『タンポポ』は、1985年の日本映画。
伊丹十三の脚本・監督
「ラーメンウエスタン」(マカロニ・ウェスタン)と称したコメディ映画。
女店主・タンポポが営む売れないラーメン屋を、
カウボーイハットのタンクローリー運転手・ゴローとその相棒・ガンが立て直す物語。
加えて、様々な「食と欲望」をテーマにしたサブストーリーが挟まる、
不思議な構成の作品となっている。
ゴローが与太者たちと争い、タンポポに恋慕を残したまま去るという西部劇設定。
そこにフランス料理、スパゲッティ、北京ダックなど、
食への薀蓄(うんちく)を傾けた奇想天外かつ官能的な挿話が盛り込まれている。
また、日本のラーメン・ブームに拍車をかけ、アメリカで大ヒットを記録した作品でもある。
キャスト
- ゴロー
- 演 - 山﨑努
- タンクローリー運転手。愛車のタンクローリーは三菱ふそう・FT型前期型で、
- キャビン上部の速度計カバー上に斗牛の角を模した飾りが付いている。
- 「タンポポ」を日本一のラーメン屋にしようとプロデュースすることになる。
- かつては笹崎拳のリングネームを持つウェルター級ボクサーだった。
- 顔が広く多彩な知り合いがおり、ラーメンや客商売にも精通している。
- 常にカウボーイハットをかぶり、風呂の中でも手放さない。
- タンポポ
- 演 - 宮本信子
- しがないラーメン屋の店主で未亡人。
- 夫が営んでいたラーメン屋を見よう見まねで受け継いでいた。
- ラーメンはなかなか上手く作れないが、家庭料理の腕前は上々で、
- 特に漬物はゴローも認めるほど。
- ゴローと二人三脚で美味いラーメン屋になろうと努力する。
- ガン
- 演 - 渡辺謙
- ゴローと一緒にタンクローリーに乗っている助手的相棒。
- タンポポの西洋風調理服を作る。
- 冒頭の車中にてラーメンの食べ方が書かれた本を読み聞かせしたことで、
- ゴローと共に我慢できないほど腹を空かせてしまい、
- タンポポのラーメン屋に偶然立ち寄る。
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タンポポを手助けする人
- ピスケン
- 演 - 安岡力也
- ヤクザまがいの土建業者。タンポポとは幼馴染で、
- 毎晩子分連れで店に押し掛けてはしつこく交際を迫っているが、
- 根は一本気で潔い性格。ゴローと一対一で決闘した後に和解し、
- 店のリフォームを引き受け、タンポポに自らの創作メニュー「ネギソバ」を提案する。
- タンポポに「ケンちゃん」と呼ばれている。
- 愛車は白の2代目後期型ホンダ・プレリュード。
- センセイ
- 演 - 加藤嘉
- ホームレスたちのまとめ役。
- 元産婦人科医だったことからゴローたちから「センセイ」と呼ばれる。
- 病院院長だった頃にラーメン好きの食道楽のせいで病院を妻と事務長に乗っ取られた。
- ゴローの紹介によりタンポポの指導に当たり、主にスープを担当する。
- ショーヘイ
- 演 - 桜金造。
- モチをつまらせる老人の運転手兼料理人で怪しい関西弁を話す。
- 愛人が銀行に行く際にも運転している。ラーメン好きで、主に麺を担当する。
- モチをつまらせる老人
- 演 - 大滝秀治
- 蕎麦屋で愛人に止められていたすべてのメニュー
- (天婦羅そば、鴨南蛮、お汁粉)を注文する。
- お汁粉のモチを喉に詰まらせたところを居合わせたタンポポたちに助けられる。
- お礼として彼らを自宅に招いてスッポン料理を振舞った上、
- ショーヘイを仲間に加える。愛人からは「先生」と呼ばれている。
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サブストーリーの登場人物
白服の男の関係者
- 白服の男
- 演 - 役所広司
- ギャング風で全身白色のコーディネイト。かなりの食通で、
- 死に際にも料理について語る。冒頭に前口上風に現れ、
- その後も本筋とも脇筋とも全く関係なく唐突に登場場面が挿入される。
- 白服の男の情婦
- 演 - 黒田福美
- ボウルに入った生きた車海老を腹に乗せられるなど、
- 白服の男の食道楽に付き合っている。
- カキの少女
- 演 - 洞口依子
- 海女。白服の男が一人で浜辺を訪れた時に、自身が獲った生ガキを食べさせる。
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黒田福美の出演シーン
黒田福美が本作の出演を依頼された際、伊丹から「白服の男の情婦」役と、「おめかけさん(モチをつまらせる老人の愛人)」役のどちらかを選ぶよう告げられた。
作中では役所と黒田による「卵黄口移し」シーンがあるが、黒田は台本を読んだ時点で「壊れやすい卵黄を口移しなんて可能なの?」と思ったことを語っている。本作で2人に用意された衣装はそれぞれ2着ずつしかなく、リハーサルでは卵黄で白い服を汚さないよう衣装の上からレインコートを着た状態で行われた。この卵黄にはヨード卵・光(ヨードらん・ひかり)が使われ、2人は慎重ながらも念入りに何回も練習し、本番を含めて計6個から7個を使った。
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「おめかけさん(モチをつまらせる老人の愛人)」役のどちらかを選ぶよう告げられた。情婦役には脱ぐことが条件だったが、当時29歳で俳優人生の岐路と感じていた黒田は「自分をさらけ出した芝居をしたい」との思いから、同役を選んだ。撮影に入る前に、伊丹からルイス・ブニュエルの映画『ブルジョワジーの秘かな愉しみ』を観るよう告げられ、本作の役所広司演じる白服の男役と情婦役のシーンのイメージを作った。
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作品のモデル、ロケ地
映画のモデルとなったラーメン店は、東京都杉並区荻窪の「佐久信」で『愛川欽也の探検レストラン』でのストーリー(荻窪ラーメン)を下書きにしたとされる。
それとは別に、店舗は京都市中京区壬生相合町に存在したラーメン店「珍元」(2018年8月に閉店)がモデルとする説も根強い。
タンポポが営むラーメン店のロケ地は、東京都港区芝浦の焼肉店(当時)である。ロケ地を選ぶ際、本作のプロデューサー・川崎隆が1か月ほど歩き回っていくつかの候補地の写真を撮ってきては伊丹に見せる、ということを繰り返した。後日伊丹と川崎が候補地の一つである上記焼肉店に訪れると、店が路面から一段下がっている所にあり、「ゴローとビスケンの喧嘩シーンなどを撮影するのにピッタリ」ということが決め手となり、ロケ地に決まった。この他、「春木屋」軽井沢店でも撮影が行われたという。また、歯の痛い男が歯の治療を受けるシーンは、当時伊丹が実際に通院していた歯科医院を借りて撮影が行われた。
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珍元には、伊丹と宮本信子と息子の3人が製麺所の紹介で実際に訪れ、調理の様子や店の外観をロケハンして帰った。店内には伊丹と宮本のサインが飾られていた。
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ストーリー
雨の降る夜、タンクローリーの運転手、ゴローとガンは、
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ふらりと来々軒というさびれたラーメン屋に入った。
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店内には、ピスケンという図体の大きい男とその子分達がいてゴローと乱闘になる。
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ケガをしたゴローは、店の女主人タンポポに介抱された。
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彼女は夫亡き後、ターボーというひとり息子を抱えて店を切盛りしている。
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ゴローとガンのラーメンの味が今一つの言葉に、
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タンポポは二人の弟子にしてくれと頼み込む。
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そして、マラソンなど体力作り、他の店の視察と特訓が始まった。
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タンポポは他の店のスープの味を盗んだりするが、なかなかうまくいかない。
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ゴローはそんな彼女を、食通の乞食集団と一緒にいるセンセイという人物に会わせた。
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それを近くのホテルの窓から、白服の男が情婦と共に見ている。
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“来々軒”はゴローの提案で、“タンポポ”と名を替えることになった。
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ある日、ゴロー、タンポポ、ガン、センセイの四人は、
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そば屋で餅を喉につまらせた老人を救けた。
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老人は富豪で、
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彼らは御礼にとスッポン料理と老人の運転手、
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ショーヘイが作ったラーメンをごちそうになる。
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ラーメンの味は抜群で、ショーヘイも“タンポポ”を町一番の店にする協力者となった。
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ある日、ゴローはピスケンに声をかけられ、
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一対一で勝負した後、ピスケンも彼らの仲間に加わり、
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店の内装を担当することになった。
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ゴローとタンポポは互いに魅かれあうものを感じていた。
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一方、白服の男が何者かに撃たれる。
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血だらけになって倒れた彼のもとに情婦が駆けつけるが、男は息をひきとった。
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--やがて、タンポポの努力が実り、
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ゴロー達が彼女の作ったラーメンを「この味だ」という日が来た。
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店の改装も終わり、“タンポポ”にはお客が詰めかけ、行列が続いた。
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ゴローはタンクローリーに乗ってガンと共に去っていく。
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