雪と氷に閉ざされた
北の国から
コスナーさんの家族は
自由と希望
平和と豊かさを求めて
この国にやって来ました
一家の中心
父親のウィリアム
母親のナターシャ
それからコスナーさんの
三歳年上のシャロン
それともう一人・・・
ではなくもう一匹
大切な家族の一員
『バボ』
とても
大きな犬なんです
その『バボ』は出発する朝
一番の親友だった
マイケルに貰われて
行きました
船での長旅に
連れては
行けなかったからです
それは
幼いコスナーさんが
初めて知る
別れの悲しみだったのです
船での旅は
想像をはるかに
超えていました
皆んな
自由と希望の待つ
新しい国へ向かって
必死になって堪えたのです
コスナーさん一家の
新しい国での生活は
大きな街の片隅で
古いアパートから
始まりました
父親のウィリアムは
工場で
朝早くから真っ黒になって働きました
母親もレストランで皿洗い
それから洋裁の仕事
姉のシャロンも
学校が終われば
パン屋さんの手伝い
皆んなが一生懸命
働きました
小さかったコスナーさんも
病気がちのおばあちゃんと
毎日
家の中で留守番です
寂しくても
我慢して
皆んなの帰りを待ちました
辛いことや
苦しいことも
たくさんありました
それでも
この国なら
自分達の
夢が叶う
幸せに成れる
そう信じて
コスナーさん一家は
頑張ったのです
気がつけば五年の年月が
過ぎていました
コスナーさん一家に
ささやかな
幸せが訪れた
ある夜のことです
コスナーさんが
目を覚ますと
キッチンの灯りが
ついていました
テーブルを挟んで
父親と母親が
深刻な顔で
何か話しています
『やっと暮らしも落ち着いて、これからだという時なのに・・・』
お母さんは泣いているようです
『私もはじめはとても驚いたよ、正直な気持ちを言えば行きたくなんかないさ』
『どうして!あなたが行かなきゃならないの!』
廊下で聴いていた
コスナーさんにも
この家に
何か怖しいことが
起きているのは判りました
泣いているお母さんに
父さんは言います
『この戦争は、私達を温かく迎えてくれたこの国の自由と平和を護るための戦いなんだよ、私達には此処が第二の祖国だ、祖国のために戦うのは国民として当然のことじゃないだろうか』
そう言うと
母の涙を
優しく
拭いてあげました
戦争が始まったのです
まだ幼いコスナーさんには
その恐ろしさが
よく判りませんでした
新年を迎えたある日
お父さんは
真新しい軍服に
身を包んで
戦場に旅立ちました
凍りつくような
雨の
降りしきる中を
お父さんは
コスナーさんに向かって
敬礼をします
その姿が
とても眩しく見えました
『しばらくの間、家に男はおまえだけだ、母さんや姉さんのこと、そしておばあちゃんのこと、しっかり頼んだぞ』
そう言うと
冷たい雨の中を
歩き始めました
お母さんは
だんだん小さくなっていく
お父さんの背中に向かって
いつまでも
名前を呼び続けました
降りしきる雨が
母さんの涙を
隠してくれています
父さんの姿は
雨の中
やがて
見えなくなりました