未だにタイトルの決まらない小説 | 高田龍の《夢の途中》

高田龍の《夢の途中》

気がついたら、72歳に成ってました。
今までずいぶんたくさんのことを書いて来ました。
あと何年生きられるのか判りませんが、書き続ける事が生存確認でも有りますし生存証明でもあります。
宜しくお願い致します。

 厚労省の佐山航《わたる》は三十代前半と思え百地にしてみれば息子のようなものだった。

『あなたは厚労省にお勤めになって何年ですか』

『私ですか、大学を出てからですから、今年で十年ですか』

『ところで大学は?』

『東大です』

『そうでしたか』

『私、教授の講義を聴いてましたよ』

『ありがとうございます』

『教授の講義面白かったなぁ』

佐山という厚労省の若い役人は学生の頃を懐かしむように窓の向こうに広がっている日本庭園を眺めた。


襖の向こうから声がかかり

同じ和服の女性達が二人分の料理を運んで来た。


佐山が運ばれてきたビールを百地にすゝめながら、

『お口に合いますか、どうぞ』

と言った。

『私、下戸でしてね』

『あっ、それはどうも、では私失礼して』

そう言うと佐山は手酌のビールを呑みほす。

『先日、送りました書類の内容通り例の件は《熊》によるものでは有りません』

『それはもう、解っています』

聞きたいことは山ほどある百地は踏み込んだ。

『あなた方が私に求めていることは何ですか、《熊》のことなんてどうでもいいんですよね、本当は何が知りたいんですか』


佐山は黙って百地に視線を送り

口元に笑みを浮かべた。