アウトロー・カントリーを聴く | Apple Music音楽生活

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レンタルCDとiPodを中心とした音楽生活を綴ってきたブログですが、Apple MusicとiPhoneの音楽生活に変わったのを機に、「レンタルCD音楽生活」からブログタイトルも変更しました。


以前、オルタナ・カントリーについて『オルタナ・カントリー 伝説のバンド』 『オルタナ・カントリー② サン・ヴォルト』 の記事を書きましたが、グラム・パーソンズらによるカントリーロックと同様にオルタナ・カントリーに影響を与えたと言われるアウトロー・カントリーについて調べてみました。



1950年代の後半以降、カントリー・ミュージックはナッシュビル・サウンドと呼ばれるスタイルに始まる、洗練されたポップなサウンドが主流になります。
音楽プロデューサーにより高度にコントロールされたレコーディングの体制に不満を持ったウェイロン・ジェニングスやウイリー・ネルソンらは、70年代に入るとナッシュビルからテキサス州オースティンに拠点を移して荒削りで骨っぽいサウンドを打ち出します。
あまりにも商業化されすぎた音楽産業への反抗という点ではパンク・ロックのムーブメントと同じですね。

ウェイロン・ジェニングズ"I'm a Ramblin' Man"の演奏の様子をご覧ください。
ナッシュビルに対抗するジェニングズの反骨精神がよく伝わってきます。



ジェニングズはカントリーのミュージシャンにしては、かなりロック的な雰囲気のある人ですが、ビートルズやストーンズにも多大な影響を与えたバディ・ホリーのバック・ミュージシャンとして音楽キャリアをスタートして、その後、ナッシュビルのRCAレコードからカントリー歌手としてデビューしたという人なので、元々ロック的な要素のある人だと思いますね。

先ほどの曲が収録された『The Ramblin'Man(1974)』など彼の70年代のアルバムを色々聴いてみましたが、私はこのアルバムが一番気に入りました。

1973年
Honky Tonk Heroes/Waylon Jennings

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ビリー・ジョー・シェイヴァーというシンガーソングライターの手によるタイトル・チューン"Honky Tonk Heroes(Like Me)"が秀逸。
全体的にもアコースティック・ギターの音を基調に、ハーモニカ、ドブロ、ペダルスチールの使い方が私好みな感じです。
他のアルバムはジェニングズの堂々たるヴォーカルが目立ちすぎのきらいがありますが、このアルバムはヴォーカルと楽器演奏が拮抗している感じがイイですね。

先の『The Ramblin'Man』にはオールマン・ブラザース・バンドの"Midnight Rider"のカバーも収録されており、ジェニングズが同時代のアメリカン・ルーツロックの楽曲にも注目をしていたことが判ります。

何となく60年代から西海岸のカントリー・シーンで活躍したバック・オウエンズやマール・ハガードのベイカーズフィールド・サウンドと共通するフィーリングを感じさせる曲がジェニングズのアルバムには入ってるなと思ったのですが、ジェニングズはナッシュビル時代からベイカーズフィールド・サウンドからは影響を受けていたようですね。
ハガードのバックでペダルスチールを弾いていたラルフ・ムーニーがジェニングズのバックでも弾いています。




ウィリー・ネルソンは70年代には、ロックリスナーの間でも名前の知られた存在でした。
カントリーを代表する歌手というイメージを持っていましたが、当時のカントリー界の中にあっては異端児だったんですね。

この映像は俳優としても活動しているネルソンが出演した映画のワンシーンでしょうか。
ビルボードのカントリー・チャートで1975年に1位を獲得した"Blue Eyes Crying In The Rain"



日本人からすると「これぞカントリー」という雰囲気のする曲だと思いますが、これが70年代当時のカントリーの主流からは外れていたのか…
さくらと一郎が1974年に"昭和枯れすすき"を歌ったとき、演歌を含めた歌謡曲の中にあって、我々が異質でレトロな印象を受けたのと同じようにアメリカ人も感じたのかもしれませんね(笑)
おそらく、アメリカにおけるカントリー界というものは、日本でいうと民謡というよりも歌謡界に近いのだと思いますね。
異端というよりも、RCAレコードのプロデューサー、チェット・アトキンスが50年代半ばにナッシュビル・サウンドを創出する前のトラディショナルなカントリーの精神に立ち戻ったのだと思います。


ウィリー・ネルソンの鼻にかかった歌声はカントリー界のレジェンド、ジミー・ロジャースやハンク・ウィリアムズの系譜に属する歌唱法でしょうか。そう言えば、オールマン・ブラザース・バンドでカントリー系の曲のリード・ヴォーカルを担当していたディッキー・ベッツもこういう鼻にかかった歌い方でしたね。


"Blue Eyes Crying In The Rain"が収録されているのは、1975年のこのアルバム。

Red Headed Stranger/Willie Nelson

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以前、キャンプによく行っていた頃、夜のバーベキューの時のBGMにライ・クーダーを使っていましたが、このアルバムを知っていれば使っていたなあ。
焚き火のシーンにもよく合っていましたね。




ウィリー・ネルソンが"Blue Eyes Crying In The Rain"の大ヒットでカントリー界のスーパースターになった翌年、ジェニングズとネルソンはこのアルバムを発表。
古くからのカントリーファンや長髪の若い世代から支持され、アウトロー・カントリーのムーブメントは全米で最高潮に達します。

1976年
Wanted! the Outlaws/Glaser

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アルバム・ジャケットのとおり、ジェニングズとネルソンの他にも、ジェニングズの妻でシンガーソングライターのジェシー・コルターとトンポール・グラサーという人が参加しています。
各々のレパートリーを持ち寄って作ったアルバムといったところで、アウトロー・カントリー入門には最適の1枚。

もちろん、この曲も入っています。
数あるウェイロン・ジェニングズの"Honky Tonk Heroes(Like Me)"の動画の中から、こちらを選んでみました。




この会場はナッシュビルのカントリーの殿堂、オープリー・ハウスでしょうか。
ナッシュビルを飛び出して大成功したウェイロン・ジェニングズが古巣に凱旋したというところですね。
アウトロー・カントリーはカントリー・ミュージックのジャンルのひとつとして認知されるようになった訳です。

このアルバム、面白いところでは、ジェニングズがエルビス・プレスリーの"Suspicious Mind"を妻のジェシー・コルターとデュエットしています。
日本ではエルビスはロックのイメージで捉えられていますが、ロックンロールとヒルビリー(カントリー)が融合して生まれたロカビリーもアメリカでは広義のカントリー・ミュージックの中に含まれているので聴く側のアメリカ人に違和感はないんでしょうね。

興味深いのはアウトロー・カントリーのムーブメントの立役者達がこの当時、かなりのベテランミュージシャンだったということですね。
『Wanted! The Outlaws』の発売時、ウェイロン・ジェニングズ39歳、ウィリー・ネルソン43歳。
前述したようにジェニングズはバディ・ホリーと伴に1950年代末期から活動。
ネルソンなどは1956年からカントリーのソングライターとして活動しているにもかかわらず、60年代後半のヒッピー・ムーブメントに影響を受け、様々な音楽性を吸収したといいますから非常に柔軟ですね。




さて、アメリカ空軍の元将軍を父に持ち、オックスフォード大学を卒業後、自身も空軍のパイロットとして従軍していたクリス・クリストファーソンは、退役後に就職したばかりの仕事を辞め、29歳にして音楽の道で生きていくことを決意します。
結果、妻と幼い子供と別れ、それまでのスクェアな生き方とは真逆のアウトローな人生に踏み出します。
1970年に『Kristofferson』でレコード・デビュー後は順調にアルバムを発表し続け、ジェニングスやネルソンらのアウトロー・カントリーのムーブメントに加わわるようになります。


スワンプロックの歌姫リタ・クーリッジとの結婚、ボブ・ディランが音楽を担当した映画『ビリー・ザ・キッド/21才の生涯』のビリー役などで、ロックリスナーにはウィリー・ネルソン以上に馴染みのある存在でしたね。

ジャニス・ジョプリンが『Pearl』で取り上げて、全米1位のヒットとなった"Me And Bobby McGee"の作者としても有名ですが、こちらは本人のクリストファーソンが歌う1979年のライブステージ。



1970年のデビューからロックシーンのシンガーソングライター・ムーブメントと同時進行していた彼の初期の作品群はロックリスナーには特に聴きやすいものばかりですね。

1972年
Border Road
*amazon、楽天では取り扱いなし
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このクリストファーソンの3枚目はジーン・クラークの『White Light』あたりの雰囲気がありますね。
ロック側からカントリーへのアプローチと、カントリー側からロックへのアプローチが同じような音楽性に到達したといったところでしょうか。




ジェニングス、ネルソン、クリストファーソンの3人は、1980年代に入り不遇の時代を送っていた元祖カントリー界のアウトロージョニー・キャッシュに呼びかけてテキサスで同じステージに立ちます。
彼等4人のアウトローは「ハイウェイメン」と名乗り1985年にアルバム『Highwayman』をリリース。

HIGHWAYMAN [12 inch Analog]/HIGHWAYMAN

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アルバム『Highwayman』はアルバム、シングル共にカントリー・チャートの1位を獲得し、1990年と1995年にもハイウェイメンとしてアルバムを発表。
このプロジェクトがなかったら、ジョニー・キャッシュが90年代に再び脚光を浴び、1994年の傑作『American Recordings』で大きな注目を集めることもなかったのではないかと思います。


この時のステージの様子をご覧ください。
ネルソン、クリストファーソン、ジェニングズの順に歌うそれぞれがアウトローのボスの風格を持っていますが、最後に登場するジョニー・キャッシュの貫禄が半端ないです。
まだ鉄道がなかった時代。馬に乗って街道に出没し、金持ちから金品を巻き上げたという盗賊を意味するテーマ曲"The Highwaymen"



「俺は死んでも、またこの世に戻ってくる」と歌う、この曲は2003年のジョニー・キャッシュ死去のニュースの際に、よく流れていたということです。




さて、最後にもう一人のアウトロー。
14歳で家出し放浪生活の末、『Highwayman』のリリースの翌年1986年に、31歳でデビューしたスティーブ・アールの曲を紹介してアウトロー・カントリーから新世代のオルタナ・カントリーに繋いでみたいと思います。

3rdアルバム『Copperhead Road』から"Johnny Come Lately"
YouTubeではなく、こちらからどうぞ

https://vimeo.com/82467150

まだ、オルタナディブ・カントリーという言葉もない頃にレコーディングされた曲ですが、アンクル・テュペロでジェフ・トゥイーディー(現ウィルコ)がパンキッシュに歌ったオルタナ・カントリーを彷彿とさせるものがあります。


こちらが彼の3rdアルバム
1988年リリース
Copperhead Road/Steve Earle

¥716
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ジャケットを見ての通り、ロック色の濃いアルバムですが、この人は後になると『Train a Comin'(1995)』 『The Mountain (1999)』などのカントリー色の濃いアルバムも出しています。

そして、1990年
アンクル・テュペロ
デビュー・アルバム『No Depression』
これも、まだまだガレージ・パンク色が濃いアルバムですが、オルタナ・カントリーの萌芽を感じさせる曲も何曲か含まれています。

No Depression/Uncle Tupelo

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アウトロー・カントリーの魂がオルタナ・カントリーにまで繋がったかな?


Apple Musicでは他にもこの系統のカントリー系シンガーソングライターとしてはタウンズ・ヴァン・ザントやガイ・クラークなどのアルバムも聴くことができます。
気になるジャンルやアーティストがあると、Apple Musicを使えば短期間で集中的に一通りのアルバムに耳を通すことができる。こんなことは昔なら一部の専門家にしかできなかったことですよね。
この記事も1カ月余り、アウトロー・カントリーのアルバムとカントリー初期のジミー・ロジャースとカーター・ファミリー、ホンキートンクのハンク・ウィリアムズとレフティ・フリーゼル、ウェスタン・スウィングのボブ・ウィルス&テキサス・プレーボーイス、ブルーグラスのビル・モンロー&ブルーグラス・ボーイズ、ベイカーズフィールド・サウンドのバック・オウエンズとマール・ハガードなどのアルバムを聴き込んで書き上げました。
ロックリスナーの視点では書いていますが、なにぶん私はカントリーの方は素人。誤っている点がありましたら、ご指摘お願いします。