白川昌宏(Masahiro Shirakawa)
京都大学大学院工学研究科分子工学専攻

1983年大阪大学理学部卒業,1988年大阪大学理学研究科修了, 理学博士,日本学術振興会特別研究員,大阪大学蛋白質研究所助手,奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科 助教授、横浜市立大学大学院総合理学研究科教授を経て,2005年より京都大学大学院工学研究科教授.専門はNMR分光学,構造生物学,生物物理学.

生きたまま,細胞あるいは個体内のリアルタイムな観察を可能にしたin vivoイメージング.生命機能を理解するうえで,試験管内での情報だけでなく,実際に生体内のどこで・どのように働いているかといった疑問を解決するために,いまや必要不可欠な技術であると言える.今回,本特集を企画いただいた白川昌宏教授に,in vivoイメージングの登場から現在までの流れ,また基礎研究者がこの技術をどのように研究に取り入れかかわっていくべきか,ご自身の見解を語っていただいた.(編集部 蜂須賀修司)

● 細胞・個体内での測定を可能にした技術革新とは?

in vivoイメージングが最初に登場したのはいつですか?

実際に生きたままの細胞を見るというのは,昔からある手法ですが,このところの興隆の代表として挙げられるのはやはり,Tsien博士や宮脇博士の“cameleon”によるカルシウムセンシングですね.これは細胞イメージングの先駆けといえるもので,1980年代後半から始まった流れの代表と考えていいと思います.Tsiensらが始めた蛍光イメージングが非常にパワフルになってきて,それ以外の物理的な計測もそれに伴って広まってきたと言えると思います.

―大きな流れでいうとやはり蛍光イメージング技術の発展に伴ってということでしょうか?

蛍光イメージングが発展することによって,遺伝子発現や分子局在が細胞内で見えるようになってきました.またそれは非常に大きな武器になるということが,特に細胞内分子輸送の研究をしている研究者にとって,非常にインパクトが大きいものでした.しかし個体に対しては,蛍光イメージングでは線虫やゼブラフィッシュなどの透明な生き物しか見ることができませんでした.そこで不透明な生き物で使えないかということで,生物ルミネッセンスを利用したルシフェラーゼアッセイが登場しました(寺川らの項 ,参照).それに伴って,細胞あるいは生体中で分子の振る舞いを見ないといけないという認識が高まり,MRI(瀬尾らの項 ,参照)やPET(藤林らの項 ,参照)などを用いたin vivoイメージングが出てきたというのが時代の流れだと思いますね.

逆に言うと,技術の進歩により新しい研究分野が開けてきて,さらに技術の革新が必要となっているという言い方もできると思います.

―ルシフェラーゼアッセイがルミネッセンスを検出しているのに対して,PETやMRIは何を見ているのでしょうか?

PETでは放射性同位体をプローブとして分子局在などを測定しています.一方MRIでは,組織学的な状態を見たり,あるいはその細胞の活性や血流を含めたそれぞれの生体器官の物理量を測定しているため,まだ分子イメージングには遠いと思います.特定の分子の挙動を見ている例がまだ極めて少ないと言えます.

―イメージングをin vivoで行う意義は簡単にいうとどのようなことですか?

基本的には生物を生きたままの状態で観察することができるということが最も重要です.今まで多く行われてきたin vitroの実験というのは,基本的には必ず何らかの形でアーチファクトが入ります.in vivoの場合ではそういうことを極力防ぐことができますし,さらに分子生物学がかなり進んできて,生体分子が状況に依存して多様な機能を示すことが明らかになってきました.他の分子と協同する生体内で,どのような働きをしているかを調べないと本当の意味での生命現象は理解できないという考え方が一般的になってきました.同時に,特にポストゲノム時代を迎えたことで,多数の分子がパラレルに働いている状態を明らかにしようというシステム生物学的アプローチも盛んに研究されるようになり,in vivoで解析を行わなければならないという機運が高まってきたと言えるかもしれません.

in vivoイメージングによる研究成果

in vivoイメージングによる研究成果としてはどのようなものがありますか?

やはりTsien博士や宮脇博士らがかかわっておられた蛍光色素を使ったカルシウムセンシングというのが非常に大きなブレイクスルーの1つだと思います.細胞を含めたいわゆるin vivoイメージングの一番大きなランドマークになっているのではないでしょうか? その他は,いろいろな腫瘍細胞にドラッグターゲティングするという仕事も行いつつあるようです.ドラッグがどこにデリバリーされるかということを追跡できるようになってきていますので,それがPETや生物ルミネッセンスで見ることができるようになっていますね.

その他,具体例は山ほどありますが,GFPタンパク質を使って細胞の中での分子局在を調べたり,また国立遺伝学研究所の小原博士は線虫のすべての遺伝子の発現の局在を網羅的に調べるなど,大きな成果が出ています.

in vivoイメージング技術~それぞれの手法のメリットとデメリット

―PETやMRIの特徴を詳しくお教えください.

PETの最大の特徴は,感度が優れている点です.感度が良いため非常に少ない分子数で局在を見ることができます.一方,デメリットとしては,今のところ分子プローブを手に入れる手段が限られていること,また分子プローブの設計が技術的に非常に高度である点が挙げられます.

MRIについては,さまざまなものが測定対象になることと体の深部に対して高い分解能で観察することができることが一番大きなメリットです.一方デメリットとしては感度が悪い点が挙げられます.相当な分子数がないと明確な像を見るのは今のところ難しいですね.これが分子イメージングを難しくしています.しかし,解剖学的に見るものとしては非常に優れていると言えます.MRI顕微鏡では生体を数十ミクロン単位で見ることが可能です.

―ルシフェラーゼを使った方法はいかがでしょうか?

最も汎用的な方法で,体の内部を見ることができるという点では優れています.ルシフェラーゼアッセイではルシフェリンという物質を基質に使って発光するのですが,ルシフェリンをどうやって体全体に均一に巡廻させなければなりません.体の内部で発光させたときに分解能があまり高くないことが課題となっています.体の中で光ると散乱するので像がぼやけてしまいます.しかし計算機的な手法で分解能を極力上げようという努力はかなりされているので,将来的にはかなり有望な方法かもしれません.

―今回の特集にある“脳スライス標本を用いた電気生理とイメージング(大久保らの項 ,参照)”では,どのような方法を用いているのでしょうか?

脳スライス表皮を用いたイメージングというのは厳密にはin vivoではないですね.ただ非常に精密な情報が得られます.特に脳というのは,臓器として極めて複雑な構造をもちます.ここが他の臓器とは違う点だと思います.しかも個々の部分の働きが他の部分と明らかに違うという特異性があります.それをきちんと調べたいというのが,今の脳神経科学者の最大の目標の1つだと思います.脳スライス標本をとってしまうと非常に精密な位置情報が得られますが,それが本当に生きた脳と結びつくのかわからない.これを分解能が低いけれどもin vivoのイメージングで得られる情報と結び付けて研究を行っているのが,大久保先生や飯野先生ですね.

● “究極のin vitro”から“in vivo”へ

―先生自身がin vivoイメージングに取り組まれた経緯をお教えください.

まず実際に分子が個体の中でどのように振舞っているのかを知りたいという欲求がありました.背景としては私が専門としている磁気共鳴が,in vivo 解析に非常によく向いているということがあります.浸襲性が低いので検体である動物に対してほとんどダメージがありませんし,明確に生体の内部を見ることができます.また,これまで私がやってきたのは構造生物学で,in vitroの究極のような分野と言えます.精製したタンパク質の構造を調べるという,極めて精密ですが非常にChemistry寄りの仕事です.Chemistry寄りの仕事というのはもちろん非常に重要なのですが,究極にin vitroの研究ばかりしているだけでは生命は理解できないのではないかという疑問をもったのがきっかけです.

―NMRもMRIも磁気共鳴という手法を用いていますが,研究対象はかなり異なっていると思います.

われわれがNMRで行おうとしていることの1つは遺伝子発現を調べることです.ゲノム計画が終わって,マウスだと約3万くらいの遺伝子があると言われていますが,それらの遺伝子の多くは生体内のいつどこで働いているかということはまだ正確にはわかっていません.唯一DNAチップで組織からとったRNAを調べる方法がありますが,それだけでは発生の途中で非常に短い時間だけ発現する遺伝子や,あるいは脳中枢神経系で働いている遺伝子について調べるのは難しいことがあります.どうしても生きている状態で見る必要があり,そうしたときにNMRが使えるのではないかということが言われるようになってきました.そう考えると,今まで用いてきたNMRの手法で,細胞の中での遺伝子発現や細胞の機能などをイメージングするという意味では極端な飛躍はないように思います.

もう1つの仕事としては,生体中でタンパク質の構造がどのようになっているかを見ようとしています.イメージングというよりは,in vivoスペクトロスコピーの分野になると思うのですが,in vivoの状態でタンパク質の機能・構造解析をNMRあるいはESR(電子スピン共鳴)を使ってやりたいと考えるようになってきました.

―“究極のin vitro”でみたタンパク質の構造が,いかに生体内で機能しているかということも非常に興味深い情報ですね.

そうですね.素朴な疑問としては,試験管内で決めた立体構造が本当に細胞の中で同じ形で働いているのか,また本当に生きているヒトやマウスの個体中で同じような構造で同じような機能をしているのかということがあります.リン酸化やアセチル化,あるいはユビキチン化やSUMO化など,生体内でのさまざまな変化をリアルタイムで見られるようにならないといけないと思います.in vitroの研究とin vivoの研究をうまく結びつけて理解したいという考え方をもっています.実際には両方の研究を行っていますので,脳スライス標本を用いた電気生理とイメージングという組み合わせとある意味では似ているかもしれませんね.

● 基礎研究者がいかに利用すべきか

―基礎研究者はこの技術をどのように取り入れていけばいいでしょうか?

最近の動向として,生命を理解するためにはin situ(その場)解析することが求められてきています.分子生物学の分野では,同定・単離してきた遺伝子やタンパク質の機能を調べますが,生きた状態で本当に試験管内で見られたことが起こっているのか.それがどのくらい意味があるのかということを調べなければいい仕事として認められなくなっていますね.新しい因子を見つけた場合にも,生きた個体のどこに存在し,どのように生命機能にかかわっているかをin vivoのデータで示さなければ実証した事にならないという時代にすでになっていると思います.基礎科学的な研究を行っていても,動物個体を対象とした計測が必要となってきています.基礎研究者にもin vivoイメージングがだんだん重要になっていると言えるでしょう.

―MRIやPETは誰でも使えるものなのでしょうか?

PETに関しては,小動物用の1,000~2,000万円くらいの比較的安価な装置が登場しています.しかし,分子プローブは寿命の問題も含めて入手は容易でないかもしれません.MRIに関しては,実は日本は装置が世界で一番高密度にある国の1つです.もっぱら臨床の分野ですが,医学部がある大学などではMRIにアクセスしやすいと思います.そういう意味からすると皆さんが考えられているよりは身近な装置だと思いますし,MRIに実際に入ったことがある方も数人に1人ぐらいいるのではないでしょうか?

―ルシフェラーゼアッセイなどではどうですか?

蛍光イメージングとルシフェラーゼがかなり汎用的になってきていると言えます.小動物に関して言えば,ルシフェラーゼアッセイやイメージングする機械がかなり安価になってきています.

in vivoイメージング~今後の展開

―この技術を使った技術は今後どのように発展するのでしょうか?

技術の発展はこれから爆発的に見られると思います.米国では大きな分子イメージングのプロジェクトが進んでいますし,日本では平成17年度あたりから文部科学省を中心に分子イメージングに対して巨額な研究費が下りようとしています.このような投資の結果が実ってくるのが,この先約2~5年後でしょうから,MRIやPETも含めて大きな技術的革新があると思いますし,基礎研究者に対してもっと敷居が低いものになると思います.

―文部科学省のプロジェクトというのは,具体的にはどのようなものでしょうか?

平成17年度に分子イメージングに数十億円レベルの投資をするということが発表されています.でもそれに先駆けてすでに(独)科学技術振興機構(JST)は,昨年CRESTのテーマとして分子イメージング的なものを中心に置いたり,先端計測といって生物を対象とした計測機器を開発するための集中的なプロジェクトの公募を行っていました.米国では分子イメージングや先端的な計測機器の開発のための大きなグラントが公募されつつあるようです.

―そのような研究費は多くの方がin vivoイメージングを使えるために使われているのでしょうか?

JSTの先端計測というのは,基本的に市場に出す製品を創ることを目的としています.より製品に近いようなタイプの開発を推進するような予算の出し方をしていますね.逆に言うと,それは非常に製品化に近いところですから,革新的な基礎研究のためのグラントではないとも言えます.革新的な研究については,CRESTや平成17年度の文部科学省の研究費に期待したいですね.

日本の最近の特徴として成果が非常に早く求められるので,なかなか新規な計測法に対する大きな投資がなされなかったのですが,最近は革新的で先が見えにくいような研究開発にも投資をしようというような動きが見られるようになってきました.もともと日本は技術力が高いですし,優秀な物理化学系の研究者が多くいますから,分野の融合がこういったグラントで促進されると革新的技術が誕生する可能性は多いにあります.

この分野での技術の進歩は大変早いので,研究に活かせるテクノロジーが出てくることを期待していいのではないでしょうか.

バイオテクノロジー ジャーナル2005年5-6月号掲載

科学成果の事業化,実用化が叫ばれる時世に,およそ70年前に寺田寅彦が発した名言を噛みしめてみたい.以下は,「寺田寅彦全集」の随筆「科学とあたま」から引用したくだりである.

―いわゆる頭のいい人は,いわば脚の早い旅人のようなものである.人より先に人のまだ行かないところへ行き着くこともできるかわりに,途中の道ばた,あるいはちょっとしたわき道にある肝心なものを見落とす恐れがある.頭の悪い人,脚ののろい人が,ずっと後からおくれて来てわけもなくその大事な宝物を拾って行く場合がある.頭のいい人は,いわば富士の裾野まで来て,そこから頂上を眺めただけで,それで富士の全体をのみこんで東京へ引き返すという心配がある.富士はやはり登ってみなければわからない―

―それで,研学の徒はあまり頭のいい先生にうっかり助言を乞うてはいけない.きっと前途に重畳する難関を一つ一つしらみつぶしに枚挙されて,そうして自分のせっかく楽しみにしている企図の絶望を宣告されるからである―

―科学の歴史はある意味では錯覚と失策の歴史である.偉大なるおろかなものの,頭の悪い能率の悪い仕事の歴史である―

―つまり,頭が悪いと同時に頭がよくなくてはならないのである.この事実に対する認識の不足が,科学の正常なる進歩を阻害する場合がしばしばある-

この随筆は次のように締めくくられる.

―この老科学者の世迷言を読んで不快に感ずる人は,きっとうらやむべき優れた頭のいい学者であろう.またこれを読んで会心の笑みをもらす人は,またきっとうらやむべく頭の悪いりっぱな科学者であろう.これを読んで何事も考えない人は,おそらく科学の世界に縁のない科学教育者か科学商人の類であろうと思われる―

われわれ科学者は,目先の利く科学を進める一方で,世間ズレのない科学,無邪気で一見愚直な科学をどこかで保護してゆかないといけないのであろう.

さて,蛍光イメージングについて,ある意味,蛍光イメージングは,行動派の人間にぴったりの技術なのかもしれない.観る前に考えすぎて結局観る機会を失っている研究者,アバンギャルドに憧れながら結局羽目をはずせないでいる機器メーカー,大江健三郎ではないが,“見る前に跳んでしまってはいかがですか?”

風邪予防のために「うがい」を行う日本独特の衛生習慣が、実際に効果があることを京都大保健管理センターの川村孝教授(内科学・疫学)らのグループが実証した。これまでうがいの有効性を裏付ける根拠は何もなかったといい、世界初の成果という。

 02~03年の冬場、全国で18~65歳の計約380人のボランティアを▽水うがい▽ヨード液うがい▽何もしない、の3群に分けて2カ月間調査。うがいは15秒を2度行い、1日3回以上実施した。その結果、水うがい群は何もしない群に比べて風邪の発症が4割減った。

 一方、ヨード液群には、はっきりした予防効果がみられなかった。メカニズムは不明だが、川村教授らは「健常なのどでもたくさんの細菌がバランスを保っている。薬がバランスを壊すのではないか」と推測する。また水うがいでも、水道水に含まれる塩素が殺菌効果をもたらした可能性を指摘している。

 一般的な感染予防にうがいが有効との指針を出してきた厚生労働省結核感染症課は「あくまでも通説に従っていた」とコメント。ヨード液を主成分とする国内シェアトップのうがい薬を製造販売する明治製菓(東京)は「のどを殺菌・消毒・洗浄する治療薬であり、風邪予防の効能はもともとPRしていない」としている。【鶴谷真】

毎日新聞 2005年10月30日 東京朝刊

タンパク質立体構造解析
専用計算機と新アルゴリズムで
名大と理研 高速化に成功


 名古屋大学工学研究科マテリアル理工学専攻応用物理学分野の坂田誠・教授、理化学研究所(理研)の戎崎俊一・主任研究員らの共同グループは、タンパク質のX線結晶構造解析の解析作業を大幅にスピードアップする技術開発に成功した。新たに開発されたアルゴリズムを理研の超高速専用計算機MDMに導入して実証試験をすると、100万以上のX線回折データが数時間で処理でき、速やかにタンパク質の立体構造が決定されることを実証したという。
高分子の構造を原子レベルで3次元でX線結晶構造解析は、1950年代のヘモグロビン、ミオグロビンでの成功を機に活発化する。日本では実験室の1億倍レベルのX線強度をもつ大型放射光施設SPring-8を利用し、高精度なX線回折データからタンパク質の詳細な立体構造が世界に先駆けて幾つも明らかになっている。ただ、詳細なデータの解析過程には大規模な計算能力が求められる。このため、共同グループはタンパク質などの特定の高分子に対応するアルゴリズムに注目して効率的な構造解析の技術開発を進めた。
 まず坂田教授らが有機低分子や医薬品の設計用に開発した離散フーリエ変換に着目した遺伝的アルゴリズムに基づき、MDMでの利用に特化した新しい構造解析アルゴリズムを開発した。さらに、このアルゴリズムをMDMに適用し、巨大なタンパク質のカルバモイルリン酸生成酵素のX線回折から得られた100万ものデータを解析した。その結果、数時間という実験で現実的な計算時間で同酵素の立体構造が決定されたという。
 アルゴリズムに基づいて大まかなタンパク質構造をあらかじめ決定し、実際の結晶構造解析データと比較、離散フーリエ変換の計算を超高速で実行できたことが技術的ポイント。従来の計算方法では困難だった巨大で複雑なタンパク質の立体構造や、結晶化で双晶になってしまうものにも適用できる。質の悪いタンパク質結晶の解析データからも、高速で構造が決定できるとしている。
 なお、この成果は11月6日から米国ピッツバーグで開催されるスーパーコンピューティング2004で発表される。
国際コンテストで酸総研上位入賞
日本の研究機関で6年ぶりの快挙

 産業技術総合研究所生命情報科学研究センター(秋山泰センター長)の富井健太郎研究員らは、今夏3ヶ月にわたって開催されたタンパク質立体構造予測技術に関する国際コンテスト「CASP6(Critical Assessment of Techniques for Protein Structure Prediction)」で、200チームを超える世界の参加チーム中、最高レベルの成果を達成した。そのため主催者側から招待され、12月4日から8日にイタリアで開催された同コンテストの結果発表会の席上で招待講演を行った。日本の研究機関からの招待発表は、6年前のCASP3における国立遺伝学研究所のチーム以来という快挙である。
 タンパク質立体構造予測技術は、立体構造をタンパク質を構成しているアミノ酸配列の情報だけから計算科学的手法で予測する技術。「CASP」は、2年に1度世界的に行われるそのコンテストである。実験的に立体構造が解明される寸前のタンパク質ばかりが数10問も出題されるため、まさに方法論の実力と安定度が問われる“実戦”のコンテストとなっている。
 参加者は、計算機生物学や生物物理学分野の研究者が多い。コンテスト開催期間中に、主催者は公開ホームページ上で次々と出題を発表し、参加者は指定された締め切りまでに、解答(予測した構造)を所定形式によりインターネット経由で提出する。
 今回のCASP6では87問(タンパク質数)が出題され、その後取り消しなどがあり最終的には64問が評価の対象となった。
 産総研のチームが上位入賞を果たしたのは「テンプレートに基づく予測」と呼ばれる部門。既知のタンパク質の立体構造との類似性を、配列相同性解析や構造認識技術などを用いて感度良く発見することでモデル構築を競うもので、産総研は独自開発した構造認識法「FORTE」を軸に参加した。これはタンパク質配列情報を最大限に活用した方法により、精度良く類似構造を認識できる予測法だ。
 コンテストで評価された産総研の予測技術は、今後、ゲノム解析で急増する遺伝子の機能や構造を推定する手がかりとして応用が期待される。
喘息患者の気管支収縮 ●nature 
2005年4月7日号
喘息患者の肺では,換気されない部分がまだらに存在することがわかった。

 喘息は,世界中の子どもたちの間で広がりつづけている。喘息になると,気道が周囲の平滑筋収縮によってせまくなる。突然気道がせまくなったり再開通するなどの複雑な病態は,気道が細かく枝分かれしている構造と関連していると考えられてきた。
アメリカ,マサチューセッツ総合病院のベネガス博士らは,喘息発作をおこした肺を「陽電子放射断層撮影(PET)」を用いて観察した。すると気管支が収縮した喘息の状態では,十分に換気されない肺の領域がまだら状に生じることを明らかにした。また,気管支で平滑筋が収縮するようすをコンピューターでシミュレーションした結果,均一に平滑筋の収縮がおきても,わずかな不均一性が発生して,換気の不十分な肺の部分がまだらにできることがわかった。
 この研究は喘息治療に役立ち,またほかの分岐した構造をもつ器官における疾患を研究するモデルとなるだろう,と博士らはのべている。
【ジュネーブ17日共同】世界保健機関(WHO)の李鍾郁事務局長は17日、ジュネーブでの講演で、人の間での新型インフルエンザ大流行が「起きる」と断言、発生源は「鳥インフルエンザの大発生が続く東南アジアのどこかになる」との見解を示した。
 李事務局長は「いつとは言えないが、新型ウイルスはいつ出現してもおかしくない」と指摘、「(毒性の強い)鳥インフルエンザのH5N1型ウイルスが変異して、人から人に感染するようになる可能性が最も高いと考えられる」と述べた。
 事務局長はまた、世界各国が感染抑制プランを策定し、大流行発生に迅速に対応できる態勢を整えることが必要で、有効なワクチンを短期間に大量生産できる方策を検討すべきだと訴えた。
(共同通信) - 10月18日9時50分更新
同じ生物なのに、半数は藻を食べて動物のように暮らし、残り半数は植物のように光合成で生きる海洋微生物を、筑波大の研究グループが発見した。このような生物の発見報告はなく、研究グループは「謎の」という意味で「ハテナ」と呼んでいる。海洋微生物から植物への進化を解き明かす可能性があり、14日付の米科学誌サイエンスに発表される。

 この微生物は長径約30マイクロメートルで、単細胞のべん毛虫の一種。和歌山県の砂浜で偶然、見つかった。この微生物は体内に藻を持ちもともとは緑色。細胞分裂して二つに分かれると、一方は藻を受け継ぎ緑色になるが、もう一方は受け継がず無色の細胞になるという特異な性質を持つことが分かった。

 無色の細胞は口のような器官が発達して藻を与えると食べることも確認した。研究グループは、これらのことから微生物の半数は親から受け継いだ藻で光合成しエネルギーを生み出す「植物型」、半数は捕食した藻をエネルギー源として生きていく「動物型」であると結論付けた。

 海洋微生物が植物に進化する過程では、べん毛虫のような微生物が藻を取り込み、藻の葉緑体だけが発達。藻のその他の器官は退化し、葉緑体のみが残ったと考えられている。

 研究グループの井上勲教授(植物系統分類学)は「“半植半獣”ともいえる生物の発見は、海中の単細胞生物が植物へ進化していくステップの一端を示しているのではないか」と話している。【下桐実雅子】

毎日新聞 2005年10月14日 3時00分


べん毛虫の一種の海洋微生物(左)。細胞分裂すると、一方は緑色にもう一方は無色の性質の異なる細胞になる(右)
今、銀行では、あたり前のように35年の住宅ローンを貸します。借りるほうも、あたり前のように35年ローンを借ります。

 20代で借りるのなら35年ローンでも定年までに完済できるかもしれません。けれど、頭金を貯めて家を買おうとすれば、買えるのは30代半ばということになるでしょう。35年ローンなどを組んでしまうと、完済するのが70歳近くなってしまいます。

 それでも、以前は退職金があてになったので、そのお金で残りのローンを精算することができました。けれど、これからは退職金があてにならない。しかも、大変なのは、老後の生活にも不安が出てきていることです。

 これからマイホームを買おうという人は、たぶん年金が65歳以上になることでしょう。もし、60歳で定年退職になり、再就職先が見つからないと、60歳から65歳まで、無収入の時期を過ごさなくてはならないかもしれません。そうなると、収入がないい中でローンを返していくのはつらい!

 住宅ローンの返済額は、金利と借りる年数でかなりちがってきます。たとえば、2000万円の住宅ローンを、金利3%で組んだとします。35年ローンだと、月々の返済額は7万6970円。25年ローンだと、月々9万4842円で2万円ほど上がってしまいますが、総返済額が2845万2600円。35年ローンの総返済額3232万7400円に比べて400万円ほど返済額が少なく済みます。

 こうしたことを考えると、ローンの返済は、できれば会社を定年退職するまでに終わらせたいもの。もし、定年後にローンが残ってしまいそうな人は、早めに繰上げ返済で、返済年数を短縮しましょう。たとえば、35歳で2000万円を35年ローンで借りると、返済終了は70歳。けれど、借りて5年目に500万円を繰上げ返済すれば、58歳10カ月の時点でローンが全額返済できます。この場合、500万円の繰上げ返済で、総返済額は約1000万円減ります。
2005年10月03日


2005年のノーベル医学生理学賞を受賞したバリー・マーシャルさん

ノーベル医学生理学賞を受けたロビン・ウォーレン氏(AP)
 スウェーデンのカロリンスカ医科大学は3日、今年のノーベル医学生理学賞を、オーストラリアのバリー・マーシャル西オーストラリア大教授(54)と、病理専門医ロビン・ウォーレン博士(68)に贈ると発表した。ピロリ菌が胃炎や胃・十二指腸潰瘍(かいよう)の発生に深く関与していることを突き止めたことが評価された。近年は胃がんとの関係も次第に明らかになってきている。賞金は1000万クローナ(約1億4600万円)で、両氏で折半する。授賞式は12月10日、ストックホルムで開かれる。

 豪州の王立パース病院の病理医だったウォーレン博士は79年、胃炎患者の胃粘膜に、小さな曲がった未知の細菌(ピロリ菌)がいるのを見つけた。

 マーシャル教授との共同研究で、さらに100人の患者の組織を調べた結果、胃炎や胃・十二指腸潰瘍を患っているほとんどすべての患者で、ピロリ菌を確認した。

 試行錯誤の末に82年には分離培養に成功、マーシャル教授自身が菌を飲む実験をして急性胃炎が起こることを確かめた。

 その後、胃の奥の幽門部(ピロラス)にある細菌という意味でピロリ菌と名付けられた。

 この発見までは、強い酸性の胃液がある胃の中では細菌は生息しにくいと考えられていた。消化性潰瘍などはストレスと生活習慣が主たる原因と考えられていたが、除菌が再発を防ぐことを臨床的に証明した。このおかげで、消化性潰瘍は、抗生物質と胃酸の分泌を抑える薬を組み合わせた短期間の治療で済む病気になった。

 慢性疾患を微生物が引き起こしているという発見は、他の多くの病気のメカニズムを解明する手がかりにもなった。

     ◇

 〈ピロリ菌〉 正式名はヘリコバクター・ピロリ。らせん形にねじれた棒状の細菌で、大きさ4マイクロメートル(1000分の4ミリ)ほど。鞭毛(べんもう)で動き、胃粘膜を覆っている粘液に潜り込み、長年にわたってすみ着く。酸を中和する酵素を持ち、強い酸性の胃酸から身を守っている。