タイトルが未定状態が続く小説 | 高田龍の《夢の途中》

高田龍の《夢の途中》

気がついたら、72歳に成ってました。
今までずいぶんたくさんのことを書いて来ました。
あと何年生きられるのか判りませんが、書き続ける事が生存確認でも有りますし生存証明でもあります。
宜しくお願い致します。


長い一日が終わり、また新しい一日が始まった。
そして百地幸一郎の前には解決の糸口さえ見出せない問題が残っている。

百地の時計が十一時三十分を告げ、彼は動き出す。
百地が、細かいことを気にせずに、熊による人間襲撃事件として報告していればなんら問題は無かったのだが彼にはそんな無責任な事は出来なかった。

そしてもうひとつ、百地に熊の被害についての調査という触れ込みで近づいて来た厚労省が、実際は違う生物らしきものの生態を調べているかも知れないという疑惑が払拭出来なかった。

その思いは、犠牲になった三人の遺体を見たあの日から、日を追うごとに彼の中で確固たるものになっていた。

百地は、厚労省の佐山某《なにがし》という人間に昼食を招待されていた。
会った事もない役人などと昼食を一緒にすることに気分が乗らない、彼は断ったが厚労省の役人達がどんな情報を基にして何をしようとしているのか、それを知るにはまたと無い好機だと考え直し、招待を受けることにした。

厚労省の役人との昼食は先方が選んだ高級和食店だった。
二十階建のビルの最上階にある和食店を囲い込むように日本庭園が設えてあり、ここに来た客はその見事さに、誰もが驚かされる。

百地も、その一人だ。
相手はまだ来ていないようだったが、この景色を眺めながら待つのならば苦にはならない。

彼を案内した和服の女性従業員は『佐山様はまもなくお越しになるとの連絡がございました』と告げ襖を閉めた。

次にその襖が開いた時、紺色のスーツ姿の男が立っていた。

軽く会釈をした男は厚労省の佐山航《わたる》と書かれた名刺を、百地に渡した。
『百地教授ですね』

『百地でございます』
このスーツ姿の男が、抱えた疑問を消してくれるのだろうと百地は思っていた。