ニューオリンズ・ピアノを聴く(後篇) | Apple Music音楽生活

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レンタルCDとiPodを中心とした音楽生活を綴ってきたブログですが、Apple MusicとiPhoneの音楽生活に変わったのを機に、「レンタルCD音楽生活」からブログタイトルも変更しました。


さて、後篇
前篇の冒頭はジョン・クリアリーによる実演を交えてニューオリンズ・ピアノの歴史を語るレクチャーでしたが、今回はドクター・ジョンがピアノを弾き、インタビューに答え、影響を受けたミュージシャンについて語る動画からスタートします。
最後に"Tipitina"を演奏するプロフェッサー・ロングヘアのフィルムも流れます。



最初のナレーションでジェリー・ロール・モートン、プロフェッサー・ロングヘアと供にニューオリンズのピアノ・ヒーローとして「ファッツ・ドミノ」の名前が挙げられているのですが、前篇でも少し触れたように、このインタビューでドクターの口からは彼の名は出てきません。
ファッツ・ドミノはブギウギとストライド奏法を主体としたピアノを弾いた人で、ラテンの影響は少なかったということもあるのかも知れません。
やはり、ラテン風味が入らないと、ニューオリンズらしさは出ない感じがしますね。
何となく、彼が影響を受けたミュージシャンについて語っているのは判りますが、こういうのをちゃんとヒアリングできるといいですねえ。スピード・ラーニングをやれば聴き取れるようになるんでしょうか(笑)

これだけではよく分からないので、ニューオリンズがハリケーン・カトリーナ被災した直後、ドクター・ジョン2005年のブルーノート東京での9月公演の開演前に行われたJAZZ IN JAPAN のインタビューも記事を書くにあたって参考にさせてもらいました。


ロックリスナーがニューオリンズ・ピアノを知るきっかけはやはりというか、私の場合もご多聞にもれずドクター・ジョンでした。
ザ・バンドの解散コンサート『The Last Waltz』に出演した彼の"Such a Night"で聴いたのが最初だったでしょうか。



ピアノの腕前はプロフェッサー・ロングヘアやジェイムズ・ブッカーの方が上なのかも知れませんが、この人は何と言っても独特のシワがれたヴォーカルが良いですよね。決して聴きにくくはなく、丁度いい感じの渋い歌声だと思いますね。


この曲は1973年の『In the Right Place』というアルバムからのシングル・カット。
アラン・トゥーサンがプロデュース、ミーターズが全面参加したファンク色の強いアルバムです。

In the Right Place/Dr. John

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ドクターのアルバムで一番ニューオリンズらしいアルバムと言えば、やはりこの1972年の作品でしょうかね。

Gumbo by Dr.John (2008-12-10)/Dr.John

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40〜50年代のニューオーリンズ音楽の名曲の数々を見事に甦らせた名盤です。
プロフェッサー・ロングヘアの代表的なレパートリー"Tipitina"や"Big Chief"はもちろん、ジェイムズ・ブッカーの十八番"Junko Partner "、ドクターのレパートリーの中でも人気の高い"Iko Iko"も収録されていますが、特筆すべきはヒューイ・スミスの曲がメドレー(3曲)も含めて合計5曲も取り上げられていること。
今回、ヒューイ・スミスを聴いて、最初はドクターがカバーしていた曲のオリジナルだと気づきませんでした。
ヒューイ"ピアノ"スミス&ザ・クラウンズのジュニア・ゴードン、ボビー・マーシャンらのポップ・ソング的なヴォーカルと比べて渋いドクターの歌声で聴く、このアルバムのカバーの方が古い楽曲のように聴こえますね。
ニューオリンズR&Bのシンガー、ギタリストとして数々の名曲をこの時代にふ遺したアール・キングの書いた曲も"Big Chief"をはじめ3曲入ってます。

今回はこの中から、このブログのテーマに合わせてピアノ演奏主体の"Mess Around"を、
レイ・チャールズのナンバーですが、プロフェッサー・ロングヘアも『Rock'n' Roll Gumbo』でインストゥルメンタルを披露しています。こちらのドクターのバージョンは途中で少し歌も入ります。



大先輩のフェスの演奏に決して引けを取っていないんじゃないでしょうか。
この動画はドクターがどのように、この曲を弾いているか、よく分かりますね。


近年のアルバムでは2004年の『N’Awlinz Dis Dat and Dudda』が、ニューオリンズの薫り満載でいいですねえ。
ディブ・バーソロミューやシリル・ネヴィル、ダーティ・ダズン・ブラスバンドらのニューオリンズ勢に加えて、メイヴィス・ステイプルズ、ウィリー・ネルソン、B・B・キングなどの大物アーティストもゲスト参加してます。

N’Awlinz: Dis Dat Or D’Udda/Dr. John

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ドクターはJAZZ IN JAPAN のインタビュー の中で「ニューオリンズのすばらしい点のひとつは、いつでも先輩から後輩に音楽が手渡されることなんだよ」と語っています。
1940生まれのドクター・ジョンのピアノ・スタイルはこうして先人から受け継がれてきたニューオリンズの伝統そのものだと思いますね。


一昨年、亡くなった1938年生まれのアラン・トゥーサンはドクター・ジョンと並ぶ、当代ニューオリンズ音楽の二大巨頭と呼ばれる存在でした。
この人を知ったのもザ・バンドのアルバム『Cahoots』の"Life Is Carnival "と『Rock Of Ages 』のホーン・アレンジを担当した人としてでしたので、私は最初、彼のことをてっきり何かのホーン楽器を演っている人だと思っていました(笑)
個人的にはいまでもピアノ奏者というよりも作曲家、アレンジャー、プロデューサーとして全体のサウンドを取り仕切る、セルジオ・メンデス的なイメージが強いです。
『Southern Nights』など彼自身の名義のアルバムを聴いてもホーン・アレンジや全体のサウンド・プロデュースの手腕に耳がいく(?)ような曲が多いですよね。
ところが、この1958年の初のソロアルバムではアルバム・タイトルのとおりワイルドでアグレッシブなピアノを聴かせています。



アラン・トゥーサンは1952年頃から音楽活動を開始し、セッション・ピアニストとして名を上げます。
アレンジャーとしても頭角を現し始めた1958年に初のソロ・アルバムとして発表したのがこの作品。
ここには21歳の若きニューオリンズのピアノ「プレイヤー」としての彼の姿があります。

Wild Sound of New Orleans [12 inch Analog]/Allen Toussaint

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70年代ロックリスナーとしてはドクター・ジョンと伴にニューオリンズ、L.A.で活動し、ウッドストックのに拠点を移してポール・バターフィールズ・ベターデイズに参加し、この伝説的な名バンドにニューオリンズの風味を添えたロニー・バロンも忘れたくないですね。


1977年に細野晴臣がプロデュースした久保田真琴と夕焼け楽団の『ディキシー・フィーバー』のレコーディングにロニーが参加した縁で、細野晴臣はロニー・バロンのソロ・アルバムのプロデュースを引き受けることになりますが、Player 1978年3月号の細野氏へのインタビューの中で、このアルバムのレコーディング時の興味深いエピソードが語られています。特に面白かったのがこの話。


「レコーディングを始めて思ったのは、ニューオリンズのミユージック・シーンが意外に狭いということなんです。日本の邦楽みたいな感じでね。このフレーズは誰のものっていうのが決まっていて、勝手に使えないんです。やるとドクター・ジョンやプロフェッサー・ロングヘアにしかられる。ロニーはすごく真面目な人間でなかなかやってくれませんでした」


ニューオリンズの音楽シーンというものがリアルに伝わってくる話ですね。
ただし、上下関係が厳しいと言っても先輩はただ偉そうにしている訳ではないです。
ギタリストだったドクター・ジョンがピアニストに転向するきっかけとなった、銃で撃たれたことによる左指薬指の負傷は、後輩ミュージシャンをかばってのことでした。この後輩こそがロニー・バロンなんです。
残念ながらロニー・バロンのアルバムはApple Music にはありませんが、いいエピソードなので、ニューオリンズのピアニストの一人としてロニーにも触れさせて頂きました。




さて、前回のブログでニューオリンズ・ピアノの歴史をレクチャーしてくれたジョン・クリアリーと彼のバンドアブソリュート・モンスター・ジェントルメンのニューオリンズ、メイプル・リーフ・バーでのライブも観てみましょう。
ジョンのピアノもさることながら、このバンドが非常にいいんですよ。
曲目はニューオリンズ・ブルースの定番、プロフェッサー・ロングヘアの"Tipitina"
前篇からこの曲ばかりで申し訳ないですが、ニューオリンズらしい、いい曲ですよね。



後半はジャム・セッションでしたが、ドラマーのジェフリー"ジェリービーン"アレクサンダー、ベーシストのコーネル・ウィリアムズら各々のメンバーの力量の高さがよく分かりますね。
巨体のギタリスト、ダーウィン “ビッグD” パーキンスは、白人とは思えない黒っぽいフィーリングを持つヴォーカル&キーボードのドニー・サンダルとブークー・グルーヴという別グループも組んでいます。
こちらもApple Music で聴くことができますが、巨体に似合わぬビッグDの繊細でメロウなギターはどちらかというと、ブークー・グルーヴのサウンドの方に合っている感じがしますね。


ジョン・クリアリー&アブソリュート・モンスター・ジェントルメンのライブは2008年のアルバム『Mo Hippa』で聴くことができます。
オープニングのプロフェッサー・ロングヘア"Go To The Mardi Gras"からミーターズ"People Say"、ジョンのオリジナル"C'mon Second Line "を挟んで"Tipitina"へと続く怒濤のニューオリンズ・サウンドが圧巻!

Mo Hippa/Jon Cleary

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オマケです。


今回、YouTube を検索していて偶然見つけた動画です。
私はここ20年ほど、ほとんど映画を観ていないので、よく知りませんがイギリスの俳優ヒュー・ローリーという人がニューオリンズのクラブで現地の(?)ミュージシャンをバックにピアノやギターを弾いて歌う30分ほどのフィルム作品。
俳優ながらピアノの腕とヴォーカルはなかなかのもの。
2011年の『Let Them Talk 』という彼のニューオリンズ・ブルースのアルバムのリリースに合わせて製作されたフィルムのようですね。
タイトル・チューンのジェイムズ・ブッカー"Let Them Talk"をはじめ、プロフェッサー・ロングヘア"Tipitina"、ジェリー・ロール・モートン"Buddy Bolden's Blues "などニューオリンズのスタンダード曲が並んでいます。
ゲストがまた豪華です。ニューオーリンズのソウル・クイーン、アーマ・トーマスが歌い、アラン・トゥーサンがエレガントな物腰でホーンセクションを指揮、何とトム・ジョーンズがアーマをバックに歌っています。
フィルムには出てきませんがアルバムにはドクター・ジョンも参加してますね。
何と言っても、さすがは映画俳優、一流の撮影スタッフを起用していると見え、カメラワークやカット割りが素晴らしい映像作品に仕上がっています。
ニューオリンズのクラブでライブを観ているような気分に浸れますね。
役者が趣味でこんなの作って、贅沢だよなあ。。。




Let Them Talk/Hugh Laurie

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参考資料
Player 1978年3月号


こちらの貴重な資料はブロ友のコタパパさんよりご提供いただきました。
ありがとうございました。