やってはいけない相続対策 大村大次郎著 | 猿の残日録

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いろんなことがあるが、人生短いから前だけを見たほうがいいですよ。江原啓之 今宵の格言

本の前半を抜粋引用しました

やってはいけない相続対策 大村大次郎著
2014年12月発行


2015年から始まる相続税増税によって
これまで相続税とは無縁だった普通の人々にまで
対象が広がる


元国税調査官の立場から見た正しい節税のあり方
を紹介 という本


K氏会社経営 3億3000万円 相続資産


 高級タワーマンションの高層階の1室を、3億円で購入
 3億円の高層階のマンションを購入しても、相続税の資産評価額は
 低層階と同じ5000万円となる


 つまり、タワーマンションを買うだけで、3億円の資産を、5千万円
 として申告できるので、相続税の額は一気に減額できる が


 購入時期、相続開始時期(死亡時期)、売却時期が
 それぞれ非常に近い  住んでいたこともほとんどない


 税務署からは、租税回避行為とみなされた


 税務署が相続税の税務調査に訪れるのは納税してから
 2~3年後がほとんど


 売るタイミングが遅ければ、必ず大丈夫という保証はありません
 具体的基準はない
 タワーマンション節税は危険を伴いますし、推奨できない



O氏 商社を定年退職 預貯金1億円 妻と子供2人


 配偶者は1億6千万円まで相続税はかからない
 2人の子供と分けても、相続税は多くて数百万円


 例えば、一括相続した後、妻が死んで、2人の子供たちだけで
 相続した場合は、2人合わせても770万円


 (基礎控除が3000万円、法定相続人1人当たり600万円の控除
  があるから、4200万円は相続財産から差し引くことができる


  だから、1億円マイナス4200万円 の、5800万円が
  相続税の対象となる資産


  子供2人が均等に分け合ったら、1人2900万円
  2900万円の相続財産にかかる相続税は、1人当たり385万円
  2人合わせても770万円)


 それも、まったく節税してなかった場合だ 
 子供に家を買う資金を贈与したり、孫の教育費を援助したら
 相続税をかけずに資産が移せるから、相続税はほぼゼロになる

 

 それを知らず、5000万円で土地購入、4000万円でアパート購入
 9000万円の買い物


 入居率は50%を下回り、固定資産税、修繕積立金も、かかる


 気をつけたいのは、サブリース


  30年の長期一括借り上げですから安心です とうたう


  業者が一括してアパートを借り上げ、それを入居者に転貸します
  そこから一定のマージンを抜いてからオーナーに賃料を払う仕組み


  空室があっても保証されている賃料は変わりありません


  不動産には空室リスクがありますから、これだけ聞くととても魅力的

  ところが、「30年保証」とはいっても新築時と同じ額を保証してくれる
  わけではない


  契約書には、数年ごとに賃料を見直すことや業者の都合で解約できること
  などが、小さく書かれていることがほとんどです


 ノーリスク・ハイリターンなものなどありません



T氏 不動産会社経営 75歳で5億円の預貯金 2人の子供


 税務署の調査官は、奇妙なことに気付く

 5年前まで、5億円もの預金を持っていたにもかかわらず
 2年くらいかけてそれが全部引き出されていました
 しかも、こつぜんと消えてしまっているのです
 金融資産、不動産の購入記録も一切ない


 これは現金で自宅に保管しているかもしれない


 5億円の相続財産を申告除外すれば、脱税額は1億円を超える


 1億円を超える脱税が見込まれる場合は、あの「マルサ」が動く
 ことが多い


 マルサとは、正式には「国税局調査査察部査察課」
 裁判所から強制調査の許可をもらって、強制的に税務調査を行う部署

 ある日、マルサの強制調査により、庭の現金が探り当てられた

 1時間もかからなかった



H氏 定年退職 妻と子供2人 5500万円の資産


 妻と子供2人なので、控除額は4800万円
 5500万円マイナス4800万円の、700万円に相続税がかかるだけ


 税金は、家族全体でも、70万円


 しかも、妻の場合、1億6千万円までの遺産に相続税はかからない


 妻が遺産を全部引き継いだ場合、相続税はまったくかからない


 法定相続分通りに相続したとしても、子供たちは70万円の税金の
 うちの半分、つまり35万円をそれぞれ払えばよかったのです


 わずか70万円の相続税しかかからないとわかっていたら
 お墓は相続財産から除外されるので、無理して500万円の墓を買いましたが
 200万円の墓で十分でした


 しかも、お墓を買う時には現金一括が大原則、相続開始時点で代金支払い済み



相続の手順


 相続の開始後から3か月以内に行うべきもの


 〇死亡届の提出 死亡届は7日以内に死亡診断書を添付して市区町村長へ提出

 〇遺言書の有無を確認 封印がされているので、家庭裁判所で検認を受ける
  決して勝手に開けてはいけません
  家庭裁判所で開封しなければいけません

 〇相続人の確認
  被相続人の戸籍謄本などで調べて確定させます

 〇相続または放棄の決定
  相続人が遺産を相続するか放棄するかを決めます
  家庭裁判所に申し立てをしない限り、相続の開始から3か月が経つと
  自動的にすべてを相続したものとみなされます

  (単純承認といいます)


  プラス財産の範囲内でのみマイナス財産を負担するものを限定承認
  あらゆる財産を相続しないことを相続放棄といいますが
  これらを選択する場合は
  3か月以内に家庭裁判所に申し述べます


  この申述の期限は、相続人が相続を知ってからの3か月以内になります


  借金があることを知らなかった遺族は、3か月経った後でも相続放棄
  できることがあります


 〇葬儀費用にかかった領収書を整理する
  控除できるものは、通夜費用、本葬費用、お布施、葬式前後に生じた
  出費で必要と認められるもの、遺体の捜索・運搬費用など


  なお、香典返礼費用や死体解剖などに要した費用などは控除できません



 相続の開始から4か月以内に行うべきこと


 〇準確定申告
  被相続人の死亡した日までの所得税を申告します



 相続の開始から10か月以内に行うべきこと


 〇相続財産表の作成
  相続財産を厳密に調べてリスト化
  なお、相続財産の評価の方法は複雑なので、わからないときは専門家に相談


 〇遺産分割協議書の作成
  遺産分割協議が終わり、各相続人の相続する財産が確定したら
  遺産分割協議書を作成します

  定められた書式はありませんが、「誰が」「何を」「どんな方法で」
  相続したかを記載し、相続人全員が署名・捺印します

  注意すべきは、この際の捺印は、三文判は不可ということ
  必ず印鑑登録済みの実印を使用し、印鑑証明書を添付しなければ
  なりません


  この遺産分割協議書は、相続財産の名義変更の際に必要となります


 〇相続税の申告と納付
  被相続人の死亡時の住所を管轄する税務署に申告するとともに納付
  なお、この10か月という納付期限は厳密で、納付期限までに納付しなかった
  場合は延滞税が課されます


  延滞税は日割り計算で追加納税分に年14.6%(納付期限から2か月以内は
  原則年7.3%)をかけた金額と、非常に高いので注意が必要です


  原則として現金での納付が基本ですが、どうしても現金が準備できない場合は
  物納という方法もあります
  ただし、2006年の法改正により、現在、物納は非常に使いにくい制度に
  なっています



相続税の2割加算


 本来なら、もらえる立場になかった甥や姪は、
 遺言によって財産を得たときなど
 たとえば算出税額が100万円だとしたら
 2割増の120万円を納めなくてはならない



年次相続控除


 たとえば父親を亡くしたばかりなのに、今度は母親が他界したという話を
 聞いたことがあるかと思います
 このように相次いで相続が発生した場合、同じ財産について何度も
 相続税が課せられてしまうことになります


 そのため、10年以内に2回以上の相続が発生して相続税が課せられた場合は
 一定額を引くことができるという制度
です


 数式は少々複雑なので割愛しますが、ざっくりいうと
 今回亡くなった人が前回の相続のときに支払った相続税から
 前回から今回までの経過年数X10%を減額した金額
 といってもいいでしょう


 

配偶者は100億円の遺産があっても
半分までは無税で受け取れる


 配偶者は1億6千万円までの相続には税金がかからない
 配偶者には、さらに有利な制度もあります


 どれだけ多額の遺産があっても、遺産の半分までは配偶者は無税で
 受け取れるという制度です


 残された方が、妻ではなく、夫でも同じことです


 この制度の趣旨は、財産というのは、夫婦が二人で築いたものなので
 半分は配偶者のものである、ということです


 だから、相続税は、配偶者がいるのなら、どれだけ遺産があっても
 相続税は半額以下になるというわけです


 ただし、この制度は、1億6千万円ルールと同じで、遺産全体に対しての
 基礎控除ではなく、あくまで配偶者だけが持っている控除制度です


 配偶者以外の相続人たち(子どもなど)の相続分については
 まともに相続税がかかってきます


 だから、故人の配偶者が生きている場合、
遺産の半額以上は配偶者が受け取るというのが、
相続税対策の基本
だといえます


 またこの控除を受けるには、1億6千万円控除と同様に
 申告の際に戸籍謄本と、遺言書の写し、遺産分割協議書の写しなど
 配偶者の取得した財産がわかる書類を添えて提出しなければなりません


 そして、この控除も相続税の申告後に、遺産分割が行われた場合には
 分割が決定した日から4か月以内ならば「更生の請求」といって
 申告のやり直しをすることができます
 詳しくは、税務署にお尋ねください


 

「配偶者の税額軽減」を利用したためにトータルで損
になるケースも


  「配偶者の税額軽減」を利用したがために、一次相続と二次相続を
  トータルで見た場合、結果的に子どもたちが支払う相続税の総額が
  増えてしまったというケースもありうるのです


  モデルケース 妻、子ども2人 が法定相続人


   正味の遺産額 = 2億円

    基礎控除額 3000万円 +(600万円X法定相続人の数)
      つまり 3000万円 +(600万円X3)
      なので 4800万円
     
   課税遺産総額 = 1億5200万円 (2億円-4800万円)

   法定相続分で分割したものとして計算した相続税の総額
      妻 = 1億5200万円 X 2分の1 = 7600万円
      長男= 1億5200万円 X 4分の1 = 3800万円
      長女= 1億5200万円 X 4分の1 = 3800万円


   この額に相続税の速算表に照らし合わせて、それぞれの相続税額を
   求めます (基礎控除後の課税価格 X 税率 - 控除額)
      妻 = 7600万円 X 30% - 700万円
           = 1580万円
      長男= 3800万円 X 20% - 200万円
           = 560万円
      長女= 3800万円 X 20% - 200万円
           = 560万円 

      相続税の総額 = 2700万円 (1580+560+560)


   妻が1億5000万円
   長男と長女がそれぞれ2500万円ずつ
     相続した場合の納税額

     納税額 =
      相続税の総額 X それぞれが相続する金額 ÷ 正味の遺産額

      妻 2700万円X1億5000万円÷2億円=2025万円
      長男2700万円X2500万円÷2億円=337.5万円
      長女2700万円X2500万円÷2億円=337.5万円

        配偶者は、1億6千万円まで相続税はかからない

     納税額 = 妻 0円、長男、長女はそれぞれ337.5万円

     一次相続の総額は、675万円



   それから十数年後に妻が死亡したとしましょう
   税金のかからない遺族年金でつつましく生活し、相続財産は増えていない
   ものとして、1億5000万円の財産を取得したと仮定します
   借入金はなく、葬儀費用は保険でまかなったことにします


   二次相続では、法定相続人が1人減っていますから、基礎控除の額は
   4200万円になります (3000 + 600 X 2)


   すると、課税遺産総額は、1億800万円
               (1億5000万円-4200万円)


   これを法定相続分通りに分割したとして相続税の総額を計算すると
   2分の1ずつですから5400万円


   この5400万円を、相続税の速算表に照らし合わせると
      (基礎控除後の課税価格 X 税率 - 控除額)

     5400万円X30%-700万円=920万円


   337.5万円 + 920万円 で 一次相続、二次相続合わせて
   1257.5万円 となります


  それでは、一次相続で配偶者の税率軽減をフル活用せずに
  法定相続分通りに分けていたらどうなるでしょうか


   相続税の総額 = 2700万円
   妻の相続額 1億円、長男、長女が
  それぞれ5000万円ずつ相続します


   すると、納税額は、妻の場合は次の通りになります

     2700万円X1億円÷2億円=1350万円
     しかし、1億6千万円という「配偶者の税額軽減」が適用されるので
     相続税額は、0円です

   一方、長男と長女の納税額はそれぞれ次の通りです

     2700万円X5000万円÷2億円=675万円 となります


   一次相続で母親が1億5千万円相続したときと比べると
   337.5万円も多く、一次相続で払う計算になります


   ところが、二次相続になると状況は一変します


     ここでも母親の遺産は増えも減ってもいないことを前提にして考えます

     母親の正味の遺産額 = 1億円 です

     基礎控除額は、3000万円X600万円X2=4200万円
     ですから、課税遺産総額は、5800万円となります


     これを2人で均等割りするのですから、1人当たり2900万円

     この数字で相続税の総額を計算します
      (基礎控除後の課税価格 X 税率 - 控除額)
       2900万円X15%-50万円=385万円という納税額

     一次相続の際に納税した675万円を足すと1060万円


     つまり、配偶者の税額軽減で母親が1億5千万円を相続したときと
     比べると、197万5000円も得をするという結果になるのです


  このケースでは、相続税の仕組みをわかりやすく説明するために
  正味の遺産額を2億円として計算したためにこのような結果となりました


  ごく一般的な家庭では、配偶者税額軽減を
 利用して相続対策したほうが無難なケースが多い
 と思われますが
、ある程度の資産がある家庭の場合
  については、二次相続まで考えておくことが肝要です



相続税がかからないのに、申告はしなければならない


 遺産の中に住居があれば軽減措置があったり、遺族に配偶者がいたら
 大幅に免税対象額が増額されるなどの割引制度があります


 しかし、この割引制度を使う場合は、申告をしなければなりません


 もし、申告をしなければ、無申告とみなされ罰則の対象となります
 しかも、申告をしていなければ、割引制度も使えません


 だから、遺産額が、基礎控除を超える場合は、必ず申告をしなければ
 ならない、と思っていてください


 数千万円程度の遺産であれば、だいたい税務署に相談すればことは
 足りるでしょう


 ただし、税務署の場合は、積極的に「割引制度」は教えてくれませんので
 あらかじめ自分がどんな割引制度を使えるのかは、頭に入れておかなくては
 なりません


 でも、それほど難しく考える必要はありません

 普通の人が使う相続税の割引制度というのは、「配偶者の税額軽減」か
 「居住用宅地」なので、税務署に相談するときに、
 「遺族に配偶者がいて、配偶者の税額軽減を目いっぱい使いたいこと」
 「遺産の中に居住用宅地があり、特例を使いたいこと」といえば
 税務署がそれに沿った指導をしてくれるはずです