アレサ・フランクリン フィルモア・ライブ | Apple Music音楽生活

Apple Music音楽生活

レンタルCDとiPodを中心とした音楽生活を綴ってきたブログですが、Apple MusicとiPhoneの音楽生活に変わったのを機に、「レンタルCD音楽生活」からブログタイトルも変更しました。

【お詫び】
記事中、映画『The Last Waltz』の"The Weight"でザ・バンドとアレサ・フランクリンが共演したという内容を書きましたが、この曲で共演していたのはザ・ステイプル・シンガーズの誤りでした。
誤った情報を流してしまい、申し訳ありません。
この部分については削除させていただきました。


アレサ・フランクリンという人は、我々ロック・リスナーにとっては昔から気になる存在でした。
数々のロック・アーティストがリスペクトを公言していますし、何と言ってもローリング・ストーン誌が選ぶ偉大なヴォーカリスト第1位!ですからね。


私もレンタルCDのベスト盤で彼女の代表曲をひととおりは聴いていましたが、Apple Music には何と100以上(!)のCD音源があります。


この中から、何かロックリスナーにも聴きやすいアルバムはなかろうか?と探してみましたが、今回ご紹介するのは、このアルバム。
我々、ロック・ファンには馴染み深いフィルモア・ウエストで白人ロックファンから拍手喝采を浴びた、1971年のライブです。

Aretha Live at Fillmore West/Aretha Franklin

¥1,602
Amazon.co.jp

1.Respect
2.Love the One You're With
3.Bridge over Troubled Water 4.Eleanor Rigby
5.Make It With You
6.Don't Play That Song
7.Dr. Feelgood (Love Is a Serious Business)
8.Spirit in the Dark
9.Spirit in the Dark (Reprise)
10.Reach Out and Touch (Somebody's Hand)


オリジナルのアナログ盤は1971年3月5日から7日までの3日間行われたフィルモア・ウエストのライブからベストテイクを集めた、上記の10曲。Apple Musicで入手できるものも同じ曲の構成です。
このAmazonで購入できるCDは曲目を追加した2枚組のデラックス・エディション。



さて、では『Live at the Fillmore West』の収録曲を聴いてみましょう。
ビートルズのストリングスをフィーチャーしたクラシック風の楽曲が、活きのいいジャンプナンバーに生まれ変わっています "Eleanor Rigby"



エリナー・リグビーという身寄りのない老女と、誰からも相手にされないマッケンジー神父という孤独な人々の物語はゴスペル的な題材と言えるのかもしれないですね。
アレサ・フランクリンはカバー曲を歌うことの多い人ですが、ヒット曲なら何でもという訳ではなく、先ほどの"The Weight "やこの "Eleanor Rigby"ような宗教的・精神的な詞の内容のある曲、白人アーティストがソウル・ミュージックへのリスペクトを込めて作った曲を選曲して歌っているように思います。
このカバーがまた極上のソウル、ゴスペル・ミュージックに仕上がっており、時には原曲を上回るヒットを記録するところが、この人の凄いところですね。



さてロック界最大のアーティスト、ビートルズのカバーに続いては、フォーク界の超大物アーティスト、サイモン&ガーファンクルの世界的ヒット曲 "明日に架ける橋"



こう言ってはアート・ガーファンクルに怒られますが、彼の「天使の歌声」による、何となく軟弱にも聴こえるこの曲がこんなにも力強いゴスペル・ミュージックに生まれ変わっているとは驚きです。
もっとも、この"Bridge Over Troubled Water"という曲自体、ポール・サイモンがゴスペルにインスパイアされて作ったものなのですが、本物のゴスペルシンガーのアレサがカバーすることにより、当時アパルトヘイトで苦しんだ南アフリカの教会で本当に賛美歌として歌われるようになりました。
ウソのようなホントの話です。


白人観客の反応は概ね好意的ですが、それもそのはず、彼らは「愛と平和」「人種統合」を理想とするサンフランシスコのフラワーチルドレンたち。
同じ年にL.A.のトルバドールとN.Y.のビター・エンドでライブ・レコーディングされたダニー・ハサウェイの『Live』にも同じような白人客の好意的なレスポンスが感じられますね。
ただし、ダニーはこの後、妄想型の統合失調症を発症し最期は自殺と思われる転落死で亡くなるわけです。
私には「愛と平和」「人種統合」というこの時代の夢を彼が本気で信じてしまったが故の悲劇だったと思えてなりません。
現実には世の中から人種差別に限らず「差別」が無くなることは決してありません。差別を受けたことにより個人個人がいかに強くなれるかというところが勝負だと思います。
ロック・ミュージックやソウル・ミュージックというものは本来、そういうものではないでしょうか。


さて、このアルバムのクライマックスは、そんな魂の強さに溢れたレイ・チャールズ作のソウル・ナンバー"Spirit In The Dark"
少し長いですが、前半のアレサの歌唱、後半(Reprise)のローリング・ストーン誌が選ぶ偉大なヴォーカリスト第2位レイ・チャールズ本人とのヴォーカリスト・ツートップの競演は聴き逃せません。



ロックファンにも人気のあったオーティス・レディング"Respect"に始まり、先ほどのビートルズ、S&Gのカバーやスティーヴン・スティルス"Love the One You're With"ブレッド"Make It With You(二人の架け橋)"と白人アーティストのヒット曲でオーディエンスを引きつけ、 ベン・E・キング"Don't Play That Song"、アレサ自身の"Dr. Feelgood"と徐々に黒っぽさを増して、この"Spirit In The Dark"です。
最後は黒人・白人の枠を超えたビッグ・アーティストダイアナ・ロスのナンバーで大円団。
見事なステージ構成で白人ロックファンがソウルの世界に引き込まれていったように、ロックリスナーのソウルミュージックへの入口として最適のアルバムですね。
こういう"Spirit In The Dark "のような凄いソウルナンバーを聴くと「ソウルのアルバムも、もう少し聴いてみるか」という気になります。ソウルアルバムではライブ盤が迫力があってロック耳にも馴染みやすいと思いますね。



さて、この素晴らしいステージのバッキングを務めたキング・カーティス率いるザ・キングピンズについても触れておきたいと思います。
この時のキングピンズのメンバーとゲストプレイヤーは以下のとおり。

King Curtis (tenner, alto & soprano saxes)

The Kingpins
Jerry Jemmott (bass)
Bernard Purdie (drums)
Cornell Dupree (guiter)
Truman Thomas (electric piano)
Pancho Morales(congas)

Guest Players
Billy Preston (organ)
The Memphis Horns (horn section)



私は、キング・カーティスについてはデュアン・オールマンがマッスル・ショールズのフェイム・スタジオの専属ギタリストとしてバックを務めたアーティストの一人で、デラニー&ボニーの『To Bonnie from Delaney』http://s.ameblo.jp/ryusyun-sun/entry-12084950959.html のニューヨーク・セッションを仕切った人物といった程度の認識でしたが、彼はアトランティック・レコード所属アーティストのプロデュースや音楽監督も行っていた人なんですね。
確かにこのアルバムを聴くとキング・カーティスがフィルモアのライブステージを完全に掌握し主宰していることがよく分かります。


ギターのコーネル・デュプリーはこの後スタッフのメンバーとしてエリック・ゲイルとコンビを組むことになります。初期のキングピンズには何とジミ・ヘンドリックスが在籍していてコーネル・デュプリーは彼ともコンビを組んでいました。また、スタッフでコーネル・デュプリーと同僚になるリチャード・ティー(Key)も一時期、キングピンズに在籍していました。


ゲストプレイヤーもいいですね。
「5番目のビートルズ」としてロックファンにもお馴染みのビリー・プレストン
アップル・レコードの屋上でのゲット・バック・セッションにも参加してましたね。
メンフィス・ホーンズはブッカー・T&MG'sと共に、オーティス・レディングやサム&デイヴなどのスタックス・サウンド黄金時代を支えた、ウェイン・ジャクソンとアンドリュー・ラブを中心としたホーンセクション。
デラニー&ボニーがスタックスでレコーディングした『Home』http://s.ameblo.jp/ryusyun-sun/entry-12079829799.html にも参加しています。


ドラムスのバーナード・パーディーとベースのジェリー・ジェモットのこのリズム隊、いいですねえ。
恥ずかしながら知らなかったのですが、私の頭の中の要チェックプレイヤーのリストに即入りました。


実はこのフィルモア・ウエストのステージ、前半はアレサ・フランクリン抜きのキング・カーティス&ザ・キングピンズ単独のライブ。後半からアレサが登場してキングピンズはバッキングにまわるというステージ構成だったんですよ。
アレサのアルバムと同様に3日間のステージからベストテイクを集めたキング・カーティス名義で同名のアルバムも発表されています。

Live at Fillmore West/King Curtis

¥1,979
Amazon.co.jp


アレサ・フランクリンの歌唱が聴きたくて、フィルモア・ウエストのライブを聴きましたが、キングピンズの演奏の凄さにすっかりやられてしまいました。
比較のために、久々にオーティス・レディング、1967年の『Live In Europe 』を聴いてみましたが、この時のブッカー・T&MG'sとメンフィス・ホーンズの演奏をフィルモア・ライブ時のキングピンズは上回っているのではないかと思います。
私はソウルミュージックを聴く耳に自信はないですし、バンドというものは生モノで、その時々で良し悪しがあるので、どちらがバンドとして上だとかは言えないと思いますが、キングピンズのこの時の演奏は奇跡的なほど素晴らしいですね。

この圧倒的なグルーヴを感じてください "Them Changes"



このステージの6ヵ月後の1971年8月、キング・カーティスはジョン・レノンのアルバム『イマジン』のリハーサルを終えた夜、帰宅時に麻薬中毒者と口論になり、ナイフで刺され死亡します。37歳でした。
このフィルモアでのライブの充実ぶりが素晴らしいだけに惜しいですね。




もっと凄いアルバムがあります。
フィルモア・ウエスト3日間の公演を全て収録した完全盤。全61曲‼︎

Don’t Fight The Feeling: The Complete Aretha Fr.../Aretha Franklin & King Curtis

¥7,270
Amazon.co.jp

こんなものも聴けるとは、Apple Music スゴイね。
当初、全世界5000セット限定で発売されて相当の高値で取引をされていたという代物ですが、再発されたおかげでApple Music のラインナップにも入ったというところでしょうね。
正直、「これは、マニア向けだろ」と思いましたが、聴き始めるとグイグイと引き込まれてしまい、1日1公演ずつ聴いてフィルモア・ウエストのアレサ・フランクリンとキングピンズのステージを3日間とおしで観たような気になりました(笑)これまでの編集盤のように曲と曲の間がぶち切れていないのも良いですね。
初日しか聴けないビリー・プレストンの歌う"My Sweet Load"など3日間それぞれ、曲の構成が少しずつ違っており、オーディエンスの反応を見ながら、披露する楽曲や曲の並びを変えていったのだと思います。最終日になって初めてダイアナ・ロスの"Reach Out and Touch"をラストナンバーに持ってきてますね。


ジャケットのカラー写真も素晴らしい。
ステージ上のアレサ・フランクリン、レイ・チャールズ、キング・カーティスのスリーショットと盛り上がる白人オーディエンス。動画で観ていただいたモノクロの防犯カメラのような映像とは違い、実際の当時のステージはこんなにビビッドなものだったんですね。
この時のライブ映像がフルで残っているのですから、現在のCG技術を駆使して活き活きとしたカラー映像として、このステージを蘇らせるべきだと思いますね。



今回、ご紹介したアルバムはすべて、
Apple MusicLive at The Fillmore West と検索!