大江戸物語#江戸の珍商売 | 春夏秋冬✦浪漫百景

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季節の移ろいの中で...
歌と画像で綴る心ときめく東京千夜一夜物語

江戸の珍商売

 

唐辛子売り

【全身真っ赤! それにしてもハリボテ唐辛子がデカイ、

デカすぎる(『彩色江戸物売図絵』三谷一馬 著)】

 

 江戸時代に実在した。

6尺(約180cm)もの巨大な唐辛子のハリボテを背負って売り歩く唐辛子売り。

これは目立つぞ。

ちなみに、巨大唐辛子のなかには小袋に入った粉唐辛子が収納されており、

「とんとん唐辛子、ひりりと辛いが山椒の粉、すはすは辛いが胡椒の粉、

七味唐辛子」と言いながら売り歩いたんだそう。
かの天才絵師・葛飾北斎も極貧時代に唐辛子売りをして糊口をしのいでいたとか、いないとか。

 

 

耳の垢とり

【神妙な顔をして耳かきをしてもらっているところ】

『大和荘子蝶胥笄(やまとそうしちょうちょうのかんざし)』より 

曲亭馬琴 著/歌川国貞 画)』

 

 現代、耳かき専門店といえばJKの怪しげなバイトが思い浮かびますが、

江戸時代にも耳かきを商売にしていた人がいました。
 江戸時代前期の貞享年間(1684~88)、江戸は神田紺屋町に耳の垢取り名人がいて、

わざわざ遠方から来る客もいるほどの大評判だったとか。

なぜか唐人(中国人)の格好をしていたそうで、

これは“いかにも医学にくわしいです”という雰囲気づくり。
 ちなみに、

耳の垢取り名人は残念ながら(?)うら若き女性ではなく、壮年の男性でした。

 

 

お万が飴

 

【お万が飴を踊る歌舞伎役者の中村歌右衛門。

春狂言の演目のなかで踊り話題となりました(「おまんがあめ」歌川国芳 画)】

 

 江戸時代後期の文化~天保年間(1804~44)に異色の飴売りが大流行しました。
それがこのお万が飴。

もともと四谷に住む屋根職人が副業で始めたものらしいのですが、

女装スタイルでなまめかしい女性の声色で売り歩いたところこれが大ウケ。
 子どもや芸者、はてには歌舞伎役者までもがその所作をマネし、

大流行したんだとか。

売り口上は「かわいけりゃこそ神田からかよふ、にくて神田からかよわりょか、

おまんが飴じゃ、一丁が四文じゃ」。
 それにしても、女装というのはいつの時代もウケるんですね。

 

 

唐人飴売り

【こちらの唐人飴売りはカラクリ人形まで同伴。

江戸の町でこのトンガリ帽子はさぞかし目立ったことでしょう

(『一蝶画譜』より 英一蝶 画)】

 

 お万が飴」が女装なら、こちらは唐人に扮した飴売り。
江戸時代後期から明治時代初め頃まで見られた「唐人飴売り」はその名のとおり、

唐人風ファッションに身を包み、唐人笛(チャルメラ)を吹いて、

デタラメな歌を歌いながら飴を売り歩きました。
子どものリクエストがあれば歌ったり踊ったりして楽しませてくれたらしい。

江戸の町にはユニークな飴売りがたくさんです。

 

 

放し亀売り

 

【川の近くの橋元に放し亀売りが。

近くを通った子どもが興味津々に見ています(『江戸名所図会』「姿見橋」)】

 

 江戸時代、夏のイベントのひとつに「放生会(ほうじょうえ)」というのがありました。
これは殺生を戒める意味で、捕獲された生き物をあえて逃がすというもので、

もともとは仏教的儀式でしたが、

江戸時代には民間行事として大人も子どもも楽しんだようです。

 放たれる生き物は、亀、鳥(おもに雀)、鰻など。
8月15日(旧暦)の「放生会」が近づくと寺社の境内や市中に、

「放し亀売り」や「放し鳥売り」が現れ、

放生する生き物を売り歩きました。値段は1匹4文(約100円)ほどだったそう。

ちなみに放生会は今も各地の寺社で行われています。

 

 

【大胆な構図で知られる『名所江戸百景』シリーズのなかでも目をひく「深川万年橋」。

紐で吊るされた亀は放生会のために売られている放し亀(歌川広重 画)】

 

 

“宵越しの金を持たない”のを身上にしていた江戸っ子。

とはいえ、お金がなければ食べていけない。でもマジメに働くのもしゃらくさい。

そこで考え出されたアイデアと愛嬌たっぷりな珍商売の数々をご紹介しました。

ちなみに

当時の寺子屋(民間教育機関)には、「商売往来」という教科書があり、

各種商習慣や広範な商品知識が盛り込まれ、

卒業すると大抵の商売の基礎知識が身についていたという。

ちなみに、商人の子どもには商売往来、職人の子どもには番匠往来、

農民の子どもには百姓往来という教科書があり、

それぞれ専門的な個別教育がなされたようである。

 

商人の子どもたちは、日々の暮らしの中で将来に向けて勉学に励んでいた。

読み書き算盤は言うに及ばず、各種商品知識や商習慣、

接客のための言葉使いなど多岐に及んだ。