小田尊は千夏に誘われて行った喫茶店の窓際の席に座り、過ぎ去った自身の過去を事細かに話していた。
尊の若い日からの話は物語のようで、千夏は心底から楽しんだ。
千夏の楽しそうな表情に、後押しされるように、珍しく尊は饒舌だった。
自らの過去を言葉巧みに話すことなどない尊が、これほど多弁なことも不思議なことだったし、尊自身もそう思っていた。
「会長がどういう人かなんて解らなかった、ただこの人を助けなくてはと思って
夢中だったんだ。拳銃なんて見たことも無かったし、怖く無かったのかと言われれば、もちろん怖かったけどとにかく助けなくちゃって思いばかりが強くて、夢中だった。殺されそうだったのが、ヤクザの組長だったことも、殺そうとしてたのが対立していたヤクザの組織だったことも、全部が
後で警察で教えられたことだった。相手の拳銃を取り上げようとしているうちに
その相手を殺めてしまった
こともあって、パニックになってしまい、周りからは
正当防衛が適用されるから大丈夫だと言われたけれど、
結局は武道の有段者だったことが災いして過剰防衛が適用された。過剰防衛って言うのは正当防衛とは全く違う解釈で俺の場合は執行猶予もつかなくて懲役刑が裁判で下されたんだ」
千夏は尊の話を黙って聞いていた。
気がつくとかなりの時間が過ぎていた。
二人は新しく飲み物を頼み、
千夏は尊の話の続きを待った。
珈琲が運ばれて来た。
運ばれた白いカップは二つ共湯気を立てている。
千夏は包み込む様に手を添えた。
温かさが掌から全身に伝わって来る。
幸せな千夏の今の心を表しているような、そんな感じがした。
尊の話は、まだまだ終わりそうになかったが、千夏は尊にそろそろ店を出ないかと提案し、尊は同意した。尊が会計を済ましている間に千夏は先に店の外に出て尊を待ち、店の扉口から出て来た彼にもうひとつ提案をした。
「尊君、もっと話を聞かせて欲しいな、だから私の家で続きを聴かせて、ねお願い」
千夏の周囲がごたついていた頃にも家に行った記憶は尊にはなかった。
徳田が千夏のために空けたマンションの部屋には何度も行き疲れて寝入ってしまったこともあったが、千夏の家には無いはずだ。
照れ臭いような軽い緊張感が尊の中に持ち上がる。
それを隠すように尊は行くことを決めた。
千夏は尊の側に随うように
並んで、嬉しそうに歩いた。
そして千夏は、今日こそは
はっきりさせようと思っていることがあった。