無数の花束に添えられた思い。 | 高田龍の《夢の途中》

高田龍の《夢の途中》

気がついたら、72歳に成ってました。
今までずいぶんたくさんのことを書いて来ました。
あと何年生きられるのか判りませんが、書き続ける事が生存確認でも有りますし生存証明でもあります。
宜しくお願い致します。

すっかり春になっている。

桜も、いつの間にか散り始めている。

子供の頃から、いつも思っていた。そんなに早く散らないで欲しいと。

川崎市の河川敷に、たくさんの献花が置かれている。

愚かで、卑屈な少年達の狂気の暴走の犠牲になった少年を弔うための無数の花束。

今も、その数は増え続けているのだろうか。

その河川敷に集う人達に焦点を宛たドキュメンタリー番組を観た。

淡々と進行していく番組。

感情を抑えた女性のナレーション。

私は、引き込まれた。

鬱病に苦しむ夫婦は、窓のカーテンを閉め切って数年間、人の目を避けるように生きていたという。

かつてはエリートサラリーマンとして活躍していた夫。

本人の想定をはるかに超えた問題が起きる。

その問題の処理に没頭するうちに彼の心は壊れてしまう。
やがて鬱病を発症。

長い暗闇のトンネルを歩くような生活が始まる。

そして、妻も同じ病を発症する。

暗闇のトンネルは、その終わりも見えない。

そんな時に、あの悲惨な事件が起きる。

事件の背景や、被害に遭った少年の人となりや鬼畜のような加害者のことを報道を通じて知るうちに、彼の中に変化が生まれる。

キーワードは、『虐め』

子供の頃の記憶がよみがえってくる。

少年は、過去の私のように、絶望的な日々を送っていたのか。

少しづつではあるが、彼は過去から未来に足を踏み出そうとしている。

そんな彼は、あの河川敷に何度となく行っている。

番組の後半、彼がハローワークで就職先を決める。

大きな一歩だ。

その他にも、父母の離婚と母親の再婚、家には自分の場所がないと引きこもり、夜の街を徘徊する少女。

彼女もまた、少年の事件を知り、自分の生き方に変化を起こす。

彼女は今、ダンス・インストラクターを目指して明るく懸命に前を向いて歩いている。

彼女は言う。

『生きられなかった、彼の分も生きなくちゃいけない。』

河川敷に献花をする人々の事が、正直理解出来なかった。

イベントとしての献花に参加する、私達は正義を宣揚し、悪を許さない。

傍観していたくせに、なんの手も差し伸べなかったくせに、などと思っていた。

そうではなかった。

きっと、献花する人々は、自分自身の心の奥の闇を打ち消し、少年の悲しみを自分自身の戒めとしてそれぞれの新たな一歩を踏み出そうとしたのだ。

その誓いのために河川敷を訪れ、少年との約束のために花を置いたのだ。

『あなたを、救うことが出来なくて、ゴメン。』

この言葉を花に添えて。





少年の身に起きた悲惨は、如何なる言葉を使おうと言い現わすことも出来ないが、彼の死は、多くの人の生への希望と、決意を生み出していた。

少年の明るい笑顔が、生きることの大切さと、生きることの素晴らしさを、希望を失くしていた人々の心に
勇気という灯をともしたのだ。