ペンギン・カフェ・オーケストラと同時期に聴いていたアーティストとしてドゥルッティ・コラムのことを思い出して、Apple Music を検索してみると、あるわあるわ、ほぼ完璧に揃っていました。
驚いたのはドゥルッティ・コラムが2010年までコンスタントにアルバムを発表し続けていたこと(現在は活動休止中のようです)
もう一つ驚いたのが、私が観に行った1985年の五反田簡易保険会館のライブ音源がApple Music に在ったこと。
この時の公演は1回しかなかったはずなので、確かに私が行ったライブですね。
早速、聴いてみましたが、この音源が録られた空間に25歳の私がいるのだと思うと不思議な感じがしました。
ドゥルッティ・コラムというのはヴィニ・ライリーによるイギリスの音楽プロジェクト名で、日本で言うとコーネリアスやTMレボリューションなどと同じ1人組(?)の音楽ユニットといったところですね。
ヴィニ・ライリーという人は1953年、マンチェスター生まれ。
この年代の人の多くがそうであったようにパンクバンドから音楽キャリアをスタートしましたが、パンクバンドの皮相な在り方に疑問を持ったヴィニは最終的に自分の表現したい音楽を自由にコントロールできる形態としてソロ・プロジェクトを選びます。
パンクとは対極にあるような繊細な表現は、ジョン・ライドンのP.I.Lなどのポスト・パンク勢力の中にあって一際異彩を放ちます。
1979年
The Return of the Durutti Colu/Durutti Column
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ヴィニ・ライリーがギターの多重録音、キーボード、リズムマシーンを使って、ほぼ1人で作り上げた、全曲がインストゥルメンタルで構成された音世界です。
まずは、この曲"Sketch for summer"から、お聴きください。
ディレイをかけた「彼方側の世界」から聴こえてくるようなギター・サウンドがドゥルッティ・コラムのトレードマークです。
この人はもう少し早く生まれていれば叙情的なプログレを演っていたんだろうなと思わせますね。
1981年
LC (デラックス・エディション)<帯ライナー仕様国内盤>/DURUTTI COLUMN
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今回、Apple Music でこのアルバムを聴いてみたところ、あまり聴いた記憶がなかったのですが、この水彩で描かれた抽象画のジャケットを見ると、確かにこのアルバムは持ってましたね。
収録曲中4曲でヴィニがヴォーカルをとっており、親友で自殺したジョイ・ディヴィジョン(後のニューオーダー)のイアン・カーティスのことを歌った"The Missing Boy "などは、この翌年にマンチェスターで結成されるザ・スミスの登場を予感させるようなナンバーで、全体的にロック色の強いアルバムです。
私としてはジャケ・カバーの水彩画のように淡い音色の美しいメロディを期待していたので、レコードは買ったものの、あまり聴いていなかったのだと思いますね。
パンク、ニューウェーブを通過してこういう音に至ったということがロック・リスナーには分かりやすいアルバムだと思います。
ヴィニ・ライリーという人の容姿は、その音楽と同様、ちょっと叩いたら壊れてしまいそうなほど繊細な印象を与えます。
ライブを一緒に観に行った友人が「ドラムの人がヴィニを守っているように思えた」と言っていましたが、このアルバムから参加したドラムのブルース・ミッチェルは1940年生まれで、日本風に言うとヴィニよりもひと回りほど年上です。
元々はジャズを演っていた人のようですね。
珍しいブルース・ミッチェルをフィーチャーしたライブ動画ありましたので、ご覧ください。
2ndアルバム『LC』の収録曲"Jacqueline" (Live 1988)
うーむ、遠目には判りませんでしたが、こんなに笑いながら、ドラム叩いてましたか…
記憶の通り、ヴィニの繊細なギターを壊すことなく、やさしく包み込むように叩くドラムスですね。
ブルース・ミッチェルはドゥルッティ・コラムの準メンバーとされている人なんですが、神経質で気難しいヴィニとやっていくには、こういう気さくで冗談ばかり言ってそうなオヤジじゃないと無理だったんだと思います。
1983年
Another Setting/The Drutti Column
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このアルバムが一番好きでしたね。
ヴィニの消えいるようなヴォーカルの入った曲にもインスト曲と同様の美しさがあり、テイストの落差のない流れるような曲目構成で、非常に聴きやすいアルバムだと思います。
その中にあって、いくぶんキャッチーなこの曲がアルバム全体のいいアクセントになっていました。
ヴィニ・ライリーがヴォーカルをとっている"The Beggar"
ドゥルッティ・コラムとしては派手な曲です。ギターとキーボードの応酬がエキサイティング!
見てのとおり、ギターを抱えたヴィニがキーボードに向かって1人で演っているんですが(笑)
1983年
Amigos Em Portugal/Durutti Column
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邦題は『ポルトガルの友〜ジャクリーヌに捧ぐ』
どうも、この人はポルトガルとかスペイン、イタリアなどのラテン・ヨーロッパの国に興味があるようですね。
ドゥルッティ・コラムというバンド名自体もスペイン内戦時に共和国軍側で戦った伝説的なアナキスト闘士の率いた部隊の名称なんです。
ドゥルッティ・コラムの作品はアルバムごとに違う趣きがあるのですが、この『Amigos Em Portugal 』はピアノが主でギターが従にという、とりわけ珍しい作品です(まったくギターを弾いていない曲が2曲もあります)
ロック・ミュージックというカテゴリーから逸脱していますね。
タイトル・チューンの"Amigos Em Portugal"をお聴きください。
幼少の頃からピアノを習っていたビィニのピアノには、クラッシックの素養が感じられます。
クラッシックなピアノにラテン・ヨーロッパ的な郷愁を感じさせるギターが絡んでいくといった楽曲ですね。
1985年
Without Mercy
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このアルバムはボール紙でジャケットが作られていますが、確か絵の部分は別の紙に印刷されて貼ってあったと記憶しています。
ドゥルッティ・コラムのアルバムはジャケットのアートワークが良かったということも購入していた理由だと思います。
CDだとこの良さは出ませんね。
"Without Mercy"を演奏しているライブ・ステージをご覧ください。
トランペットの人はこの後、1985年にマンチェスターで結成されるシンプリー・レッドに参加することになるティム・ケレット。
リズムマシーンを使っている曲ではブルース・ミッチェルは何をしているのかと思うと、ザイロフォン(木琴)を演奏したりリズムマシーンの操作もしています。
しかし、この動画で見てもブルース・ミッチェルという人、いい感じのオヤジぶりですねえ。
私はドゥルッティ・コラムはこのアルバムまでしか聴いていません。
弦楽器や管楽器が導入され、音が厚く力強くなったのが気に入らなかったのかな?
壊れそうなほど繊細なギターの旋律による儚くも美しい音楽というのが、私がドゥルッティ・コラムに求めていたものでしたので。
いま聴いてみると、この『Without Mercy』はかなりの高い音楽性に到達したアルバムだと思います。
さて、その後のドゥルッティ・コラムのアルバムもザッと聴いてみました(こういうふうに一気に聴けてしまうのがApple Musicの怖いところですね)
女性ヴォーカルの起用、アコースティック・ギターやハーモニカの使用、サンプラーを使ったクラブ・ミュージック的手法などアルバムによって新しい音楽的な試みが聴けますが、あのディレイのかかった繊細なギターは健在。
どのアルバムも一定以上のクオリティをキープしているのはさすがです。
今回、ヴィニのその後の消息を知るまでは、何となく彼はもう、この世にいないのではという気がしていましたが、ヴィニ・ライリーという人は、ある種の作家が小説を書くことによってのみ生きられているように、音楽を作ることで、この世に生を保っていることができる人なのだと思います。
音楽活動を続けて、地道にアルバムを発表してきたのは必然ですね。
ヴィニ・ライリーはアルバム『Chronicle』のレコーディングを行っていた2010年の9月、脳梗塞の発作に襲われ、その後遺症により左手が自由に動かなくなってしまいます。
一時はステージに立つまで回復しますが、再度、発作を繰り返し、病状は一進一退。『Chronicle』は何とか完成にまでこぎつけたものの、私が調べた限りでは、その後、新作アルバムが発表されたという情報は見つかりませんでした。
ヴィニは「以前のようにイメージどおりにギターを弾けなくなった」と語っていますが、ここまでくるとヴィニ・ライリーが音楽家として生きていくには、彼が自ら演奏することへのこだわりを捨てられるか否かにかかっているという気がします。
でも、それはヴィニにとってはとても難しいことなのだと思います…
Apple Music でThe Durutti Column と検索すると、『At Twilight』というアルバムが2016年の最新リリース(データ配信のみ)として出てきます。
但し、内容は過去の音源を構成したコンピレーションのようで、新曲が含まれているかどうかは不明です。
最後にこのアルバムから、1980年発売の12インチシングル"Lips That Would Kiss"をどうぞ
この動画、上手いですね。
雲の流れる映像にドゥルッティ・コラムのサウンドがピッタリとはまっています。
こういうインストナンバーを聴いて、
癒されるなぁ…
と、思った方はご注意
ドゥルッティ・コラムの音楽はヒーリング・ミュージックのような表層的に心地よいものではなく、もっと感情の深い層に作用して、聴く者を強制的に自分の内面に向き合わせる力を持っています。
そして、それは少しばかりの痛みを伴います。
安易に聴くのは危険です。