Religion)の著者。

[日本語版:緒方 亮/長谷 睦]日本語版関連記事

http://hotwired.goo.ne.jp/news/culture/story/20050616203.html 米国で、進化論教育をめぐる攻防が激化

http://hotwired.goo.ne.jp/news/technology/story/20041119303.html ブッシュ政権と科学界の対立、2期目はどうなる?

http://hotwired.goo.ne.jp/news/business/story/20041108104.html カリフォルニア州、ES細胞研究への資金援助を可決

http://hotwired.goo.ne.jp/news/culture/story/20040818205.html 4000人以上の科学者ら、ブッシュ政権の科学政策を批判

http://hotwired.goo.ne.jp/news/culture/story/20040223202.html 「ブッシュ政権は科学研究を歪曲」科学者団体が批判

http://hotwired.goo.ne.jp/news/culture/story/20040213202.html クローン研究の状況を総括した本の著者に聞く

http://hotwired.goo.ne.jp/news/culture/story/20030916205.html 進化論教育をめぐってテキサス州の科学者や宗教家らが大激論

http://hotwired.goo.ne.jp/news/technology/story/20030303307.html 米下院、ヒトクローン全面禁止法案を可決


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(WIRED) - 9月9日18時42分更新