スウェーデンのカロリンスカ研究所は3日、05年のノーベル医学生理学賞を豪州の西オーストラリア大のバリー・マーシャル教授(54)とロビン・ウォーレン名誉教授(68)に授与すると発表した。両氏は82年、細菌の一種のヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)を発見し、ピロリ菌の感染が胃潰瘍(かいよう)や十二指腸潰瘍の原因になることを突き止めた。
 授賞式は12月10日、ストックホルムで開かれる。賞金の1000万クローナ(約1億5000万円)は両氏に半分ずつ贈られる。
 消化器の潰瘍は、ストレスや生活習慣が原因だと考えられていた。病理医だったウォーレン氏は70年代末、胃の一部の組織を切り取る検査を受けた患者の半数で、胃の下部にらせん状の細菌が集まり、その周辺で胃粘膜が炎症を起こしていることを発見した。
 マーシャル氏は82年、この細菌の分離と培養に成功し、ヘリコバクター・ピロリと名づけた。胃や十二指腸に潰瘍を持つ患者のほとんどが持っていることから、ピロリ菌が潰瘍の原因だと提唱した。ピロリ菌の除去で潰瘍が治ることも示した。
 40歳以上の日本人の7割以上がピロリ菌に感染しているとされ、抗生物質を使った菌の除去が治療法として広く用いられている。
 胃潰瘍と同様に慢性的な炎症が起きる、潰瘍性大腸炎やクローン病などの研究にも新しい視点を提供することになった。
 強い酸性の胃液が出る胃の中に細菌がすめるはずはないとされ、ピロリ菌の存在を否定する専門家も多かった。このため、マーシャル氏は自らピロリ菌を飲み、急性胃炎になることと抗生物質で菌を殺すと胃炎が治ることを示し、自説を証明した。
 ◇「胃の病気の概念変えた」…関係者称賛
 ピロリ菌が胃潰瘍を起こす仕組みを解明した畠山昌則・北海道大教授(分子腫瘍学)はマーシャル氏について「身長190センチ以上でがっしりとした体格。陽気な人で、ピロリ菌対策の重要性を説いて回っていた。自ら菌を飲んだと聞き、すごいなと思った」と話す。
 国立がんセンター中央病院の斉藤大三・内視鏡部長は「ピロリ菌は胃潰瘍から胃がんまで、ほとんどの胃の病気に関係しているとみられる。2人の発見が胃の病気の概念を変えた」と称賛する。【山本建、高木昭午】
毎日新聞 2005年10月3日 18時49分 (最終更新時間 10月3日 21時32分)