ジェフ・マルダーのオールド・タイム | Apple Music音楽生活

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レンタルCDとiPodを中心とした音楽生活を綴ってきたブログですが、Apple MusicとiPhoneの音楽生活に変わったのを機に、「レンタルCD音楽生活」からブログタイトルも変更しました。

ジェフ・マルダーという人はライ・クーダーと同様にオールド・タイムのアメリカン・ルーツ・ミュージックをロックのフィールドで甦らせてきたアーティストの一人です。


ジェフ・マルダーが60〜70年代に関わってきた様々なプロジェクト、ジム・グウェンスキン・ジャグ・バント、ジェフ&マリア・マルダー、ポール・バターフィールズ・ベターデイズについては、これまでも聴いてきましたし、記事にも書いてきました。
今回、ベターデイズ解散以後のソロ作品や昔の仲間とコラボレーションしたアルバムなどについてApple Music で聴けるものを聴いてみて、ジェフ・マルダーのデビューから現在までの歩みをまとめてみました。


ジェフ・マルダーは1945年ニューヨーク生まれで、ニューヨーク育ちの人。
グリニッジ・ヴィレッジを拠点としたフォーク・リヴァイバルの最中、若者たちに引っ張り出された戦前のブルースマンの歌とギターに思春期のジェフが大きな影響を受けたであろうことは想像に難くありません。
ケンブリッジにある大学に在学中の1963年、18歳の時に録音したファースト・アルバム『Sleepy Man Blues』にはブラインド・ウィリー・ジョンソン、ロニー・ジョンソン、ブッカ・ホワイトなどのブルース・ナンバーがずらりと並んでいます。

まずはブラインド・ウィリー・ジョンソンの"The Rain Don' Fall on Me"
ヴィブラートを効かせた歌い方はローニー・ジョンソンの影響を受けているようです。



アコースティックのブルースは彼の音楽的原点です。
1940年代のウディ・ガスリー、ピート・シガーに始まるフォーク・リヴァイバルの流れの中にあり、同世代のステファン・グロスマンやジョン・ミラーなどのギタリストと同じ出発点に立脚しているということがよく判ります。

Geoff Muldaur / Sleepy Man Blues 【CD】

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(現在、Apple Musicではジェフ・マルダーのアーティスト名は何故かThe Blues Project と表示されます)

同時期にジェフ・マルダーはハーバード大学やマサチューセッツ工科大学のある大学都市ケンブリッジ(イギリスの同名大学のある都市にちなんだ地名)を拠点に活動するジム・クウェンスキン・ジャグ・バンドに参加。
ジェフ・マルダーはこのバンドで、解散したイーヴン・ダズン・ジャグ・バンドから移籍してきたマリア・ダマド(マルダー)と出会い結婚します。

ジム・クウェンスキン・ジャグ・バンドは基本的にはジム・クウェンスキンのバンドなので、ほぼ7割方は彼のヴォーカルで占められていますが、こちらはその後のジェフ&マリア・マルダーにつながる二人のデュオが聴ける"Chevrolet"



この曲はいつの時代のものかは判りませんが(エド・ヤングという人が書いたようです)デレク・トラックス・バンドもアルバム『Song Cycle』の中で取り上げています。
同じようにルーツ系の他のアーティストが取り上げている曲としてはライ・クーダーがカバーした"Viola Lee"も1966年リリースのこちらのアルバムに収録されています。

See Reverse Side for/Jim Kweskin & Jug Band

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1968年にジャグ・バンドは解散。
ウッドストックに移住したジェフとマリアはデュオとして活動を続け、1970年にはジェフ&マリア・マルダーのファーストアルバム『Pottery Pie』を発表します。

ジェフ・マルダーが歌った曲としては、日本ではこの曲が一番知られているのかもしれません。
1997年に佐藤浩市が出演した「サントリー 10年 リザーブ 」のテレビCMで使用されていましたからね。
このアルバムに参加したウッドストックのミュージシャン、エイモス・ギャレットのイントロで聴けるギターが素晴らしいですね。
彼とジェフ・マルダーは以降、終生の盟友となります(エイモスの記事はこちら



"Brazil"という題名のとおりブラジルのアリ・バホーゾという人が1939年に書いた曲ですが、1942年のディズニーのアニメーションに使われて有名になった曲なので、これもアメリカのオールド・タイムの曲と言ってもいいかもしれませんね。
ビング・クロスビー、フランク・シナトラ、ポール・アンカなど数々のカバーがあるようですが、いい曲というものは多くの人に歌われるもんです。

ポテリィ・パイ/ジェフ&マリア・マルダー

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ジム・クウェンスキン・ジャグ・バンド時代と比べるとルーツ・ミュージックへのアプローチがポップで、ロックリスナーにも格段に聴きやすくなっていますね。
このアルバムではジェフとマリアがリード・ヴォーカルを取る曲が交互に並べられており、ジム・クウェンスキンのジャグ・バンド時代にはフィドルの担当はしていたものの1つのアルバム中1〜2曲程度しかヴォーカルをとっていなかったマリア・マルダーのヴォーカリストとしての存在感が増してきたことが伺えます。

ジェフ・マルダーは間違いなく歌もギターも上手い人ですか、ヴォーカリストとしての華を持っているマリア・マルダーや個性的で自由奔放なプレイでテレキャスターの名手として知られるエイモス・ギャレットと比べると何かが足らないような気がします。
このアルバム収録の"Lover Man"での天賦の才としか言いようのないマリアの歌とエイモスのギターの圧倒的な素晴らしさを聴くと特にそう感じてしまいます。
ではジェフ・マルダーの強みは何かと言えば、カバー曲にみられるオールド・タイムのルーツ・ミュージック全般への造詣の深さ(学究肌なところはライ・クーダーと似ています)からくる、選曲とアレンジの良さだと思いますね。


次は1972年にリリースされた『Sweet Potatoes』から、こちらは先日、亡くなったチャック・ベリーの1956年のシングル"You Can't Catch Me"のB面に収録されていた"Havana Moon"
ジェフ・マルダーが選ぶ曲としては比較的新しめの時代の曲ですね。



キューバのハバナを舞台にした内容の歌ですが、原曲のギターとベースだけのシンプルな構成と比べるとラテン楽器を使用したトロピカルなアレンジで、曲の持つ世界観が見事に表現されています。
ジェフ・マルダーによるカバーは時に原曲を超えますね。

Sweet Potatoes/Geoff Muldaur & Maria

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レニー・ワーロンカー率いるリプリーズ・レーベルには当時ライ・クーダーやランディ・ニューマン、ヴァン・ダイク・パークスも所属しており、ジョー・ボイドのプロデュースにより制作されたジェフ&マリア・マルダーの2枚のアルバムもバーバンク・サウンドと呼ばれた彼らの作品と同じ基盤の上に成立していると言えます。


ところが、このアルバムを発表した1972年、ジェフとマリアはデュオを解消し離婚してしまいます。
翌1973年、マリア・マルダーはソロ・アルバム『オールド・タイム・レイディ』(このアルバムの記事はこちら)をリプリーズよりリリース。
ここに収録されていた"Midnight at the Oasis" は、ビルボードのポップ・チャートの6位という大ヒットを記録し、以後、ジェフには有名なマリア・マルダーの元旦那という紹介のされ方がつきまとうことになります。

一方、同じく1973年にジェフ・マルダーとエイモス・ギャレットはシカゴからウッドストックに移住してきたポール・バターフィールドと新しいバンドを結成しアルバム『Better Days』を発表します。
このウッドストック系の名盤と言われるアルバムの記事は以前、こちらに書いてますので、ご興味のある方はどうぞ。

さて、このバンド、 ポール・バターフィールズ・ベター・デイズは同じ年にもう1枚『It All Comes Back』というスタジオ録音のアルバムを残しています。

It All Comes Back/Paul Butterfield

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このアルバムにはジェフ・マルダーを語る上で重要な曲"Small Town Talk"が含まれています。
彼としては珍しい、オールド・タイムではなく同時代のウッドストック在住のミュージシャンボビー・チャールズが書いた曲です。



確かにいい曲なので、かなり多くのアーティストにカバーされているようですね。
ジェフ・マルダーの選曲の基準は古い曲だから取り上げるということではなく「いい曲だから、好きな曲だから歌うんだ」ということなのでしょう。
"Small Town Talk"はジェフ&エイモス名義のアルバムでも再録、ジェフ・マルダーのライブには欠かせないレパートリーとなっており、ほのぼのとした味のある、この曲をジェフは作者のボビー・チャールズ以上に自分のものとしている感があります。

ポール・バターフィールズ・ベター・デイズは2枚のスタジオ・アルバムとライブ・アルバム『Live At Winterland Ballroom 』(Apple Music はこちら)を遺して解散。


1975年、ジェフ・マルダーはリプリーズ・レーベルから久々となるソロ・アルバム『Is Having a Wonderful Time』を発表します。
ジャズ、ブルース、ジャグ・バンド・ミュージック、R&Bなど彼の辿ってきたアメリカン・ルーツ・ミュージックの博覧会のような内容ですね。
プロデューサーはジェフ&マリア・マルダーやマリアの『オールド・タイム・レイディ』と同じくジョー・ボイド。


こちらはオールド・タイムのジャズと言えますが、ティンパン・アレーからブロードウェイ・ミュージカル〜ハリウッド映画音楽の流れの上にある曲"Livin' In The Sunlight"



本人はブルースへの思い入れが強いようですが、彼の声質にはこういう曲が一番合っているように思いますね。
ホーン・アレンジは1930年代にフレッチャー・ヘンダーソンやデューク・エリントンなどのビッグ・バンドで編曲を担当したベニー・カーター。
正に「本物」のオールド・タイム・ミュージックですね。

マリア・マルダーの『オールド・タイム・レイディ』で大成功を収めたワーナー・ブラザーズのリプリーズ・レーベルが二匹目のドジョウを狙って手がけただけあって、参加ミュージシャンも豪華です。
エイモス・ギャレットやマリア・マルダーを始めとしたウッドストック系のミュージシャンだけではなく、ジャズ界からはアレンジャーとして参加したベニー・カーターの他にもベースにロン・カーター!(来月、来日の予定です)
R&B系の曲ではキング・カーティスのバンドで同僚だったコーネル・デュプリー(ギター)、ジェリー・ジェモット(ベース)、バーナード・パーディ(ドラムス)が参加。
ヒューイ・ピアノ・スミスの"High Blood Pressure"を聴いて「やけに本格的なニューオリンズ・ピアノだな」と思ったら、何とニューオリンズきっての超絶技巧の天才ピアニストと言われたジェームス・ブッカーのピアノでした。

マリアと娘のジェニーがコーラスをつけたラスト・ナンバー"Tennessee Blues"では、フェアポート・コンベンションのプロデュースも手がけたジョー・ボイドとのつながりか、リチャード・トンプソンのアコースティックのリード・ギターも聴けます。
もう一人、有名ミュージシャンではありませんでしたが、クリス・クリストファーソンのバンドでギターを弾いていたスティーブン・ブルートンが参加したことも後々のジェフ・マルダーにとっては重要な意味を持つこととなります。

もう1曲、エイモス・ギャレットの名演の一つとされる間奏が聴ける"Gee Baby Ain't I Good To You"も貼りたいとこでしたが、残念ながらYouTube では規制がかかっていました。

Is Having a Wonderful Time/Geoff Muldaur

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リプリーズがかなり力を入れたこのアルバムでしたが、期待したほどは売れず、1976年の『Motion』(Apple Music はこちら)ではプロデュースからジョー・ボイドも外され、ローウェル・ジョージがボズ・スキャッグスのために書いた"What Do You Want The Girl To Do?”、アラン・トゥーサンの"Southern Nights”などレコード会社主導の選曲でAOR路線のアルバムとなりました。
そういえば、同じワーナー所属のドゥービー・ブラザーズもトム・ジョンストンの豪快で骨太なR&B路線から、スティリー・ダンのジェフ・バクスターとマイケル・マクドナルドの加入によりAOR路線に転換したのもこの時期でした。
あのドクター・ジョン(このアルバムにも参加してます)ですら、この後、1978年にAOR寄りのアルバム『City Lights』を発売する訳ですから、やはり時代ですね。
このアルバムも売れず、ジェフはワーナー・ブラザーズを離れ、このあとマイナー・レーベルからアルバムをリリースしていくことになります。


1977年、ジェフ・マルダーはエイモス・ギャレットと共に初来日、アルバム『Geoff & Amos』(Apple Music にはなし)も発売します。

1979年のアルバム『Blues Boy』にはファッツ・ドミノの"Walking To The New Orleans" 、ハウリン・ウルフの"Forty-Four"などが収録されました。

Blues Boy/Geoff Muldaur

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同年、ジェフ&エイモスは、よほど日本が気に入ったのか二度目の来日。
何と日本で初めての外タレによるライブ・ハウス・ツアーを敢行します。
この時の新宿ロフトのステージを収録した音源が名盤『Live in Japan』(Apple Music にはなし。残念!)


80年代に入るとジェフ・マルダーは表舞台からは遠ざかり、自身のアルバム制作は1986年の『I Ain't Drunk』(Apple Music にはなし)のみ、他のアーティストのプロデュースなど音楽界の裏方の仕事に回ります。
レコードが売れないというのは辛いですね。特に80年代の音楽シーンの傾向がジェフにとって厳しいものだったことは容易に想像できます。

1998年にジェフ・マルダーはアルバム『The Secret Handshake』で復活。
1975年の『Is Having a Wonderful Time』以来、親交を深めてきたカントリー系シンガーソングライター、スティーブン・ブルートンの貢献が大きいアルバムです。

こちらはスリーピー・ジョン・エスティスの"Someday Baby"
ジェフ・マルダーとジョン・エスティスが重なり合う映像が本質を表しています。



Secret Handshake/Geoff Muldaur

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新しい世代によるアメリカン・ルーツ・ミュージックへのアプローチである音楽ジャンル「アメリカーナ」が注目され始めたことも手伝ってか、ジェフ・マルダーはその後、精力的な活動を展開します。


続いて2000年にはアルバム『Password』(Apple Music はこちら)をリリースし久々に来日公演も行います。


そして2003年に1枚丸ごとヴィックス・ヴァイダーベックをカバーしたアルバム『Private Astronomy』を発表します。
ジェフ・マルダーは子供の頃、兄の影響でヴィックス・ヴァイダーベックやルイ・アームストロングのレコードを聴いていたと言いますから、ブルースに影響を受ける前にオールド・タイムのジャズにも親しんでいたということになりますね。
このアルバムの中から"Futuristic Rhythm"



ニューオリンズの香りの遺るヴィックスとフランキー・トランバウワーのバージョンと比べると洗練されていて、ティンパン・アレー〜ハリウッド映画音楽の系譜を感じさせるアレンジですよね。
う〜ん、やはりジェフのヴォーカルは、同じオールド・タイムでもこういった都会的で白人っぽいモノのほうが似合いますねえ。

Private Astronomy: Vision of Music of Beiderbecke/Geoff Muldaur

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同じ2003年にギター1本弾き語り、完全ソロのライブ・アルバム『Beautiful Isle Of Somewhere』』(Apple Music はこちら)もリリース。
2004年にはジャグ・バンド時代の同僚フリッツ・リッヂモンドを伴って来日。
2008年は再びソロで来日公演を行います。


2009年には盟友スティーブン・ブルートンらとテキサス・シェイクスというセッション・バンドを組み、ゲストにジム・クウェンスキンも呼んで『Geoff Muldaur and the Texas Sheiks』(Apple Music にはなし)を発表。
ブルートンは残念ながら、同年に公開された映画『クレイジー・ハート』のサウンド・トラックをT・ボーン・バーネットと制作しますが、映画の完成を待たずガンによりこの世を去ります。


2010年、約30年ぶりにジェフ・マルダー&エイモス・ギャレットのコンビで来日を果たし、全国14箇所のライブ・ハウスを巡るジャパン・ツアーを行います。
ひょっとするとジェフ・マルダーやエイモス・ギャレットって本国アメリカよりも日本のファンの方が多いのかもしれませんね。


こちらは2013年のジム・クエスキン・ジャグ・バンド結成50周年リユニオン・ツアーのステージ。
中央にジム・クウェンスキン、左右にジェフ&マリア・マルダーという懐かしい布陣で"Jug Band Music"が蘇りました。
バンジョーを弾くビル・キースの姿も見えますね。



2016年にジェフ・マルダーはジム・クウェンスキンとの共同名義でアルバム『Penny’s Farm』を発表。
二人によるアコースティック・ギター・デュオを核に、フィドル、バンジョー、ペダルスティールなどの楽器が絡む、アルバム・ジャケットのイメージそのままの全編カントリー・テイストの作品集。

Penny’s Farm/Geoff Muldau

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こちらはフィドルの入ったスタジオ録音版とは少し楽器編成も違い、ヴォーカルもジム・クウェンスキンがとっていますが、アルバム・タイトルの元になった"Down on Penny's Farm"のライブ動画。
ジェフ・マルダーはペニー・ホイッスル(ティン・ホイッスル)と呼ばれるアイルランド発祥の縦笛を吹いています。
また、ジム・クウェンスキンのジャグ・バンドとはライバル関係にあったイーブン・ダズン・ジャグ・バンドの元メンバーで、このアルバムのためにライナー・ノートを書いたジョン・セバスチャンもハーモニカで加わっており、さながらジャグ・バンド同窓会のようです。



ジョン・セバスチャンも2007年にジャグ・バンド時代の同僚、デヴィッド・グリスマンとアルバム『Satisfied』をレコーディングしています。
やはり歳をとると昔の仲間とまた一緒に演りたくなるのはよく分かります。
この手の音楽は年齢を重ねたことで、また味が出るのでいいですね。
彼らが若い頃に観て、大いに影響を受けた戦前のカントリー・ブルースマンたちと、彼ら自身が同じような年齢(いや、すでに超えてますか)なって枯れた味わいが出てきたように思います。


オールド・タイムのグッド・ミュージックを楽しむ上で、ジェフ・マルダーのアルバムは最良の入り口になると思いますね。