<a href="https://unsplash.com/ja/%E5%86%99%E7%9C%9F/RYABMCLP7aM?utm_source=unsplash&utm_medium=referral&utm_content=creditCopyText">Unsplash</a>の<a href="https://unsplash.com/@kellysikkema?utm_source=unsplash&utm_medium=referral&utm_content=creditCopyText">Kelly Sikkema</a>が撮影した写真

 

 

2023年3月13日から、これまで屋外では原則不要・屋内では原則着用とされていた新型コロナウイルス感染症対策のためのマスク着用が個人の判断が基本となります。さまざまなメディアで、「あなたはマスクをしますか、それとも外しますか」というようなアンケートがおこなわれ、盛んに報道されています。

 

感染症対策という部分をのぞいてマスクをする・しないでよく話題にあがるのは、「相手の顔がわからない」とか「相手の表情が読み取れない」ということです。たしかに、顔の半分が隠されるわけですから、顔がわからないとか表情が読み取れないという指摘は正しい気もします。

 

 

 

 

 

 

マスクと表情の研究

ドイツのバンベルクにあるバンベルク大学のClaus-Christian Carbonが「Wearing Face Masks Strongly Confuses Counterparts in Reading Emotions」という研究をしています。この研究は、マスクの着用によって表情(感情)の読み取りにどう影響するかを明らかにしようとするものです。

(1)研究の概要

18歳から87歳(平均年齢26.7歳)の男女41人が研究に参加しました。この41名は事前にマスクなしの顔をみたときに50%以上の確率で相手の表情(感情)を正しく読み取れることが調べられています。

 

そして研究では、フェイスマスクを着用した刺激写真が作成されたのですが、まずベースとなる顔写真として、3つの異なる顔年齢層(若年、中年、高齢)に属する白人12名(女性6名、男性6名)の正面写真が用意されました。つまり、若年・中年・高齢の男女それぞれ2名ずつの写真が用意されたわけです。

 

そしてこの12名それぞれの、怒り、嫌悪、恐怖、幸福、中立、悲しみという6種類の表情(感情)の写真を撮影しました。12名それぞれが6首位の表情をしたわけですから合計72枚の写真ができあがりますよね。

 

この72枚の写真には、ベージュ色の一般的なマスクの画像をPhotoshopで切り出し、影をつけて合成しました。合成するよりも最初からマスクをして写真を撮った方が簡単そうですが、そこが研究なんでしょうね。

 

ちなみに、マスクを合成する前と合成したあとの写真は下のような感じです。

(2)研究の結果

まず、マスクをしていな写真の表情をどれくらい読み取れるかですが、この研究では89.5%の確率で正しく読み取れるということがわかりました。90%でもかなり高い精度で表情が読み取れることを意味しているのですが、100%ではないという意味では表情を読み取ることがいかに難しいことかがわかると思います。

 

では、マスクをした写真はどうでしょうか。想像通り、マスクをしている写真に対しては感情を正しく読むことができないという結果になりました。とくに、嫌がっている顔(disgusted)を怒っていると誤って読み取っていたり、悲しい(sad)を嫌がっている顔(disgusted)と普通の表情(neutral)、怒り(angry)は嫌がっている顔(disgusted)・普通の表情(neutral)・悲しい(sad)と混同されることが多いことがわかりました。

(3)マスクが表情を読み取らせなくする理由

これまでの「Emotion recognition: the role of facial movement and the relative importance of upper and lower areas of the face」「Veiled emotions: the effect of covered faces on emotion perception and attitudes」「Islamic headdress influences how emotion is recognized from the eyes」などの研究で、特に「嬉しい」「悲しい」「怒り」といった感情の認識は、顔の下部、特に口元に依存していることがあきらかになっています。つまり、口元を隠してしまうマスクは「嬉しい」「悲しい」「怒り」といった感情を読み取りにくくさせるんです。

 

その一方で、恐怖といった感情は目元に依存することがわかっています。そのため、マスクは目元が隠さないため、恐怖(fearful)の表情は比較的読み取ることができたんです。

 

 

 

マスクはするべきか

Claus-Christian Carbonは研究の最後で、次のように述べています。

 

Face masks may complicate social interaction as they disturb emotion reading from facial expression. This should, however, not be taken as a reason or an excuse for not wearing masks in situations where they are of medical use. We should not forget that humans possess a variety of means to interpret another’s state of mind, including another’s emotional states. 

 

フェイスマスクは、表情から感情を読み取ることを妨害するため、社会的相互作用を複雑にする可能性がある。しかし、このことは、マスクが医学的に有用な場面でマスクを着用しない理由や言い訳として受け止められるべきではない。人間は、相手の心理状態(感情も含む)を読み取るためのさまざまな手段を持っていることを忘れてはならない。

 

つまり、人間関係(コミュニケーション)が上手くいかなくなるからといってマスクをしない理由にはならないというわけです。たしかに私たち人間は、顔の表情だけでなく、体の姿勢やボディーランゲージからも相手の感情を読み取ることができます。

 

Direct verbal communication even helps to understand the very fine-tuned state of a mind. We have options, and it is essential to make use of them not only when being the receiver of socially relevant information but also when being the sender. 

 

直接的な言語コミュニケーションは、非常に繊細な心の状態を理解するのに役立ちます。私たちには選択肢があり、社会的な情報の受信者であるときだけでなく、送信者であるときにも、それを活用することが大事です。

 

 

 

まとめ

わたしたちのコミュニケーションはこれまで、非言語的な要素がとても大きく占めていました。新型コロナウイルス感染症(COVID19)は、私たちの生活を大きく変えましたが、それはコミュニケーションのあり方にもあてはまります。

 

日々の生活や仕事の仕方が新しい生活様式へと変わったように、私たちのコミュニケーションも非言語的なものから言語的なものへとパラダイムシフトしていかなければならないんです。