
2015年の三月の終わり頃に書いたものを読んでいただけますか?
延期状態が続いている安田格了氏のトークイベントに参加しようと思っていた方には是非読んで下さい。
散らかり放題の家の彼方此方をいじっていたら、
《けして片付けていたわけではない》
こんな物が出てきた。
《レッスル夢ファクトリー》が旗揚げ一周年を迎える頃に、制作したパンフレットだ。
《その表紙》
ページをめくると、懐かしい写真や、文章が眼に飛び込んで来る。
阪神淡路の震災の少し前に設立した事もあって、私達の最初の活動は旗揚げの一ヶ月近く前の神戸市内、崩れ落ちた映画館跡のイベントだった。
地震の跡も生々しい、その場所が、今はどうなっているのだろうか、知る由もないが、あの頃の名残も無く見事な復興を遂げているだろう。
表紙を捲ると、笑顔の私の写真と来場者への挨拶文が目に入る。
さらに、ページを捲るとこんな写真が・・・・。

夢ファクトリーファンには言わずと知れた、『怨霊』である。
今この写真を見て一番に感じたことは、彼は自己演出能力のスキルの高い選手だということだ。
カメラを見据える彼の視線を見て欲しい。
そして、写真からでも伝わってくる、彼の全身からのオーラ。
私は、いろいろなキャラクターの選手を創り出した。
が、しかし彼の『怨霊』というキャラクターを理解して昇華させた能力には今更ながら脱帽である。
我が『レッスル夢ファクトリー』の他のキャラクターレスラーの追随を許さない。
プロレスというカテゴリーでは、単に身体能力の高さだけでは、頂点に立つことは出来ない。
むしろ、高い身体能力は最低条件といってもいいだろう。
私は過去に、ある会場の控え室で、腕立て伏せを10回出来ない選手を見て驚いたことがある。
その光景が、俄かには信じられなかった。
その選手は、今も現役を続けているらしいので、これ以上は言わないが、その後彼はインディシーンで活躍し、有名な選手になった。
この例えは極端に過ぎるのだが、的は射ていると思う。
『観られてナンボ』の商売の哀しさかも知れないが、スポーツ選手としては一級品だとしても、それだけでは、人気選手に成れるとは限らないところに、プロレスの難しさがある。
旗揚げ興行のタイトルを『仮面舞闘会』にしたほどの我が『レッスル夢ファクトリー』は、マスクマンやキャラクターレスラーが多かった。
今思い返すと、旗揚げ戦に素顔でリングに上がった選手は、茂木正淑だけだったのではないだろうか。
《アジャ幸治も居たか!》
『死神』は、マスクこそ被ってはいなかったが、青いペイントで顔全体を塗り潰し、『フランケンシュタインの怪物』宜しく登場した。
とても素顔とは言えない。
『悪夢軍団』と称したユニットの首領、三浦博文は、デビュー時から彼を知っているファンには、違和感さえ感じたであろうイメージチェンジをして登場した。
それまでスポーツ刈りにアマレスシューズのスタイルで試合をしていた彼は、黒の空手着に革の陣羽織を羽織り、手にはヌンチャク。
リングに上がれば、そのヌンチャクの演武をグレート歌舞伎選手にも負けないクオリティで披露した。
このパンフレットにもカラー写真とは別にわざとモノクロ写真のイメージショットを載せた。
黒澤明監督の作品に登場する孤高の剣の使い手。
それが、コンセプトだった。
スタジオで撮影したカラー写真の三浦は、片手でヌンチャクを掴み、もう一方の拳を堅く握りしめ、カメラを睨むポーズをとったが、その眼はどこまでも優しく人の良い青年、三浦博文のそれだった。
これが見合い写真ならば、彼の人柄が伝わって来るいい写真なのだが、『悪夢軍団』の首領となると、残念なことに、失敗である。
しかし、モノクロ写真の方は良い。
これは、旗揚げ戦の会場で撮影したものだ。
リングに上がり、ロープに腕を預けて、対戦相手に視線を送る三浦博文、試合直前の緊張感と高揚感の入り混じった実に良い表情をしている。
単なる悪役レスラーではなく、哀愁さえ漂わせたこの写真の三浦博文は、素晴らしかった。
後日、私はパネルにして彼に贈呈した。
彼の家の目立つ処に、このモノクロ写真のパネルは永く飾られていた。
その彼が、私のプランではない『極悪海坊主』なるキャラクターに走り、コンセプトも不明確なまま、やがて消えてしまったことは、何よりも残念だった。
私のアングルの中では、首領・三浦博文の行く末迄出来上がっていた。
一度に全てを伝えても、消化出来ないと思い、段階を追って伝えようとしたことが、裏目に出てしまったとでも言うしかない。
残念と言えば、それに勝るとも劣らないのが『死神』だろう。
旗揚げ当初、古着屋から捜して来た様なコスチュームで、『フランケンシュタインの怪物』を模した『死神』にマスコミも注目し、私の目論見は当たったが、肝心の『死神』には最後迄、というか、未だに理解出来なかったのだろう。
身長も高く、アマレスのスキルもある彼は、充分ブレイクする可能性は有った。
しかし、出来なかった。
私は、後で知ることになるのだが、彼は古き良きアメリカンプロレスのファンだった。
彼は、モノトーンの古着のコスチュームの足元を、光沢のある真っ赤なリングシューズで飾った。
霊界から這い出して来た『悪夢』の恐怖は消え去った。
私は、多くを語らなかった。
小さな小さな団体でも、私が設立した『レッスル夢ファクトリー』は、プロレス団体なのだ。
自身が演ずるキャラクターのコンセプトを理解する能力も要求されるのは、当然のことなのだ。
それを説明しなくては、いや説明しても理解出来なかったのならプロとは呼べないと私は思う。
『悪夢軍団』は、茂木を倒し、仲野を苦しめ、『神風』を追い落とし、夢ファクトリーのリングの頂点に立つ。
そして、正規軍は壊滅。
茂木達は、何度も何度も跳ね返されながら、悪戦苦闘の末に、自分達のリングを取り戻す。
しかし、『悪夢軍団』は恐怖も戦慄も会場に巻き起すことは出来なかった。
仲野や茂木や『神風』が敗れる事など、有り得ない。
ここから私の苦労が始まった。
《NEXT》