何年どころではないだろう。
夢ファクトリーに獣神サンダーライガーが参戦して茂木正淑と試合をしたことがあった。
珍しく私は最前列に座って観戦した。
場所は、群馬県太田市。
大きな体育館だった。
大きいと印象づけられたのは、空いている椅子が多く、体育館のフロアが広く感じられたからだろう。
私は声を限りにはまさに手に汗握るといった状態。
考えて見ると、この興行の数週間前に私はこの勝敗を知っているのだから、おかしな話だ。
プロレスを、一言のもとに『八百長』と切って捨てる人達がいる。
何を言おうと皆さんの自由だが、その人達は生涯プロレスの愉しみ方も解らないだろうし、醍醐味を知ることもない。
私達の時代の『インディ』と言われた団体よりも、さらに弱小な団体、いやもう団体と呼ぶこともはばかれるグループのメンバー達が、『八百長』論を語る人達を正当化しているように思う。
業界人の私が勝敗に夢中になる事が出来てしまうプロレスの奥の深さを知って欲しいと思う。
話が横に逸れるが、例えば『ガチンコ』と呼ばれる格闘技・大相撲の試合の中で平幕が横綱を破り、無敗の格闘家が新人にKOされることがある。
勝った選手の喜びはひとしおだろう。
だが、プロレスの世界のそれは、もっと感動を得る事が出来ることを『八百長』論者には理解することは出来ないのだ。
私に言わせれば、可哀想な!である。
話を戻そう。
リング下で興奮状態の私。
リング上で次々とライガーに得意技を見舞う茂木。
しかしライガーはその攻撃をことごとく跳ね返す。
やがて、ライガーは茂木をねじ伏せた。
悔しがる茂木正淑、それでも最後は握手。
リングを降りてたくさんのファンの拍手と歓声に送られ控室に向かうライガー。
その時、ライガーを呼び止める声。
『ライガーさん!福田です!福田雅一です!』
今は亡き、福田雅一がライガーを呼び止め、対戦を直訴。
ライガーはその要求を快諾した。
茂木正淑、福田雅一とライガーの二連戦を新日本プロレスから獲得した私は、どんなふうに関連させるかで悩んだ。
よくあるパターンとしては、試合の終わったばかりの息も整っていない選手にリング内へ乱入して来た選手が罵詈雑言をぶつけて対戦を要求する。
言われっぱなしの選手が我慢の限界に達し、『やってやろうじゃねぇか💢掛かって来いよ‼️』となる。
ここで私が一番不思議に思うことは、興奮しているはずの、というか激昂しているはずの選手は相手に掴みかからんばかりなのに、自分の言い分が終わるとそっと相手にマイクをわたす。
受け取った相手選手は、口角泡を飛ばし反撃の罵声をがなり立てる。
アリーナの観客達は歓声を上げながら見守る。
不思議なことがまた起きる。
二人の選手は、すぐにも始まりそうな戦いをせず、会場中のすべての人達に聞こえるようにマイクを通して、戦う場所と日時を叫ぶ、そして観客は総立ちとなり受け入れる。
最後にマイクを握っていた選手が言葉にならないような叫び声を上げながら、マイクを叩きつける。
音響を担当している青年は、口の中で(マイク壊したらどうすんだよ)と呟きながらミキサーのスイッチを切る。
長々と書いたが、こんなところから当時は対戦理由が生まれていた。
獣神サンダーライガー対茂木正淑の試合後に福田雅一をどう絡めて行くか、スポーツマン、好青年のイメージの彼が、罵声をあげたり乱入して暴行するなどのパフォーマンスは有り得ない。
『マツキチ』当時の彼に近い人間は彼を何故かこう呼んでいた。
『マツキチ!変なアングルはやめよう。お前らしく、ライガーに自分と試合して欲しいと頼め。スポーツライクに行こう!』私はこの話が新日本プロレスと成立した時に福田雅一に伝えていた。
最近のプロレスブームの中でも選手達は相変わらずバカ、この野郎!が流行しているらしい。
プロレスに関わる人達はゴロツキではない。
心優しき男達なのだ。