創作『コスナーさんの思い出』〜戦火の中の春 | 高田龍の《夢の途中》

高田龍の《夢の途中》

気がついたら、72歳に成ってました。
今までずいぶんたくさんのことを書いて来ました。
あと何年生きられるのか判りませんが、書き続ける事が生存確認でも有りますし生存証明でもあります。
宜しくお願い致します。

春がやって来ました

戦争はまだ


終わっていません


世界の


あちこちで


戦争は続いていました


街は焼かれ


建物は崩れ落ち


森も野原も炎に包まれて


海は血の色に染まり


河は


人の屍で


流れを止めました


立ち昇る煙が


空を覆い


明るさを無くしました


罪もない


大勢の人達が


次々に


殺されていったのです


母親に抱かれたままで


死んでいる赤ん坊


大好きだった


縫いぐるみに


しがみついて


死んでいる少女


妹を護るために


黒焦げになって


死んでいる少年


皆んな



皆んな


良い子ばかりでした


この子達に


死ななければ


ならないほどの


どんな罪が


あったと言うのでしょう


彼等の


数えきれない


夢と


可能性と一緒に


尊い


生命が消えたのです


それでも


戦争は


終わりませんでした



季節は変わり


重苦しい夏が


やって来ました


夏は秋へと変わり


また冬が訪れました



お父さんのいなくなった


あの日と


同じように


冷たい雨の降る


午後でした



悲しい知らせが


コスナーさんの家に


届きました


遠い


海の向こうの戦場で


父親のウィリアムが


戦死した知らせでした


皆んなが


父親の帰る


その日を待って


苦しいことにも


耐えて来ました


頑張ってきたんです


家族にとって


これほどの悲しみは


ありません


母のナターシャの悲しみは


誰も想像することが


出来ません


コスナーさんが


大好きだった


お父さん


あの優しい笑顔は


もう見ることが出来ません


あの逞しい腕で


抱きしめてくれることは


もう無いのです


あの声で


名前を呼んでくれることも


無いのです


大好きだった


お父さん


コスナーさんは


泣きました


泣き続けました


何日も


何日も


それなのに


涙は止まりません


子供だったコスナーさんは


お父さんの死んだことが


信じられなかったんです


窓の外の


お父さんを見送った


あの通りを見て


泣き続けました


何事も無かったように


お父さんが帰って来る


そんな気が

したんです


コスナーさんの悲しい


儚い夢でした




季節は


また夏になっていました


真夏のある日






絶対に


使ってはいけない


そう言われている


核爆弾を


投下して


永かった


戦争は終わりました



コスナーさんの国は


戦争に勝利したのです


平和を


取り戻した


国中が


勝利の歓びに


沸き返りました



父親を失った


コスナーさんの家族には


勝利を歓ぶことは


出来ませんでした


そして



コスナーさんの家族から



笑顔が消えました



たぶん


いいやきっと


コスナーさん家族のような


家庭が


世界中に


数えきれないほど


あったはずです


だって


たくさんの人間の生命を


奪ってしまう


戦争から歓びなんか 


産まれるわけが


ないじゃないですか


戦争は終わりました


まだ十歳の


コスナーさんの心に


戦争は悪だ


戦争に正義なんてない


という消す事の出来ない


傷を残して